蒼い髪の君へ 作:きつつき
初めて彼女を見た時、羨ましいと思った。
どこまでも努力を惜しまないその姿勢はとてもじゃないけど真似できない。何かに対して情熱を持っていられるのは立派なことだ。自分がそうありたいかと聞かれたら首を横に振るのだろうが、だからこそ尊敬に値する。だって、それは誰にでもできることじゃあないから。
諦めないってのは簡単に見えてとっても難しい。それが義務でないのなら尚更だ。できない言い訳なんてどこにでも転がっているし、むしろやらなければいけない理由を探す方が難しい。逃げ出そうと思えばいつでもできる。それを阻むものなんて何処にもいない。全部が自分の思いのままだ。
だからこそ、諦めないということは難しい。どんなにつらいことがあっても。いくらやめたいと思っても。たとえどんな困難に直面したとしても。自分を信じて進み続ける。
凄いことだ。だから彼女の第一印象は強い人だった。
日常での彼女を見て、懐かしさを覚えた。
学校の風紀委員をしている彼女は自身にも周囲にも厳しかった。もちろん学校の風紀を守ることは大切だ。誰かがそれをしなければならないのは確かで、彼女がそうであるというのも間違いない事実だ。まさに規律を守る番犬。もういっそ、彼女自身が規則なのではないかと思ったほどだ。
当然のことだが、それは悪い事ではない。誰かが締めるべきところを締めていかなくては風紀などまさしく風のように飛んで行ってしまうだろう。そういった意味で彼女はやはり正しい。
しかし。それは良いことばかりではない。確かに規則は大切なのだが、どうやら彼女は周囲の人間にも自分と同じものを求めているようなのだ。彼女自身が努力家だということも関係しているのだろう。彼女が周囲に求めるそれは些か常軌を逸している。誰もが自分と同じように努力できるわけではないと、常に上を向いている彼女は気付くことが出来ていなかった。
より高みを求めることは悪い事ではない。しかしそれをどこへでも振りかざすと言うならば、それはただの自分勝手に過ぎない。
何事も全力でやってきた彼女にとって、ろくに努力もしないで諦める人は見ていて気持ちの良いものではないのかもしれない。しかし、
一つ問題があるとすれば、それは彼女が自分の考えを他人に押し付けているという自覚がない事だろうか。まあ、それに関しては彼女が自分で気が付かなければいけない事だ。ただ言われることを為すのではなく、自分で考えるうことが重要なのだ。
まるで昔の自分を見ているようで懐かしい。自分が人のことを見下しているなんて終ぞ思わず過ごしていた。無意識ほど恐ろしいものはないのだと、思い知ったものだ。
妹に劣等感を抱く彼女に、どうしようもなくやるせない気持ちになった。
あれはお互いに自分の感情を押し付けあっているだけだ。相手を見ようとしていない。自分の言いたいことを言うだけなんて、まるで小さな子どもだ。何事も解決へと導きたいのなら、まずは相手のことを考えなければ。毒を吐くだけでは何も解決しない。対話しなければ。
まあ、少しずつ頑張ればいいさ。何事にも努力を惜しまない彼女であれば、いつかは乗り越えられるだろう。
言葉では表しきれないほどに、それはもう可愛らしいのだ。この世界中のどんな愛玩動物を持ってきたとしても、彼女にはかなわないだろう。
少し控えめに、けれども幸せそうに好物をつまむ彼女の姿といったら、それはもう美の女神と比べても遜色ない。
そして、それを褒められて顔を赤くして否定する彼女もまた、言葉にしようものならお番では語りつくせないほどの良さがある。正直言って最高だ。
バンドの中でギターを弾いている彼女のことが好きだ。
仲間と作り上げる音楽になにより一生懸命になれる彼女。その姿はとっても真剣で、それでいて楽しそうで。彼女が音楽を好きなのだということが伝わってくる。
好きなことに一生懸命になれる彼女が好きだ。小さな手を精一杯伸ばして、何かをつかみ取ろうとする彼女が愛おしい。
彼女の、氷川紗夜の、不器用だが真っ直ぐな生き方に恋をした。
「あぁ。好きだ」
不意に口から言葉が漏れる。抑えることのできない本音、というやつだ。やはり何事も胸の内に秘めるだけではなく、言葉にしなくては。
「紗夜。君のことを愛している」
「///」
「好きだ。たとえ何を忘れようとも、この気持ちだけは忘れないだろう。俺は君の全てを愛している」
「///」
どうした。そんなに顔を赤くして。ああいや、誤解しないでくれ。俺は君のそんなところも大好きだ。むしろ君であれば例え何であれ愛することが出来るまである。
「もう!恥ずかしいからやめてくださいと何度言えばわかるんですか!!」
「愛を理性の鎖で縛ることは出来ない。この止められない激情をこそを愛と呼ぶのだ。故に俺は叫び続ける。紗夜、君のことが好きだ。愛している」
「だから!恥ずかしいからやめてくださいと言ってるんです!!」
「羞恥心なんてものは所詮、人が前へ進むことを恐れているだけに過ぎない。なに。紗夜もすぐになれるさ」
「それっぽいこと言ってごまかそうとしないでください!」
まったく。素直でないところもまた紗夜の魅力ではあるが、こうも顔を真っ赤にしていては俺の嗜虐性が刺激されてしまう。あぁ。可愛い。
「それもこれも全て紗夜が魅力的すぎるのが悪いんだ。美しさは罪とはよく言うが、まさにこの状況のことを言うんだろう。つまり俺の行動は紗夜のせいであり、決して俺に責任があるものではない」
「そ、そうやって人のせいにしないでください!貴方なんて嫌いです!!」
なん、だと。いま紗夜は俺のことを嫌いだと、そう言ったのか。俺は。俺はこれからどうやって生きて行けばいいんだ。紗夜に嫌われた俺に果たして価値なんてあるんだろうか。いやない。もう生きている意味なんてない。あぁ。ここは地獄だったのか。
「あ.....そんなに落ち込まなくても。さっきのはただの言葉のあやです。本当に貴方のことが嫌いなわけではありません」
「.....本当か?」
「本当です」
「知ってるよ」
「もう!本当になんなんですか!?あんまり揶揄わないで下さい!」
「悪い悪い。紗夜が可愛くて、つい」
「絶対にやめろとは言いませんから、せめて場所を考えてください」
確かに、こんな人の目につく場所でやることでもなかったか。こんな某ハンバーガー屋でジャンクフードをつまみながらやることではなかった。うん。そうだな。悪い。俺が間違っていた。
「それから.....」
でも、こんなロマンの欠片もないところでも。君といられるのならそれだけで、俺にはかけがえのない時間に変わりはない。
「好きだから、こうして付き合っているんですよ」
君も.....そうだと良いな。
デッドマン・ワンダーランドという漫画を知っていますか。一応はアニメ化もした作品です。お世辞にも大衆にお勧めできるものではありませんが、OPはとてもカッコいいんですよ。
漫画の方はとっても面白いので、機会があればぜひ読んでみてください。