蒸気機関車で女の子が異世界を旅する話   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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6話

 プシューっと音を立てて扉が開く。

 扉が開いた先は、見知らぬ世界だった……いや、ヨーロッパの街並みなんだけれど、洋服が古いというか数世紀前のデザインの服でだけれどもちゃんとした服装である。ただ、私の知っているヨーロッパの感じではなかった。

 

「おおおおお! 由利ちゃん!」

「ん、朱莉ちゃん、どうした……?!」

 

 朱莉ちゃんを見ると、服装が変わっていた。

 大元のデザインは元の服装とあまり変わらないけれども、生地が違ったり細かいところが簡略化されている感じがする。

 私の服装もそうだ。服装が現地化されている感じである。

 

「おおおおおお!」

 

 私も朱莉ちゃんと同様に驚きの声を上げた。

 

「おい、何を驚いているんだ? ってそうか。異世界に来るのは初めてだもんな」

 

 ルーカスさんは頭をかきながらそう言った。

 って、ルーカスさんの声が普通に聞こえる。

 

「ルーカスさんが普通に話せてるぅぅ!」

「おい、どういう意味だおい。今まで普通に会話してただろ」

「いや、元の言葉……ルーカスさんの世界の言葉がダブって聞こえてたんですけど、今は普通に聞こえるなと」

「……ああ、なるほど」

 

 私達の言いたい意味が伝わったらしい。

 

「ま、そういうものだ。【シュマリット】で異世界を渡ると、その世界から役割を与えられると言っただろう?」

 

 つまり、役割を果たせるように現地言も話せるようになるということらしい。なんかすごく便利だ。異世界感は減るけれども! 

 

「さて、まずは俺たちの【役割】を確認しようか」

「勇者の支援じゃなくて?」

「そいつは俺たちの使命だ。役割ってのはこの世界での役目とかそう言うものだ」

 

 ルーカスさんはそう言うと、再びフィリップさんが作ったらしきアイテムを取り出した。

 

「【ステータス】!」

 

 ルーカスさんはそう唱えると、フィリップさんのアイテムの隙間部分から青い粒子が漏れ出して漂う。

 ルーカスさんは虚空を見るように目を動かすと、こう断言した。

 

「ふむ、俺の役目は城の騎士らしい。鎧がそれっぽくなっているのは、【役割】の影響だな」

「は、はぁ……」

 

 私と朱莉ちゃんが根を白黒させていると、どうやらその原因に思い至ったらしい。

 

「ああ、そう言えばユリ達は魔法のない世界だったな。……そうだな、カードを見せてくれないか?」

 

 私が朱莉ちゃんに目配せをすると、朱莉ちゃんは懐からカードデッキを取り出す。

 采配が上手い朱莉ちゃんに管理を任せているのだ。

 朱莉ちゃんからデッキを受け取ったルーカスさんは、パラパラとカードをめくると、二枚の空白のカードを取り出した。

 

「このカードを手にして「自分の情報を見たい」と念じてみるといい。おそらくそれでステータスを見ることができるはずだ」

「は、はぁ……」

 

 私達はカードを受け取ると言われた通りに念じてみる。

 すると、カードの絵柄がモザイクで覆われて絵柄が変化した。

 絵柄には私の写真と簡単なステータスが数値として表示されている。

 職業は【召喚士】と書かれていた。

 

「え、すごい、何これ!」

「由利ちゃんは何の職業だった? 私は【商人の娘】って書かれているんだけど……」

「私は【召喚士】って書いてあるわ」

 

 お互いにステータスカードを見せ合う。

 ステータスにはそれぞれの特徴が出ており、体力や筋力、知力は私の方が劣っているけれども、魔力や素早さは私の方が高いと表示されている。

 そういえば、大学のテストでも朱莉ちゃんはそこそこいい成績だったように思う。

 

「【商人の娘】に【召喚士】ね……。いや、商人の娘って」

 

 ルーカスさんは難しい顔をする。

 

「いや、とりあえず良いだろう。まずは情報収集だな。情勢や何が原因となって世界が滅ぼうとしているのかを確認しよう」

 

 ルーカスさんの提案に、私達は同意した。

 

 

 ──世界は危機に陥っていた。

 突如現れた魔物達と、それを統べる王──龍王が現れたからだ。

 魔物の軍勢は強大で、多くの街や村が滅ぼされた。まだ、この大陸アーレフィランド大陸以上に勢力を拡大しているわけではなかったが、ラートドム王国はまさに龍王によって存亡の危機に立たされていたのだ。

 王女は龍王に誘拐され、世界中に暗雲が立ち込めていた。

 今、予言に従い勇者が選抜され旅立ちのときを迎えようとしていた。

 

 

「ドラクエかよ!」

 

 朱莉ちゃんが突っ込む。

 流石に私も、聞き込みをして概要を知った時には思わず呆れてしまった。ドラクエ1はスマホアプリで暇つぶしにやっていたからね。

 いやまあ、王道的勇者伝説なんだけれどね? 

 空は確かにいつも分厚くて暗い雲が覆っているし、町中の人々には生気が無い。

 

「ドラクエ……?」

「あー……私達の世界で一番有名なゲームです」

「俺はゲームといえばチェスとかポーカーみたいなカードゲームぐらいしかわからんのだが……まあ良い」

 

 私達は現在はこの街……アーリア城城下町の宿屋で情報を集めた結果を報告しあっていた。

 私と朱莉ちゃんは道端の人に聞き込みをして、ルーカスさんは酒場で情報収集をするみたいな感じである。

 

「勇者の名前はギャレン。この世界の伝説に伝わる勇者の末裔らしい」

「ロトの末裔ね」

「朱莉ちゃん、そこまで露骨な名前じゃ無いでしょ。私も思ったけれどさ」

「ああ、ダイヤと言う勇者の末裔だそうだ」

「ブレイドじゃ無いんだ……。ウゾダドンドコドーン!」

「……たまにアカリが何が言いたいのかわからない時があるな」

 

 呆れた様子のルーカスさん。

 朱莉ちゃんって仮面ライダーオタクだよね。弟くんに影響されて見たにしては持っているネタが多い気がする。

 

「で、真面目な話に戻すけれど、私達は何をすればいいわけ?」

「勇者が強くなるまで、強敵……《白い闇》から彼を守ることだな」

「あー、序盤で狙われたらやばいもんね」

「確かに、レベルが低い段階でボス級が出てきたらすぐにゲームオーバーだもんね」

 

 明らかに《白い闇》は……【破滅の案内人】の勢力は強い。

 私達でもルーカスさんがいなければすぐに殺されてしまうだろう。

 だからこそ、ルーカスさんが同伴しているわけだけれども。

 

「ま、その前にユリやアカリの戦闘訓練でもした方がいいかもしれないな。幸い、勇者はまだこの街の周辺で冒険者ギルドの依頼をこなしている最中だし、時間はあるだろう」

「ええー……」

「最低限敵の動きは見切れるようになった方がいい。片手剣を調達しておいたから、軽く周辺の魔物を討伐しに行くとしようか」

 

 有無を言わさないルーカスさんの圧力に、私達は同意せざるを得なかった。

 こうして、私達は剣の扱い方も知らないのに魔物討伐に連れて行かれることになったのだった。

 

 まあ、流石に剣道の振り方しか知らない私達を見かねて、初日は剣の振り方から教えてもらうことになったんだけれどね。

 ルーカスさんは意外にもスパルタで、教え方が上手いけれど厳しかった。1日で手は豆だらけになってしまうし、筋肉痛で朱莉ちゃんと一緒につぶれてしまった。

 現代っ子だから仕方が無いんだけれどね。

 

「ううー……手が痛ーい」

 

 豆が潰れてかなり痛む。

 

「なんか回復魔法みたいなの無いのかなぁ?」

 

 朱莉ちゃんはベッドの上にカードを広げて確認している。

 ちなみに、軟膏が売ってあったのでそれを使って回復を試みて入るけれども、痛みがすぐに引いたりはしない感じであった。

 と、朱莉ちゃんが一枚のカードを拾い上げた。

 

「ねぇ、由利ちゃん。この《ヒール》ってカード、使えないかしら?」

 

 私は朱莉ちゃんからカードを受け取ると、絵柄を確認する。

 と、不意に腕にカードリーダーが装着された。

 使用可能ということなのだろうか? 

 

「それじゃ、試してみるね。《ヒール》!」

 

 私が宣言してカードを読み込ませる。

 カードリーダーにカードを差し込み、カバーをスライドさせると、例の音声が鳴る。

 

《Magieraize》

《Anfänger Recovery-Magie──Ferse》

 

 すると、私の指先に淡い緑色の光が集まるので、試しに自分の掌に使ってみると、私の中から何かが少し減った感覚とともに両手の豆がみるみる修復されていく。

 

「おおおおおお! ビンゴだよ!」

「すごい! 痛みがスッと引いていく……!」

 

 触った感じだと普通に豆が回復した感じと言ったら良いだろうか? 

 少しだけ手の皮が厚くなった感じである。

 カードリーダーからカードを取り出しても絵柄は消えていないので、再使用は可能そうであった。

 

「それじゃ、朱莉ちゃんの手も治すね」

 

 私は再びカードを差し込み、カバーを閉める。

 

《Magieraize》

《Anfänger Recovery-Magie──Ferse》

 

 私が指先を朱莉ちゃんの掌に触れさせると、淡い光が朱莉ちゃんの手を覆い、潰れた豆を回復させる。と同時に、私の中からスッと力が抜ける。

 

「おおおお! 痛くなくなったわ!」

 

 私はカードを取り出す。

 今の私だと、何となくだけれど後4回ぐらいは使えそうな感じはする。

 恐らくだけれど、このカードは私の中にある力……MPみたいなものを使っているように感じる。

 私がステータスカードに意識を集中すると、魔力量の項目が少し減っているのがわかった。

 

「由利ちゃん、どうしたの?」

「うーん、恐らくこの《ヒール》のカードを使うと私の魔力? みたいなものを消費しているっぽい感じがするの」

「治癒魔法だもんね。ファンタジー世界みたいだし、そういうのもあるんじゃ無いの?」

 

 と、朱莉ちゃんが何かを閃いたような顔をする。

 

「と言う事は、私も魔法が使えちゃったりして!」

「それはあり得るかも! 私の場合はカードを使えば良いけれども、朱莉ちゃんは道具なんて持ってないもんね」

「うん! そうとなったら、明日は魔法を覚える方法を探すわよ!」

 

 朱莉ちゃんが元気に拳を振り上げるが、途端に痛そうな顔をする。

 

「いたたたた……筋肉痛は治ってないのね……」

 

 そのまま流れるようにベッドに倒れ込む朱莉ちゃん。

 私も筋肉痛が酷いので、今日はもう寝ることにした。

 灯は電気ではなくランタンなので、フッと火を消すと部屋が暗くなる。

 外は暗雲が立ち込めているのか光は見えない。

 一つの世界を『救う』のにどれぐらいの期間がかかるのだろうか? 

 先行きは見えないし、そもそもどう言う事が救う事なのかも依然とはっきりしていない。

 流石に1年以上も付き合うつもりは無い。

 もうちょっとルーカスさんから話を聞いておくんだったなぁなんて思いながら、私は微睡に身を委ねたのだった。


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