あれから、数日が経った。
豚野郎ダストは、豚少女Dを探して連日、店を訪れる王子様を見て、少し、げんなりしている。
酒場のVIPルームから下界を見つめるお仕事に戻り、地上を憂いていた。
「なぁ、セルゲイの婆さん。俺は、例え醜く太っても、モテてしまう。なんと罪作りだとは、思わないか?」
「何を言ってるか、毎度分からぬが、この果汁カクテルは、美味いのう。」
「うん。本当に美味しい。」
同意は得られなかったが、セルゲイの婆さんと、クロも、喜んでくれて何よりだ。
「ダストは、格好いいよ。」
際限なく甘やかしてくる女コイシに、癒やされながら、下界の喧騒を見守る。
全てが、順調だ。
厳選枝から魔木とのキメラ化で量産される激甘果実ジュースは、この異世界の何処にも販売しておらず、かなり好評である。
好評であったため、酒場の果汁カクテルだけでは留まらず、昼間は、喫茶店としての営業も開始し、今や、女性客もバンバン獲得していた。
それを見て、真似をする店が、続出したんだけど、使ってる果実の品質が違うんで、まるで勝負にならない。
スパイを送り込んで種を盗むクソ野郎もいるが、数年後、違う新たな品種が出来るのは、自業自得としかいいようがない。なので、あえて盗ませてやっているが、くっくっくっ、オツカレサンだ。笑える。
万が一、さらに良い品質の果樹の栽培に成功した暁には、代金として枝を徴収に行くから、せいぜい頑張って欲しい。こちらには、コピーを150倍速で育てるノウハウがあるので、世の役にたててあげよう。
仕入先を聞いてくる商人もいるが、まさか、魔物農園だとは思わないだろう。運搬にはアイテムバックを使うし、愚かにも近付いた者は、魔木のエサになるので秘匿性は、バッチリ。
そういえば、果実ジュースを提供して以来、バイトを募集していないのに、ガンガン申し込みが殺到しているので、料理とかの裏方で雇っている。
果実が欲しいんだよね?良いだろう、良く頑張ったね、お土産にあげるよ。
つまりだ。
何が言いたいかというと、
日本男児ダストは、この異国の地で、成功を納めています。
相変わらず、酒場のVIPルームと、猫屋敷の自宅警備業務に就いているのが、少し笑えるが。
異国?
それは、ふとした疑問。
そう、異国だ。まるで異世界というよりは中世にタイムスリップしたかのような、そんな表現がしっくりとくる。
「ダスト、悩み事かな?相談に乗るよ。」
「ありがとう、コイシちゃん。言っても分からないだろうけど、何だか、異世界ではないような気がしてな。」
コイシちゃんに癒やされるよぉぉ。バーテンダーをやる日は、相手をしてくれないので、そんな仕事は辞めて、ずっと隣にいて欲しい。まぁ、いない日は、バイオレットとか、別の秘書が付くのだけども。
「異世界?んーと、それはいいや。えーと、何に違和感を感じてるの?」
「何か足りないような感じがするんだ。魔法はあるし、魔物もいる。文明レベルが低い未開の地で、成り上がる。失敗したのは、転生では無く転移で若返れなかった。これか?いや、違う。でも、成り上がれたよな?俺?だから、もう良いかな。」
ダストは、少し疲れたように笑う。そこには、少年の夢を忘れて、大人になったような横顔があった。
「駄目だよ、ダスト。努力して、その甲斐があって、誰もが羨むような境遇にいるとは思う。でも、なにかが欠けてるのは、哀しい事だよ。ダストの願いは何?諦めないで!」
珍しくコイシちゃんに、怒られた。その真剣な灰色の瞳に、見つめられ、忘れていた少年の心を、じわじわと取り戻していく。
「俺の・・・願い?」
ダストの願いは、しょぼい。ビックリするぐらいシンプルだ。『女』が欲しい。
金、名誉、若さ、強さ、そういうのは、全然いらない。
厳密に言うと、最低限は必要だがそれはもう十分に手に入れてるし、女も、コイシ、ハクレン、猫娘達で、十分なはずだ?
しかし、何か異世界要素が欠けている。
原点に戻ろう。
女+X(エックス)=異世界
女絡みで異世界要素が欠けているなら、実に、簡単な公式で表せる。
戦前の人ならエッキスと発音する欠けてる物エックス、未だ童貞で処女だが、もちろんセックスでも無い。
この式を解けば、分かる。
エックスとは何なのか、何を持ってファンタジーとするのか、問わねばならない。
あっ!
解は出た。拍子抜けするような結論。
「X(エックス)=エルフだ!エルフ成分が足りていなかったんだ。エルフの出ないファンタジーなんて、ゴミだ。」
「えるふ?」
ダストは興奮してまくし立てたが、コイシちゃんには伝わらず、ぼんやりとしたリアクション。
まぁ擬人化前は、動けぬ石だったから知らなくても仕方がないかと、婆さんに尋ねたのだが、
「婆さんなら、知ってるだろ?エルフ。あの耳長で、絶世の美男美女の森を愛する長寿の種族。」
「聞いた事がないの。わしは、賢者と呼ばれた身。若い頃は、あちこち旅に出たが、聞いた事がないわい。」
返ってきたのは、思わぬ否定。こちらの世界に来て、なかなか見ないなと思っていたのだが、ただ運が悪いとは別の理由があるようだ。
「そんな・・嘘だろ。」
となると、何処かの隠れ里にでも潜んでいるのか?世界の果てとか魔界にいるのか。
会えないと言われると、無性に会いたくなるのが、人の性だが、エルフには会えないと諦めるしかないのか、でも、それは嫌だ。
「ダスト、探しに行こうよ。」
おぉ、そうだな。女神コイシにより、光りの道を照らされ、悩みの迷宮を抜け出し、ショックから立ち直る。
「は!!笑える。何を迷っていたんだ。隠れているなら、見つければいい。それだけの事だ。引きこもりエルフめ、その神秘のベールを剥ぎ取って、裸に剥いてやるぜ。」
動きだせ。
立ち止まるな。
居心地の良い自宅から飛び出し、冒険に出掛けるんだ。転移したあの日のように、勇気を持って一歩踏み出すんだ。
ただ、今度の旅は、仲間がいる。
主人公は誰がいい?
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豚野郎 ダスト
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美少女 ダストちゃん
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男の娘 ダスト君
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美男 Dust
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でぶ女 D