蒸気機関車で女の子が異世界を旅する話   作:ちびだいず@現在新作小説執筆中

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9話

 私は来栖朱莉。

 大学2年生で今は《異世界を救う旅》を親友の篠崎由利ちゃんと一緒にやっているところだ。

 といっても、始めたばかりで何もわかっていないのが現状ね。

 私たちを案内してくれているルーカス……ルーカス=ブランドン=アーベルライドって言うんだけれど、この物語に出てきそうな勇者様ですらわかっていないのだから、どうしようもないのかもしれないわね。

 どっちにしても、由利ちゃんは【破滅の案内人】って悪の組織に狙われているみたいだから、お世話になるしかないんだけれどね。

 そもそも、大学生になるまで……正確に言うならばあのカードを拾うまで襲われなかったという点が気になるところではあるけれど……。

 考えれば、あの強大な力……召喚術を操れるから狙われたと考えるのが今のところ一番妥当だろうと私は考えているわ。

 

 さて、前置きはこれぐらいで、今は魔力を使い果たした由利ちゃんを【シュマリット】に預けて、私はルーカスさんと訓練をすることになったわ。

 今のままだとただの足手まといだしね。

 今いる世界はレベルを上げれば強くなる世界みたいだし丁度いいわ。

 

「えい! やあ!」

 

 私は掛け声を出しながら、剣を両手に魔物と戦う。

 対処できない魔物はルーカスさんが片づけてくれるので、目の前の魔物に集中すればよかった。

 本来は持っている件は片手剣なのだけれども、私の筋力ではぎりぎり片手では持てないので、両手で戦っている。

 

「……だいぶ様になってきたな。少し休憩するか」

「わかったわ」

 

 1時間ほど戦ってみたけれど、レベルの上りはそこまでいいわけじゃない。

 もともとのレベルが低かったので2ほどレベルが上がったけれどもね。

 頑張りが数値として反映される世界なので、元の世界で頑張っていたダイエットよりもやりがいは感じる。

 

「うーん、まだまだね」

 

 私は自分のステータスカードを更新して、そうつぶやいた。

 仮面ライダーみたいに、強化装甲をまとって戦ったりできれば簡単なんだけれどね。

 私は由利ちゃんみたいに特殊なアイテムを持っているわけじゃないので、地道に努力するしかなさそうである。

 

「アカリはどうして頑張るんだ?」

 

 ルーカスさんが私の隣に座って、そう聞いてきた。

 

「由利ちゃんについていくって決めたのは私だからね。その分頑張らなくちゃって思ったのよ」

 

 そもそも、私は由利ちゃんに助けてもらったことがある。その恩を返し切れていないのだ。

 由利ちゃんにとっては何気ないことだったのだろうけれどもね。

 

「そうか、その心意気は十分伝わっている。……人にはやる理由はいろいろだしな」

「そうね。それよりも、私はルーカスさんについて知りたいわ」

「俺?」

 

 私はうなづいた。

 だって、何年も……ルーカスさんの話を真に受けるならばそれこそ永劫の時を世界を救うために生きるなんて、尋常ではないからね。

 

「……そうだな。まあ、俺もギャレンと同じなんだよ。世界を救うことは俺の目的に合致しているんだ」

 

 ルーカスさんは自嘲気味にそう言った。

 

「それって、《白い闇》って奴のこと?」

「ああ、あいつは俺が倒すべき相手だ。だからこそ、俺には長い時間が必要なんだ」

 

 ルーカスさんと《白い闇》の間に何の因縁があるかはわからなかったけれど、いつも勇者然としているルーカスさんの顔に影が差す程には因縁があるということがわかる。

 私が聞いてよかったのだろうか? という疑問がわいた。

 

「ん、おっとすまないな。まあ、俺にも俺の目的があって世界を救っているわけだ。納得したかい?」

「うん、まあちゃんと人間的な理由で安心したわ」

 

 でも、ルーカスさんの話を聞くのならば、あの人外レベルで強いルーカスさんをもってしても長期間【破滅の案内人】を倒すことができていないということになるんじゃないかしら。

 そもそも、あの《白い双子》との戦いを見ていても、人間があんな戦いをできるのかと驚くしかなかった。

 私じゃとてもじゃないけれど、あんな化け物を相手にすることなどできはしないと思う。

 

「ルーカスさんはどうしてそんな強さを持っているの?」

「うーん、これを説明するには、俺が俺の世界を救った時の話をしなきゃならないんだよな……。かなり長くなってしまうから、また今度でいいか?」

「大雑把に、ルーカスさんが世界を救う過程で手に入れた力ってことでいいのかしら?」

「ああ、その認識で間違ってはいない。まあ、基礎の部分は力を手に入れる前から研鑽してきたものだから、アカリも俺みたいな強さは無理にしても、ユリを守れるだけの強さは手に入れられるさ。代償は努力と経験だがな」

 

 守るってのは違うけれども、私は由利ちゃんと同じ道を歩くために努力を怠るつもりはない。

 だから、私でも出来そうな魔法を習得したかったわけだしね。

 この世界でいう初級魔法の《ファイア》や《アイス》ぐらいならば使えるようになったけれど、まだまだだろう。

 由利ちゃんはカードを使いさえすれば詠唱すらなしで魔法や召喚獣を召喚できるものね。

 ……正直、由利ちゃんはチートを手にしているのだ。追いつくには相当の努力が必要なのはわかっている。

 

「……わかっているわ。それじゃあ休憩はおしまいね。訓練、よろしくお願いするわね」

「はいよ。それじゃ、次の狩場に移動しますか」

 

 私たちは【シュマリット】で次の狩場に移動して訓練を再開するのだった。

 

 ◇

 

「おはよー」

 

 私が目を開けると、朱莉ちゃんの顔が見えた。

 

「うん、おはよう」

 

 私は起き上がると伸びをする。

 魔力を感じ取れるようになったからわかるけれども、だいぶ回復したように感じる。

 

「あれ、朱莉ちゃんなんかたくましくなったね」

 

 なんかそんな感じがしたので、私が感想を伝えると、朱莉ちゃんは理由を答えてくれた。

 

「……そうかしら? まあ、由利ちゃんが寝ている間にレベル上げしていたからそのせいかもしれないわね」

「そうなんだ。……私、どんだけ寝てたのかしら?」

 

 私がちらりと部屋の時計を見ると、3時間は寝ていたようだった。

 

「うーん、あっちとこっちじゃ時間の流れが違うからわからないけれど、時計を見る感じだと3時間ぐらいね」

「結構ぐっすり寝ちゃったんだね……。私も召喚術をちゃんと扱えるようにならなくちゃいけないのに」

 

 私はため息をついて、クローゼットを開ける。

 

「あ、朱莉ちゃん。着替えるから外で待っててね」

「オッケー。動きやすい服装が良いと思うよ」

「うん、そうするー」

 

 私は朱莉ちゃんと同じように動きやすそうな服を選ぶ。

 現地で服を購入してもいいんだけれどね。洋服を買うのは好きだし、おしゃれも普通に気遣っている方だし。

 さすがに、白ギャル風のものは持ってはいないけれど、組み合わせで作ろうと思えば作れる程度には持っているけれどね。

 とりあえず、適度にいい感じで動きやすい感じのポップな感じの服を選ぶ。

 

「うーん、これがどんな感じに変換されちゃうかわからないのがなぁ……。やっぱり現地で買った方がいいかも」

 

 素材感だったりはポリエチレンの素材は変換されちゃうと少し変わった布っぽい感じになって質感とかが変わっちゃうんだよね。

 まあ、あまり時間をかけるわけにもいかないので、さくっと選んでしまう。

 この部屋は私の部屋がそのまま再現されたというだけあって、備品とかは私の部屋にあったものそのままが置いてあった。

 つまり、化粧品なんかもそのままなのだ。

 寝る前に化粧は落としちゃったから、ナチュラルメイクでさっと化粧をしてしまう。

 もちろん、乳液とかでケアをした後でね。

 

「……これでよしっと」

 

 地味すぎず派手すぎない感じかつ、ちょっと清楚っぽく見えるようにしてみた。

 下はパンツなんだけれどね。

 結構動きやすい感じに仕上がったので、戦うにしても大丈夫だろう。

 私は準備を終えると、部屋の外に出たのだった。

 

 ◇

 

 私は朱莉ちゃんとの差を取り戻すためにも、さっそく召喚の練習を始めようと思った。

 だけれども、ルーカスさんは自分では召喚術の指導はできないということなので、私たちは召喚術に詳しい人に話を聞くことにした。

 この【シュマリット】にも当然ながら召喚術にたけた人がいるようで、ルーカスさんは【レイン】と呼ぶ人がその召喚術師らしい。

 めったに外には出てこない人で、世界を救う仕事に取り組むメンバーの時だけ顔を出す変わり者だそうだ。

 

「で、そのレインって人に会えるの?」

『……わからないな。もしかしたら別の世界に行っているかもしれないからいないかもしれないしな』

「そういうところって情報の連携がされていないんだね……」

『英雄ってのは得てして自分勝手なものだからな』

 

 ルーカスさんはため息をつきつつ、レインって人がいるらしい部屋の前で立ち止まり、ノックをする。

 

『おーい、レイン! 居るか?』

 

 無反応である。

 まあ、わかっていたことではある。

 

「召喚術について聞きたいんだけどー?」

 

 朱莉ちゃんも加わってノックする。

 コンコン扉をたたく音が廊下に響く。

 

「おーい! 出てこーい!」

 

 激しくたたいても無反応だった。

 

「……」

 

 すると、朱莉ちゃんは何を思ったか、ノックで音程を取り出した。

 

「ネコふんじゃった?」

「~♪」

 

 朱莉ちゃんはノック音でネコふんじゃったを演奏し始めた。

 

『お、軽快な感じだな。ユリの世界の曲なのか?』

「え、ええ。ネコふんじゃったって曲なんだけれど……」

『なんだそりゃ』

 

 ルーカスさんは苦笑をする。

 でも、あのモーツァルトでも『俺の尻をなめろ』なんて曲を作っていたりするのだ。

 

「それじゃあ次の曲よ♪」

 

 朱莉ちゃんは扉を太鼓の達人に見立てて、曲を演奏し始める。

 これって……。

 

「あいみょんの曲じゃん!」

「あ、やっぱりわかる?」

「結構有名なやつだしね」

 

 ルーカスさんは呆れた表情をしている。

 まあ、いるかいないかわからないけれども出てこないレインって人が悪いのだ。仕方ないよね。

 朱莉ちゃんがしばらく演奏をしていると、ドアノブがガチャリと動いた。

 

『う、うるさい!! い、いい加減にしてよね!』

 

 出てきたのは、青い髪色をしたモヤシ男であった。

 朱莉ちゃんはすかさずガシリとそいつの腕をつかむと、部屋から引き釣り出した。

 

「ほら、出てきなさい!」

『う、うわあああ!』

 

 勢いに負けて、青もやしはその場に膝をついた。

 

『レイン、居たのか』

『ヒィ! る、ルーカスじゃないか。な、なんだいその元気なじょ、女子は……?』

 

 どうやら、彼がその召喚術が得意なレインって人らしい。

 

『新しい【資格者】とその友人だ。元気な方が友人のアカリ、こっちが【資格者】のユリだ』

『そ、そうなんだ。フヒッ、で、ぼ、僕に一体何の用なんだい?』

 

 なんというか、陰キャのオタクってイメージである。

 実際、レインさんの顔立ちは普通より若干マイナスな感じである。

 体型もふとましく、本当にルーカスさんみたいに世界を救った人物なのか疑わしい感じがする。

 

「あんたって、召喚術が得意なのよね?」

『あ、ああ。ぼ、僕の唯一の取柄だしね。フヒッ』

 

 どうやら、ルーカスさんの言っていることは間違いなかったようだ。

 

「あの、私に召喚術のことについて教えてほしいんですけど……」

『……』

 

 レインは私の顔をじっと見ると、「えっ」という表情で固まってしまった。

 そんな彼の様子に、私たちは顔を見合わせたのだった。


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