錬鉄の英霊 終わりで始まりの日
高速で飛来する剣、槍、斧、鎌などのありとあらゆる武器
そのどれもが膨大な神秘を秘め、もとより解析が得意な男には一目で普通のそれとは比べ物にならない逸品であるとわかる。
一度でもまともに被弾すれば即死は免れない死の弾幕ゲームの中を必死に避け続ける男に対して、黄金の鎧を身に纏った王は、自らが所有する財宝が納められた蔵に繋がる空間からすでに何十という武器を射出し続けているのにもかかわらず、しぶとく生き延びている男にイラつきを募らせていた。
「どうした雑種っ。この我を楽しませることすらできずにただただ逃げ回るだけか?」
「くっ・・・・・・、流石の財力といったところか」
黄金の王の苛立ちに比例して先ほどよりも勢いを増した攻撃に晒されるが、今までの経験と鍛錬によって培われた判断力と剣術によって致命的なものを最低限捌きながら、小さな傷を無数に受けつつも、その雨の中を駆け抜ける。
「だがばら撒くだけで狙いが甘いな英雄王。この程度なら私程度でも避けるのは造作もない。そこらの未熟者でさえできることもできないようであればアーチャーの名が泣くぞ?」
「っ!!」
男の挑発に、黄金の王の低い沸点を越えたのか先ほどまでよりもその数を遥かに増し、武器の矛先がずらりと向けられる。
「この我を愚弄するだとっ!?その身、肉片の一つさえ残らぬと思えよ雑種っ!!」
男の体どころかあたり一帯を吹き飛ばしかねない暴威の群れが黄金の王の怒声と共に空気を裂いて襲い掛かる。
膨大な数の武器群によって空が埋まり、普通なら絶望する状況に追い込まれながら、男は口角を上げつつ片手をその武器群に向けて構える。
「魔力をまわせマスターっ!!決めに行くぞっ!!」
『わかりましたシロウっ!!』
パスを通した男の指示で、男のマスターである少女が一気に生成した膨大な量の魔力がパスを通してエーテルで構築された男の体に流れ込む。
「くっ・・・・・・・・・」
気を抜けばその身をパンクさせるほどの魔力。
それを迅速に、しかし綿密なほど丁寧に、幻想を現実に顕現させる。
「I am the bone of my sword.」
男が呟くと、トロイア戦争の際、大英雄の投擲すら防ぎ切った七枚の花弁を思わせる盾がその手に現れる。
黄金の王が放った必殺の嵐はその盾に遮られて、傷つけるところか男にさえ届かない。
飛んできた武器がコンクリートを打ち砕き、周りが瓦礫と化していくのも気にせず、男は自分の根源に通じる呪文を唱えていく。
「Steel is my body, and fire is my blood.」
並んだ撃鉄が次々と落ちていくイメージと共に、27本の魔術回路が起動しはじめる
「I have created over a thousand blades.」
魔術回路が開いた男の体は魔術を行使するための装置と化していく
「Unknown to death. Nor known to life.」
その身に流れ込む膨大な魔力が魔術回路を駆け巡り、あふれ出た魔力がほとばしる
「Have withstood pain to create many weapons.」
男のうちから広がろうとするものを抑え込もうとする世界の悲鳴にも似た軋むような音がする
「Yet, those hands will never hold anything.」
まるで爆発するように一気に放出された魔力によってその世界の抑圧を跳ね除ける
「So as I pray」
そして、炎が駆け巡り、世界は男の心象風景で塗りつぶされた
「”Unlimited Blade Works”」
錆色の空に巨大な歯車が浮かぶ、血に染まったような赤い荒野に無数の剣が墓標のように立ち並んでいる世界。
男がこの聖杯戦争中ひたすら逃げ回り、隠れ続けて温存し続けた奥の手中の奥の手。
世界を自身の心象風景で塗りつぶすという、魔術においてもっとも魔法に近いとされる禁忌の大魔術。
どれほど鍛え、磨き上げ、経験を積んでも及ばない
「雑種如きが、固有結界だと・・・・・・・?」
黄金の王が始めて男に対して初めて得体のしれない脅威を感じて男が動く前に攻撃しようと武器を射出しようとするが、荒野に立ち並んだ剣がまるで意思を持ったかのように宙を舞い、蔵から武器が射出される前にすべてを弾き飛ばす。
「なにっ!?」
「侮ったな英雄王」
黄金の王が新たに用意した武器もつぎからつぎへと射出される前に撃ち落とされ、逆に男の攻撃が勢いを増し、この聖杯戦争中、誰一人戦いと呼べる戦いに持ち込むことのできなかった最強の王を正面から追い詰めていく。
すでに武器の雨はやみ、何の障害もなくなった男が白と黒の双剣を手に王へと肉薄する。
「っ、おのれっ!!」
「はぁっ!!」
黄金の王がとっさに掴んだ剣を男に振るうが、その手に持った剣がどれほど強力な聖剣や魔剣であったとしても、万民を支配する王であって戦場を駆け抜ける戦士でない者の剣術など、男の前では稚児の戯れに過ぎない。
その手から簡単に剣を弾き飛ばされ体勢を大きく崩した黄金の王が立て直す間も与えず、男が手に持つ陰陽剣を叩きつける。
「っく!?」
しかし、陰陽剣は王の鎧を切り裂くどころか逆に砕かれ、形を保てなくなった幻想は魔力の残滓となって男の手から消え失せた。
「っ、どうやら貴様の
本物が贋作に打ち勝ったという事実に余裕を取り戻した王は一旦男から距離を取ると、すぐさま自身の持つ数多の宝具の中でも最強の攻撃力を持つ剣を呼び出す。
星の数ほどいる英霊の中でもごくわずかしか持つことができない「対界」宝具。
世界をも切り裂くその剣では男の固有結界も簡単に断ち切られてしまう。
勝利を確信した偉大な王はその剣を手に取り、高らかに宣言する。
「この我に一太刀浴びせたのは此度の聖杯戦争において唯一人であることを光栄に思いながら聖杯の窯へと落ちるがいいっ!!」
「貴様がな」
「っ!?」
王は目の前に立っている男が上段に構えるその剣を見て目を見開く。
「っ!?それはかの騎士王の聖剣っ。貴様、盗人猛々しいのもほどがあるぞっ!!」
「あいにくと、英霊の誇りなど持ち合わせてない身でね。私は一番勝ちの目が大きい選択をするまでだ」
もっとも彼女の剣と比べれば出来損ないにもほどがあるがね、と心の中で自嘲しながらこの戦いを終わらせるためにその剣を振り下ろす。
「
「おのれおのれおのれおのれおのれぇええええええええええええええええええええっ!!」
王は叫びながら手に持つ剣を振って迎撃する。
しかし、おそらく全英霊中でも最強の部類にあたる英霊の王の剣といえど、まだ力を溜め切れていない状態であっては、贋作といえどギリギリまで真に迫った騎士王の聖剣の一撃を受け止めきれるハズがなく、簡単に押し切られてその鎧ごと光の奔流に飲まれていった。
振った衝撃で腕の骨が幾度も砕け、聖剣の贋作は男の手を離れて地面に転がると同時に幻想へと帰っていく。
それと同時に光の奔流も消え失せ、男の目の前には光の斬撃に切り裂かれた跡のみが残っていた。
王の姿はどこにもなく、サーヴァントの霊基が聖杯戦争の終わりを告げていた。
「終わったか・・・・・・・」
「シロウっ!!」
聖杯戦争に選ばれた七騎中最後の一騎となった男は駆け寄ってくる少女を少し寂し気な笑みで迎える。
「アルトリア、これでお別れだ」
男は名残惜し気にその武骨な手で少女の滑らかな髪を撫でる。
あの運命の夜を共にした永遠に遥かに輝く星。
まるで彼女の生まれ変わりともいうべき少女を守り切れたことで、彼女に少しだけ近づけた気がして些細な達成感に包まれながら、男はそう告げた。
男の予想外の言葉に驚き呆然と固まっている少女を大事な宝物のように抱きしめると、折れている腕を何とか動かして、宙に浮いている黄金の盃を指す。
「偶然巻き込まれたとはいえ、今回の勝者は君だ。あの聖杯は自由に使ってくれて構わない。私としてはこのような面倒ごとに君が巻き込まれなくなるように使ってほしいがね」
男はエーテルの肉体がゆっくりと溶けてこの世への縛りが解けようとする感覚に身を任せながら、できることなら少女が少女自身の選択でその将来のために使うのを見届けたいと願う。
すでにこの世の者ではない死者が今を生きる生者がする選択の自由を奪ってはならない。
一度自分に絶望し、そして過去の自分を殺そうとした男だからこそ、それを誰よりも理解している。
だからこそ男は何もそれ以上言わず、微笑みながら少女から離れようとする。
しかし、男のボロボロの赤い外套を少女が掴んで離さず、動けない男が困惑して自身の胸に顔を埋めている少女に目をやる。
「アルトリア・・・・?」
「シロウの頑固者・・・・・・」
何か少女が喋っているが男には聞こえずどうしていいか判断できずに彷徨っている両手を使って降参の意を示すと、少女は顔を上げ大粒のエメラルドを思わせる碧眼で男を射抜きながら男の襟を両手でガッチリと掴むと自身の顔の高さまで男を引きずり下ろす。
なぜそのような仕打ちをされるのか全く分からない男が目を白黒させながらその少女と視線を合わすと、少女は満足そうに男へ告げる。
「わかりました、シロウ。わたしは・・・・・・・・・」
そのあとに続く言葉に、男は少女が血迷ったのかと頭を掻き、ため息を大きく一度すると、少女に向けて男は騎士の礼のように膝を付く。
「了解したマスター」
アルトリア・ナイツ・ペンドラゴン
イギリス出身の女学生であり、日本留学中に聖杯戦争に巻き込まれた一般人。
家系としては魔術師の家系であるが長子ではなかったために魔術は教わっていない。
親兄弟から溺愛されており、魔術とは無関係の生活を送らせてやりたかった模様で魔術に関連するものには一切隠し、政略結婚の道具にもしようとはしておらず本当に魔術のことなど知らなかった。
しかし、その身はかの騎士王の生まれ変わりであり、竜の心臓はないものの膨大な数の魔術回路を秘めており、息を吸うように魔力を精製する生きた魔力精製所。
しかし、知識が全く無い(そもそも知らない)ために気が付かれたら危険なため普段は婚約指輪に似せた礼装によって彼女に近づいてくる悪いもの(魔術師や悪霊や虫ect)を遠ざけている。
ちなみに部活で剣道部に所属しており、留学の理由も日本で剣道を修めるため。
その腕前は小柄な少女でありながら全国大会で鎬を削る猛者たちとも素で打ち合える実力。
聖杯戦争を勝ち抜いて以降、様々な流派を使いこなせる白髪ガングロガチムチお兄さんをコーチに毎日打ち合っているために気が付いたらとんでもない実力を修めることとなる。
魔術も家族に隠れてこっそりと勉強中で、徐徐にではあるが強化の魔術を中心に習得していっている。
正義感が強く、困った人からの頼まれごとを基本断らないボランティア精神に頭を痛めている人がいるとかいないとか。
悩み事はほかの家族全員と比べて背もスタイルも劣っていることと、その家族が近くにいるとほぼずっと付きまとわれること。