この世の全てを美少女に!   作:縛炎

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25 適応

 

 老婆セルゲイ

 

 彼女が、この不快な猫屋敷の主である。異臭の充満する部屋で暮らす孤独な魔女が、心を壊してしまったのは、先の戦で、一人息子が命を落としてからだった。

 

 夫に先立たれ、一人息子を失った寂しさ埋めるために、猫を飼いだし、溺愛した。

 

 歯車は、狂い始めた。

 いや、息子を失った時には狂っていたのかもしれない。

 

 寂しさを埋めるため、どんどんと、増えていく猫。そして、それに伴い、どんどんと増えていくトラブル。彼女の周りからは、親しい人が減っていき、今や、広い屋敷には使用人すらいない。

 何とかしたいという気持ちは残っているが、嗅覚の鈍くなった老婆に残ったのは、今や、お金と息子の形見と沢山の猫だけ。

 

 

 玄関扉を開き、ダストちゃんを確認した、哀しき老婆セルゲイは、問う。

 

「何用だ、小娘。猫ちゃんを虐める気なら、生かしては帰さぬぞ。」

 

「うぇっぷ、失礼。ギルドから派遣されたダストちゃんだ。俺には、猫ちゃんを幸せにする秘策がある。」

 

「なんだと?その言葉、嘘であれば後悔するぞ。ついて参れ。」

 

 魔法という暴力を持つ老婆は、プレッシャーを乗せて警告した。

 

 

 老婆に、猫屋敷に入る事を許可されたダストちゃんは、鼻をしかめて、嫌嫌、後をついていく。

 

 刺激臭の充満するエントランス。

 

 そこは、さながら死の世界のようだ。美少女の存在しない土地。脳を歪めるような刺激臭が、ダストちゃんに、絶え間なく襲いかかる。

 

 しかし、人は慣れる生き物。無意識の内に生存のため適応する最適解を選ぶ。

 慣れろ、鼻からではなく、口から息を。ゆっくりと細く。吐きそうだ。

 

 うえっぷ。

 駄目だ。

 

 暗転する意識に、膝をつくと、何も触れていないのに、右手が輝いた。

 

 

 無意識が選んだ適応は、右手の奇蹟。

 

 ぶくぶくと、体が醜く膨れた。

 奇蹟よ、巻き戻れとばかり、豚野郎ダストが、ここに、復活した。帰ってきたぜ、この肉体に。

 

 

「だ、誰だ。どうやって?」

 

 老婆は、応接室に入ると、見知らぬ男ダストがいる事に気付いて、怯える。

 

 それに対して、ダストは、勧められてもいないのに、悠然とソファーに座り、右手を強く握り、傲然と言い放つ。

 

「俺は、ダスト。現実を変える男。些細な事は気にするな、重要な事は、一つだけ。あんたと、猫を救いに来た。」

 

 意味不明な発言をする男の目には、真実を語っている確固たる自信が宿っていた。

 

 気圧される老婆。長年の歪んだ寂しさという呪いが砕け散るかのような迫力を感じ、へたり込む。まさか?救ってくれる?

 

 孤独な老婆の前に現れた、英雄(ヒーロー)。

 

 

 ダストは、余裕を取り戻していた。

 

 異臭はする。

 が、問題は無い。なぜなら、俺は、プロニートという地獄を生き抜いた。舐めんじゃねぇ、これくらい、耐えられる。

 

「さて、詳しい契約の話をしようか?」

 

 黒竜の手袋をはめた指先でトントンと、机を叩き、猫屋敷の主である老婆に、目の前のソファーに着席するように促す。

 

 孤独な老婆セルゲイは、震えるように立ち上がる。信じたい訳のわからない何かがあるが、とても信じられない、そんな気持ち。

 

「言っておくが、この世から殺して、救うというのは、無しだぞ。」

 

「そんな、つまらない事は、しないから、安心しろ。」

 

 ふっと、優しくダストは、微笑んだ。

 

 

 魔法による契約を締結する。

 

契約:女神契約

違約:女神の呪い

目的:猫屋敷の浄化

内容:屋敷内の猫ちゃんの幸せな未来

確約:死や幻覚等で誤魔化さない事

報酬:猫屋敷の譲渡

期限:3日

特記:秘密の遵守

 

「ダストとやら、死ぬ気なのか?女神契約からは逃れられんぞ。方法は聞かせて貰っておらぬが、とても現実的とは思えん。3日だぞ!せめて、3週間ぐらいにせぬのか?」

 

「安心しろ。俺の右手ならば、今すぐにでも、ほとんど解決する。」

 

「では、何故、すぐにしない?」

 

「ちょっとした準備と、お仕置きだな。」

 

 ニヤリと悪い顔をするダスト。

 

 老婆セルゲイは、何を準備するのだろうかと思いを巡らすが、分からない。洗剤?そんなものでは、染み付いた異臭は落ちない。

 

「準備とは何だ?」

 

「秘密だ。」

 

 教えて貰えない事に気分を害したのか、強がる次の老婆の言葉が、ダストの逆鱗に触れる。

 

「またしても秘密か。ワシは失敗してもええから、せいぜい呪いを受けぬよう準備をする事だな。」

 

「失敗してもいい?ふざけるなよ。今、楽しいか?充実しているか?異臭が漂い、隣人が離れ、孤独な毎日。くそったれだろ。」

 

 そして、今度は老婆が怒るが、

 

「な、なんだと!」

 

「最後まで、聞けぇぇえ!!!似たような地獄から俺はやって来た。神経を磨り減らす毎日を10年過ごした。巡り合うのは運命だったかもしれん。くそったれな現実を変えて、あんたを救ってやる。」

 

 毒気を抜かれた老婆を残して、ダストは、準備をするために一度、ホームに戻る。

 

「し、信じていいのか?」

 

「必ず救う。一度帰るが、必ず約束を果たしに戻ってくるから、今夜はドキドキして待っていろ。」

 

 優しく微笑んで手をふった豚野郎の背中は、北圏の山脈の最高峰アルファより、大きく力強く見えた。

 

 

主人公は誰がいい?

  • 豚野郎 ダスト
  • 美少女 ダストちゃん
  • 男の娘 ダスト君
  • 美男  Dust
  • でぶ女 D

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