またもやしばらくかかると思います。m(。>__<。)m
それではどうぞ!!
男が崩れ落ちたその向こうには神座無慙が佇んでいた。
その身体は血にまみれ、刀からは先程家主を刺した時についた鮮血が滴っている。
思わず声をあげる。
「な、なんで!どうしてその人を殺したんですか!」
どうしてあなたがそこに立っている?
その返り血はいったい何?
その刀の切っ先は今この瞬間に見たばかりだ。
目の前で起きた凶事に思考がついていけない。
私も危機に瀕していたから言うのは間違いかもしれないが、確かに彼は鬼に協力をしており人に害を仇なすものではあったが、ただの人であった。
鬼殺隊は鬼を殺すもの。決して人に害するためのものでは断じてない。
それなのに目の前の男はどうだ?
何を斬った?
縄から抜け出そうと身をよじるも抜け出せない。
神座無慙に問い詰めようとしたいが、これでは出来ない。
代わりにそのままの格好で怒りのままに睨む。
「なんでこんなことをしたんですか!…なんでっ。彼は鬼から護るべき対象なんですよっ?」
「鬼から護るべき対象?貴様にこんなことをして、あんな妄言を述べておいてか?」
─聞かれていた…!
先程のやり取りを聞かれていたか。
それでも言い募る。
「そ、それなら気絶させるなりなんなりしてやりようは他に幾らでもあったんじゃないですかっ?」
そうだ。
気絶でもさせて情報を聴き出せば、鬼の居場所が分かったかもしれないし、今後こんなことをさせることもなかったはずだ。
決して殺す必要はなかったのだ。
「くだらん」
そんな詭弁めいた私の言葉を切り捨てる。
「こんな輩は1度やり始めると同じことを繰り返す。ましてや鬼に協力?死して当然だ」
侮蔑をもって吐き捨てる。
身内を、大切な人を殺された仇とでも言うかのように死体をにじり踏む。
山でのやり取りが浮かび上がってくる。
ただ彼にとって鬼は殺すだけで村は最悪見捨てるとでも思っていた。
だから私は村を守ると決めた。人を殺すとまでは思わなかった。
なのになんで。どうして彼が人を殺す?
思考の渦に囚われ始める。
「まだ残っている」
そんな私たちのことはもう既に終わったことなのか、神座無慙はそこから立ち去る。
それに意識を戻された私は再びもがきだす。
しかしながらやはり抜け出せない。
ふと視線を向けると盗られた刀が男の手から離れ転がっていた。
幸い縛られているのは腕だけだ。
足を伸ばせば届く距離である。
そのまま足で刀を手繰り寄せると、悪戦苦闘しながら刀を足で挟んで鞘から抜く。
そうして刃を縄に当てて動かす。当然足で刀を動かしているのてすんなりと斬れはしないがそれでも少しずつ着実に切れ目は走っている。
直ぐに刀で斬らなくても自分の手で縄がちぎれるようになった。
拘束を解くのに思ったよりも全然時間がかからず5分も掛からなかったが、小屋から立ち去る神座無慙の言い方が気になる。決して逃してはいけない言葉のように。
─まだ残っている。
つまり、鬼がもう既に村の中に居るのか、もしくは他にも協力者がいるのか。
前者ならまだいい。いやそれは良くないが。しかし、後者なら尚更ダメだ。
あの男は殺すだろう。ただ鬼に協力したとして。
急いで小屋から抜けだす。
走る。
走る。
走る。
そうして走っているうちに頭の隅によぎっていた悪い予感が、想像を超える最悪な予感が実現していた。
─あぁ、なんてことだ。
人が地に伏して死んでいる。いや、殺されている。
しかも1人や2人ではない、もっと多くの人が死んでいる。
暗くてはっきりと認識は出来ないが、殺されてからそんなに時間は経っていないだろう。
私が村に着いた時わざわざ村長の元まで連れていってくれた優しい男性、編み物を丁寧に教えてくれて休憩時には沢山話しかけてきてくれた女性、無邪気にはしゃぎ遊んでいた子供。
その全てが首を斬られ骸と化していた。
首なしの身体、身体のない頭。バラバラに惨殺され、辺りに血の池が幾つも出来ている。
もうこれでは人がただ単に倒れ伏していて生死の判別が分からない、という少しの希望さえない。
まさしく文字通りの死屍累々。
この惨劇に胡蝶しのぶは息を呑む。
これは鬼の仕業でない。鬼ならば死体は喰い荒らされ、言い方はあれだがもっと汚く死体があちらこちらに飛散しているだろう。
綺麗に首が斬られていることから、実行したのはもう分かりきっている。あの男だ。
震える脚を無理やり動かして前へ進む。
せめてまだ残っているであろう人々をあの悪鬼羅刹から護るために。
実力は絶対的にあちらが上だ。それでも、と前へ進む。
「早く追いつかないとっ……!」
何処だ、何処にいる?
──......。
聞こえたっ!
神座無慙の発するものでも鬼の発するものでもない、村人の悲鳴だ。
どちらにせよ悲鳴が聞こえるということは1秒でも無駄に出来ない。
直ぐに駆けつけなければ、両者から殺される前に。
走る。
何処だ。
悲鳴はこちらからだ。
「い、いやだっ!何だ!助けてくれぇ!」
村人が尻もちをついて何かから逃げようとしている。
見えた。
その瞬間、身体に力を入れ今まで以上に加速する。
そして下からすくい上げるように刀を振るう。
手に走る衝撃。
何かが宙に弾かれる。
刀に弾かれたそれを見れば分かった。
手だ。手からは鋭い爪が伸び、手、腕全体に常人ではありえないほど浮かび上がった血管が見て取れる。
その腕の先に居た。
─鬼だ。
見た目どうこうではなく、感覚でもう分かる。
日向で生きる生き物ではない。闇夜でしか過ごせない憐れな生き物だ。
呼吸を整える。
呼吸を変える。
──全集中の呼吸。
それは鬼殺隊士が鬼を殺す為に必須な技術であり、鬼と渡り合うために瞬間に身体能力を大幅に強化する特殊な呼吸法である。
刀を構える。
──花の呼吸 肆ノ型 紅花―。
目の前の鬼に対して技を繰り出そうとする。
だかそれは途中で辞めざるを得なくなった。
原因は目の前で起こったことが物語っている。
鬼が目の前で爆散する。
──怨の呼吸 伍ノ型 噴怒。
血肉を粉砕し、ばら撒き、地面に大きな亀裂を入れながら神座無慙が上から舞い降りる
まるで破城槌を上からぶち込んだかのような破壊の衝撃が見て取れる。
その姿はつい先程去ってからさらに血を浴びていて一見どちらが鬼か分からなくなる。
姿が見えた途端に身構えるが、そうもしてられない。次の瞬間にはその姿は見失う。
─何処にっ!
そう思ったのもつかの間。
背後からの敵意、そしてくぐもった唸り声がする。
咄嗟に前に跳んで身をひねりその場から離れようとする。そして目に入ったのは先程爆散した鬼と同じような姿に変化している村人だった。
こちらに手を伸ばしていていたようだったがそれは叶わなくなる。
直ぐにバラバラになった。次には首が宙を舞っていた。
また神座無慙だ。
「…45」
もう困惑するしかない。
まさかの村人に裏切られ、さらに目の前で殺された。
次に、村人を鬼から助けたと思ったら、その村人が鬼になっていた。
怒涛の出来事に胡蝶しのぶはもう着いてけなかった。
何も出来ず呆然とそこで立ち竦む。
神座無慙がこちらを見ている。
そのまま腰を深く落とし刀を突きの構えにとる。
深く、深く、怨嗟の声が身体全体から滲み出すかの如く、敵対するモノの根絶を求める凶剣が鎌首をもたげる。
切っ先がこちらに向かう。
まるで巨大な獣の口を前にしているかのように、確実に殺すという意思が、威圧が高まってくる。
慌てて刀を構えるが切っ先はブレ、脚は震える。
「46。終わりだ」
──怨の呼吸 壱ノ型 牙怨。
胡蝶しのぶが瞠目するのも一瞬。
呼吸から生み出される凄まじい勢いとともに突貫してくる。刀を慌てて構え直すももう遅かった。
気付けば目の前に。
そして、その脇を通り過ぎる。
次に来たのは背後からの軽くはない衝撃だった。
小柄な体躯が吹き飛ぶ。
飛ばされながら目に入ったものは、先程と同様の肉塊だった。だが、その大きさは先程の比ではなかった。
衝撃と技によりグズグズと、肉が崩れ落ちている量は最初に見た鬼の5倍は軽く超えていた。
そしてなりより特徴的だったのは、コロコロと地面を転がり、私の目の前に転がってきた鬼の頭。
それは村長の顔をしていた。膨れ上がった肉に溺れかけていた顔のパーツだったがそれでも認識出来たということはそういうことだ。
自ずと分かってくることもある。この村の住人は鬼に化けたということだ。どういう原理でこのような多くの人数が鬼に成ったのかは分からないが、最初に対峙した鬼も、鬼に成りかけていた村人も、この村長もこの村特有の服を着ていた。
彼はただ鬼を殺していた。
多分そうだ。鬼を、鬼になる可能性を秘めた村人を殺しただけなんだ。
うつ伏せに伏しながらそう思う。
肉体的、精神的疲れ、また吹き飛ばされた衝撃で身体のいうことがきかない。さらに瞼がだんだん自分の意思とは逆らって下がってきている。
─思い出した。
自分の姉と一緒にお世話になっている屋敷は鬼が原因で怪我をおった人達を治療する病院みたいなことをしていた。
日々鍛錬をし、鬼を退治し、患者を治療していたある日、血に濡れていない場所がないのではないかというくらい全身血塗れの重傷者の男が運ばれてきた。
ただそれだけだと単なる重傷者で終わったが、彼は違った。目を覚まし自身の怪我の程度を確認すると直ぐに鍛錬し出したのだ。
無論傷口も塞がっていない状態で無理な運動をすれば傷口が広がるにも関わらず黙々と剣を振り続ける。
いくら怒っても全然聞き入れてもしてはくれなかった。動き続ける置物にでも話しかけているようだった。
彼が移動した跡には血痕が残り、鍛錬している場所付近では彼の血が飛び散った。
さらに怒りが募った。
姉は怪我をしていること自体には心配はしていたが、血についてはあらあらと微笑むだけ。
なんでよ。簡単に笑っているが綺麗にするのは私なのよ。
男が滞在している期間、胡蝶しのぶはずっと怒りを抱いていたと思う。
だが、怪我の治りは誰よりも早かった。気がつけば半月経つかどうかで粗方の傷は塞ぎ、もう出立できるようになった。
彼が去ってから気が付いた。そういえば彼の名前を聞いていない。
ずっと鍛錬を繰り返しそれについて咎め、血をあちらこちらに付着させそれについて咎め、何度療養しろと言っても言うことを聞かず、問題行動ばかりしていて名を聞く暇もなかった。後々鎹鴉に聞けばよかったが、他の怪我人の治療、さらに任務も入ってきたなどでその後さっぱり忘れていた。
神座無慙とは血を振り撒き鍛錬する彼の事だったのではないか。
また別のものではあるが口面を付けていたし、なりより当時は何に対してかは分からなかったがあの常に何かに憎悪に塗れ怨念を抱いていた冥い眼光。今更ながらあれよりもさらに酷くなったのだとしたら神座無慙に該当する。
そう胡蝶しのぶは思いながら、瞼を完全に伏せた。
意識が闇の底に落ちる前に、暖かく刺すような刺激が瞼の裏側を照らしたと感じたが、それを認識することは出来なかった。
神座無慙は朝日を浴びながら生き残りがいないか村の中を、あるいは家の中まで確認していた。
既に鎹鴉で伝達はしてあるから隠、─事後処理や支援専門とする鬼殺隊の非戦闘部隊、が直ぐに到達するであろう。
今回はだいぶ手間取らされた。それが今回の任務の浮き出た感想だった。
初日から鬼を見つけ即刻首を刎ね殺したが、そのまま首を再生させながら逃げ出したのだ。
直ぐに追いついて再び殺したがそれでも殺しきれなかった。仕舞いには見失う始末。苛立ちが溢れた。
その日はそれで費やしたが、2日目以降も同じ様だった。
3日目から鬼はこちらが己を殺すことは出来ないと高を括ったのか見下しながら嘲笑い始め、愚かにも、もしくは能力に絶対な信用を用いているの愚かにも自身の能力を声高々に自慢してくる。
「クハハハハ!お前ごときに俺が殺せるかよ!俺の血鬼術・無再根がある限りなァ!あの村の餌どもに俺の因子を埋め込んである。それがある限り俺は朽ちん!貴様に人間は殺せんだろうなァ?クハハ!」
とりあえず死ね。今すぐその煩わしい口を消しされ。
直ぐに目の前の塵を片したが、またもや逃げられた。
しかもただ鬼の肉体が残るだけではなく爆散する。
これがさらに神座無慙の怒りを募らせる。
とりあえず山での探索を終わらせ、鬼が言っていたように村人の観察を次に始めた。
鬼を殺しながら観察を始めてわかったのは鬼の言ったことは本当だということだ。
村人は血鬼術で気付かないのか知らないが、確実に人数は減っていた。
5日目には57人いた村人は11人減っていた。これは神座無慙があの鬼を殺した回数だ。
より詳しく調べるために手短に1人解剖して分かったが、どうやら心臓部位に肉芽のようなものを埋めてあった。これが鬼の不死の理由だろう。鬼が死ねば肉芽が発達し宿主を喰らい復活する。なんともまあ生地汚い輩だ。
さらに村人自体に脅し、甘言を垂れ、一部のものだけだが別からやってきた旅人や鬼殺隊を鬼に捧げていたことも分かった。
もうそこまで調べあげたらやることは1つだ。
決行は今夜だ。
そうして今、朝を迎えている。
何やら着いてきた小娘も鬼共の餌食になりそうだったが、おかしな勘違いでもしていたのだろうか妄言も述べていたが知らん。
朝日の向こうから鎹鴉が飛んできた。
隠が到着したのだろう。
さっさと引き継ぎをして次の任務に映りたい。鬼どもを早く鏖殺しにしなくては。この今、魍魎跋扈している鬼を殺さなくてはどうする?
だが、肩にとまってきた鎹鴉からの連絡は神座無慙の関心を向けさせる程のものであった。
こうなれば仕方がない。
鎹鴉に着いてきた隠の部隊に速やかに状況の説明引き継ぎを行わなければ。
そうして神座無慙は死体を確認していた足を鎹鴉の方へ向け隠の元へ向かって行った。
〜大正コソコソ噂話〜
しのぶ「今回でようやく神座さんの呼吸法が分かりましたね。彼の呼吸は岩の呼吸の派生とされていますが、裏の方では自分で1から編み出したものだ、と噂されています。もしそうだとしたら本当に凄いことですね!」
無慙「次回『柱』」
裏設定
時期としましては、胡蝶しのぶが最終選別を終えてから暫くして、という時期になっております。そこでまだ、蟲の呼吸を完成させておらず姉と同様の花の呼吸を使っている設定になっております。