殺すなら、死ぬまで殺せ、鬼殺隊   作:茨月

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大変長らくお待たせいたしました。
言い訳は致しませぬ。全ては某の所業にて。

それではどうぞ。


伍殺

突如として柱として認めないと言われた神座無慙は特に変わった様子もない。そのまま沈黙を保っている。

 

「槇寿郎。何故かな?」

 

槇寿郎。炎柱、煉獄槇寿郎。炎の呼吸の使い手として柱となった男は神座無慙を否定する。

他の柱としても同じらしい。神座無慙を見る目は険しい。

 

「その男の所業お忘れではないでしょうか!今までの数々の命令無視!隊律違反!認識しながらも被害を拡大!更には無垢なる民に手をかける始末!この事実は流石に無視できません!逆に柱合裁判にかけるべきではありませんか!」

 

理由を聞いたら出るわ出るわ。一体何を思えばそんなにする必要があるのか逆に問いたいくらい煉獄槇寿郎の口から出てくる数々の所業に呆れと侮蔑、危機を持っていた。

 

「それはとても悲しいことだ…」

「ど派手にやべぇな、こいつ」

「……」

 

他の岩柱や音柱もその内容を聞き感想を漏らす。

これこそが神座無慙が胡蝶カナエよりも早く柱に就任しなかった理由だ。

ようやく分かった胡蝶カナエもこれには引くしかなかった。

このような悪逆非道な事例を容認してしてまえば、鬼殺隊は鬼から人を護るのではない、鬼を殺すために何をしても良くなっていいことになってしまう。神座無慙の所業はそれに近しい。

それを無視して柱になってしまえば第2、第3の神座無慙が現れる可能性もなくはない。

そのような可能性も踏まえて神座無慙は危険だと煉獄槇寿郎は忠言を行う。

流石にそんな未来は嫌だなぁ。

唐突の怒涛の流れをなんとか話を聞いてる胡蝶カナエはそう思った。

 

「槇寿郎、君の言いたいこともよく分かる。無慙のやっていること確かに過激だ。褒められることではない。しかし、決して間違っているという訳でもない。」

「お館様それはっ!」

「彼が手にかけたものの中には鬼、もしくはあまり言いたくはないが救いのない人々だ。鬼と分かりながらも自ら協力を申し立て人の平和を脅かそうとする者。鬼によってこれから鬼になるか、死ぬかという者。これらも占めている」

 

ちなみに産屋敷耀哉の言ったことに間違いはないが、残念ながら無垢なる民も占めている。

流石にこればかりは神座無慙の情報が多すぎて選別しきれなかった部分もある。

しかしながらその情報は周りへは共有されることは間に合わず、今こうして反対意見が出ている。

 

「しかしそれだけでは納得できません!」

「無論皆の気持ちもよく分かる。だけど、そろそろ他からの声も無視できなくなってきたんだよ」

「…どういう意味でしょうか?」

 

言っていることが分からない。他からの声?一体なんだと言うのか。畏れ多くもお館様へ具申をしたというのか。不敬に値するぞ。

 

「一部の剣士(こども)たちから声が上がっているんだ。神座無慙はまだ柱にならないのか?彼ほどの実力者が何故?とね」

「…だからなんだと言うのです?一部の者だけだと言うならそう言わせておけばいいのです。そもそも他人に期待するなど以ての外。自らの使命を他人に任せるなど!」

 

声を荒らげる。全く持って嘆かわしい。いつから鬼殺隊はこんなに脆弱になった。決して柱は望んで辿り着けるような地位ではないのだ。人的消耗の酷いこの鬼殺隊では柱になれる者など限られた人間だ。別に柱になれと強要している訳では無い。だが、自ら強くなろうとせず他人に任せようとするその魂胆が気に障る。

 

「確かにそうだ。しかし、それはこの前のこと。最近になってその声が剣士(こども)たちの約2割を占めるようになってきた。それも階級の高いもの達を中心に」

「なっ!」

 

これには驚きを隠せない。高々数人なら2割と言っても取るに足らない数だが、母数が増えるほどその数はだんだん無視できなくなる。

さらに階級が高いもの達となると人数は下の階級の人数よりも減る。その階級のもの達が中心となると柱のすぐ下の階級の殆どは神座無慙が柱になることを望んでいると同義だ。

ここで言い訳するなら必ずしも他の隊士達は神座無慙の行動自体を認めている訳では無い。だが、その鬼を殺すという心意気は認め、憧れ、期待をしていた。それが今回の件に繋がる。

彼は死なない。

誰よりも苛烈に、過酷に、鮮烈に。どれだけ絶望的な状況であっても彼は死なず鬼を殺す。

時には、任務以外の別の人の任務にまで乱入してまで鬼を殺している。

確実に鬼を殺す、そのような姿は柱とまではいかないが、鬼殺という行為では確かな信頼を寄せられるようになっていた。

 

「それに無慙はもう軽く鬼を100体超える数を討伐している。さらには下弦の鬼を討伐もしている。今まで無慙のしてきたことによって柱の任命を見送っていたが、流石にこれらの功績を無視するわけにもいかなくなってしまった。さらに言うなら、今の鬼殺隊に無慙を柱にしないなんて余裕もないんだ」

「それは、仰る通りですが……」

 

産屋敷耀哉の言うことに煉獄槇寿郎は言い淀む。確かに今言われた功績を考慮すると神座無慙が犯した所業を相殺いや、それを完全に上回る。

また今の、いや、ずっとながら鬼殺隊には余裕がない。鬼と比べて人間は非力である。呼吸を用いた戦いをしているがそれも技術の一つである。圧倒的な力の前には通じないこともある。

そんな鬼殺隊に無慙のような戦力はどうしても放っておくことは出来なかった。

産屋敷耀哉は神座無慙の報告を初めて聞いた時、心の中に湧き出た感情に名前をつけることが出来なかった。このままではいけないという自身を諌める心と神座無慙という鬼を殺すことに関しては鬼殺隊の中でも上位に入るかもしれない素質を持った素晴らしい剣士(こども)が来てくれたことを盛大に歓迎するじぶんがいた。

その後も報告を聞き続けても、その感情に名前をつけられることはなかった。

だが、鬼殺隊のこの先を確実に大きく動かす一端になるだろうと確信していた。

 

「納得はいかないかもしれない。だが理解はして欲しいんだ。今、剣士(こども)たちの中にも見所がある子も沢山いる。酷な事を言うけれど鬼舞辻無惨を倒すためにも必要なんだ」

 

普段は穏やかで安らぎを与えてくれる産屋敷耀哉の顔が今は納得させようも気迫のある表情を浮かべている。そんなに期待をされている神座無慙には一体何があるのか、という疑問と同時にお館様にこんな顔をさせるなんてずるいという気持ちを抱く。

ここまで言われたら渋々だが認めるしかないだろう。

 

「…承知致しました、お館様。神座無慙の柱の就任、歓迎いたしましょう。だが、最後に神座無慙、お前に1つ聞ききたい」

 

神座無慙の柱就任をその場で1番反対していた煉獄槇寿郎が認めたことで他の柱もそれならばと渋々といった様子ではあるが取り敢えず認めたようだ。

そして最後にあまり関係がないようだがその名を聞いた時から尋ねたいことがあった。

先程から動いていなかった神座無慙に問う。

 

「神座無慙…。その名と鬼舞辻無惨とどのような関係がある?そのような名は全く聞いたことがない。その呼び名はお前と鬼舞辻無惨しかいない」

 

無慙。無惨。むざん。字は異なるが同一の読み。確かにこのような名はてんで聞かない。ならばこそこの2人には関係があるのか疑うのも無理はない。

周りの皆も神座無慙に視線を集める。

こればかりは気にはなっても無理はない。

 

「…知らんな。少なくとも俺にとってこの名は全く関係などない。むしろ反吐が出る」

 

一瞬の間。

そして神座無慙から溢れ出る怒気がその返答を後押しする。

ここにいる柱は幾度の修羅場を潜り抜けてきたから涼しげにそれを受け流すが一般人が対峙すれば気絶待ったなしである。

 

「うむ、それなら分かった。私からは以上です。お時間を取らせてしまい申し訳ございませんでした」

 

忌々しそうに眉間に皺を寄せる様を見て、先程とは違い、直ぐに理解の意を示した。

この様子なら名は関係ないのだろうと改めて姿勢を正す。

神座無慙も溢れ出た感情に蓋をするように収める。

 

「皆大丈夫そうだね。それではこれから柱合会議を始めようか」

 

皆が落ち着いたのを見て産屋敷耀哉は声を上げる。

半年に1度の柱合会議をこれから始める、という時に神座無慙に動きがあった。

 

「…もういいか?なら俺は行く」

 

今まで沈黙を保っていた神座無慙が立ち上がる。突然立ち上がった神座無慙に注目が集まる。

 

「どういう意味かな?無慙」

「鬼を殺しに行くと言うのだ。大方これからその会議を始めたとして時間の無駄だ」

「神座!貴様っ!」

 

神座無慙の厚顔無恥な言い様に落ち着いた空気が再びざわめき立つ。

 

「今までこうして来たんだろう?だから鬼が滅んでいない。判りきっていることに無為な時間は割く必要があるのか?」

 

そう言うやいなや神座無慙は皆から背を向ける。他が引き留めようとしても止まる様子もない。その姿が見えなくなる手前で産屋敷耀哉がその背に声をかける。

 

「無慙、会議に参加してくれないかな?」

 

神座無慙の歩みが止まる。

その背を続けて声を向ける。

 

「これは決して無駄ではないよ。鬼を倒す為の会議でもあるが皆が生き残るための会議でもある。これ以上勝手をするなら制限を課す事になる」

 

制限。言外に罰を与えると言っている。もう言葉では通じないなら行動を縛ってしまえ、ということだろう。

 

「例えば任務の数を減らすとしよう。ああそうだね、その日輪刀も取り上げようか。君なら素手で鬼を倒すことも出来そうだけど時間がかかりそうだね。だが無駄を嫌う君がそんなことしたくないだろう?」

 

産屋敷耀哉の浮かんでいる笑みが深まる。そのまま数瞬、息が止まったかのように感じた時間が動き出す。

 

「……良いだろう。貴様の言い分は分かった。今回はそれに乗せられてやるとしよう」

 

産屋敷耀哉の提案(脅し)によって渋々振り向いた顔には不機嫌の文字一色で染まっていた。

 

 

 

そうして会議に参加した神座無慙だが、想定していたものとは違って殆ど会議の話に入ってこなかった。

柱の中でも上位に入る実力者達にすぐに追いつくのではないか、という頻度で鬼を殺し続けている神座無慙にも幾度か話を振ったが既に判りきったような内容が大凡で、大半は他の柱と同様な内容ばかりであった。

稀に違った話も出てくるが皮肉にも今回の柱合会議では大した意見は出なかった。

これには神座無慙も次からは柱合会議を飛ぶ気満々で、何か重要なことであれば参加すると言ってその場を後にした。

流石に先程言った手前、神座無慙を否定することが出来なかった。

柱達もそれぞれ会話を存分に交わしたあと、そうしてその日の柱合会議は終わった。

 




〜大正コソコソ噂話〜
耀哉「さて、色々あったけどこれで無慙の柱就任が決まったね。これから期待しているよ無慙。ではここで大正コソコソ噂話。あの場にいた柱は岩柱、音柱、水柱、炎柱だよ」

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