この世の全てを美少女に!   作:縛炎

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68 汝、求めよ。

 

 目覚めたら、日が暮れていた。夕食を求めて、鈍重な肉体の腹が鳴りだす。

 

 さっと、シャワーを浴びて着替え、食堂に案内されると、美味そうな匂いが漂ってきた。勧められるままに、ガツガツと食べる。魔物肉は当然美味いし、サラダに使われてるバネのような形の野菜も気に入った。

 野菜の名前が気になるが、それよりも心のほとんどは、エルフで占められていた。

 

 今の生活には満足している、しかし、ファンタジーな世界に来たからには、エルフには会っておきたい。遊園地に来たなら、ジェットコースターに乗っておきたい、そんな感覚。

 だから、ハラが膨れて、ひと心地つくと、質問を再開する。

 

 

「それで、エルフの事なんだが。」

 

「どうやら、精神汚染では、無いようじゃの。しかし、それは妄想では無いのか?会ったことも無いなら、存在も疑わしいぞ。」

 

 リリイが困った顔をする。手伝いたいが、今の彼女には、手掛かりすら、思いつかないからだ。

 

 悪魔と関わりがあると聞いたが、人型の悪魔は珍しいし、いずれも怖い見た目をしている。

 となると、次の可能性として、人体改造をする一族とも考えられるが、タトゥーや、顔に串を刺したり輪っかを付けたりと、美男美女とは、明らかにベクトルが違う。

 だいたい、耳が長くて、美しいというのが、そもそも彼女にはイメージ出来ない。

 

 とにかく、情報が足りていない。

 

 

「いや、確実に、この異世界に存在するはずだ。あと、その件で、リリイに謝らなければならない事がある。とても、重要な情報を、一つ言い忘れていた。情報開示が遅れて、ごめん。」

 

「ほう!重要な情報とな。」

 

 申し訳無さそうなダストに、リリイは、解決の糸口を感じて、食いつく。

 

「あぁ。エルフの外見だが、もしかすると、耳が尖ってるだけで、短いかもしれない。長いのは、日本のオリジナルだと掲示板で見た記憶がある。」

 

 しかし、糸は、ぷつりと切れる。

 

「全然、重要では無い。むしろ、謎が深まっただけなのじゃ。」

 

 エルフ愛に萌える男と、古い常識に固まったロリババアの会話は平行線を辿り、会話は、停滞する。

 

 ハクレンが、そんな空気を変えた。

 

「御主人様は、何で、エルフが存在するって信じてるんすか?」

 

 素朴な疑問から、事態は、犯人を暴くように、物語の真相に向けて、走り始める。

 

「え?異世界に、エルフがいるのは、常識だろ。お約束に近い。」

 

「お主の常識と、妾達の常識には、溝があるように感じるがのう?その常識とやら詳しく話してみるのじゃ。」

 

「だって、この世界はファンタジーの条件が揃っている。魔法、低い文明レベル、モンスター、亜人、冒険者ギルド。ならば、亜人の代表格であるエルフがいないのは、説明が付かない。」

 

「その、そもそも、亜人とは何じゃ?初めて聞くのじゃが。」

 

「え!?今さら、そんな事を聞くのか。獣人とか、人間以外の人に近い種族だけど?猫娘ピンクに、馬娘ハクレン、石族コイシ。目の前にいるだろ?」

 

 ロリババアが、呆けたような表情をしたかと思うと、じっとダストを見つめる。告げられたのは、不都合な真実。

 

「落ちついて聞くのじゃぞ。亜人は、本来、この世界の存在ではない。」

 

「ふっざけんなよ。それは、彼女達を認め無いって事か!」

 

 激昂するダストを、軽く諌める。

 

「早とちりするでない。今まで存在しなかったと、いうべきか。妾は、お主の言う亜人を、目の前の3人しか、知らぬ。」

 

「え!?そんな。リリイが知らないだけだろ。猫娘達は、酒場で違和感なく受け入れられていたが。」

 

「オーナー、初見のお客様には不思議がられてますにゃ。」

 

「そうだったのか?では、なぜ受け入れられてるのだ。」

 

「可愛さは、正義ですにゃ。」

 

 猫娘ピンクの解答に、頭が痛くなる。

 え?本当に、リリイの言うように、この異世界には、亜人は、いないのか。

 

「いや、しかし。俺は、樹人リンゴに、鼠族チュチュ。他にも現実的に、別の亜人の存在を確認しているのだが。」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ、そうだ。」

 

 リリイの常識が崩れかけ、再び迷宮入りしそうになったが、ピンクが核心をつく。

 

「言いづらいんだけど、オーナー。私達とその2人も、オーナーの奇蹟により、生み出された存在ですにゃ。」

 

「そうなのか?」

 

「・・あぁ、そうだ。」

 

 リリイ・アーハイムが宣言する。

 

「ならば、結論は出たの。おそらく、エルフは、この世界には、いない。」

 

「・・・そんな。」

 

 不意に、コイシちゃんに、無言で、ぎゅっと抱き締められた。彼女は、いつだって優しい。つまりは言外に、残念だったね。っていう意味だ。しかし、優しさが、刺さる。

 

「じゃが、諦めが、つくまでは、手伝っても良いのじゃ。」

「そうですにゃ、旅行楽しみですにゃ。」

「御主人様、何処までもお供するっす。」

 

 つまりは、そういう事だ。

 

 エルフはいない。

 埋蔵金は、出ない。

 

 ロマンは、ロマンなのだ。

 親子、3代に渡って、ロマンを妄執に取り憑かれたかのように、探すのか?

 

 人間は、欲深い。パチンコで負けを取り戻すまで、宗教で捧げた時間を叶えるまで、ソシャゲのガチャで当たりを引くまで。

 努力には、必ず結果が出る。そう刷り込まれた信仰が、対価を捧げる毎に、戻れない道を進ませる。一度ハマれば、逃げ出せない罠。

 

 延々と大切な何かを捧げるのか?

 

 

 問われている。

 

 大人になれ、夢を見るな。

 探すフリをして、適当なところで、幕を引き、綺麗に終わらせろと。

 

 

「旅行、楽しみじゃな。」

「楽しい旅行にするですにゃ。」

「御主人様、うちがいるっすよ。」

 

 もう諦めろよ。

 そんなムードだ。コイシちゃんは、何も言わないのが、有り難い。

 

「…そうだな。受け入れよう、エルフのいない現実を。」

 

 夢を諦めた時、少年は大人になる。

 

 いい年だろ、大人になれるさ。

 後は簡単だ。震えるように息を吐き出し、自分を納得させるため、もう一度、呟く。

 

「エルフは、現実的に考えて、存在しない。これが、この世界の常識。」

 

 優しく、4人の美少女に見守られる。

 尖らなくていい。諦めの先にあるのは、優しい世界。悪くないが、

 

 

「ふふっ、ふははっ。」

 

 突如、込み上げる笑い。

 まるで、ニートでは無いか、また欲しいものを諦めて、ただ耐え続けるのか。あの日の誓いは嘘だったのか。

 いや、違うだろ。

 

「俺は、変える!現実を変える。」

 

 うずく右手の、黒竜の手袋を脱ぐと、ダストの想いに呼応して、光っていた。

 

 ぐっと握りしめると、燐光が、花火のように飛び散り、森厳なる新緑の風の匂いが、部屋を満たした。

 何かが、変わる予感がする。

 

「現実がなんだ、常識がなんだ。俺だけの右手の力で、そんなモノは、書き換えろ。この異世界に、エルフが存在しないというのなら、エルフを顕現させろ。」

 

 亜人もいない退屈な異世界に、奇蹟を起こせ!常識なんてものは、俺の後に出来るんだ。

 

「皆、付いて来てくれ。エルフに会いに行くぞ。」

 

「「「「おー!!」」」」

 

 高らかに腕を上げ、仲間達と動き出し、エルフもサキュバスも狐娘も鬼娘もいない退屈で、くそったれな異世界に、新たな風は吹き始めた。手始めに、エルフからだ。

 彼だけの異能で何を成すべきなのか、答えは出た。

 

 この異世界を亜人美少女の溢れる現実に書き換えろ!

 

 

主人公は誰がいい?

  • 豚野郎 ダスト
  • 美少女 ダストちゃん
  • 男の娘 ダスト君
  • 美男  Dust
  • でぶ女 D

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