魔狼の馬車に揺られる事、3時間と少し、豚野郎ダストは、根を上げかけていた。
バネもサスペンションもクッションもない、その乗り物は、文明人である彼には、少しばかり過酷な時間というか、ゴンゴンと砂利の感覚が分かる拷問みたいな物であり、さらに、この日は、悪条件も重なっていた。
「衝撃くるっす!備えて、3,2,1」
ドン!
ふわりと浮き、叩きつけられる。
ケツから、突き上げるような打撃。
ゴムパイプのような物を乗り上げ、空中に僅かに浮かんだ後、硬い地面へとダイレクトに着地する。
中腰で衝撃に、備えるのだが、足腰が弱って来ると、耐えきれず、今のようになる。
「くそっ、痛ぇ。ハクレン、休憩だ。ついでに遅めの昼飯にしよう。」
「了解っす。」
コイシはノーダメージだが、皆それなりにダメージを受けており、ケツを擦りながら、フラフラと降車した。
「くそっ、処女なのに、ケツが痛い。」
「オーナー、今は男モードだから処女で当然ですにゃ?」
迂闊な発言をしたが、禁書の類いが出回ってないせいか、猫娘ピンクが腐っていなかった事に安堵した。
はてな顔のピンクには、どうか、そのままでいて欲しい。
「そうだな。しかし、ケルベロスの店主から注意は受けていたが、馬車殺しは、殺したくなるな。既に、死んでる所がさらに腹立たしいが。」
|馬車殺し(ストッパー)
体長5メートル、直径10センチくらいの蛇の魔物で、天気の良く魔素の濃い特別な条件が揃った日に、ニョロニョロと街道を横断するように這い、馬車に轢かれて死に絶えた後、『ブヨブヨした死骸』というドロップアイテムが障害物となる。
地面に放置すると、1日で消滅するため、ある意味珍しい光景で、ダストは幸運であり、不幸でもあった。
「確かに、困るですにゃ。」
「ダスト、お尻痛いなら、私のヒザの上に座る?うん、それがいいよ。」
「ありがとう、コイシちゃん。それは、最終手段で。」
彼女は、石族だから、そんな荒業がなんの問題も無く出来るのだが、ダストは我慢した。ちなみに最終手段は、時間の問題だろう。
御者のハクレンは、バツの悪そうな顔で、切り出す。
「御主人様、ごめんなさいっす。」
「いや、ブレーキなんてついて無いから、全く悪くないぞ。むしろ、ハクレンは、頑張ってくれてる。それより、飯にしよう。」
「了解っす。」
ふわふわ苔を見つけたのでその上に座り込んで、アイテムバックから、弁当箱を出す。
それをコイシちゃんに、手渡し、食べさせて貰う。豚野郎の彼と、食べられない彼女の両方が幸せな、歪んだ食事風景。
「はーい。ダスト、あーん。」
「うん。美味いな。」
イチャイチャと食事しながらも、ダストは、拷問馬車を観察する。軸受は、固定されており、間になにか挟むのは無理だろう。工具は、釘と金槌と針金ぐらいか。
なぜ、こんな劣悪な馬車が運用されているのかというと、異世界の人間は、困難にぶち当たった時は、道具を作るのでは無く、魔法または、肉体を鍛えて、乗り越えようとするので、そういう意味で、改良しようとする彼の思考回路は変わっていた。
「どうやって、改良するかな?」
「ええー?ダスト、私のヒザが空いてるよ。」
嬉しい提案だが、それはどうなのか。今、座ってる、ふわふわ苔を使いたいが、地面から離れると短時間で、死滅し弾力が無くなるので、禁止アイテムだ。
このクソ蛇さえいなければ、ギリギリ耐えられるのにと、路上で轢かれて死んだ蛇を、憎しみを込めて見る。
「そうだ!このブヨブヨした死骸は、使えないだろうか?」
「酷いよダスト。私より蛇がいいの?」
「断固反対ですにゃ!こんなモノ車内に入れたくないですにゃーー。」
「待て待て、浮気でも無いし、車内にも入れない。」
疑わしげな2人に見守られながら、ダストは、グロい蛇の死骸を、ずるずると引き摺って、馬車へと持ってきた。
「え?御主人様、いったい、何をやるつもりっすか?」
「まぁ、見てなって。」
ドン引きする3人を余所に、科学の申し子であるダストは、釘を口に加え、職人となる。
主人公は誰がいい?
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豚野郎 ダスト
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美少女 ダストちゃん
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男の娘 ダスト君
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美男 Dust
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でぶ女 D