老婆セルゲイ
彼女が、この不快な猫屋敷の主である。異臭の充満する部屋で暮らす孤独な魔女が、心を壊してしまったのは、先の戦で、一人息子が命を落としてからだった。
夫に先立たれ、一人息子を失った寂しさ埋めるために、猫を飼いだし、溺愛した。
歯車は、狂い始めた。
いや、息子を失った時には狂っていたのかもしれない。
寂しさを埋めるため、どんどんと、増えていく猫。そして、それに伴い、どんどんと増えていくトラブル。彼女の周りからは、親しい人が減っていき、今や、広い屋敷には使用人すらいない。
何とかしたいという気持ちは残っているが、嗅覚の鈍くなった老婆に残ったのは、今や、お金と息子の形見と沢山の猫だけ。
☆
玄関扉を開き、ダストちゃんを確認した、哀しき老婆セルゲイは、問う。
「何用だ、小娘。猫ちゃんを虐める気なら、生かしては帰さぬぞ。」
「うぇっぷ、失礼。ギルドから派遣されたダストちゃんだ。俺には、猫ちゃんを幸せにする秘策がある。」
「なんだと?その言葉、嘘であれば後悔するぞ。ついて参れ。」
魔法という暴力を持つ老婆は、プレッシャーを乗せて警告した。
老婆に、猫屋敷に入る事を許可されたダストちゃんは、鼻をしかめて、嫌嫌、後をついていく。
刺激臭の充満するエントランス。
そこは、さながら死の世界のようだ。美少女の存在しない土地。脳を歪めるような刺激臭が、ダストちゃんに、絶え間なく襲いかかる。
しかし、人は慣れる生き物。無意識の内に生存のため適応する最適解を選ぶ。
慣れろ、鼻からではなく、口から息を。ゆっくりと細く。吐きそうだ。
うえっぷ。
駄目だ。
暗転する意識に、膝をつくと、何も触れていないのに、右手が輝いた。
無意識が選んだ適応は、右手の奇蹟。
ぶくぶくと、体が醜く膨れた。
奇蹟よ、巻き戻れとばかり、豚野郎ダストが、ここに、復活した。帰ってきたぜ、この肉体に。
「だ、誰だ。どうやって?」
老婆は、応接室に入ると、見知らぬ男ダストがいる事に気付いて、怯える。
それに対して、ダストは、勧められてもいないのに、悠然とソファーに座り、右手を強く握り、傲然と言い放つ。
「俺は、ダスト。現実を変える男。些細な事は気にするな、重要な事は、一つだけ。あんたと、猫を救いに来た。」
意味不明な発言をする男の目には、真実を語っている確固たる自信が宿っていた。
気圧される老婆。長年の歪んだ寂しさという呪いが砕け散るかのような迫力を感じ、へたり込む。まさか?救ってくれる?
孤独な老婆の前に現れた、英雄(ヒーロー)。
ダストは、余裕を取り戻していた。
異臭はする。
が、問題は無い。なぜなら、俺は、プロニートという地獄を生き抜いた。舐めんじゃねぇ、これくらい、耐えられる。
「さて、詳しい契約の話をしようか?」
黒竜の手袋をはめた指先でトントンと、机を叩き、猫屋敷の主である老婆に、目の前のソファーに着席するように促す。
孤独な老婆セルゲイは、震えるように立ち上がる。信じたい訳のわからない何かがあるが、とても信じられない、そんな気持ち。
「言っておくが、この世から殺して、救うというのは、無しだぞ。」
「そんな、つまらない事は、しないから、安心しろ。」
ふっと、優しくダストは、微笑んだ。
魔法による契約を締結する。
契約:女神契約
違約:女神の呪い
目的:猫屋敷の浄化
内容:屋敷内の猫ちゃんの幸せな未来
確約:死や幻覚等で誤魔化さない事
報酬:猫屋敷の譲渡
期限:3日
特記:秘密の遵守
「ダストとやら、死ぬ気なのか?女神契約からは逃れられんぞ。方法は聞かせて貰っておらぬが、とても現実的とは思えん。3日だぞ!せめて、3週間ぐらいにせぬのか?」
「安心しろ。俺の右手ならば、今すぐにでも、ほとんど解決する。」
「では、何故、すぐにしない?」
「ちょっとした準備と、お仕置きだな。」
ニヤリと悪い顔をするダスト。
老婆セルゲイは、何を準備するのだろうかと思いを巡らすが、分からない。洗剤?そんなものでは、染み付いた異臭は落ちない。
「準備とは何だ?」
「秘密だ。」
教えて貰えない事に気分を害したのか、強がる次の老婆の言葉が、ダストの逆鱗に触れる。
「またしても秘密か。ワシは失敗してもええから、せいぜい呪いを受けぬよう準備をする事だな。」
「失敗してもいい?ふざけるなよ。今、楽しいか?充実しているか?異臭が漂い、隣人が離れ、孤独な毎日。くそったれだろ。」
そして、今度は老婆が怒るが、
「な、なんだと!」
「最後まで、聞けぇぇえ!!!似たような地獄から俺はやって来た。神経を磨り減らす毎日を10年過ごした。巡り合うのは運命だったかもしれん。くそったれな現実を変えて、あんたを救ってやる。」
毒気を抜かれた老婆を残して、ダストは、準備をするために一度、ホームに戻る。
「し、信じていいのか?」
「必ず救う。一度帰るが、必ず約束を果たしに戻ってくるから、今夜はドキドキして待っていろ。」
優しく微笑んで手をふった豚野郎の背中は、北圏の山脈の最高峰アルファより、大きく力強く見えた。
主人公は誰がいい?
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豚野郎 ダスト
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美少女 ダストちゃん
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男の娘 ダスト君
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美男 Dust
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でぶ女 D