目覚めたら、日が暮れていた。夕食を求めて、鈍重な肉体の腹が鳴りだす。
さっと、シャワーを浴びて着替え、食堂に案内されると、美味そうな匂いが漂ってきた。勧められるままに、ガツガツと食べる。魔物肉は当然美味いし、サラダに使われてるバネのような形の野菜も気に入った。
野菜の名前が気になるが、それよりも心のほとんどは、エルフで占められていた。
今の生活には満足している、しかし、ファンタジーな世界に来たからには、エルフには会っておきたい。遊園地に来たなら、ジェットコースターに乗っておきたい、そんな感覚。
だから、ハラが膨れて、ひと心地つくと、質問を再開する。
「それで、エルフの事なんだが。」
「どうやら、精神汚染では、無いようじゃの。しかし、それは妄想では無いのか?会ったことも無いなら、存在も疑わしいぞ。」
リリイが困った顔をする。手伝いたいが、今の彼女には、手掛かりすら、思いつかないからだ。
悪魔と関わりがあると聞いたが、人型の悪魔は珍しいし、いずれも怖い見た目をしている。
となると、次の可能性として、人体改造をする一族とも考えられるが、タトゥーや、顔に串を刺したり輪っかを付けたりと、美男美女とは、明らかにベクトルが違う。
だいたい、耳が長くて、美しいというのが、そもそも彼女にはイメージ出来ない。
とにかく、情報が足りていない。
「いや、確実に、この異世界に存在するはずだ。あと、その件で、リリイに謝らなければならない事がある。とても、重要な情報を、一つ言い忘れていた。情報開示が遅れて、ごめん。」
「ほう!重要な情報とな。」
申し訳無さそうなダストに、リリイは、解決の糸口を感じて、食いつく。
「あぁ。エルフの外見だが、もしかすると、耳が尖ってるだけで、短いかもしれない。長いのは、日本のオリジナルだと掲示板で見た記憶がある。」
しかし、糸は、ぷつりと切れる。
「全然、重要では無い。むしろ、謎が深まっただけなのじゃ。」
エルフ愛に萌える男と、古い常識に固まったロリババアの会話は平行線を辿り、会話は、停滞する。
ハクレンが、そんな空気を変えた。
「御主人様は、何で、エルフが存在するって信じてるんすか?」
素朴な疑問から、事態は、犯人を暴くように、物語の真相に向けて、走り始める。
「え?異世界に、エルフがいるのは、常識だろ。お約束に近い。」
「お主の常識と、妾達の常識には、溝があるように感じるがのう?その常識とやら詳しく話してみるのじゃ。」
「だって、この世界はファンタジーの条件が揃っている。魔法、低い文明レベル、モンスター、亜人、冒険者ギルド。ならば、亜人の代表格であるエルフがいないのは、説明が付かない。」
「その、そもそも、亜人とは何じゃ?初めて聞くのじゃが。」
「え!?今さら、そんな事を聞くのか。獣人とか、人間以外の人に近い種族だけど?猫娘ピンクに、馬娘ハクレン、石族コイシ。目の前にいるだろ?」
ロリババアが、呆けたような表情をしたかと思うと、じっとダストを見つめる。告げられたのは、不都合な真実。
「落ちついて聞くのじゃぞ。亜人は、本来、この世界の存在ではない。」
「ふっざけんなよ。それは、彼女達を認め無いって事か!」
激昂するダストを、軽く諌める。
「早とちりするでない。今まで存在しなかったと、いうべきか。妾は、お主の言う亜人を、目の前の3人しか、知らぬ。」
「え!?そんな。リリイが知らないだけだろ。猫娘達は、酒場で違和感なく受け入れられていたが。」
「オーナー、初見のお客様には不思議がられてますにゃ。」
「そうだったのか?では、なぜ受け入れられてるのだ。」
「可愛さは、正義ですにゃ。」
猫娘ピンクの解答に、頭が痛くなる。
え?本当に、リリイの言うように、この異世界には、亜人は、いないのか。
「いや、しかし。俺は、樹人リンゴに、鼠族チュチュ。他にも現実的に、別の亜人の存在を確認しているのだが。」
「そうなのか?」
「あぁ、そうだ。」
リリイの常識が崩れかけ、再び迷宮入りしそうになったが、ピンクが核心をつく。
「言いづらいんだけど、オーナー。私達とその2人も、オーナーの奇蹟により、生み出された存在ですにゃ。」
「そうなのか?」
「・・あぁ、そうだ。」
リリイ・アーハイムが宣言する。
「ならば、結論は出たの。おそらく、エルフは、この世界には、いない。」
「・・・そんな。」
不意に、コイシちゃんに、無言で、ぎゅっと抱き締められた。彼女は、いつだって優しい。つまりは言外に、残念だったね。っていう意味だ。しかし、優しさが、刺さる。
「じゃが、諦めが、つくまでは、手伝っても良いのじゃ。」
「そうですにゃ、旅行楽しみですにゃ。」
「御主人様、何処までもお供するっす。」
つまりは、そういう事だ。
エルフはいない。
埋蔵金は、出ない。
ロマンは、ロマンなのだ。
親子、3代に渡って、ロマンを妄執に取り憑かれたかのように、探すのか?
人間は、欲深い。パチンコで負けを取り戻すまで、宗教で捧げた時間を叶えるまで、ソシャゲのガチャで当たりを引くまで。
努力には、必ず結果が出る。そう刷り込まれた信仰が、対価を捧げる毎に、戻れない道を進ませる。一度ハマれば、逃げ出せない罠。
延々と大切な何かを捧げるのか?
問われている。
大人になれ、夢を見るな。
探すフリをして、適当なところで、幕を引き、綺麗に終わらせろと。
「旅行、楽しみじゃな。」
「楽しい旅行にするですにゃ。」
「御主人様、うちがいるっすよ。」
もう諦めろよ。
そんなムードだ。コイシちゃんは、何も言わないのが、有り難い。
「…そうだな。受け入れよう、エルフのいない現実を。」
夢を諦めた時、少年は大人になる。
いい年だろ、大人になれるさ。
後は簡単だ。震えるように息を吐き出し、自分を納得させるため、もう一度、呟く。
「エルフは、現実的に考えて、存在しない。これが、この世界の常識。」
優しく、4人の美少女に見守られる。
尖らなくていい。諦めの先にあるのは、優しい世界。悪くないが、
「ふふっ、ふははっ。」
突如、込み上げる笑い。
まるで、ニートでは無いか、また欲しいものを諦めて、ただ耐え続けるのか。あの日の誓いは嘘だったのか。
いや、違うだろ。
「俺は、変える!現実を変える。」
うずく右手の、黒竜の手袋を脱ぐと、ダストの想いに呼応して、光っていた。
ぐっと握りしめると、燐光が、花火のように飛び散り、森厳なる新緑の風の匂いが、部屋を満たした。
何かが、変わる予感がする。
「現実がなんだ、常識がなんだ。俺だけの右手の力で、そんなモノは、書き換えろ。この異世界に、エルフが存在しないというのなら、エルフを顕現させろ。」
亜人もいない退屈な異世界に、奇蹟を起こせ!常識なんてものは、俺の後に出来るんだ。
「皆、付いて来てくれ。エルフに会いに行くぞ。」
「「「「おー!!」」」」
高らかに腕を上げ、仲間達と動き出し、エルフもサキュバスも狐娘も鬼娘もいない退屈で、くそったれな異世界に、新たな風は吹き始めた。手始めに、エルフからだ。
彼だけの異能で何を成すべきなのか、答えは出た。
この異世界を亜人美少女の溢れる現実に書き換えろ!
主人公は誰がいい?
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豚野郎 ダスト
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美少女 ダストちゃん
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男の娘 ダスト君
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美男 Dust
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でぶ女 D