「そういえば、旅人よ、この辺りは山賊が出るので、気をつけてくれ。ではな。」
別れ際、イカれた騎士が、何かほざいていたが、無視する。やっと村に到着して馬という狂気の乗り物から開放された。もう乗りたくはない。生きているのが、不思議なぐらいだ。
厳つい騎士よ、次に会ったら、美少女にしてやるから、覚悟しておくんだな。
☆
しょぼい村に到着した。悪くは無いが、科学大国の日本と比べると、どうもね。《始まりの村》と心の中で、名付けよう。
さて、形見のネックレスを引き渡し、入村できたが、現在の所持金は、ゴブリンのクズ魔石1個だけ。これで何とか食べ物を分けて貰いたいところだ。
ハードモードすぎるだろ。パン2個、いやせめて1個だけでいいから交換して貰えないだろうか。
広場の真ん中で、作戦を練る。鉛のように足は重いが、なにか行動に出なければ、遠からず飢えて死ぬ。この村では残飯なんか出ないだろう。ホームレスという選択肢すら選べない。
思案していたら、金髪の爽やかイケメンが、近付いてきた。
「隣の大陸から来た行商人の形見のネックレスを届けてくれたのは、君かい?」
「そうですが、何か?」
お近づきになりたいのは、美少女なので、イケメンは死ね。薬指に指輪ね、若そうだが結婚してるのか、羨ま死ね。
しかし、情報屋が来たと思えば、有り難い。せいぜい利用してやろう。
「しかも埋葬してくれたんだろ、ありがとう。運送ギルドから失踪情報だけ届いて困ってたところだったんだ。君のお陰で、探す手間も、埋める手間も省けた。」
「当たり前の事をしただけだ。」
照れ隠しに、そう答えながらも、お礼を言われた事が、素直に嬉しい。
人から感謝されると、こんなにも、いい気分になるんだな。久しく忘れていた感覚。
「僕は、フランツ。この村の自警団をしている。良かったら、今日の酒を奢らせてくれ。この村の飯は美味いぞ。」
「そ、そうか。ありがとう。旅人のダストだ。遠慮なく頂こう。」
なんだとっ!ありがとう。フランツありがとう。イケメンの癖にイイヤツだな。これで、飢えなくてすんだ。ピンチを脱した。
食糧問題の解決策は、正直に白状すると絶望的だった。まさに、君は救世主だ。
和解しよう。イケメンだから死ねとか思って悪かった。君は良いイケメンだ。
俺たちは、固い握手を交わした。
ピカッ!
ダストの意に反して右手が光る。
異能発動ーーーー
『
進化前:イケメン
↓
成功
↓
名前:フランツ→フラン
種族:人族(美少女)
特記:既婚者
特徴:金髪碧眼のスラリとしたスタイル
性格:爽やか
異能:剣技[N]→化粧[N]
装備:自警団の服[R]、普通の剣[R]→シックなドレス[SR]、小さなバッグ[R]
「あっ!なんという事を。」
バカ、バカ、バカ、やってしまった。高速で、豪華な晩飯が遠ざかっていくのを幻視した。飯を奢ってくれる予定の爽やかイケメン自警団は、この世界から消えた。なぜ、迂闊にも握手をしたのだ。
光る右手とともに、現れたスラリとした大人びた美少女と、ガッツリと握手している。これは、許してくれないだろう。罪悪感が半端ない。
美少女が異世界に1人増えた。青い瞳、流れる短い金髪。爽やかな笑顔。スラリとした肢体。シックな白いドレス。青い小さなバッグがアクセントとなり、例えるならば、それは爽やかな海辺の青空。
「きゃぁぁぁ!」
「うわ、うわ、フランツが。」
阿鼻叫喚だ。村人1が現れた。村人2〜6が現れた。村人7〜21が現れた。
▶逃げられない。
▶逃げられない。
▶逃げられない。