余命宣告されたけど死にそうにない   作:ばぶ美

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一話

医者に、一年後にあなたは死ぬと言われた。

 

もちろん、こうもストレートに言われたわけではない。遠回りに、ゆっくり、残酷に伝えられた。

 

実感、というものはよくわからなかった。

 

幼い頃から患っていた病気だし、いつか死ぬことも理解していた。突然血を吐いたり、突然息が苦しくなったりすることがよくあったのだから。まあ、長くは生きられないな、と。

 

 

分かってはいたが、それが辛くない、悲しくないという訳では無い。

 

 

余命宣告をされた時は、その衝撃で発作を起こしたし、父と母に伝えた時は三人で子供のように泣いた。

 

体調を崩して遠足に行けなかった時だって、その都度泣いた。

夏はみんながプールに入るのを眺めながら、いつも手を握りしめていた。

発作を起こす度に、苦しくて仕方なかった。

血を吐く度に、自分を憎んだ。

 

 

でも、死にたいとは思わなかった。

 

 

私は、生きていたい。

 

明日だって、来週だって、来月だって

 

 

一年後だって───

 

 

私は、生きていたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 葵田真昼の一番の楽しみといえば、同じ病室に入院してくる人と仲良くなることだった。例えばそれは、歳の近い少女であったり、自分の母より歳上の女性であったり…しかし、この病室はWiFiが入っている分値が少し高く、多いのは圧倒的に前者だった。それは真昼の狙い通りで、中々学校に行けない真昼にとって、友達を作る一番のチャンスなのである。

 

 

ある時、一人の少女が入院してきた。

 

真昼と同じ高校二年生で、顔も体つきも整った綺麗な人。名前は、毛利蘭というらしい。かの有名な『眠りの小五郎』の娘という。

 

年も同じで、蘭の明るく優しい性格から、二人はすぐに仲良くなった。

 

蘭は、怪我で入院しているらしい。本来なら入院するほどのものではないらしいが、怪我した場所が特殊で大事をとって…と本人が言っていた。だから、入院期間もそこまで長くない。一週間だけだという。

 

それはとても良い事なのだが、真昼は少し残念だった。いつだってそうだ。どんなに仲良くなったとしても、再会することはない。一度だって、ない。

 

真昼は出会った人────真昼にとっての友達を、皆覚えている。盲腸で入院した晴海さんに、貧血でちょっとだけいた遊さん、弟さんがイケメンな茜さん、モデルをしていたのどかさん、他にも、沢山。

 

誰一人、私に会いに来てはくれない。

 

きっと、蘭さんもそうなる。

 

 

真昼は、そう確信していた。

 

 

それに、蘭には友達がとても多い。この一日の間だけでも何人もの人が蘭に会いに来ている。そんな充実した生活をしている子にとって、真昼はただの隣人でしかないのだから。楽しいけど、寂しい一週間になりそうだな、と真昼は思った。

 

 

 

 

 

そう、思っていたのだが。

 

 

 

 

 

「真昼ちゃん、今日はこの本を持ってきてみたんだけど…どうかな?」

「ありがとう、蘭さん。まだ読んだことのない本だから、嬉しい」

 

一ヶ月ほど前に退院した蘭と真昼の交流は、未だに続いている。途切れる様子はなく、むしろ頻度と連れが多くなっている程だ。

 

今日は蘭の親友という鈴木園子──かの有名な鈴木財閥のご令嬢らしい──が一緒に来ていた。彼女も、蘭にいやいや付き合っているという素振りは全く見せないノリのいい人だ。それに、蘭と同じで明るく素直な人。

 

一ヶ月前までは別れを悲観していた真昼だったが、今では蘭達が来るのが新しい楽しみだったりする。

 

 

「それにしても…今日も相変わらず顔色悪いわねー。真っ白よ、真っ白。真昼じゃなくて真白って感じ」

「ちょっと園子!」

 

園子が真昼の頬をつつきながら言う。園子はグイグイ来るタイプなので、真昼は押されながらもここまで仲良くなった。

 

「あまり外に出ないからかな。ふふ、いいでしょう?」

「確かに羨ましいけどあんたは白すぎ!もっとご飯を食べなさいっ。ほら、私からはこれ持ってきたから」

 

そう言って園子は白い箱を差し出した。パッケージからして、ケーキだろう。

 

「これは…」

「あんたはこういうの遠慮するはずって蘭が言うから、人数分買ってきたの。ね、蘭」

「えぇ。真昼ちゃん、一緒に食べましょう?」

 

蘭が手際よく紙皿とスプーンにケーキを盛り付ける。フルーツの輝くショートケーキだ。

 

「…ずるいです、こんなに美味しそうなもの、断れるわけないよ…」

「何よー、この前は私の持ってきたチョコレート拒絶したくせに」

「だってあれ一粒ウン千円するって!」

「ほらほら、喧嘩しないで。ケーキ準備できたよ」

 

 

 

 

 

(…あぁ、本当に楽しい。ずっと、こんな時間が続けばいいのに)

 

真昼の中に、ぽつりと、悲しい願いが生まれた。

 

 

 

 

 

季節はすっかり冬になり、朝起きるのが億劫な日々が続いていた。年を越えてもまだ、真昼と蘭達の交流は途切れそうにない。きっと、真昼が死ぬまで、この関係は終わらないのだろう。そういう確実なものになったのだ。

 

 

今日は、蘭とともにコナンという少年が来ていた。園子の次に真昼が会うことの多い人物である。蘭の元に居候している少年らしく、高校生である真昼と本の趣味が合う賢い小学一年生だ。あまりの賢さに真昼は、彼は何かあって縮んだ大人なのではないかと疑っていたりする。もちろん、そんな訳ないと分かってはいるのだが。

 

「最近風邪がはやってるけど、二人は大丈夫?」

「えぇ。元気いっぱい!真昼ちゃんにも分けてあげようか?」

 

手を握り合いながらきゃっきゃと笑う年上二人を、コナンは冷めた目で見ながら笑っていた。

 

(やっぱ女子のノリはわかんねーな)

 

「でも、病院は菌でいっぱいだから、気をつけてね」

「うん、ちゃんと消毒とかもするわ。あぁ、でも…コナン君は少し、ひかえた方がいいかな。まだ小さいし」

 

小さいという言葉に反感を覚えながらも、コナンはその意見に同意した。一年の間ではまだだが、高学年の間でインフルエンザが流行っているらしいのだ。病人に────真昼にそれを移すわけにはいかない。

 

「そう、だね…コナン君、当分の間は…お別れ、かな」

 

寂しそうな表情で、真昼がコナンの目を見つめる。まるで、今生の別れと言わんばかりの表情だ。大袈裟なリアクションに違和感を覚えながら、コナンも極力寂しそうに返事をした。

 

「それならコナン君がまたここに来るのは、二年生になってからかな?あ、でも春休みには、きっとまた来れるわ」

「そっか…楽しみにしてるね」

 

(その時までは生きていたい、けど)

 

真昼が余命宣告をされたのは、高校二年生になる直前のことだった。つまり、春休みの間。余命の一年が、そろそろ終わろうとしていた。

 

(言わないといけない、私、死ぬかもしれないって)

 

でも、だってが心の中で反復する。そんな勇気を、死にゆく真昼は持ち合わせていなかった。

 

人間は、死を嫌う。

別れを嫌う。

 

長い間病院にいる真昼は、その事を理解していた。

 

ある人は、重い病気を患い恋人に捨てられた。

ある人は、死ぬことが分かり徐々に孤独になっていった。

 

(私も、そうなるかもしれない)

(でも、言わなくちゃ…)

 

 

 

結局その日、真昼の口から真実が伝えられることはなかった。真昼はもう、少しでも長く生きられるように神に願うしかないのだ。

 

自分をこんな体にした神に、祈るしか。

 

 

 

 

 

 

 

蘭とコナンが帰った後、真昼の母────朝乃が見舞いに来た。忙しい中、週に一度は必ず会いに来てくれる朝乃のことが、真昼は大好きだった。

 

「あら、真昼。今日もお友達来てたの?どう、楽しかった?」

「うん。今日は蘭さんとコナン君が来てたよ。でも最近風邪も流行ってるし、コナン君は春休みまで来れないかもって」

「そう…それで、今日はどんなお話を?」

「…今日はね────」

 

朝乃は林檎の皮を剥きながら、娘の話を聞いた。余命宣告をされ、心の底で人生に諦めていた娘が見せた生への執着。それに、母として安心していたのだ。

 

 

 

「…ねぇ、母さん」

「ん、なぁに、真昼」

 

切り分けた林檎を真昼に差し出しながら、朝乃は返事をした。少し真剣な表情になった真昼に、気付いてはいない。

 

「私これから、折り紙を沢山折って、沢山作品を作る」

「…そうなの?どうして?」

 

林檎に刺さった爪楊枝を弄りながら、真昼は答える。朝乃の顔を見ることは、できなかった。

 

「…蘭さん達へのプレゼント」

「あら!いいじゃないの。真昼は器用だから、きっと喜んでもらえるわ」

「そうかな?…それでね、この棚に、作ったのを入れておくから。もし蘭さん達が来てくれたら…伝えて欲しいなって」

 

 

 

私が死んでしまったら。

 

 

 

もう一度、林檎に爪楊枝を刺す。しゃくりと、小さな音が鳴った。

 

一瞬の静寂の後、朝乃は手を止めた。口に入れようとした林檎を下げ、真昼の顔を見る。

 

「…私がいうの?真昼から言った方が、喜ぶんじゃない?」

 

(そんなの、分かってるけど)

 

「私が、その…死んでからだから」

 

 

 

 

ぽとり。

 

何かが落ちた。いや、朝乃は理解している。林檎が落ちた音だ。自分で落としたのだから。思わず立ち上がっていた。なりふり構わず、娘の顔が驚きに染まっているのも。かまわず。

 

「…真昼?」

「母さん?」

 

真昼は困惑していた。朝乃も、困惑していた。というよりも、苦しさで胸がいっぱいだった。

 

(どうして、そんなことを言うの?)

 

「…真昼、貴女はまだ生きるのよ。あと、一年だけれど…ちゃんと生きるのっ!まだ一年あるの!なのに…しんだらなんて…そんな、こと…」

「母さん…?泣かないで、大丈夫だから、ほら、ね?」

 

あと、一年あるのだ。たった一年だけれど、まだ一年あるのだ。朝乃は覚悟している。娘の死を覚悟しているが、その娘から「死んだら」なんて言葉を聞いたから。

 

「母さん?私の余命は────」

「そう、一年だけれど!生きるのよ、真昼!」

 

涙ながらに語る朝乃に押し切られた真昼は、ただ頷き、朝乃を慰めることしか出来なかった。それは、看護師が晩御飯を届けるまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

真昼が、蘭達のプレゼントに折り紙を選んだ理由。

 

それは、折り紙があまり『必要』なものでなく、『壊れやすい』から。

 

折り紙なんてなくても生きていけるし、少し握りしめたら壊れてしまう。そんな、軽いものを真昼は渡したかった。

 

永遠に残るものは選択肢になかった。真昼は、彼女達の人生の一部にはなりたくない。優しい彼女達は、きっと捨てることは出来ないから。

 

時々思い出す程度で、いや、思い出さなくてもいい。壊れやすい折り紙が、壊れるまででいいのだ。

 

 

真昼はもう少しで死ぬのだから。

 

 

 

─── 一年だけれど!生きるのよ、真昼!

 

 

 

「…そう。私はもう少しで死ぬ」

 

蘭からのメールを眺めながら呟いた。

 

『ごめんなさい真昼ちゃん汗

 お父さんがインフルエンザになっちゃって

 当分は行けそうにありません

 学校でも流行るかもしれないから、

 春休みになってからまたいくね!

 その時は、私はほとんど三年生!素敵!

 …真昼ちゃんがうちの高校にいたらもっと

 素敵なんだけどね笑

 それじゃぁ真昼ちゃん、またね』

 

 

少し、寂しい気もするが、自業自得だ。

 

 

スマホの電源を切り、ベットを倒す。真昼にとって、見慣れた真っ白な天井。シミなんて一つもなくて、それがさらに寂しさを引き立てた。

 

 

(…どうかまた、会えますように)

 

 

(それで、母さんの言う通り自分で渡せたら…それも、いいな)

 

 

 

 

 

 

 

 

「真昼ちゃん!久しぶりっ」

「蘭さん!…と、コナン君と哀ちゃん。お久しぶりです」

 

メールで言っていた時間から丁度五分前に、病室のドアが開いた。真昼一人の部屋が、少しだけさわがしくなる。

 

ちなみに、蘭達が来ていなかった間に二人姉妹が入院していたのだが、三日前に退院している。

 

「たったの二週間だけど、最近はほとんど毎日真昼ちゃんに会ってたからなんだか長く感じちゃった」

「…そうだね、私も。早く会いたいな、って、ずっと思ってた」

 

『たったの二週間』という言葉に、少し寂しくなる。蘭たちにとって、二週間とはたったで済まされる期間なのだ。でも、それが蘭たちの生きている証拠のようで、真昼は嬉しくもあった。

 

 

(…言わないと。私、もう死ぬかもしれないって。もう、来ない方がいいって)

 

指先が冷たくなる。やっぱり、言えない。指先を不自然にいじる真昼のことを、コナンと哀は不思議そうに見つめた。蘭は、お土産を袋から出すのでいっぱいそうだ。

 

「えーっと…よし!真昼ちゃん、これ」

「え?…と、…これは?」

 

丁寧にラッピングされた直方体を、蘭が真昼に差し出す。今までとは違うタイプの見舞い品に真昼が戸惑っていると、コナンが説明をしてくれた。

 

「これ、僕達から真昼お姉さんへのプレゼント!受け取って欲しいな」

「私に、みんなから?」

 

今までの見舞い品は、食べ物が多かった。次に多いのは本だが、それはあくまで貸してもらっているだけ。つまり、消耗品以外のプレゼント、というものを、真昼はまだ貰ったことがないのだ。だからこそ、混乱していた。

 

「開けてみて」

「え、でも、悪いよ!私、いつもみんなにもらってばかりで…」

 

何も出来ない、何も返せない。真昼は、いつだってその事を気にしていた。やはり申し訳なさが勝つ。

 

「お願いっ!子供達も、みんなで出し合って買ったものなの。みんな、真昼ちゃんに渡したいって」

 

最初は私と園子で出すつもりだったんだけどね、と蘭が笑う。真昼は、どうすればいいのか分からなくなって、とりあえず開けてみることにした。

 

蘭が揺れる小さな音と、梱包を破く音が病室に響く。

 

「…この本って!」

「そう。真昼ちゃんが好きって言ってた工藤優作さんの最新作!それにね」

 

蘭が、開けてみて、と本を開くジェスチャーをした。工藤優作の本と言うだけで真昼は少し興奮していたのだが、開いてみて、さらに驚くことになる。

 

「嘘。これ…サイン?」

「正解!どうかな?」

 

俯いて本を見つめる真昼の顔を、蘭が覗く。お子様二人はその顔を見上げ、二人で微笑んでいた。

 

「嬉しい、嬉しいに決まってるっ。ありがとう、蘭さん!」

 

初めて聞く真昼の大きな声に驚き、心の底から嬉しそうな笑顔に、蘭も笑い返す。

 

「コナン君と哀ちゃんも、ありがとう。私、嬉しい。本当に…どうしよう、何て言ったらいいのか分かんない」

「真昼お姉さんが喜んでくれたなら僕も嬉しいな」

「…えぇ」

「本当に、本当に嬉しい。私の宝物だよ」

 

本を抱きしめ、真昼は呟く。そして、ハッとしたように棚から箱を取り出した。

 

「あの、これ。みんながくれたものには到底敵わないけど、私が作ったんだ。プレゼントのお礼と、進級祝いに」

 

箱を開けながら、三人に差し出す。中には、色とりどりの折り紙の作品が入っていた。そのどれもが、正しく完成品としてそこにあった。

 

「わぁ、凄い!これ、全部真昼ちゃんが作ったの?綺麗…」

「うん。私、ずっとここにいるから」

 

全部渡すつもりだが、その中でも一人一人に向けて作った作品を取り出す。

 

「これは蘭さんに。蘭の花なんだ」

「綺麗、すごい、すごいよ真昼ちゃん!いいの?」

「もちろん。もらってほしいな」

 

茎の部分までつけて、折り紙だと分かるが、その折り紙特有の可愛らしさがそれにはあった。そう、まるで蘭のように、凛々しく美しい花。

 

次に、サッカーボールとユニフォームの折り紙を取り出す。

 

「これは哀ちゃんに」

「あら。これ、比護選手のユニフォーム…」

「そう。私と哀ちゃんは比護選手応援団なんだもんね」

 

哀とグータッチをしながら、笑い合う。二人がここまで仲良くなったのは、共通の趣味────比護隆佑選手のおかげなのだ。

 

真昼は哀から比護の話を聞いて、よく二人できゃっきゃっとしていた。もちろんその後ろには、呆れた顔のコナンがいたわけだが。

 

「それで、コナン君には…はい、どうぞ」

「リボンと、ランドセル…?」

「うん。コナン君といえば、これかなーって」

 

(俺ってこんなイメージなのかよ…)

 

リボンは分かるがランドセルって…と少々不満げなコナンだったが、それを真昼には見せない。さすが、見た目は子供頭脳は大人の名探偵である。

 

「そっか、コナン君今年で一年生だもんね。ランドセル、ぴったりじゃない?」

「そ、そうかもね。嬉しいなぁ、あははは」

 

なるほど!と思ったが、哀の方はサッカーボールとユニフォームである。今度からはサッカー好きをアピールしておこうと決めたコナンだった。

 

 

 

 

(…あれ?)

 

真昼が首を傾げる。

 

(コナン君、今年で二年生だよね?)

 

だって、ランドセルを背負ってここに来ることもあった。少年探偵団の五人で、仲良く。蘭の言い間違いかな、と思いながら、真昼は気にしないことにした。

 

 

 

 

「少年探偵団の皆にも、これ、渡してくれるかな?後、本ありがとう。嬉しいですって」

「うん。でも、真昼お姉さんから直接貰った方が、アイツらも喜ぶと思うよ?」

「っ…ううん。コナン君から渡して」

 

コナンの言葉で思い出す。いや、無意識に考えないようにしていた事に気づいた、という方が正しいかもしれない。

 

(言わないと)

 

何度目だろう。ずっとうじうじとしている自分に嫌気がさす。言おう、言おうと思って口を開こうとした時、ぽつりと、蘭がこう言った。

 

「私ももう高校二年生かぁ…」

「え?」

 

 

 

 

 

「え?」

「真昼ちゃん?どうかしたの?」

「いや、どうかした、というか…蘭さん?」

「はい」

 

真昼の頭に、ハテナが沢山浮かぶ。得体の知れない気味の悪さが、背筋を撫でた。

 

「蘭さんって、春休みが開けたら高校三年生だよね?」

「えっ…違うよ〜真昼ちゃん。私達同い年でしょ?ふふふ、どうしちゃったの」

 

蘭が笑う。コナンと哀も、微笑ましそうにしている。

 

 

(おかしい)

 

 

分からない、だって三年生になるってメールでも…はっとする。そうだ、メールを見せればいいんだ、と。真昼はいそいでスマホを取り出した。最近発売したばかりの最新機種である。

 

「ほら、蘭さんメール…で、も…?」

「私がメールで何を…って、なにこれ!」

 

突然動きを止めた真昼の手元を覗く。そこには、文字化けで理解不能な文が綴られていた。

 

「…何だかちょっとだけ、気味が悪いね」

「…うそ…っぁ」

「…真昼ちゃん?」

 

 

 

真昼の肩が上下に揺れる。呼吸音もおかしい。異変にいち早く気づいたコナンが、蘭に叫んだ。

 

「蘭姉ちゃんっ、ナースコール!!」

「っ、分かった」

 

哀は真昼の背中を摩り、コナンは発作止めの薬がないか探した。しかし、薬を見つけるよりも先に看護師がやって来た。

 

それと同時に、真昼の体から力が抜ける。

 

(私、死ぬのかな)

 

 

 

 

 

真昼は、夢をみているようだった。走馬灯かも、と、自分で理解していた。

 

十七年分の記憶が蘇る。

 

 

 

はずだった。

 

 

 

真昼は、気づいたのだ。その、記憶の量のおかしさに。

 

どうして私は、三年もこの病院にいるの、と。

 

真昼が入院したのは、余命一年宣告されてすぐ。それなのに、真昼はもう三つのカレンダーを使い切っていた。おかしい。

 

この世界っておかしいのかな。

 

暗いのか、明るいのか、何も分からないそこで真昼は笑う。何だか、おかしくなってきたのだ。

 

余命一年を悲観していた自分が笑える。

カレンダーを何個も替えていたのに気づかない自分が面白い。

どうしようもない自分が、馬鹿げていておかしい。

 

声を上げて笑ったが、そんなもの、この空間では分からない。

 

 

『ねぇ、神様。それならどうして、私は今死ぬの?だって、一年経ってないよ』

 

真昼は呟く。

 

『どうして私は死んでないの?だって、三年も経ってる』

 

真昼は声を張る。

 

『神様、私、生きてはいけない存在だよね。でも、生きていたいの』

 

真昼は叫ぶ。

 

『だって私、まだ本読んでない』

 

真昼は声を枯らす。

 

 

 

暗くも明るくもないここに、何かが生まれた気がした。

 

それはまだ、動かない。

 

 

 

 

 

「…真昼?」

「…ぁ、さん」

 

何かに包まれた。何かが母親だと気づくのに、真昼は何秒もかけてしまった。喉が痛い。

 

「よかった…っ、本当にっ、よかった!」

「…おか、さん、ぃず…」

 

えずく母を抱きしめながら、水を要求する。しかし、上手く発音できていない。

 

「うん、うん。お水ね。はい…ぐすっ」

「…と」

 

水を勢いよく飲む真昼を見て安心したのか、朝乃は医師を呼ぶと伝え、立ち上がった。個室で一人になった真昼は、喉のチェックをしながらカレンダーを見る。

 

やっぱり、真昼が入院した年から時は進んでいない。

 

にやり、と弧を描き、起きたばかりでふらふらの身体を何とか起こす。そして、立ち上がり、よろけながら、まひるは窓を開けた。

 

 

冷たい風が真昼の頬を撫でるが、それさえ心地よい。

 

「…大丈夫、ちゃんと死ぬよ」

 

呟くわけでも、叫ぶわけでもなく、誰かに話しかけるように、真昼はそう言った。

 

 

まだ、音は聞こえない。

 




 真昼ちゃんには性癖を詰め込んだ
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