目が覚めるとそこは、愛すべき故郷千葉の慣れ親しんだ自室ではなくどこか見覚えのある場所だった。
「何だよ・・・っ」
「お、俺っ!おかしい、なんだこれっ⁉」
「う、運営はどこだよ!何かのイベントだよな、これ⁉」
パニックを起こし、みっともなく哀れな虚勢や怒鳴り声をあげている声が耳につく。
八幡「あれ?俺、部屋でゲームしてなかったっけ?」
そう、この腐った目にアホ毛がチャームポイントの少年比企谷八幡は自室でかれこれ5年も続けているゲーム<エルダーテイル>をプレイしていたはずだ。しかし、周囲を見渡すと本棚もベッドも机も自室にあったはずのものが一切合切なく、決定的なのが明らかに屋内ではなく屋外なのだ。内心パニックになる八幡だがとあることに気づいた。
八幡「ここ、<アキバの街>か?」
アキバの街、「剣と魔法の世界」をモチーフとした日本人だけで10万人全世界に2千万人ものプレイヤーがいるオンラインゲーム<エルダーテイル>の最初のプレイヤー都市にして最大のプレイヤー都市である。大聖堂、大神殿を始め、数多くの施設が完備されているためこの街を拠点にするプレイヤーも多い。八幡もまたアキバの街を拠点にプレイしていたので見慣れた風景であり、気づくまでにあまり時間もかからなかった。
八幡「でもなんで俺アキバの街なんかにいんの?アプデの新要素か?」
12番目の拡張パック<ノウアスフィアの開墾>情報の露出があまりなく、様々な考察が行き交いかなり期待されていたアップデートであり、八幡も学校が終わり奉仕部の二人に部活を休むことを伝え、その後の罵倒を軽く受け流し、競輪選手並みのスピードで帰ってパソコンで4時間待つくらいには楽しみにしていた。
八幡「VRにしてはリアルすぎるし、まず俺VR機器もってないし」
そこから導き出された答えは
八幡「俺、ゲームの世界にいるのか・・・。フッ、材木座あたりが喜びそうだな」
ゲームの世界にいる、ラノベの中の話でしかないと思っていたがそれ以外考えられなかった。
八幡(ラノベだとここからデスゲームが始まるんだけどなぁ。まず、この世界で死の概念があるかどうかわからんけど。)
エルダーテイルにはもちろんHPが0になったら大神殿で復活できるようにはなっていた。しかし、ラノベ愛読者である八幡は某黒の剣士の本のようにゲーム内での死が現実の死となるのではないかという疑問を拭いきれなかった。
八幡(なんにせよ、現実世界に帰るにせよ、この世界で過ごすにせよ情報が少なすぎる。とりあえずこの世界から抜け出せる方法がないとして行動するのが無難だな。)
周りにはパニックになり、大声で喚いている人やゲームの世界に閉じ込められたことに嘆き泣いている人もたくさんいた。しかし、そのことが逆に八幡を冷静にさせた。
八幡(最悪のケースを考え最善の行動をとるのがぼっちだからな。)
その後、八幡は自分なりに情報を集めたり、色々なことを試すのに時間を使い次第に日は落ちていった。
八幡「ざっとこんな感じだな。」
八幡は今日集めた情報をかき出し、分析をしていた。
・食事や排せつを必要とする
・疲れという概念が存在するが、レベルのおかげかそこまでではない
・所持していた金貨で買い物ができる(値段もさほど変わっていない)
・自然の摂理もおおまかには現実世界と同様
・食事がまずい
・大地人との会話も可能
・ゲームと同様メニュー画面が存在し、武器や装備の着脱などあらゆることがゲームと同じだが、ログアウトボタンはなし
八幡(情報をまとめた感じ、ゲームの要素と現実世界の要素が絡み合った感じだな。でもゲームの時と完全に一緒ではないってところが重要だな。)
~買い物の時~
八幡(まさかゲームの世界で空腹感を味わうとはな・・・。マーケットでなんか買って食うか。確か、食べ物が売ってんのは・・・)
大地人「いらっしゃいませ!」
八幡「うひゃっ!」
大地人「ぷぷっ。何をお求めですか?」
八幡(急に声かけられて変な声出ちゃったんだけど。八幡恥ずか死んじゃう。ぼっちは声かけられることに慣れてないんだからやめてほしんだけど。)
「って今笑ったか⁉」
大地人「す、すいません。不意打ちだったものでつい・・・」
八幡「い、いや気にしてないんで。一通りの食材もらえますか?」
ということがあったのだ。
八幡「まさか大地人と会話ができるとは・・・」
大地人。それはノンプレイヤーキャラクターNPCのエルダーテイル内での呼び名である。NPCは主にクエストの時や買い物の時に話しかけ、クエストを受注したり、アイテムを買うなどの役割を持っていた。ゲームの頃は定型文しか表示されず、会話は行えなかったがこの世界でその概念は壊された。
八幡「大地人が人間味を持ったら、俺話しかけられないじゃん。なに?この世界はぼっちを滅ぼそうとしてんの?」
比企谷八幡生まれてこの方一匹狼(ぼっち)である。小中学校と周りに馴染めず、剰えいじめの標的でもあった。その苦い経験が今の彼の人格を形成していったのである。しかし、エルダーテイルの世界ではそれなりの数のフレンドもおり、現実世界とは違いぼっちではなかった。ゲームの世界の繋がりなんてと思うかもしれないが八幡にとってそれは大切な繋がりであった。
八幡「俺がまだ試してないのは戦闘だけか・・・」
明日のことを考える八幡。エルダーテイルで最も熱い要素である戦闘。その魅力に多くのプレイヤーがとりつかれた。特にレイドと呼ばれる大規模戦闘が主流で、6人1組のパーティを4つ作り24人で行うフルレイド、16パーティ作り96人で行うレギオンレイドがある。ソロでプレイするにはいささか向いてないゲームだがソロのプレイヤーも少なくない。八幡もソロプレイが中心で腕にかなりの覚えがあった。2年程とある団体に所属していたのでレイド経験も豊富であった。
八幡(死んでも復活できる保証がない以上戦闘には危険が伴う。でも、この世界で生きていく以上避けては通れない道だな。)
モンスターを倒せば、特定のアイテムやある程度の金貨が手に入る。八幡は金に困っているわけではないが金も無限にあるわけではない。もしもの時のために金貨は持っておいた方がよいという考えだ。アキバの街の周辺のモンスターからは多くの金貨を得られないが低レベルのモンスターが湧くので練習にはうってつけだ。八幡が戦闘の練習を積んでおきたい理由はもう1つあった。
PK。プレイヤーキラーまたはその行為自体をさすプレイヤーキルの略称でモンスターではなく、同じプレイヤーを攻撃して死に至らしめる行為である。倒したプレイヤーの現金をすべてとアイテムの半分を奪えるという大きなうま味がある。MMOでは嫌われる行為であり、ゲーム時代はハラスメント認定されて運営から何らかのペナルティがある可能性があったためPKをするものは少なかった。他にもPKの成功率の低さ、ゲームの仕様による不意打ちの効果の薄さ、民度の良さも相まってPKという行為自体都市伝説のようなものだった。しかし、ゲームが現実になった今、法も秩序もなく、心が荒んだプレイヤーがPKを行うのは目に見えている。自分の身を自分で守るためにも戦闘に慣れておく必要があるという考えだ。
八幡「明日のためにも今日は寝るか」
そう言って床に臥そうとする八幡だがあることが気になった。
八幡「あいつらもこの世界にいんのかなぁ」
御覧いただきありがとうございました。八幡のメイン職業、とある団体については次回の話で記載すると思います。感想お待ちしております。