蒸気機関車で女の子が異世界を旅する話 作:ちびだいず@現在新作小説執筆中
休日はこっちを、平日は意趣返しの方を更新する感じでいきます。
そのカードを拾ったのは、運が悪かったとしか言いようがなかった。
大学からの帰り道に、花壇の縁の上に置いてあったのだけれども、何故か私の目を引いた。
「由利、どうしたのそれ?」
「んー、なんか目についちゃって」
「ふーん。トレーディングカードかしら? 男の子が好きそうなデザインよね」
「確かに」
絵柄は、背面がタロットカードを思わせるような柄だけれど、表面は見たことのない形をしたSLの絵柄が書かれている。
文字は見たことがないもので、少なくとも日本語ではなかった。
「それ、どうするの?」
「うーん、誰かが落としたって言っても所詮カードだしなぁ……。でも、落とし主が困っていたら困るし一応届けようかとは思っているわ」
「それがいいかもねー」
私は友達の朱莉と一緒に近くの守衛さんのところまで行く。
「すみませーん」
「どうされました?」
初老に入った容姿の守衛さんだ。
別に話したこともないし、よくは見かけるが初対面である。
「このカード、あそこの花壇のところに落ちていたんですけれど……」
「ああ、そうかい。どれ、見せてみなさい」
私がカードを差し出すと、おじさんは丁寧に受け取る。
そして、カードをしばらく見ると、話しかけてきた。
「ふむ、名前が書いてあるね。『
「え?!」
なんで私の名前が書かれているのだろうか?
心当たりはない。
私にはトレーディングカードを集める趣味はない。どちらかと言うと絵を描くのは趣味ではあるけれども、私の描く絵柄は少女漫画チックなものが殆どである。
「由利、なんで由利の名前が……?」
「うん……」
「ふーん、どうやらお嬢さんの名前みたいだね。ほい、返しておきますよ」
私は守衛さんからカードを受け取る。
確かによく見ると、私の名前が日本語で記載されていた。
「……なにこのホラー。そのカード絶対呪われてるよ!」
「う、うん……。神社に行った方が良さそうね」
「うんうん、私も付き合うから早めに行こう!」
この後、授業も無かったので私達は神社に向かう事にした。
そうそう、私の自己紹介がまだであった。
私は篠崎由利。どこにでもいる経済学部の大学2年生である。
絵も描くからみんなからは腐女子だと思われがちであるけれども、私はどちらかと言うと普通のオタクであるといったほうがいい。
主に好きなのは王道系の乙女ゲームであり、異世界ものよりは現代物が好きなほうである。
話題についていくために嗜んで入るけれどもね。
友達にオススメされて悪役令嬢転生ものとかも見て入るけれども、ヒロインが悪役だったりしてあまり好きでは無かったりする。
容姿はまあ、可愛い系だと思うしそう言うメイクや服装をしていることが多いけれどね。
美人だと何でも似合うんだねと皮肉を言われたこともある。胸のサイズはまあ、Cぐらいなので、可愛い服とか色々と楽しめてちょうどいいサイズなのは気に入っていたりする。大きいサイズに憧れはあるけれども、大きい友達は私に大きいことによる愚痴を延々と聞かせてくる友達がいるので、自分がそうなりたいとは思わなくなっていた。
サイズは14歳で決まるらしいしね。
さて、神社に到着したわけであるが早速神主さんに話を聞いてもらい、カードを預かってもらった。
もちろん、目の前でお祓いをしてもらう。
「別に何が憑いているわけでも無さそうですがね」
神主さんは苦笑しながらも引き受けてくれたのは、さすがとしか言いようが無かった。
カードには相変わらず私の名前が書かれたままである。
印字されているので消しようがない。文字の背後の色はまるで羊皮紙のような感じのデザインのため、修正液で消すわけにもいかなかった。
「ごめんねー、付き合って貰っちゃって」
「いいよいいよー。いつも由利には助けて貰っているしね」
朱莉ちゃんは親友だ。
大学に入ってからできた友達だけれども、気の置けない友人といった感じである。
しかし、この無気味なカードは一体何なのだろうか?
「それにしてもそのカード、何かのチケットみたいよね」
「あー……言われてみれば確かに映画のチケットみたいね」
と言っても材質はプラスティック製なのか硬いけれども。
どちらかと言うとSuicaの方が近い気がする。
「もしくは、この列車に乗るためのチケットだったりして」
「ははは、小説じゃあるまいし」
「だよねー」
そんな感じの話をしながら、私達は神社の帰り道にあった喫茶店でパフェを食べながら、そんな感じの話をしていたのだった。
雑談をしているうちに、カードのことなんかすっかりと忘れて帰り道を歩いていると、聞いたこともないようなメロディが聞こえてきた。まるで、電車の発車音のようなそれが聞こえた私は立ち止まり、周囲を見渡す。
「どうしたの? 由利ちゃん」
「……なんか変な音が聞こえて」
「……? 私には聞こえないけれど」
幻聴……にしては嫌にハッキリと聞こえる。
朱莉ちゃんには聞こえないと言うのは俄然不気味さが増す。
「幻聴……にしては私の耳にはハッキリ聞こえるわ」
「え? 大丈夫?」
「……大丈夫じゃなさそう」
チラッと音が聞こえてきた方向を見ると、鉄道の客車の一部がビルとビルの間に出現していた。
物理的にありえない現象だけれど、あった。
私が唖然として見ていると、流石にそれは朱莉ちゃんにも見えたらしい。
「……え、何あれ?」
「電車の客車の扉、に見えるけれど……」
すると、自動で扉が開き階段がカタカタと展開される。
まるで私たちに乗れと言わんばかりである。
客車の中は内装がハッキリと見ることができ、幻覚ではなさそうである。
何より、朱莉ちゃんにも見えていることが証拠だろう。
「え、何?」
『お待たせいたしました、お客様』
客車の中から執事が出てきた。白髪に白い髭の初老の男性である。体格はガッチリしている感じである。高貴な家に仕える執事と言った印象である。
しかも、言葉は聞いたこともない言葉であるが、意味が伝わってくる。
朱莉ちゃんも同様らしい。
「え、どなたですか?」
『私ですか。私はこの時空横断蒸気列車【シュマリット】の車掌を務めております『ウーヴェ・キールマン』と申します。以後、お見知り置きを』
「は、はぁ……」
わけがわからないけれども、丁寧な挨拶に私たちはお辞儀をする。
『この度は当列車のご利用、誠にありがとうございます。お迎えにあがりました、お客様』
「へ?!」
『乗車券をお持ちでございますでしょう?』
乗車券……言われて私はあの不気味なカードを取り出した。
「これ?」
『左様にございます。それが、時空横断蒸気列車【シュマリット】に乗るための乗車券にございます』
私は朱莉ちゃんと顔を見合わせる。
「いや、これは単に拾っただけで、私のではないんですけれど……」
『乗車券は必要なお客様、または、資質のあるお客様が取得するように生成されます』
「資質のある……?」
『はい。そして、私どもはそのお客様を案内するのが役目となっております』
いっている意味がわからない。
白昼夢でも見ているのだろうか?
『詳細な内容については案内人がご説明いたしますし、【役目】を果たされたお客様には相応の報酬の提供もいたしております』
次々とウーヴェさんの口から不穏なキーワードが飛び出してくる。
「ど、どうする……?」
「どうするも何もお断りでしょ。私は嫌だよ」
『ふむ、困りましたな』
私が拒絶すると、ウーヴェさんが髭を右手で撫でる。
『どちらにしても、その乗車券を持つ資格者は狙われる運命でございます。幸運にもお客様はまだ襲われた事が無いようでございますが、お客様は狙われていると言う事を警告させていただきましょう』
「どう言う事?」
『もちろん、お客様に害の及ばないように我々も尽力させていただきますが、万が一の場合もございます。それでは、必要がありましたらそのカードを天にかざしてください。お迎えにあがりましょう』
ウーヴェさんはそういうと、カードケースを私に差し出してきた。
『万が一の際はこちらをお使いください。貴女の身を召喚獣が守ってくれる事でしょう』
「は、はぁ……」
『では、またお会いいたしましょう』
ウーヴェさんはそう言うと、上品な礼をして列車内に戻っていった。階段が収納された後扉が閉まり、瞬きした瞬間に扉は消え去っていた。
私は手元に残ったカードケースを見つめる。
「朱莉、どうしようか……?」
「私に聞かれても……」
蓋を開けてみると、私の持っているSLと似たような材質のカードが50枚ほど入っていた。
武器や見たことのない生物の姿が描かれたカードである。絵柄の下部には数値が書き込まれており、有名なので言えば遊戯王なんかを思い起こさせる。
もちろん、文字は読めないけれども数字はアラビア数字に似たものなので、この部分だけはしっかりと読める。
「男の子がすきそうな感じね」
「確かに、かわいいと言うよりはかっこいいって感じね」
「これを使えって言われても、カードゲームでもするのかしら?」
「さあ? 召喚獣って言っていたし、召喚でもするんじゃないの?」
正直、使い方がわからないものを渡されてもどうしようもないし、そもそもそういう危ない目に合うなんて想像もつかなかった。もちろん、殺人鬼とかそういうのが出てきた場合は別であるが痴漢やそんなものに対して警察以外を召喚する意味がない。
私は仕方がないのでため息をついて鞄にカードケースをしまう。
「……なんか疲れちゃった」
「そうね。なんていうか事実は小説より奇なりと言うけれども、不思議なこともあるものね」
「朱莉ちゃん……楽しんでない?」
「え、だって、面白いじゃん!」
ニコニコ顔の朱莉ちゃんに私はため息をつく。
「最近異世界転生ものを追いかけている私としてはなかなかに面白い状況だと思っているわ」
「じゃあ代わる?」
「代われるの?」
多分無理だろう。
こういうアイテムの特徴は持ち主以外使えないことが鉄板の設定だからだ。
「……わからないわ」
あの不思議な体験からこのカードが本物であることは疑いようがないけれども、使い方すらわからないのだ。どうしようもないだろう。
ただ、私たちを狙う驚異と言うのはすでにすぐそばにまで来ていたのだった。
インスピレーション先は、メインがFF:Uですねー。
主人公は彼女だけではないですが、メイン狂言回しは由利ちゃんになる予定です。
異世界転生とは若干違うかな?