「リツカッ!!朝ですよ、食堂に行きましょうっ!!」
「えぇ・・・・。アルトリア、まだ6時だよ?訓練の開始は9時からだし、もう少し寝かせて・・・・・・」
すでに制服に身を包んだアルトリアにリツカと呼ばれた少女、藤丸立香は枕元にある時計をちらりと見て、アルトリアから身を守るように再度布団に包まる。
「兵は神速を貴ぶのですっ!!先に陣取った者が地の利を得るのは今までの歴史が証明しています!!」
「いやぁ、まだ寝るぅ・・・・・・」
かなり朝に弱いリツカはベットから引きずりだそうとする元気いっぱいのアルトリアに精一杯の抵抗をするが身体能力の差でいともたやすくベッドから引き離されてしまい、アルトリアに七連敗を喫した立香は何とか制服へ袖を通して最低限の身支度を整えると、目をこすりながらしぶしぶカルデアの廊下を連行されていく。
「おはようございますっ!!」
「ふわぁ・・・。おはようございまーす・・・・・」
「おや、二人ともおはよう」
二人が挨拶をしながら食堂に入っていくと、まだ時間が早いのか食事をとっている職員が広い食堂内に点々と座っているだけで、昼食と夕食の時間帯の混雑具合と比べればかなり閑散としている。
そのため24時間体制で運営されているカルデアの食堂とはいえ、この時間帯に本格的な稼働はしていないのか厨房に立っている調理スタッフの数は少ない。
その中にまるで風景の一部のように溶け込んで鍋を振いながら二人に挨拶を返してきたエミヤはすでに準備を済ませていたのか、アルトリアにはお盆に乗った朝食セットを、そして、小さな鍋で温められて湯気を立てている白い液体をマグカップに注いで立香の前に差し出した。
「ほら立香君。ホットミルクだよ。少し熱いからゆっくりと飲みたまえ」
「あ、いつもありがとうございます・・・・」
少しハチミツが溶け込ませてあるために少し甘く、飲みやすく体を温める絶妙な温度で出されたホットミルクをゆっくりと飲み、ようやく目が覚めてきた立香はここ一週間で疑問に思っていたことを口にする。
「いつも思うんですけど、シロウさんっていつ寝ているんですか?日中は医療班の仕事をしているし、夜間や早朝は人出が足りない部署の手伝いをしている気が・・・・・・」
「まぁ休めるときに休んでいるさ。私は軍隊にいたこともあったから短時間で休息をとる訓練も積んでいるし、このくらいの労働は大丈夫だよ」
「へぇ・・・・・」
その言葉通り全く疲労の色を見せず、むしろ嬉々として鍋を振い続けているエミヤへマグカップに口づけながら立香が尊敬のまなざしを向けていると、その隣で最後の一口を口に放り込んだアルトリアが満面の笑みを浮かべてお盆をエミヤに手渡す。
「シロウ、おかわりをくださいっ!!ご飯は山盛りでっ!!」
「ああ、了解した。少し待っていたまえ」
そのお盆を手に取って厨房の奥へ入っていったエミヤをワクワクしながら待っているアルトリアというここ一週間ずっと変わらない朝の光景にもう慣れてしまった立香は自分用に用意された朝食に手を付けはじめる。
少しして運ばれてきた先ほどよりも多めに盛り付けられたセットをまるで今から食べ始めるかのような勢いで食事を再開したアルトリアを横目に、立香も自分のペースで食事を進める。
「相変わらずよく食べるよねぇ」
「えぇ。シロウのご飯は最高ですから!!それに私の胃袋を満足させるにはこの三倍は持ってこないと!!」
「なんでそんなにご飯とかおやつとかいっぱい食べているのに太らないんだろ」
「なんで私のおなか周りを見ているんですか?」
堂々と胸を張って言い張る当人のそのスレンダーな体形を嫉妬の感情をこめて見つめる立香をアルトリアはきょとんとした顔で首をひねるが、気にすることでもないと判断したのか立香が半分を食べ終える前にすべて食べきると、二度目のおかわりを注文した。
「「ごちそうさまでした」」
「お粗末様。食器類は返却コーナーに置いておいてくれ」
「わかりました」
「結局宣言通り三度おかわりしてたね・・・・・・」
「ええ。いつも通り大変満足できる朝食でした。おかげで今日もいい一日を送れそうです」
立香が食べ終わるころにちょうどアルトリアも三回目のおかわりも食べ終えて、二人はともに食器を返却すると訓練開始までに軽く身支度を整えるため、個人用のマイルームが用意されるまでの仮住居として割り振られた自室へ向かう。
「そういえば、今日訓練は午前までで、午後からは個人用のマイルームへの引っ越しらしいね」
「そうでしたね。ふむ・・・・・・。私としては、食堂と訓練場のどちらもが近い部屋がいいですね」
「アルトリアらしいなぁ」
立香はアルトリアの希望を聞いて小さく笑いながら共用で使っている部屋へと入室した二人は互いに身支度を整え、空いた時間で今日の講習の予習を始める。
アルトリアは最初の知識はほとんど立香と同程度であったが、もともと言語のハンデがなく、まじめな性格のためにしっかりと講習を聞いて内容を理解しようとしてきたために、さすがに元から魔術師のマスターたちには劣るが、民間人出身のマスターの中では一番の成績であった。
しかし一方で特に、立香は英語がそこまで得意とは言えず、また、講習中もよく居眠りしているために、ほかの人たちよりも遅れ気味だった。
成績も断トツで最下位であった立香はさすがにまずいと思ったのか、今日はいつもより真剣に資料へ目を通している。
しかし、一か月ほど前までただの高校生であった立香にとって、授業で触れるくらいのものであった英文との戦いは体力をガリガリと音を立てて削っていき、今日の資料の一部を読むだけで白旗を上げることとなった。
しかし、一週間前とは比べ物にならないくらいの上達にアルトリアは目を細めて喜ぶ。
「ふむ。だいぶできるようになりましたね。それに会話のほうは私が普通に話していても問題ないくらいです」
「ほんと?よかったぁ」
「ええ。今では講師の話もある程度は理解できているのではないですか?」
「うん。これも、アルトリアとマシュって子のおかげだよ~~」
「ああ、あの座学試験で主席だった人ですね。リツカはいつ知り合ったんですか?」
「一番初めの講習で居眠りして所長にミーティングルームから追い出されたでしょ?時差ボケが酷かったから追い出された後も廊下の真ん中で寝てしまってて・・・・・・」
さすがに乙女として恥ずかしかったのかバツが悪そうに頭を掻いている立香にアルトリアは納得したようにうなずいた。
「なるほど。マシュ・キリエライトに教えてもらいながら勉強していたから講習後の自由時間に見当たらなかったんですね」
「そう。マシュってすごいいい子なんだよ!!教えるのとっても上手だし、記憶力もすっごい良くて。いろいろな英雄の話を教えてもらったんだよ」
「へぇ・・・・・・・・。じゃあ私が知りたい英雄のことも知っているかもしれませんね。どうも日本の図書館ではその英雄のことが載っている文献は見当たらなかったので」
「今度紹介するよ。って、アルトリアッ!!もうこんな時間だっ!!」
立香が時計を指さすと8時50分になっており、かなり広いカルデアの中を移動するのにはそこそこ時間がかかる。
「急ぎましょうリツカ。今日の講師はオルガマリー・アニムスフィアでした」
「えっ、今日所長なの!?絶対5分前にいないと怒られるやつじゃん!!というか、私は確実に怒られるっ」
「初日に遅刻と居眠りしていますからね」
「また全員の前で説教されて追い出されるのだけは嫌っ!!」
「じゃあ私についてきてくださいっ!!リツカが付いてこられるギリギリのペースで間に合うように走りますから」
二人は慌てて荷物を持つと、廊下へ飛び出して走り始める。
明日も続くと思っていた平穏な日々が崩れ去り、最後に残された二人のマスターが人理を取り戻すための