アズールレーン ー我が黒鉄は血に染まりてー 作:白黒モンブラン
そして自分は――
始まりはこの病弱の体を治す為に。
始まりは訪れる死を回避する為に。
始まりはこの身を自由へ導く為に。
自分は―――
―――ヒトを辞めた。
鉄血本土近海。時刻22時18分。
雲一つすらない星空。煌びやかなそれを汚すかの様に響き渡る砲撃音と空を照らす様に轟々と燃え盛る炎。
海中へ没していく船の姿は幾つにも上り、広がる光景は船の墓場の様であった。
そんな中で海上を佇むKAN-SENが一人。漆黒を基調とし、血の様な赤きラインが入ったコートを纏っている。コートと同じ色合いで身の丈以上はあり、その巨大さからは恐怖を植え付けかねない艤装を身に付けている。
腰に装着され、四方向へと広がるアームには大型装甲板を取り付けられており同時に対空砲、副砲、魚雷装置が配置されいる。そしてそのKAN-SENが装備している艤装で一番に目に飛び込むのはまるで巨大な鮫二匹を模った艤装だろう。三連装の主砲を二基装備。別の箇所から伸ばされた二基のアームに黒く染まった装備を配置されているが、それが何なのか誰にも分からない。
一目見るだけでも重武装が施されているのは分かる。
纏っている艤装だけでも十分だと言うのに、そのKAN-SENが手にしているのも異彩を放っていた。
十字に配置された刃。まるで鉄塊を思わせる様な巨大な鈍器を手にしていた。刃を滴るオイルの様なものがまるで返り血を思わせる。
禍々しく、敵対する者を圧倒する様な艤装を身に纏い、加えて何と戦うつもりなのだと思わせる様な鉄塊を手に持つKAN-SENは静かに周りを見回す。
そこに広がる炎の海。沈んでいく量産型。硝煙の香りが漂う戦火の中、この光景を作り上げたであろうKAN-SENは表情一つ変える事無く周りを見渡していた。
「…」
赤色に輝く双眸。赤色に染まった瞳の先に映るは向かってくる量産型ではなく…艤装を纏いしKAN-SEN達。
それらを一瞥しながらその者はコートの懐からある物を取り出す。
黒色のパッケージ。そこには鉄血の言葉で"禁断の果実"と書かれていた。
そこから器用に一本取り出し口に咥えるとジッポライターで火を着ける。
硝煙と火の粉に交じりながら、ゆらゆらと揺れる煙草の煙。
空へと掻き消える紫煙。消え行く様を見届けたそのKAN-SENはそっと呟く。
「行こう…」
無表情、そして冷めた目。しかしその目はどこか悲しさをすら感じさせる。
「ここにもう用はないから」
そして何よりも、その者の声は男だった。
結局鉄血本土で起きたこの事件は迷宮入りする形となってしまった。
が、一部ではある噂が持ち上がっていた。
それは鉄血内部で極秘に進められていた開発艦計画に原因があるのではないかと。
また一部のKAN-SENから現場にいた自分達と同じ鉄血だと思われるKAN-SENがいた。
そしてその者は試験的に行われた開発艦計画にて連れてこられた被検体の青年に酷く似ていたと。
だが証拠がある訳でもなく、それも噂の域に過ぎない。真実は迷宮入りしてしまう。
そして騒動の発端である謎多きKAN-SENは…
思想、理想の違いからアズールレーンとレッドアクシズとの対立による戦いが始まるまでの数年間。
その姿を確認される事はなかった。
しかしいつか理解するであろう。
檻を出ていった獣は到底手に負えるものではなかったと言う事を。
渦巻く戦乱の世にて、誰しもが予想だにしなかった
アズールレーン前線基地。
島一帯が基地となっているここにはレッドアクシズとの闘いに備えて、ユニオン、ロイヤルに属する様々なKAN-SENがこの地に集結しつつあった。
そんな中…
「ゆーちゃん…どこに行ったの…?」
「こっちの方は居ないみたいだね…」
大事なお友達であるゆーちゃんを探すロイヤル所属軽空母 ユニコーン。
そしてゆーちゃんの捜索に協力している同じくロイヤル所属の駆逐艦 ジャベリン。
「…こっちもいない」
眠そうな顔をしつつも、ゆーちゃんを探す事に協力しているユニオン所属の駆逐艦 ラフィー。
三人は母港のあらゆる所で会う人、会う人にゆーちゃんの事を聞いて回っていたのだが、捜索は困難を極めつつあった。中々見つける事が出来ずとも三人は諦める事無く、捜索を続けていた。
「あれ?」
それは偶然だった。島の海岸沿いの端の更に端にまで彼女達は来ていた。当然ながらゆーちゃんがそこには居ないのだが、代わりにジャベリンの目に映ったのは、ずっと奥まで続く洞窟。誰かが掘ったのか、或いは自然で出来てしまったのか。しかしその大きさからして、人間の手によるものとは言えなかった。彼女達よりはるかに大きな船体を持つ戦艦一隻が入る事の出来る大きさ。そして海水がその奥へと続いていた。そんな巨大な洞窟が基地から見えない位置に存在していた。
「何だろう、ここ…」
「…おっきな洞窟」
謎の洞窟を不審に思うジャベリン。
見たままを口にするユニコーン。
そしてラフィーは…
「行ってみる…居るかも知れない」
あからさまに謎がある洞窟の中へと足を進めていた。
「ラフィーちゃん!?ま、待ってってば!」
迷う事無く洞窟の奥へと進んでいくラフィーの後を追うジャベリン。
「え、えっと…」
どうしようかとその場でオドオドし始めるユニコーン。
ラフィーの言う通り、この先に大事な友達がいるかも知れない。だけどちょっぴり怖い…。
「えい…!」
それでもユニコーンはジャベリンの後を追う事にした。
もしかしたら大事なお友達もこの暗い洞窟で迷って寂しい思いをしているかも知れない。
そんな事を胸の中で思いながら。
ずんずんと臆する事もなく洞窟の奥へと突き進むラフィー。
その後ろで薄暗い洞窟内に怯えつつもジャベリンとユニコーンが付いてきていた。
洞窟内に響くのは三人の歩く音、海水が少し揺れる音。たったそれだけ。
「ん…」
「どうしたの?ラフィーちゃん」
「あれ…」
そう言ってラフィーは正面を指さした。
指さす先にはあるのは光。それも外の太陽の光。言わなくても洞窟の出口だと三人は理解する。
先行してラフィーが、その後に二人がついていく。
謎の洞窟の先に何があるのか、この先にゆーちゃんは居るのだろうか。それを確かめるべく三人はその先を目指す。そして洞窟を抜けた先に三人を待ち構えていたのは…
鎮座する一隻の船だった。
その姿は決して船とは言えなかった。
まるで別の世界からやってきたのではないかと思われる船体。下手すれば空でも飛ぶのではないかと思われる程、その姿は普通ではなかった。
「「「…」」」
そこにあった船に三人は啞然とした。
アズールレーン前線基地にこんなのがあるなど誰が知っていたであろうか。否、今それを目撃したこの三人以外にいないだろう。
啞然とする三人を他所に、まるで眠り姫の如く、謎の船は眠っていた。
どうする事もせず、只見つめている事しかしない三人。そんな時だった。
「妙な事もあるもんだね…。今日は来客が多いみたいだ」
何者かの声が響いたのは。
明らかに女性の声ではない。男性の声だ。
この空間に自分達以外の誰かがいるという明確な事実がある以上、三人は警戒せざるえなかった。
身が緊張感に包まれる中、声の主はゆっくりと奥の方から姿を現した。
黒ベースに赤いラインが入ったコートを羽織り、長く伸ばされた髪は髪留めで一本にまとめられている。
金色の双眸が特徴で、口に咥えた煙草に火をつけながらジャベリンたちの前に立った。
はい。という訳でこそこそとアズールレーンの二次創作をやっていきます。
メインはドルフロの方なのでこちらは遅れるので許してね