転生できなかった男の末路   作:通りすがりのジョジョラー

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 俺は死んだ。

 だが意識がある。これはアレですね、転生物ですね。剣と魔法の世界でイケメンに生まれ変わって、とんでもない才能とか知識とかで無双して彼女いっぱい作って……いかんいかん。その先は18禁だ。

 さて、ここは恐らく死後の世界。手足の感覚は無く、フワフワと空を漂っているかのようだ。この後神様になんやかんやと諸事情を説明されて、お詫びやらなんやらで特別な力を授かるに違いない。

 だってほら、遠くの方でお爺ちゃんが手ェ降ってるもん。白い服着た、なんか神々しい人だもん。これは勝ち確っすわ。新しい冒険の始まりっすわ。

 

 いやでも、ちょっと待てよ?

 そうなってくると、ペットのサクラはどうなる?

 

 飼い主の急死。年老いたゴールデンレトリーバー。親族は地方。なんか色々やばくないか!?

 え、もしかして保健所とか行かされる?

 殺処分とかされないよね!?

 

 やべえ……、そこら辺全然勉強してなかった……!

 まあ大丈夫とか死ぬわけねぇしとか思ってたぁ……。

 普通に死んだ……。しかもよくよく思い出してみれば、信号無視してたの俺の方……!

 

 まずいまずいまずいまずいまずいまずい!!

 

 サクラの今後、運転手さんの名誉、家族への迷惑……!

 死んでも死に切れん……。神様パワーでなかった事とかそういう問題じゃない。俺が、なんとかしなきゃ行けない事だ……。

 一人暮らしをして早十数年。俺も立派な社会人の一員として、責任はしっかり取らなくてはいけない。

 

 そう思った途端、フワフワとしていた体の感覚が急に鮮明になる。夢から覚めるように、手足の感覚も取り戻されていく。

 遠くで、神々しいお爺ちゃんが微笑みながら手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

 俺、復活。

 透けてる体、足はなく、今いる場所は空の中。

 

 幽霊として、俺は復活を果たした。

 

 ジジイーーーッ!!!

 あの笑みは分かってる奴の笑みだろ!?

 和やかに手ェ降ってんじゃねえぞ!

 しかも何処だよ此処!

 

 

 

 

 俺は空を駆け回った。それこそ四六時中。幽霊なお陰で疲れも眠気も無かった。そして、俺の家も無かった。

 此処が何処かすらも不明だ。何せ、文字が一切読めない。黒いモヤがかかっているからだ。人の顔も同様で、体型から性別とかぐらいしか分からない。これでは何も分からない。人は俺のことを認知しないし、俺も他人を知ることが出来ない。一切情報が無い中、疲れこそ無いとはいえ人の足の速度でそれほど移動出来るはずもなく……。

 八方塞がりという奴なのではないだろうか。

 せめて、せめて文字さえ分かれば此処がどの辺かは把握できるのに……!

 あのジジイ、もしかしてわざとやってんのか?

 いや、もしかしたら幽霊ってのはこういうもんなのかも知れない。

 

 俺以外の幽霊見たことないけど。かなり珍しいのかな?

 まあそりゃそうなのかも知れんけどさ。

 

 悲しい事に、俺はこの世界にとって不要な存在らしい。何も出来ないという事は、何もしなくていいという事。

 ああでも、幽霊になってしまったとしても、俺は俺の家に帰りたい。

 サクラが待ってる。

 時間が無いのに、時間のかかる方法しか取れない。

 

 

 それが余りにももどかしい。

 

 

  ○●○

 

 

 この世界には幽霊がいる。大きいのから小さいの。強いのから弱っちいのまで盛りだくさんだ。

 周りの人は見えてないようだから私も黙ってるけど、実は幽霊と人間は隣り合って生きているのだ。その証拠に、今日も電車で肩に乗せてるサラリーマンを見かけた。その人の顔がめっちゃやつれてたから、少なくとも無害では無い。むしろ有害でしか無い。

 百害あって一利なしとはよく言ったもので、幽霊なんてこの世のガンみたいな物だと私は思っている。だから、こっそりと撃退しているのだ。

 そう、私は除霊ができる。そのサラリーマンに取り付いてるやつみたいな弱っちいのはデコピンするだけで消えていく。たまに見かける強いのも、殴ればイチコロだ。

 十七年間生きてきて、私に退治できなかった幽霊はいない。

 

 これは私の唯一と言っても過言では無い誇りだ。誰よりも直接的に、この世に役立ってる自負がある。

 事実、この街は他のと比べて景気も良く、笑顔が溢れた素晴らしい街で、移住者数は全国一位、犯罪数も日本どころか世界でもトップクラスの少なさ。

 

 えへん。

 

 だが、そんなこの街に、不穏な影が這い寄りつつあるようだ。

 その証拠に、今朝だけでもかなり強い幽霊が三体。弱いのも久しぶりに二桁を超えた。こんなの、一年にあるか無いかくらいの厄日だと言うのに、こんな調子が数日は続いている。

 明らかにこれは異常だ。

 

 私の推測では、とんでもなく強い幽霊がこの近くにいる。もしくは既にこの街の中に居座ってる。後者の可能性が高いだろうか。

 

 此処で幽霊についての私の予想を振り返ってみようと思う。

 幽霊とは、恐らく意識のない思念体。人が死ぬ直前に抱いた強い感情がこの世に残った事で生み出される物と思われる。つまり、その時の感情の強さや複雑さ、鮮明さによって幽霊の強さが変わるのだろう。

 怒りや殺意なんかは強い幽霊を生み出す、みたいな感じ。

 

 これが私の予想。真実がどうかは知らないが、少なくとも幽霊にハッキリとした意識、意思が無いのは事実。

 そして、感情というものは伝染する。これは生きている人間も幽霊も変わらない。デモやお祭りなんかがいい例だろうか。集団では、人の感情は自然と強くなる。周りのより強い感情に呼応して。

 幽霊もまた、強い感情に呼応して強くなる。実験というか、経験した事があるのだ。

 アレは、強い幽霊と弱い幽霊が二体同時に出た時の事。弱い方から除霊しようとした私は、デコピンする直前に、そいつが段々と大きくなっている事に気付いた。あ、ちなみに幽霊は、強ければ強いほど大きくなるか、人型に近づいていく。これも経験論だ。

 そしてその幽霊の体は、つい先程の倍以上に膨れ上がっていた。これはまずいと思った私は、咄嗟に右ストレートで除霊こそしたものの、あのまま放置していたら、強い方と同じくらいの大きさになっていた事だろう。

 

 そして今。その現象が頻繁に起きている。

 これはもう、確実と言っても良い。かなりヤバいのがいる。恐らく史上最強クラス。この街の外にすらその影響が出ているらしく、さらに、犯罪数は増えこそしないものの、数少ない友達の何人かの機嫌がかなり悪くなっていた。案の定、幽霊に取り憑かれている。こっそり除霊効果のある私特性お守りを忍ばせていたと言うのに。勿論即除霊した。

 

 そして、ついに私は見つけたのだ。その幽霊のいる場所を。

 そいつはやはりこの街の中にいた。

 人のよく集まる中央公園の、噴水のある広場、その上空。

 空を飛んでる奴は初めてだ。やはり規格外。だからこそ、コイツの居場所を特定する事が出来た。

 私はつい先日、とある事に気付いたのだ。

 

 ここ最近急増した幽霊全てに当てはまる共通点。それは、幽霊の大規模な移動。

 まるで何かに恐れ慄き退散するかのようにとある場所から離れていく幽霊達。毎日を幽霊退治に費やし、その研究を怠らない私だからこそ掴んだ手掛かり。

 私は思った。幽霊達が離れるその中心部に何かがあるに違いないと。そして、その場所こそが此処だった。

 

「これが……」

 

 この事件の大元。恐らく、私の人生史上、最大最悪の幽霊……!

 

 膝を抱え、眠るように沈黙しているそいつの顔には黒いモヤがかかっており、その表情を伺う事は出来ない。だが、余りにも人間に似通っているその体からは、常時圧のような物が発せられていた。

 恐らく男だ。と、性別が分かるくらいには人型として完成していて、その異常さがよく分かる。

 

 まさかこれ程とは……と、思わず固唾を飲んでしまう。

 

 ダメだ、多分勝てない……

 

 その日私は、初めて敗北を知った。

 

 

  ○●○

 

 

 幽霊になって初めて、顔にモヤのかかっていない人間を見た。

 その子はまだ若く、恐らく高校生ぐらいだろう。私服だったので分からないが、職場の同僚よりかは若々しい。同僚が聞いたら殺されそうだ。もう死んでるんだが。

 

 それはそれとして、なんだか嬉しい。

 彼女も俺の方を見ている。バッチリと。それはもうバッチリと。

 ガン見である。なんだか照れるな。恐らく、幽霊を初めて見たのだろう。デュフフ、ごめんね、初めてが俺で。って変態オヤジか俺は……

 

 手を振ろうとして、無視された。その子はスタスタと歩き去っていく。まるで何事も無かったかのように。

 

 

 え、悲し……

 

 

 

 

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