街道の真ん中の馬車の轍の無い部分を歩く。裸足のため、苔が残っている部分を選らぶ。間違って砂利を踏むと、酷く痛い。
「なんだ、馬車の残骸?」
道の外れに、馬のいない車輪の潰れた馬車を見つけたので、興味本位で近付くと、人が倒れていた。
「大丈夫か?くそっ殺されてやがる。」
駆け寄って確認したが、既に息は無かった。山賊にでも襲われたのだろうか?
荷車の中を物色したが、荷物は、ほぼ略奪されており、価値のありそうな物は見付からない。
根気よく探すと、村人の服と粗末な靴とスコップを見つけたので、有り難く拝借する。
ただ、お目当ての食い物が見からなかったのが痛い。早く街に辿り着かないとヤバいかもしれない。ポケットに鎮座している小石ちゃんは、食事が不要だそうで、羨ましい限りだ。
名前:ダスト
装備:
弱点:裸足
↓
装備:|村人の服[N]、粗末な靴[N]、スコップ[N]、形見のネックレス[R]
弱点の裸足が消えたのが、嬉しい。スコップは、地面に当たる部分だけ金属になっている。ジャージは処分した。力も無いのに、目立つのは良くないからな。
「さて、ひと仕事するか。」
墓が必要だろ?ゆっくり眠れるよう服の代金分は、働いてやる。
額に汗をかき、穴を掘り終えた頃、蹄の音が近付いてきた。
「動くなっ!そこで何をしている。」
厳しい警戒の声が馬上から投げかけられた。ここが、ご都合主義の異世界で良かった、言葉は通じるらしい。
振り返ると、弓を構えた厳つい騎士のような白人男に、睨まれている。あの矢が放たれたら、一撃で死ぬだろう。
「人が死んでいたのを見つけたので、墓を掘っているだけだ。」
刺激しないように、ゆっくりと話す。
「そうか、すまない。旅人よ。山賊と間違えた。作業を続けていいぞ。」
騎士はダストをじっくりと観察して、攻撃力が無い事が分かったのだろうか、警戒を解いたので、ダストは、遺体を穴の中に安置して埋める作業に移行する。
「おい、手伝ってくれねーのか?」
街の位置が分からず腹も減ってイライラしていたので、馬から降りようともしない騎士に、不機嫌に突っかかる。
「分かった。形見を近くの村に届けるくらいはしてやろう。」
街では無く村なのか。そこで、天啓が閃く。村の位置が分からなくて困っているが、それを解消出来る一手を思いついたからだ。10年ぶりに閉ざされた部屋から出て、俺は変わったので交渉も出来る。
遺体を穴に埋め終わると、その墓標として、スコップを立てて、手の砂を払った後、ニヤリと笑って、形見のネックレスを見せながら交渉に入る。
「信用ならねぇな。この目で、届ける所を確かめない事にはな。」
騎士は、怪訝な顔をして、俺の言いたい事が分かると嫌そうな顔で応える。
「俺を、乗り合い馬車として使うとは、良い度胸だな。面白い。間違えた詫びとして、連れてってやろう。」
と、厳つい顔のおっさんは、馬上から手を差し伸べてきた。いや、そこまでは言ってない。案内してくれるだけで良かったんだが。断るか?いや、このタイミングで無理だろ、不審がられる。
「いや、あの。」
「なに、遠慮するな。」
凄い迫力で迫ってくる。あっ、コイツ。道に迷ってる事が分かった上で提案してやがる。一本取り返したって顔してる。
が、この厳つい騎士のニヤつく顔が怖すぎて、思わず、プレッシャーに負けて右手で男騎士の手を握ってしまった。
「あっ!」
「どうした?」
美少女になっちゃううとか思ったんだが、あれれ?異能が発動しない。右手が光らないんだけど。なんでだ。ガントレット越しは無効なのか。
「いや、何でもない。」
「ふむ、行くぞ。」
その時、重く弛んだ身体がフワリと浮く妙な体験をした。ぐぇぇ、肩が外れそうな程痛い。厳つい騎士様は、馬鹿力なのか片手一本で、この鈍重な体を引き上げたぞ。マジか、人間なのかコイツ。
「うわぁぁ。」
「さて、俺は穴を掘るのが好きでは無い。よって、落ちるなよ旅人。」
なにが、天啓だ。こんな危険な男と交渉した自分を殴ってやりたい。村につくまで、激しく跳ねる馬の上で騎士にしがみつきながら、すごく反省した。
「ひぃぃぃ。」