そびえ立つ城壁。跳ね橋のある門では、簡単な入国審査と、安い入国税の徴収を行っている。
そこへ、背の高い美少女と、背負われた豚のような男が現れた。少女が襲われているのかもと思ったが、どうも男の方が憔悴しているように見える。
スタスタと少女の足取りは軽い。理解できない怪しさがある。たまらず門番の声が出た。
「止まれ、帝国には何用で来た。」
「ニンジンを食べに来た!」
元気よく挑発してくる美少女。
怪しい。拘束して取り調べてやろうかと門番が警戒心を高めた時、憔悴した豚が、冒険者カードを出しながら答えた。
「稼ぎにきた。」
「C級冒険者だと!?ダスト殿、これは、失礼した。王都を満喫してくれ。」
門番は驚愕する。戦闘力0に見えるこの男は、呪術師の類いなのだろうか。E級くらいなら嫌がらせに、拘束しても良いが、C級ともなると報復が厄介だ。関わりたくないので、アッサリと通過を許可する。
|断罪の門(ジャッジ)も敵性反応を示さなかったので、犯罪者では無いのだからと門番は判断した。
ダストは、美少女ハクレンに背負われながら、王都入国を果たす。
王都は、全面舗装されており、都会感があった。トントンと、早歩きぐらいのペースで進む。乗り心地は素晴らしく良いが、人の視線が痛い。
「ハクレン、恥ずかしいので降ろしてくれないか。」
「駄目っす、御主人様。八百屋が締まるかもしれないので。」
八百屋の誘惑に負ける御主人様とは、いったい何だろう。ぼんやりと、小石ちゃんの気持ちになりながら背負われたまま考えていると、迷わずスタスタと進み、八百屋へと到着した。
山高く積まれた人参を見て、ハクレンが興奮気味だ。
「好きなのを選べ、また来るから、新鮮な物が食べたかったら、買い過ぎるなよ。」
こくこくと頷き、真剣な顔で、同じにしか見えない人参を厳選しだすハクレン。
女の買い物は長い。手持ち無沙汰になったダストは、ふらふらと、物色する。トライアドの根、マンドラゴラ、お化け大根、ジャックランタンの種。
なかなか楽しめた。しかし、料理方法が分からない。というか、料理が出来ない。
「決まったか?」
「はい。御主人様、すぐに宿に行きましょう!すぐに!」
そんな不穏なワードを聞いて、八百屋の親父が顔をしかめる。誤解を解かねば、
「ハクレン、人参が食べたいのは分かった。食べ歩きって知ってるか?買った商品は、すぐに食べても良いんだそ。」
「御主人様、なんて悪い人なんすか。ポリポリ。くぅ、食べ歩き最高っす。」
誤解の解けた店の親父と一緒に、ほっこりした顔で、人参を頬張るハクレンを見つめた。
「勘違いして悪かったな。」
「いいさ、美味い人参があれば仕入れといてくれ。」
八百屋の親父の謝罪を受け入れる。
☆
袋一杯の人参を買って、ホクホク顔のハクレンと街をぶらつき、宿屋を目指す。
角うさぎの焼串を買って食べ歩きながら、到着した宿は、少し高そうな宿屋だった。リリィの御用達だから、不衛生な冒険者の宿とは違って当然だが。
「それでは、御主人様。明日の朝、お会いしましょう。」
「待て、ハクレン。」
「ぐぇ。御主人様といえども人参はあげないっす。」
平然と馬小屋に行こうとしたハクレンを捕まえる。何?君はウィザードリィなの?馬小屋じゃないと老衰して死ぬの?
「人参なんか食わねーから、安心しろ。お前も部屋に泊まるんだよ。大人2名で。」
「は、はい。」
宿屋の受付嬢が困惑した顔で、部屋の鍵を渡してくれた。