蒸気機関車で女の子が異世界を旅する話   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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5話

 ピンポンパンポン♪ 

 そんな音がして、車内アナウンスが流れる。

 

《間も無く、ツヴァイフンダートドライツヴァイフィーアアインス──現地呼称【ディグラット】。ツヴァイフンダートドライツヴァイフィーアアインス──現地呼称【ディグラット】。ユリ様、アカリ様、ルーカス様、ご準備をお願いいたします》

 

 ドイツ語で200-3241番の事である。

 何でドイツ語なのかはよくわからないけれども、数多にある異世界を固有名で管理するよりは番号で管理したほうがいいのは確かである。

 

「準備……ねぇ。私達は何をすればいいのかしら?」

「わかったら苦労しないって。こう言う時はルーカスさんに聞けばいいんじゃないの?」

「確かにそうね」

 

 私の提案に、朱莉ちゃんは同意する。

 私と朱莉ちゃんが談話室に移動すると、ルーカスさんが待機していた。

 

「ルーカスさん」

『ああ、来ると思ってたよ。ユリ、アカリ』

 

 うーん、さすがは勇者って感じである。

 

「異世界に行く上での準備って何が必要なの?」

 

 朱莉の質問に、ルーカスさんはあっさりと答える。

 

『そうだな……基本は現地調達になるぞ。俺たちは基本的にこのチケットをかざせば、【シュマリット】に帰還できるからな』

「あ、そうなんですか」

『もちろん、そう何度も容易く呼び出せるわけじゃない。呼び出せるのは街中の隙間がある場所だったり、人気のない場所だったりする。それ以外だと基本的に呼び出しには応じてくれないからな』

「それでも、移動拠点があるだけチートじゃないかしら?」

『ちーと……不正行為ね。異世界転生者にとってはそうかもしれないね』

 

 でも、私はこの召喚カードがあるけれども、朱莉には武器が何もない気がする。まあ、最強の護衛のルーカスさんがいるので十分かもしれないけれど。

 

『さて、今回行く世界200-3241……現地呼称【ディグラット】は難度としてはD−(ディーマイナス)の当たる世界だ。こいつは単純な構図で、魔王の軍勢が世界を滅ぼそうとしていると言うパターンの世界だな』

「そうなんですか」

『僕たちの役割は、既に頭角を現し始めた勇者パーティの支援だな。余計な奴ら……例えば《白い闇》共を排除して勇者が魔王を倒す事に集中できるようにするのが俺らの仕事だ』

「その、【破滅の案内人】ってどこにもいるんです?」

『いや、それはわからない。現地工作員を作っていたりもするからね。ここは現地調査が必要な部分だ』

「は、はぁ……」

 

 言われてもイマイチぱっとしない。

 それに気付いてか、ルーカスさんは補足してくれた。

 

『スパイって聞いたことあるかな?』

「映画とかの中でならあるかな」

「うん、007とかだったら有名だし聞いたことはあるよ」

『……なるほど。俺の世界じゃ自覚なく他国のスパイをやっている奴も居たんだけどね。まあそれはいい。要するに、世界を破壊する手助けをする奴も居ると言うことだ。過去の事例なら、邪神信仰だったりが該当するかな』

「うげっ、つまりは【破滅の案内人】って邪神そのものなの?!」

『世界の人にとってはそうだね。僕たちも彼らからしたら似たようなものさ』

 

 ルーカスさんの強さを思えばそうかもしれないけれどね。

 私と朱莉ちゃんは誰がどうみても一般人である。

 

『僕たちがやる事は、勇者の支援と異常な危険の排除だ。もちろん、強さの見極めは俺がやる。二人は今回は俺の支援をしてくれれば大丈夫だ』

「わかったわ」

「わかりました」

 

 ただ、仕事の内容についてはわかったけれども、現場の事については現地名称しか分かっていなかった。

 

「で、ルーカスさん。そのディグラットってどう言う世界なんですか?」

『どう言う世界……か。そうだな、ユリ達の基準で言えば、【剣と魔法のファンタジー世界】と言えばいいかな。基本的に多くの世界は魔法文明を選択することが多い。神と人を分ち、科学文明に傾倒した世界の方が少ないんだよ』

「つまり、次に向かう世界っていうのは私たちから見たらファンタジー世界って事ね」

『ああ、200系列の3000番台だから、俺の世界と同じく王政のあまり魔法文明の発展していない世界だというのは予測がつく』

 

 どうやら番号にはそう言う意味があるようであった。

 

「ちなみに私達の世界は?」

『950-6003だな。しも三桁は中央世界から離れた距離によってつけられるんだ』

「って事は、私達の世界も並行世界の一つって事?」

『だが、10番台までは本当に微差しかないぞ? 俺の感覚から言えば、完全に異なる歴史を辿っていくのは100番台以降だからな』

 

 実際、登場人物が実在するか物語上の人物か、ある製品が完成した時代の誤差だとかそう言うので分岐するらしい。6200になると、私達の世界でも魔法文明になる場合もあるそうである。

 そういうのは知らなくてよかった。

 ちなみに、復原力が働くので大体100以内だとすぐにくっついて一つになるらしい。

 

「うーん……もはやちんぷんかんぷんね」

「なんか、神様の世界みたい」

 

 私は正直な感想を漏らした。

 これ以上追求するとますますわけがわからないことになりそうだから、話題を変えることにした。

 

「で、ディグラットに行くのは良いとしても、私達の格好は現地の人から見ても明らかに異なるものだと思うんだけれど、その辺りはどうなるんですか?」

『ああ、それなら安心してくれ。世界が与える【役割】で服装が自動で変化するからな。もちろん、【シュマリット】に戻れば元の服装になるから安心してくれ』

「……ディケイドかしら?」

「ディケイド?」

「いや、なんでもないわ」

「?」

 

 ディケイドってなんだっけ? 

 前に朱莉ちゃんが話題にしたことがあった気がするけれど、覚えていない。

 

「と、とりあえず、服装とかの心配はしなくって良いってことよね?」

 

 朱莉ちゃんが誤魔化すようにそう言うと、ルーカスさんはうなづいた。

 

『ああ、そう言う認識で問題無い』

 

 と言う事は、私達の世界でのルーカスさんの役割が気になるところである。

 私達を【シュマリット】に案内した時の鎧のままなので、コスプレしてる人とかだろうか? 

 

『ん、ああ、君達の世界にいた時は限定的だったからね、俺はこのフィリップが作ってくれた導具で、俺の世界の法則を持ち込んで戦ったんだ』

 

 ルーカスさんはそう言うと、掌サイズのスイッチを見せてくれた。

 

『フィリップは魔法科学文明の発達した世界の出身だからね。こう言う便利な道具はフィリップが作ってくれるのさ』

「そうなんですね」

 

 これなら頼めば朱莉ちゃんの好きな仮面ライダーにでも変身できるベルトも作ってもらえそうではある。

 

『まあ、フィリップの世界は【改変の意思】によって世界が作り替えられたんだがな。フィリップはその生き残りだ』

 

 なんか、この列車に乗っている人間はすべからく悲惨な背景を持っていないとダメなのでは無いだろうか? 

 なんて事を思ったけれど、橘花さんはそんな感じではなかった。

 

「私達が降り立つ場所はどこになるのかしら?」

『勇者の宿泊している街になる。だいたい【シュマリット】が泊まる場所は資格者か勇者のそばだからな』

「なら、私たちは勇者を見つけて接触するのが最初の行動になるんですね?」

『いや、それは場合によるな。単独ならば勇者のパーティに加わるのもアリだが、今回の場合はこっちが3人だ。裏で支援する形でも問題無いだろう』

 

 ルーカスさんがそう判断するならば、それに従った方がいいだろう。

 私たちはど素人なのだ。

 

「わかりました」

「わかったわ」

 

 私たちはうなづいた。

 

《間も無く200-3241、200-3241。お出口は向かって左側になります。間も無く200-3241に到着いたします。お客様はご準備をお願い致します》

 

 ウーヴェさんの声でアナウンスが入る。

 それにしても古びたラジオのような音声である。

 

『それじゃあ行こうか』

 

 ルーカスさんの言葉に私達はうなづいた。

 初めての異世界にワクワクしつつ、私達は談話室から移動する。

 一体どんな異世界だろうか? 

 とんでもないことに巻き込まれて不安でいっぱいだったけれど、今は海外旅行をしに飛行機のターミナルに降り立つような気分で、私は乗車口に移動したのだった。




色々悩んで、ようやくかけました!

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