蒸気機関車で女の子が異世界を旅する話   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

7 / 17
あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします


7話

 翌日、私たちは魔法を習得するため、ルーカスさんに相談することにした。

 

「おはよう、ユリ、アカリ」

「おはようございます、ルーカスさん」

「ルーカスさん、相談したいことがあるんだけど、いいかしら?」

 

 朱莉ちゃんが聞くと、ルーカスさんが朝食を口に運ぶのをやめてこちらに向き直る。

 

「ああ、何かな?」

 

 朱莉ちゃんはすぐさま本題を切り出した。

 

「私、魔法を覚えたいの」

 

 ルーカスさんは朱莉ちゃんのお願いに、少し考えを巡らせてから理由を聞いてきた。

 

「それは構わないが……理由を聞いても良いか?」

「ほら、私や由利ちゃんって基本的に前衛で戦わないじゃない? 由利ちゃんは召喚術があるからいいけれど、私は何もできないじゃない?」

「うーん、いや、アカリは結構前衛向きだと思うんだが……」

 

 朱莉ちゃんが前衛向きだったというのは意外だった。

 確かに私よりも運動神経がよかったのは、昨日訓練して初めて知ったけれども。

 

「それでも、ルーカスさんには及ばないじゃない。それに、今日は筋肉痛がひどいし、筋力つけるならばたんぱく質を取ってしっかり筋肉を休めて超回復させるのが良いしね!」

「……そうなのか?」

 

 ルーカスさんが私を見る。

 朱莉ちゃんは漫画で得た雑学に詳しいけれど、普段から服装とかに気を使っているのかオタクな感じはしない。

 知っている人じゃないと気付かないようなネタをつぶやいたりすることはあるけれどもね。

 

「まあ、テレビとかで聞いたことありますけどね」

 

 実際私はあんまりテレビは見ないのでわからないけれどもね。

 携帯もアイフォンだし。ガールズトークでも最近はドラマの話題ならアマプラやフールーとかでやってるドラマの話題が多いし。

 

「それならまあ、良いだろう。しかし、魔法ねぇ……」

 

 ルーカスさんはそういうと、腕を組んで考える。少し考えると、どうやら何か心当たりがあったのか、閃いた顔をした。

 

「この世界の魔法を学べそうな店なら見かけたな。そこに行ってみようか」

 

 私達は顔を見合わせると、うなづきあった。

 

「うん!」

「案内お願いしますね!」

 

 私たちはルーカスさんに連れられて、街中を散策する。

 中世ヨーロッパの街並みだけれども、建物の数はそれほど多い印象ではない。

 それでも、城下町というだけあって賑わいはそれなりにある感じである。

 

 私たちが連れてこられたのは、看板に魔法陣の描かれたわかりやすい店であった。

 店先には水晶が置かれていたり、非常にそれっぽい店である。

 

「うーん、なんて言うか、昔懐かしのゲームの世界って感じね。レトロゲーって印象を受けるわ」

「そうなんだ。まあ、たしかに他の店もわかりやすい感じだもんね」

 

 私たちの会話にはやはりついてこれないルーカスさんはスルーすることにしたようだった。

 

「それじゃあ行くぞ」

「はい」

「はーい」

 

 ルーカスさんが先頭で扉を開けると、カランカランと鐘が鳴る。

 特に暗い感じではないが、魔法使いの格好をしたおばあさんが椅子に座って黒猫を撫でていた。

 

「……いらっしゃい」

 

 どうやら店員さんのようである。

 

「この子達が使える魔法を見繕って欲しいんだが、頼めるか?」

「……わかりました。では、こちらの水晶で鑑定いたしますので、こちらへどうぞ」

 

 老婆の店員さんはそう言うと、ゴトリと水晶を取り出した。

 

「……では、この水晶に手をかざしてください」

「それじゃ、私からね」

 

 朱莉ちゃんがそう言って手をかざすと、水晶がほわんと輝く。

 

「……ふむ、そのお嬢さんは光魔法と水魔法の適性があるようですな」

「光魔法と水魔法……?」

「ほう……アカリはなかなか面白い魔法の適性があるんだな」

 

 ルーカスさんはそう言うと、ニヤリと笑う。

 

「どういう事です?」

「光属性は多くの場合勇者と呼ばれる存在が扱えることが多い魔法だな。アカリは勇者の素質があるかもしれないぞ」

「うーん、それっていい事なのかしら? とりあえず、次は由利ちゃんね」

「あ、うん」

 

 私は朱莉ちゃんと入れ替わりで手をかざすと、水晶が再び光る。

 さっきの朱莉ちゃんとは違う光りかたをした。

 

「……ほう、そちらのお嬢さんは無属性……どんな属性の魔法をも扱えるようですな。……これまた珍しい」

「ユリは召喚術師だからね」

 

 どちらかと言うと、カードのおかげな気がしないでもない。

 

「それで、魔法を覚えるにはどうしたら良いのかしら? 魔導書でも読めば良いのかしら?」

「……レベルを上げれば戦闘用の魔法は習得できますな。……生活魔法は戦闘用魔法を習得したのちに魔導書で覚える必要がありますな」

「レベルって……」

 

 レベルってRPGとかそう言うので使われる用語だよね?! 

 ふと、私がステータスカードを確認すると、確かにステータス欄にはレベルの記載があった。

 

「本当に異世界なのね」

「いや、ゲームじゃないんだから……」

「俺の世界もレベルの概念はあったぞ」

 

 私と朱莉ちゃんはルーカスさんを見た。

 まあ、確かにルーカスさんはRPGの世界出身なイメージはある。

 

「ま、まあ良いわ。と言うことは、レベルを上げれば魔法を覚えられるのね」

「……ええ。もちろん、覚えるには役職にふさわしいものを習得するようになっております」

「変えるにはどうしたら良いのかしら?」

「……はて、神殿で試練を受けることにより変更ができますが……常識では?」

「そう、わかったわ」

 

 朱莉ちゃんはそう言うと、財布からこの世界のお金に変換されたお金……銅貨数枚を机に置いた。

 

「ありがとうね、またくると思うわ。行きましょ」

 

 私達は朱莉ちゃんに連れられて、魔法店を後にした。

 

「どうしたのよ、朱莉ちゃん!」

「……いや、だって、あの会話って実質私たちがこの世界の常識を知らなすぎるってのをあのお婆さん相手に証明していたからね。恥ずかしくなったのよ」

 

 難しい顔をする朱莉ちゃん。

 

「気にする必要はないんじゃないか?」

 

 ルーカスさんはそう言って話に入ってきた。

 

「俺も、初めての世界ならばまずその世界の常識を知るのが先決だしな」

「そんなものかしら?」

「ああ、基本的には俺たちの仕事は勇者の支援だからな。支援をするにも常識ってのは重要になる。余計なお世話とかせずに済むしな」

 

 余計なお世話とはどう言うことだろうか? 

 

「余計なお世話って?」

「うーん、そうだな。簡単に言えば勇者が自前で準備できるものを、俺たちが回りくどい感じで提供してしまったりとかだな。だからこの世界の常識をある程度は知っておく必要はある」

「ふ、ふーん……そうだったんだ」

 

 確かに【シュマリット】ではその世界の常識というものは教えてもらえなかった。

 車掌さんも一度も行ったことのない世界の情報は知らないと言うことらしい。

 わかるのは、どの世界が崩壊の危機に瀕していて、その攻略難易度はどの程度かということぐらいだそうだ。

 それで良いんだろうか? 

 

「まあ、俺もそれなりに長く【シュマリット】に乗ってはいるが、その辺りはよくわかっていないんだ。攻略難度も車掌さんがつけたものじゃないしな」

「ふーん、あの不思議機関車は謎だらけね。訳わからないわ」

「そうだね……」

 

 そもそも、【資格者】と言うのもよくわからない。

 わからないことだらけである。

 わかっているのは、【シュマリット】は世界を救うために動いている事と、【破滅の案内人】と敵対している事ぐらいだろうか。

 

「まあ、そんな事より、レベル上げね。魔物を倒せばレベルが上がるのかしら?」

「ああ、それは間違い無いな」

「オッケー。基礎鍛錬もしつつ、レベル上げもしましょうか」

「わかったわ」

 

 と言うわけで、私達は城下町の周辺で鍛錬しつつレベル上げをした。

 お金は魔物の残骸から採取できる素材を売ったりしていたのだけれど、魔物は討伐すると銅貨を落としたりするのでお金に困ることはなかった。

 およそ私達のレベルが10を越える頃には、魔法も覚え、常識もある程度習得できたし、勇者ギャレンの動向についてもある程度把握することができた。

 

 勇者ギャレンは現在ラートドム王国城下町を一人で旅立ち、北東の街ラガイの街に向かっているらしい。

 魔王の住む魔の島は世界の北端に存在するので、完全に一致というわけではないけれども、どうやらこの世界はやはり似ているようだ。

 

「それにしても、一人で旅をするなんて無茶な話よね。誰もついていかなかったのかしら?」

 

 朱莉ちゃんの疑問は当然であった。

 ルーカスさんも同意する。

 

「ああ、俺も旅をしていた時は一人ではなく仲間と共に旅をしたんだがな」

「ルーカスさんの旅の話はそれはそれで気になるけれども、一人旅なら追いかけないとまずいんじゃないの? 道中を【破滅の案内人】に襲われたらあっさり負けちゃうかもだよ」

「……そうだな。よし、追いかけるとしよう」

 

 ルーカスさんは懐から【シュマリット】のチケットを取り出した。

 

「それじゃあ一度戻るぞ」

 

 すると、あの到着音が聞こえると同時に、【シュマリット】の乗車口が出現した。

 

「ああ、基本はこう言うスタイルなんだね……」

 

 現地に行ったら解決まで戻れないものかと思っていたけれど、どうやらそうでは無いらしい。

 

「さあ、移動するぞ、二人とも」

 

 ◇

 

 私達は勇者ギャレンのいる洞窟のちかくの村で降りる。

 この村はアリーア村と言い、よくある感じの村であった。

 

「さて、勇者は……いるな」

 

 ルーカスさんの指差した先に、勇者ギャレンがいた。

 軽戦士の鎧を身に纏っており、勇者には見えない彼の姿だけれど、村の人からは勇者様と崇められていた。

 

「おお! 勇者様! どうか世界をお救いください!」

「勇者様! 北の森で魔物が暴れているそうです! と助けください!」

 

 と言った感じだ。

 

「毎回この手のゲームを見てて思うんだけれど、なんで勇者に任せっきりで自分たちで解決しようとしないのかしらね?」

 

 朱莉ちゃんが呆れたようにそう言うと、ルーカスさんが答えてくれた。

 

「村人や街人のレベルってのは基本的に一桁がほとんどなんだ。冒険者や軍人、その他得意なやつぐらいがレベルを上げたりするがな。レベル制の世界はレベルの高い魔物が暴れていたりすると逃げるか冒険者に駆除の依頼をするしか無いんだよ」

「ふーん……それってどうなのよ」

「そもそも、レベル上げって命がけだからな。ユリもアカリも俺と共に戦っているからそこまで危険を感じていないだろうが、普通はレベルを上げて強くなろうなんて、考えないんだよ」

 

 私たちに置き換えて考えてみたら、確かに命を落とすかもしれない魔物と戦うよりは、レベルを上げずに街や村で安全に暮らすのが一番だろうと言うことに行き着く。

 レベルを上げるというのは、命知らずな行為なのだろう。

 

「どっちにしても、自分たちでなんとかしようとしないってのはふに落ちないわね……。そう言うものといえばそうなのかもだけれど」

「まあ、現時点では勇者は無事ってことが分かったし良いじゃ無い!」

「……それもそうね」

 

 勇者ギャレンは結局、村人の頼みである森の魔物の討伐を引き受けたようであった。

 私達はそれに後ろからこっそりとついていくことにした。

 私と朱莉ちゃんはほとんど何もせずについて行けたけれど、それはルーカスさんが周囲の魔物の露払いをしているからだった。

 勇者ギャレンは普通に魔物を単身で倒している。

 森だからか虫系や植物系の魔物が勇者に立ち塞がるけれども、上手く回避して適格に倒していく姿はルーカスさんと重なる。いや、さすがにルーカスさんほど人外じみた動きをするわけじゃ無いけれどね。

 炎系の魔法《ファイア》をうまく使いながら、剣で魔物を切り払う姿はさすが通った感じだ。

 

「ふぅ……この辺りの魔物はあらかた倒し終えたかな……」

 

 勇者ギャレンは剣を収めてそう言うと、周囲に声が響いた。

 あの暗殺者とは違う声だった。

 

『クスクス……キミがこの世界の勇者だね?』

『クスクス……弱そう弱そう! サッサと殺しちゃおうよ♪』

 

 幼い子供の声だった。

 だけれども、こう背筋が凍りつくようなおぞましさを感じる声だった。

 

「何者だ?!」

 

 勇者は剣を抜く。

 

「ユリ、アカリ! 出番だ!」

「う、うん!」

「行くわよ!」

 

 私達は勇者のもとに駆けつける。

 二つの影が勇者の前に降り立つ。

 

「幼子……?」

 

 白いフードを被った双子だった。

 半分ずつ仮面を被っており、その仮面はまるで道化師のような仮面だ。

 半分見える素顔は、どちらの性別か判別できない容姿をしている。

 

『クスクス……弱そう弱そう』

『クスクス……サッサと殺しちゃってお仕舞いだね♪』

『どうやって殺す?』

『それじゃあ、強力な魔物に食べられちゃったってお話はどうかな?』

『いいね♪ そうしようそうしよう♪』

 

 楽しそうに勇者の殺害する方法を語り合う幼児……不気味以外の何者でも無いね。

 双子が手に持っている杖で地面を突くと、魔法陣が広がる。そして、巨大でおぞましい魔物が出現した。

 

「な、なんだ?!」

 

 勇者は後退りをする。

 

「ベヒーモス……!」

 

 ルーカスさんはそう呟きながら、勇者の前に出る。

 ベヒーモス……まさに、FFなんかで見かけるようなその魔物が私たちの眼前に出現していた。

 

『ん? あー! 《赤の勇者》! また邪魔しにきたの?!』

「《白い双子》がお出ましかよ! 勇者、下がってな!」

「え、あ、あんた達は?!」

「良いから下がってな!」

 

 私達もようやくルーカスさんに追いついた。

 

「行くよ、朱莉ちゃん!」

「任せて! 由利ちゃん、このカードを使って!」

 

 私は朱莉ちゃんから手渡されたカードを翳すと、腕にカードリーダーが出現した巻きついた。

 カードはバハムートのカードだった。

 私はカードリーダーにバハムートのカードを挿入する。

 

「バハムート……召喚!」

 

 カバーをスライドさせると、音声が鳴る。

 

《Summonraize!》

Summons(召喚)──Lineal des Himmels(大いなる翼を持つ) mit großen Flügeln(天空の支配者)──Wiederbelebtes Bahamut(蘇れバハムート)

 

 空が歪み、そこからカードに描かれたドラゴン……バハムートが出現した。

 ルーカスさんはルーカスさんで全力で戦うための準備をしていた。

 

「限定解除を申請!」

 

 ルーカスさんが宣言をすると、ルーカスさんを中心に炎が吹き出した。

 

『申請受諾! 承認!』

 

 炎を纏うと、鎧や持っている剣が本来のものに置き換わっていく。

 そして、髪やマントが燃え盛るように靡く。

 

『おっしゃあ! 全力で叩き潰してやる! 《白い双子》!』

 

 ルーカスさんはそういうと、炎の大剣を手にベヒーモスへと突撃する。

 

《召喚者よ、我を使うか》

「お願い! あの化け物……ベヒーモスを倒して!」

《……良いだろう。上手く使って見せるが良い》

 

 私は魔力をバハムートに譲渡する。

 そこからはまさに別次元の戦いであった。

 

『クスクス……《赤の勇者》がボク達を倒せるかな?』

『うっせぇ黙れ!』

 

《白い双子》とルーカスさんが戦い、ベヒーモスとバハムートが戦っている。

 炎を纏って加速するルーカスさんの攻撃をひらりひらりとなんでもないように回避する《白い双子》はたしかに、人外であった。

 完全にルーカスさんに任せるしかないだろう。

 問題はこっちの大怪獣決戦である。

 バハムートが空を飛びベヒーモスを牽制して攻撃している。

 対してベヒーモスは炎を口から吐き出し、バハムートを落とそうとしている。

 

「由利ちゃん!」

 

 朱莉ちゃんがカードを渡してくれる。

 

「ウインドブレス?」

「相手がベヒーモスだからね! 炎属性と聖属性は通らないと思って」

「わかったわ」

 

 私はカードリーダーにカードを差し込む。

 

《Angriffraize!》

《Wind Atem!》

 

 すると、私の中から魔力が少し多めに減る。

 

《ふん、良いだろう。ウインドブレス!》

 

 バハムートは少し上空に舞い上がると、風のブレスを放った。

 

「きゃああああああ!」

「こっちにまで余波があああ!」

 

 突風が私達を襲う。

 直撃を受けているベヒーモスはダメージを負っているように見える。

 

「GYAOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

 ベヒーモスは火球を3連発放つも、バハムートはひらりひらりと回避する。

 

《知能はないが、体力はあるらしい。ふん、魔法で吹き飛ばしてやろう》

 

 バハムートがそう言うと、朱莉ちゃんが持っているカードデッキからカードが飛んできて、自動でカードリーダーに挿入された。

 

「えっ?!」

《Angriffraize!》

 

 私は驚く以外になかった。

 

《Ende der Fackel!》

《我が魔法を受けるが良い! 《フレア》!》

 

 バハムートはそう言うと、ベヒーモスに対して魔法を放った。

 私の魔力が多めに減少する。

 熱の膜がベヒーモスの周囲に出現し、ベヒーモスを中心に収縮する。

 

「っ! まずい!」

 

 勇者ギャレンが私たちの前に出て、盾を構えた。

 同時に爆発が起きる。

 ベヒーモスを中心に爆裂したその威力は凄まじく、その爆風に翻弄されてしまう。

 

「「きゃあああああああああああああ!」」

 

 私と朱莉ちゃんの悲鳴が重なる。

 

《しぶとい奴め》

 

 バハムートの声が聞こえ、目を開くと爆心地にはボロボロになったベヒーモスが立っていた。

 周囲の木々は薙ぎ払われており、ルーカスさんと《白い双子》の戦いもよく見えるようになった。

 

「ユリ、その召喚獣はまだ制御できてないようだな!」

 

 ザッと戻ってくるルーカスさん。

 

「う、うん、そうかもしれない……!」

「強い召喚獣みたいだからな! フェニックスのようにはいかないか!」

 

 そう言うと、ルーカスさんは再び双子戦いに向かう。

 

「GYAOOOOOOOOOOOOOO!」

《ぬ? 聖なる一撃か!》

 

 バハムートに光が収束する。

 

「由利ちゃん!」

「うん!」

 

 私は朱莉ちゃんからカードを受け取り、読み取る。

 

《Angriffraize!》

《Schnell dreh!》

 

 バハムートは素早く旋回して、ベヒーモスの《聖なる一撃》を回避する。

 光が終息した地点にはまた爆発が起こる。

 

《召喚者! トドメだ!》

 

 バハムートがそう言うと、カードデッキから私の手元にカードが飛んでくる。

 カードをキャッチすると、そこには《メガフレア》と書かれていた。

 

「これってFFの……!」

 

 私はカードを挿入する。

 

《Letzter Angriffraize!》

《Mega Flare!!》

 

 私の中から魔力のほとんどが抜けてしまい、膝をついてしまう。

 

《我が究極の一撃で葬ってやろう! 究極の竜の吐息を喰らい、全てを焼かれるが良い! メガフレア!》

 

 バハムートの口にエネルギーが溜まる。と同時に、私の前にバリアが展開された。

 そして、放たれる究極の一撃。

 バリアのおかげで平気だけれども、あたり一帯が爆散してしまう。

 

『あーあ、やられちゃった。つまんないのー』

『つまんないのー、おもしろくないのー』

『待ちやがれ!』

 

 ルーカスさんの声と双子の声が聞こえる。

 

『でも、他の方法もあるから』

『また遊ぼうねー』

 

《メガフレア》の煙が晴れる頃には、すでに双子の姿はなかった。

 ボロボロの炭になったベヒーモスの残骸と、平然としているルーカスさんの姿がのこっていた。

 

『ちっ、逃げられたか』

 

 ルーカスさんはそう言うと、この世界にきたときの姿に戻る。

 

《ふっ、召喚者よ。精進するが良い》

 

 バハムートはそう言うと、天空の彼方まで飛び去ってしまった。と同時に、カードリーダーからカードが飛び出す。

 カードの柄はフェニックスと同様に消えてしまった。

 

「あ、あんたら、一体何者だ……?」

 

 驚いた表情をした勇者ギャレン。

 そんな彼の言葉に答える気力は、私には残っていなかった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。