蒸気機関車で女の子が異世界を旅する話   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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15話

 私たちが降り立ったのは、【太陽の石】のある祠の前であった。

 まだギャレンさんは到着しておらず、その為か祠の内部には《白い双子》は居ないようであった。

 この太陽の石が納められている祠は、1フロアしかない簡単な構造で、中央に鍵のついた宝箱が設置されているだけである。

 

「ここが【太陽の石】が納めてある祠ね」

 

 近くの村で聞き込みをした結果なので間違いはないだろう。

 

「ギャレンはまだ到着していないが、良かったのか?」

「うん、どうせあの双子は【太陽の石】を狙ってくると思います。だから先に張り込んでおくことにしたんですよ」

「なるほどな。村の連中に聞いたところだと勇者はこちらに向かっているとの情報があるからな。あと2日もすれば到着するだろうから、丁度いいかもしれないな」

 

 ルーカスさんが納得したようにそう言うと、不意に不満の声が聞こえた。

 

『それやられると、僕たち困るんだけどなぁ』

『仕方がない、遊んであげるしかないね。どうしても私たちと遊びたいみたいだし』

 

 声が聞こえると同時に、私たちは戦闘の構えに入る。

 私はカードをかざしてカードリーダーを出現させる。

 ルーカスさんは【限定解除】をして元の装備と能力値に戻す。

 朱莉ちゃんは剣を抜いて構える。

 

「《白い双子》!」

『出たな! ユリの予想通りだったわけだ!』

 

 まあ、こんなものは少し考えれば自明である。

 

 ①、《白い双子》が5回も勇者を襲撃して勇者を殺せなかった結果、次にとった手が重要アイテムの収集である。

 ②、重要アイテムは勇者が何らかの行動を起こすことによって入手が可能である。

 ③、重要アイテムを入手した際に私たちと戦わなかった。

 

 この3点から推測すれば、《白い双子》が次に狙うのは【太陽の石】であり、ギャレンさんが【太陽の石】を入手する直前でかすめ取ろうとするというのを予測するのは推理ですらなかった。

 

「予想っていうか、少し考えればわかることなですけれどね。それよりも──」

『ああ、《白い双子》にはここでご退場願おうか!』

 

 ルーカスさんは纏った炎をなびかせながら、《白い双子》に切りかかる。

 

『《赤い勇者》邪魔!』

『《赤い勇者》いつも邪魔! お邪魔キャラは【楔】と一緒に始末しなきゃ』

 

《白い双子》がそう言うと彼らを中心に地面に巨大な、黒い瘴気を放つ魔法陣が出現する。

 ベヒーモスとヤマタノオロチ、巨大イノシシだった。

 

「3体?!」

「でも、やるしかないわ!」

 

 と、朱莉ちゃんが何かに気づいた。

 

「由利ちゃん、このカードが出っ張ってたんだけど……」

 

 朱莉ちゃんはカードを取り出すと、その絵柄を確認した。

 

「アレクサンダー……? これって思いっきりFFじゃない!」

 

 絵柄を見ると、確かにそうであった。

 そもそも、召喚獣を扱うファンタジーゲームの金字塔だけどこれは……。

 

「お城の召喚獣ね……」

 

 確かに、丁度いいかもしれなかった。

 私は朱莉ちゃんからカードを受け取ると、カードリーダーに挿入する。

 

《Summonrize》

「アレクサンダー、力を貸して!」

Summon(召喚)──Großer(偉大なる) Kaiser(大帝), Großer(偉大なる) Eroberer(征服王)──Advent(降臨せよ) Alexander(アレキサンダー)

 

 私の召喚に応じたアレキサンダーが……巨大な城が顕現する。

 召喚音声に史実のアレキサンダー大王が混じっていた気がするのは気のせいではないだろう。

 

《ふははははは! 勇者よ、よくぞ俺を召喚した!》

 

 尊大な物言いであるが、非常に頼りになりそうであった。

 私と朱莉ちゃんはアレキサンダーの城壁の上に乗っている形になる。

 

「アレキサンダー、あの魔獣たちを倒して!」

《おうともよ! では、片づけるとしようか!》

 

 アレキサンダーはそう言うと、城壁から変形する。

 それはまるでロボットのようであった。

 二足歩行の西洋の城型ロボットに変形すると、背中から赤いマントが出現する。

 

《行くぞ! 魔獣ども!》

 

 ズシンズシンと大地がうねり、魔獣三体を相手に戦闘を開始した。

 ヤマタノオロチが首を伸ばして噛みついてくる。

 

《邪魔な首だなヘビ公。ランサーを出せ》

 

 私の手元にカードデッキからカードが飛び出し、手札に加わる。

 カードをカードリーダーに差し込んで、召喚する。

 

「ランサートルネード!」

《Angriffrize》

《Lancer Tornado!》

 

 目の前に巨大な激突槍が出現する。

 アレキサンダーはそれを手にすると、手元で回転させる。

 

《おおおおぉぉぉおおぉぉ!》

 

 ヤマタノオロチの首を切り刻み、一本の頭を切り落とした。

 と、突進してきた巨大イノシシをアレキサンダーは受け止める。

 

《元気な猪だな。食ってもまずそうなのが残念だ》

 

 私たちは揺れるアレキサンダーの上で悲鳴を上げていた。

 ジェットコースターよりも怖いかもしれない。

 不思議と落ちる感じはしないけれども、やっぱり高くて怖いし、動いているのだ。

 

「「きゃあああああああああ!!」」

《しっかり捕まっていたまえ! はああああああああ!!》

 

 アレキサンダーは巨大イノシシの首根っこをつかむと、ぐるんと回転させる。

 そのままランスで腹の部分を突き刺す。

 

《む、しぶといやつめ。まだ生きておるか》

 

 ひっくり返った巨大イノシシを蹴ると、アレキサンダーはベヒーモスの方に駆け出す。

 

《先ほどから魔法が鬱陶しいな。さっさとつぶれてもらおうか》

「GYAOOOOOOOO!!」

 

 ベヒーモスは口から炎を噴出させる。

 アレキサンダーはそれをランスを回転させながら払い、一気に間合いを詰めた。

 

《邪魔だヘビ公》

 

 横から割り込んできたヤマタノオロチを右手で殴り飛ばす。

 そして、ランスでベヒーモスに切り込む。

 

《ぜああああああああ!!》

「GYAOOOOOOOOOOOOO!!」

 

 ベヒーモスはアレクサンダーによってずたずたに切り刻まれる。

 と、ズガンとアレクサンダーが大きく揺れた。

 

《ぬお!》

 

 見ると、起き上がった巨大イノシシが突進してきたのだった。

 

《やるではないか》

 

 少しだけのけぞったアレキサンダーは、体勢を立て直すとイノシシに攻撃を加える。

 と、他の蛇の頭がアレキサンダーにかみついた。

 

《ぬぅ!》

「由利ちゃん! このカードを使って!」

 

 朱莉ちゃんがカードデッキからカードをドローしたものを渡してくれた。

 うーん、朱莉ちゃんの引きは明らかに変だろう。

 まるでカードゲームの主人公の引きのようだ。

 朱莉ちゃん式ディスティニードローかな? 

 そんなことはいい。

 

「一斉掃射?」

 

 絵柄は、アレキサンダーの体から砲台が出現して発射している姿であった。

 私はすぐにカードを読み取らせると、召喚獣カードをスラッシュする。

 

《Angriffrize》

《Großer Sweep!》

《Erstes Blatt! Zweites Stück!! Drittes Stück!!!── Upgrade durchführen》

 

 カードリーダーから音声がなると同時に、《ふん!》とアレキサンダーは力を入れて吹き飛ばすと、体中から砲身を出現させる。

 

《よい判断だ、勇者よ! いくぞ! 一斉掃射!》

 

 ドドドンと轟音が鳴り響き、体中の砲身から砲弾が射出される。

 それは巨大イノシシを吹き飛ばし、ヤマタノオロチの首を3つ吹き飛ばしてしまうほどの威力であった。

 

《うむうむ、なかなかに良い砲撃であった》

 

 満足そうなアレキサンダー。

 一方私たちはアレキサンダーに乗っているので恐怖しかない。

 巨大ロボットの肩に乗るとか意味わからない。

 絶対にコクピットがあった方がいいと改めて思うのであった。

 

《では、残りを片づけるとしよう》

 

 手放した激突槍を再び手に取り、既に砲撃で死に体のヤマタノオロチにとどめを刺す。

 ちぎれそうだった首をすべて跳ね飛ばしたあと、ベヒーモスにもとどめを刺した。

 

 ◇

 

 アレキサンダーが暴れている最中、ルーカスは《白い双子》と戦闘をしていた。

 身軽な《白い双子》はルーカスの斬撃を容易く回避してしまう。

 ルーカスの本気の剣はあまりにも早いので回避することは難しいが、《白い闇》や《白い双子》はそれを容易く回避してしまうのだ。

 

(これでも相当鍛えてきたんだがな……。こいつらは俺以上ってことかよ!)

 

 既に千年近く戦っており、それでも容易く回避されるというのはルーカスにとっても面白くはなかった。

 空中を思い切り蹴る。

 高速で蹴るため、空中に足場が一瞬できる。それを蹴って移動するのでルーカスは空中戦を可能としていた。

 

『しつこい! 《赤い勇者》嫌い!』

『死んじゃえ!』

 

《白い双子》は禍々しい短剣と銃を使って攻撃してくる。

 女の方が銃撃をしてくるが、ルーカスはジグザグに動くことによって狙いを正確につけさせなかった。

 

(この銃弾、禍々しい魔力でできてるな……。魔力量と言い、こいつら魔王か?)

 

 ルーカスは《白い双子》と戦ううちにそう感じるようになっていた。

 

(《白い闇》は人間……人間の枠にはまった悪そのものって感じだが、《白い双子》は魔王そのものだな)

 

 ルーカスは《白い双子》を観察しながらそう考察をしていた。

 敵の動きは人間離れしているのだ。

《白い闇》は人間の動きであるし、ルーカスも同等のことはできるが、《白い双子》の動きは人間では再現不可能だと思った。

 

(だからこそ、隙ができる。人間ではなく魔王だと思えば、見た目に騙されなければ……!)

 

 ルーカスは《白い闇》と戦うイメージを捨てて、かつで自分の世界で倒した魔王を思い出して動きを変化させた。

 

『いい加減死ねよ!』

『死んじゃえ死んじゃえ!』

 

 無邪気を装う魔王を、ルーカスが追い詰める。

 

「そこだ!!」

 

 ルーカスの剣が煌めく。

 クリティカルではないが、手ごたえを感じた。

 男側の《白い双子》の左腕を切り飛ばしていた。

 

『ぎゃあああああああああああああああ!!!』

『私の左腕がああああああああああああ!!!』

 

 腕からは黒い靄が湧き出ている。

《白い闇》を切ったときは赤い血が出ていたのに対して、この差はルーカスの考察を確信へと至らしめた。

 

(やはり! あの体は魔力……瘴気の塊か! と言うことは、本体は……!)

 

 ルーカスは女側を睨む。

 

(あっちが本体か!)

 

《白い双子》は慌てた様子をしているが、瞳はこちらを正確にとらえている。

 あの慌てた様子は演技であることはルーカスも理解していた。

 

「そらよ!」

 

 ルーカスが切りかかると、案の定回避される。

 

『くすくす』

『くすくすくすくす』

 

《白い双子》は笑い出した。

 

『今回はあきらめてあげる』

『私の腕を切り飛ばしたことは褒めてあげる』

 

 ルーカスは《白い双子》を睨む。

 

「ここで蹴りをつけてやってもいいんだぜ? 《白い双子》……いや、魔王デュミニ!」

 

 ルーカスの言葉に、《白い双子》は驚く。

 

『もうそこまでたどり着いちゃったんだ』

『さすがは《赤い勇者》かな。侮れないね、悍ましいね。私たちを倒すためだけに人間を辞めた化け物だね』

 

 ルーカスは舌打ちをする。

 

「やはり、女側の方が饒舌なのも、そっちが本体だったからなんだな」

『くすくす』

『くすくすくすくす』

 

《白い双子》の顔は悍ましい笑顔で彩られていた。

 だが、ルーカスの中では納得していた。

《白い双子》の召喚する魔獣はすべて魔王デュミニが操っていた魔獣そのものだったからだ。

 かつて【シュマリッド】の同志が倒し損ねて世界を滅ぼした魔王の一人が魔王デュミニであった。

 

『それじゃあね、《赤い勇者》』

『せいぜい【楔】を大切にね。くすくすくすくす』

「待ちやがれ!」

 

 ルーカスは《白い双子》にとびかかるが、《白い双子》が虚空に消えるのが一歩早かった。

 

「あいつら……ほかの世界も滅ぼすつもりかよ……!」

 

 ルーカスの顔は怒りで歪む。

 ルーカスにとって世界が魔王によって滅ぼされることは到底許容できることではなかった。

 




遅くなり申し訳ないです!

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