シュタタッン!と、ごくごく自然に水面の上を駆け出す双子の馬娘サラとポニー。
水の上を歩くのは、イエス・キリストに始まり古くからよくある奇蹟だが、いきなり目の前でやられるのを見て、乾いた笑いが出た。
手品と違いタネも仕掛けもない、現実が足元からガラガラと音を立てて崩れるような奇蹟を目の当たりにした俺は、衝撃を受けた。
ボーゼンと乾いた笑いを浮かべたのは、その衝撃により唐突に、自分の中にある心のパズルが組み上がったからだ。
彼女達は魅せてくれた。
常識を変える力を。
その力の名前は、奇蹟。
彼は、彼だけの奇蹟の右手を見つめる。
プロニートとして過ごした無駄な10年間、抑圧された部屋の中に閉じ込められて、俺はずっと泣いていたのだろう。
働いたら負けとか、嘯きながら俺はずっと泣いていた。
今、向き合い認めよう。
泣いていたのだ。
『ダストは、よく頑張ったよ。』
頭の中でリフレインする根拠の無いコイシちゃんの声に救われる。
この魔法の一言を行ってくれる人がもし、あの時、周りにいれば、閉じ込められた部屋から出れたかもしれないのに。
『失望した、次こそは頑張れ、努力が足りていない、いい加減に働きなさい。』
ニートを初めてしまったあの日。
傷付いたバカで、不器用な俺は、子供のように部屋に籠もって強請るように、ただ言葉を欲しがっただけなのだろう。
しかし、返ってきた優しさに似たナイフのような言葉に、切り裂かれた。
悪意があった訳では無く、その言葉を、俺も親も知らなかっただけだ。
『頑張ったね、ダストなら出来るよ。』
俺が、欲しかった言葉は、これだったのかとコイシちゃんに出会ってしばらくたった今、ようやく本当にいまさらだけど理解した。
無期懲役。
10年目、恩赦で混沌神が来たのは幸運、いや奇蹟というべきか。
ダストは、性別や美醜という神の決めた、絶望的な抑圧されたルールを打ち破る、彼だけの右手を見つめる。
奇蹟は、手に入れた。
俺は変われるのか。
ギリギリと右手を強く握りしめる。
しばらくして、馬娘達が水面を歩きながら、直径20センチくらいの色とりどりのボールのような物を抱えて帰ってきた。
それはもう嬉しそうに。
「「御主人様っ、大量です。」」
「おう、お疲れ様。凄いじゃないか。すぐ切るから待ってくれ。」
受け取ったポムの実は、弾力があり、受け取り損ねたポムの実がぽんぽんと跳ねて転がっていく。
2人の期待したキラキラした眼差しを受けながら、まな板の上で半分に切ると、デロリとした内容液が出てきたので、慌ててボウルに中身を移すと、ポムの実の中身は、イクラの卵のような見た目をしていた。
「こんな中身だったのか。勢いで切ってみたけど、どうやって食べるんだ?」
「そのまま食べれば良いですわん。はっはっはっ。」
息を荒くしながら興奮した目つきでポムの実を見つめた犬娘が、教えてくれる。
「そうか、ありがとう。ならば、次は切り方を変えてと。」
上端をナイフで切り飛ばし、スプーンで掬って食べられるように細工してから、目を輝かせた双子に渡す。
「ほら、どうぞ。」
「「御主人様っ、ありがとうっ。」」
嬉しそうに一口食べた双子だが、お気に召さなかったようで、テンションが落ちて、いつものクールな顔に戻る。
「え、、不味いの?」
「「不味くは無いけど、これではない感じ?」」
サラが、食べかけを渡してきたので、そのままの流れで、サラの使ったスプーンを使いパクリと食べる。
果物とは違う。
イクラのような?
「確かに美味いけど、これはフルーツでは無いな。口直しは、いるか?」
と、青リンゴを渡すと、嬉しそうに受け取ってくれて、ほっこりする。
それを見たポニーが、慌てて食べかけのポプの実を渡してきたので、青リンゴとの交換に応じる。
「可愛いやつらめ。」
さてと、残ったのはどうしようか。
おおっ、そうだ。
興奮していた犬娘にも切って渡してやろうと、ナイフを持つと耳がへにょんとなった。
なんで?
切るのをやめて、ぽんぽんとポムの実を弄ぶと、興奮してきた。
そうか、ボール遊びがしたいのか!
ダストは、犬娘と、ボール遊びをするため、力の限りポムの実を投げたり、
なんて野暮な事はしない。
ダスト改は、気配りの出来る男。
「ほら。やるから、どこかで遊んで来い。」
「わうう。」
嬉しそうに受け取った犬娘ペスがポムの実を森守の青年に持っていく。
青年がペコリと、ダストに頭を下げたので、ひらひらと手を振りそれに応えた。
ボール投げに夢中になる2人を、微笑ましく見守る。
「行くよー、ペス。」
「わうわう。投げて、ハーミット!」
青年は力を込めて高く投げる。
しかしながら、始まるかと思われた2人の幸せな時間は訪れず、捻くれた目の青年と犬娘ペスは、肩を落とす事になる。
捻くれた目の青年の粗雑な想いは、日頃の行いの悪さのせいか、彼女へとは届かず、簡単に奪われてしまったのだ。
待つ事、3時間。遅れて来た、ダストの待ち人によって。
一瞬だけ、空中にギラリと光る魚鱗が現れたかと思うと、空に投げたポムの実は虚空へと消え去った。
それをハッキリと見たダストは、思わず興奮して叫ぶっ。
「ついに捉えたぞ、幻想の魚よ!」
「師匠、どういう事ですにゃ?」
「
「にゃんと!さすが師匠。」
「だから、これで釣れるぞぉ!」
弟子の尊敬の眼差しの前で気持ち良くガッツポーズしていると、ロリのツッコミが入った。
「しかし、お前様のう。釣り道具なんて、持ってきて無いのじゃ。」
さらに、犬娘からも追撃。
心なしか元気が無い。
「それに、ダスト様。メルカーナの村にも無いはずですわん。」
「妾が思うに、そうじゃのう。ならば、帰って、別の街へ買いに行って、村に戻ると、再挑戦は3日後となるのじゃ。」
完全に劣勢に立たされた、釣り道具を持たない釣り師ダスト。
奇蹟は起こるのか?
いや、奇蹟は起こすものだ。
「リリイ、知らないのか?俺は、今日釣り上げると言った。」
「お前様よ、釣りをするには糸がいるが、服の繊維は糸としては使えぬ。それに、針になるような針金も持っておらんかったじゃろ?つまり、奇蹟でも起きぬ限り、その可能性は、ゼロじゃ。」
劣勢に立ったダストを無根拠に応援する女は黙っていない。
「ダストは、出来るよ。」
その言葉を受けて、スカーフェイスの豚野郎、ダストは不敵に笑った。
「そうだ。俺は変わったし、変えられる。お望みとあらば見せてやろう。その奇蹟を。」
パンッ!と顔を叩けば光りとともに、現実は変わりだす。
ピカァ!
奇蹟の美少女ダストちゃん降臨。
豚野郎から美少女が産まれた。
凡庸な森守達は、「「おぉっ、ダスト様が!?」」と人智を超えた2度目の奇蹟に腰を抜かす。
主人公は誰がいい?
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豚野郎 ダスト
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美少女 ダストちゃん
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男の娘 ダスト君
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美男 Dust
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でぶ女 D