転生できなかった男の末路   作:通りすがりのジョジョラー

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 俺が幽霊となって恐らくもう一週間だ。

 あれからと言うもの、あの女の子を探し出す事だけを目標に活動してきたと言うのに、恥ずかしいことに、何も成果は無い。

 

 そもそも大学生ですら無いのでは?

 という事は探し始めた直ぐ後に心の何処かで分かってはいた。だからって、社会人の場合、見つけるのはほぼ不可能。高校生だとしても社会人程ではないが数が多すぎる。

 

 

 どうすれば良かったのだろう。

 と、俺はあの時あの娘と出会った公園で考えてみた。

 

 そもそも最初についていけば良かったのでは?

 そんな勇気は無かった。今は心底後悔しているとも。

 

 幽霊になっても後悔ばかり。

 というか、何故俺はあのジジイに幽霊にされたのだろう。ただのミスでは無いと思う。幽霊になったばかりの頃は、そう言った創作物よろしく、あるあるの神様側のミスか何かだと思っていたが、それはそれでおかしい。

 何故ならば、もしも神様側のミスなら再び干渉しきてもおかしくはないからだ。しかし、それは一切無かった。あんないい笑顔で送り出されたのだ。あの笑みには何かがある筈。

 

 それこそ、あの娘に深く関わっているのでは?

 だからあの娘だけ顔が見える……とか?

 

 うーむ、うーーーむ。分からん。

 だが、やはりあの娘だけが唯一の手掛かりであることに変わりはない。謎ばかりの今、唯一分かることといえば、顔にモヤのかかっている人といない人がいるという事だけ。そして、かかっていないのはあの娘のみなのだから。

 あの娘と俺に関係がある?

 血の繋がり……無いな

 実は知り合い……という訳でもない

 同級生の娘とか……あいつら元気にやってるかな

 

 いやいや、今はそんな事はどうでも良いんだ。

 あの娘と俺の関連性、その発見をだな……

 

「それでね、初めてここでその幽霊を目視したの」

「ここが……」

 

 え?

 この声は……まさか……!

 

「何かわかる事とかあるかな?」

「え、え〜っと……」

 

 あの娘だ!

 なんか一人増えてるが、あの時の女の子に違いない!

 制服……という事は、そうか、大学生でなく、高校生だったのか。つくづく自分には観察眼とやらが無いらしい。

 いや、今は自虐の時じゃ無い。あの娘は以前、俺を見て逃げた。という事は、今見られてもまた逃げられる可能性が高いという事……。

 見られるわけにはいかない。その上で、なんとかして情報を集めなければ……!

 あの隣の子も気になる。話してる内容は全て聞き取れなかったが、どうやら俺関連の事らしかった。助っ人か何かだろうか。

 

「ご、ごめんなさい……分かんない……です」

「そっかー……」

「あ、で、でも!」

「分かってる。さっきまでめちゃくちゃ居た幽霊達が姿を消した」

「と、という事は……やはり……」

「うん、近くにいるかも……!」

 

 え?

 な、なに?なんて?

 今さらっと重要な事言ってなかった?

 幽霊がめちゃくちゃ居た?

 え?

 

 ドユコト……?

 

 

○●○

 

 

 今田さんと話し合った結果、まずは今田さん自身が幽霊を認知しなくては、出来ることも出来ないのでその特訓と言うことになった。

 やる事は簡単。私の幽霊退治に付き合って、生で幽霊の感覚を知ってもらう。

 多少力をつけた幽霊には、物理的な破壊力を持つタイプがほんの少しだが現れる。所謂念動力と言った、物を触れずに動かす奴もいれば、単純に殴って蹴ってぶち壊す奴もいる。

 なにが言いたいのかというと、その現場を彼女に直で見てもらい、ほんのちょっとでもいいので互いに干渉する作戦を実行する、という訳だ。

 早速、私達はザコ幽霊退治に出かけた。

 日に日に増えていく幽霊を見つけるのは、もはや見ないフリする方が難しく、ほんの数秒後に結構デカめの幽霊を発見した。

 あちらは何故か興奮状態で、かなり暴れ散らかしていたので、かなりスムーズに彼女の特訓は終わった。

 元々素養はあったのだろう。雑談してたときにふと気になって聞いてみた事だが、彼女が生粋のオカルト好きになった理由は小さい頃に本物の幽霊を見た事があるかららしく、しかもそれは人型で、何故かボロボロだったという記憶が残っていると彼女は語っていた。

 人型という点で、今私がなんとかしようとしている件に関係あるのかもしれないし、無視はできないと私は心のメモにそのことを書き込んだ。

 それから彼女の成長はめざましく、今となっては私の優秀な助手である。しかも、彼女の持つ洞察力や記憶力、情報量などは特に優れており、むしろ私の方が助手なのでは?と時折思ってしまう。ほら、考える担当の探偵と、体張る担当の助手……みたいな?

 

 いやいや、そんな筈は……

 

「そ、それで、ですねっ!? やはりここは……」

「え、ご、ごめん聞いてなかった」

「えっ!?」

「いやほんとごめん、も、もう一回言って?」

 

 しまったー!

 考えるのにのめり込みすぎた!

 今田さんに悪いことをしてしまった。あぁ、ごめん……!

 だからそんなにしょんぼりしないでー!

 

「あ、あの……」

「ふむふむ……」

 

 彼女が言うには、目標となる公園の幽霊の情報が少なすぎるとの事。今まで結構な数の幽霊にあたっては見たが、そのどれもが雑魚すぎた。

 今田さん的には、そんなにその幽霊は強いの……?

 と言うことらしい。つまりこの目で見てみないとヤバさが実感できない、と……。

 

 や め と け

 

 としか言えない。ここはもう少しだけ経験を積んだ方がいい。その方が、多少とは言え耐性も付く。

 十数年間幽霊と付き合ってきた私だからこそ言えるが、高々数日だけ幽霊と関わった程度では、アレの威圧やらなんやらには耐え切れないだろう。

 

「そ、そこを……なんとか……!」

「えぇ……、何でそこまで?」

「わた、私があの日見た……幽霊、かも、しれないから……」

「!」

 

 確かに!

 言われてみればそうかも知れない。実際私もあそこまで完成している人型幽霊なんて今まで見たこと無かったし、十年や二十年生きてる幽霊なら、あそこまでの威圧を放つのも納得できる。

 感情をより長く燻らせた幽霊の力がその時間の分だけ強くなるのは私なりの研究で分かっていることだ。

 他の街は知らないが、私は幽霊が出たその日になるべく狩るようにしている。一日置いた幽霊は、注意しなくてはならないほどに力を増すからだ。十年、それはあまりにも長い。二十年なら尚更だ。

 それなら勝てる気がしないのも頷けるか……

 

 いやいや、頷いちゃダメなんだってば!

 とにかく、今田さんの言う昔出会った人型幽霊が、あの公園の幽霊と合致するなら、それはかなり最悪でかなり良い情報だ。

 力の差がより分かりやすくなるというもの。

 少し不安ではあるが、確かに価値はありそう……

 

「……分かった」

「ほ、ほんと、ですかっ!?」

「うん、やるだけやってみよう!」

「は、はい!」

 

 

○●○

 

 

「姿を隠している……? あれほど強力な幽霊が……?」

「え、こ、この近くにいるんですかっ!?」

「うーん、そうかもね。何らかの理由で見えないようにしているとか」

 

 俺を探しているのか?

 何でだろう……?

 あの時は逃げたが、今になって興味が湧いたのだろうか。隣にいる子もうっすらとだが顔が見える。モヤが消えかけているのか。

 霊感が強い人はモヤが消えるとかだろうか。

 もしかしたら、隣の子に話したら興味を持たれたとかで仕方なく来ているのかもしれない。

 ……いや、それは考えすぎか。

 

 とにかく、俺の姿を御所望なら、別に減るもんでもなし、見せるしかないだろう。

 

 彼女らはかなり離れたところにいる。目測だが、200メートルと言ったところか。

 そう、実はこの間のことだが、俺の足はかなり速いと言う事が判明したのだ。その速さは、一瞬で数百メートルもの距離を移動できるほど。まさに人外である。

 肉体無くなって身軽にでもなったんですかね。

 どれ、彼女達にもこの足の速さを披露するとしますか!

 

 ふんぬぅ!

 

「どうする? 探してみる?」

「え、えーと……」

 

 やべ、通り過ぎちゃった。速すぎるのも考えものか……。今度は調整の為の練習でもしよう。とりあえず彼女らに見える位置に移動して……と。

 

「き、今日はご縁が、な、無かった……のかな」

「そうだねー。よし、帰ろっか!」

 

 歩いて近づくにつれ、はっきりと聞こえてくる会話。振り向く二人。

 目?が合った。

 

「へ?」

「……え?」

 

 『………………こんにちは』

 

「ひいっ!?」

「あ、あう……うあぁあ!」

 

 二人のうち、顔がはっきり見える方が急に叫び声を上げ、モヤが消えかけの方が膝を震わせ、後ずさる。

 

 これ俺どうすればいいの?

 

 あ、帰る?

 邪魔しちゃったというか、驚かせちゃった?

 それは申し訳ないことを……それにしてもめっちゃビビるやん自分ら。俺は悲しい……。

 幸いにも近くに人影は見えない。二人が急にビビりだした変人と勘違いするような人はいないらしい。良かった良かった。俺のせいで二人に変な噂を流させたくない。

 

「に、逃げるよ!」

「はーっ……はーっ」

「早くッ!」

 

 そして二人は、路地裏で現れた露出狂を見た人の如く、逃げ去っていったのでした。

 自分、一人泣きいいすか?

 え、だめ?




この時主人公は、唯一自分の存在を認知してくれている二人を見てかなり舞い上がっています。
つまり色々やらかす。

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