アルトリアは気が付くと、炎と瓦礫の町に立っていた。
家屋の殆どが瓦礫と化しているが、ところどころギリギリ形を保っているものの作りから日本の町であることは理解できる。
しかし、町並みは見る影もなく、ごうごうと燃え盛る炎と立ち上る黒煙で覆われた空が光を遮断している様はまるで現世とは思えない。
周辺に居住の痕跡は無く、アルトリアが呼び掛けてもそれに応える人の気配はない。
「日本でこのように町全体が燃えているのなら何かニュースになっていても可笑しくはないのですが・・・・・・・」
アルトリアが日本にいる間に町一つが燃えたとは聞いたことがない。
となると、アルトリアが日本を離れて一か月経たないうちに町の一つがこのようになったのだろうか。
しかしこのような災害が起きれば、情報規制のあるカルデア内でさえ耳に入ることはあっただろう。
そのことに疑問を胸に抱いたまま、アルトリアはまだ取り残されているかもしれない生存者を探す。
しかし生存者は一向に見つからずただただ一時間ほどたったころ、なぜかこの瓦礫の町に既視感を覚えたアルトリアは、普段は頼りにしている自身の勘がささやく答えを何かの間違いだと自分に言い聞かせるようにつぶやきながらも捜索を続ける。
しかし、ほぼ未来予知といえるほどの精度を誇るアルトリアの直感はその悪い予想を的中させることになる。
「あ・・・・・・・」
その巨大な建造物に目を見開いたまま動きを止めたアルトリアは乾燥による強烈な痛みで初めて自分が呆然としていたことに気付き、見間違いであることを願ってゆっくりと瞬きするが、現実は変わらず、火の海に周りを囲まれ、その建造物は依然としてそこに存在していた。
「やはりあれは冬木大橋・・・・・。じゃあ、でも、なぜ・・・・・・・・?」
その巨大な建造物、冬木大橋は、町の真ん中を流れる川に隔たれた昔ながらの住宅街の深山町と駅や高層ビルを中心に栄えた新都を繋ぐ役目を果たす唯一つの橋であるが、今回ばかりは、皮肉にもその頑丈さがアルトリアの希望を断ち切るものとなってしまった。
一か月前まで楽しく通学していた学校、海外からの留学生であるアルトリアを分け隔てなく受け入れてくれた友人たちの家、帰り道で買い食いをした商店街。
それらすべてが、気が付かぬうちに瓦礫へと変貌していたことに衝撃を受けたアルトリアがふらりと崩れ落ちそうになった時、赤い外套を纏ったエミヤがその体を抱え、心配した様子でアルトリアの顔を覗き込む。
「シロウ・・・・・・?」
「その顔では君も気が付いたようだな。私も周囲を確認してきたが、やはりここは冬木市のようだ。生きている人の姿は全く見当たらなかったがね」
周りの状況を報告するエミヤの声色はひどく落ち着いていて、まるでこの光景にも動じていないようにも見える。
しかし、長い間パスで繋がっているアルトリアには彼の心の焦燥を感じることができるようになっていた。
エミヤも動揺を表に出すことによってアルトリアへの精神的ダメージを増やすのは合理的判断ではないと考えての行動でもあるだろうが、彼の不器用な優しさにある程度落ち着きを取り戻せた彼女は自らの足でしっかりと地面に立つとエミヤを連れて冬木大橋に向かう。
「おうおう。ようやく騎士王様が薄暗い洞窟に我慢できなくなって外へ出てきてくれたか」
もう少しで橋にたどりつくというところで背後から男に声を掛けられ、その聞き覚えのある声に、アルトリアの背筋に冷や汗が浮かぶ。
「まさか君がここにいるとはね、ランサー」
「あ?それはドルイドの真似事をしている俺への当てつけか?喧嘩を売ってるなら売値以上で買うぞ」
アルトリアが振り返ると、身にまとう衣装と手に持った
一見棒立ちにも思えるが、隙を見せれば一瞬で喉元に喰いつこうとしているのが肌を突き刺す殺気から伝わってくる。
「クー・フーリン・・・・・」
蘇るのはあの始まりの運命の夜に味わった激痛と真っ暗な世界へと落ちていく記憶。
アルトリアは男の槍で穿たれた風穴があった場所に触れながら、男の真名を口にする。
「直接顔を合わせたのは今回が初めてだが・・・・・・・。まぁやっぱ、さすがに真名はバレていたか。何度もほかのサーヴァントとは戦ってるし、大方そこの陰険な腰巾着が覗き見して報告でもしてたんだろ?」
一瞬男は眉尻を動かしたが、アルトリアの横に立つエミヤに目を向けて納得した表情を浮かべる。
「何を言っているのですか・・・・・・?私とあなたは聖杯戦争で・・・・・・」
「マスター。あれは私と同じサーヴァントだ。原則サーヴァントは英霊の影法師のようなものであり、サーヴァントとして現界した際の記憶はすべて記録として残るものの英霊そのものにとっては遠い人物が書き残した日記帳のようなものだ。つまり、同じ英霊であってもあのクー・フーリンは君や私と競い合った聖杯戦争のことなど殆ど知らないはずだ」
しかし、その男、クー・フーリンがエミヤたちを知っているような言動に潜む一つの可能性にエミヤは思い当たる。
「クー・フーリン。君は、他の私や騎士王を含む聖杯戦争に参加しているサーヴァントの一人で間違いはないな?」
「!?シ、シロウッ。それはどういうことですか?」
「はぁ?何を寝ぼけたことを・・・・・・・。あぁ、そういうことか。通りでそっちの嬢ちゃんからあの膨大な魔力を感じなかったわけだ」
理解が追い付かないアルトリアを他所に、エミヤの言葉に納得した様子のクー・フーリンは張りつめていた殺気を解くと、無遠慮に歩み寄ってくる。
「ま、敵じゃねぇなら殺しあう理由はねえしな。ひとまず仲良くしようぜ二人とも」
「・・・・・・仕方ないな。状況が未だに把握できていない以上、悪戯に戦力を消耗するのは私も避けたい」
まるで長い付き合いの戦友のように肩を組みながら言うクー・フーリンに心底嫌そうな顔をするエミヤだったが、現状
「だが、一つだけ約束してもらうぞクー・フーリン」
「ん、約束だ?ゲッシュでも結ぼうってのか?そういうのとは無縁なやつだと思っていたが」
「あいにくとゲッシュなどの高貴な英雄様がやるようなことにはあまり興味がないのでね。単直に言わせてもらうが」
「あまりアルトリアに近づくな。私の大事なマスターに野生の獣が何をするかわからんからな」
エミヤが極真面目にそんなことを言うのだから、クー・フーリンは一瞬驚きで目を見開くが、次の瞬間大きな声を上げて笑う。
「くっくっく・・・・。お前らそんな関係だったのかよ。そりゃあの弓兵も即行でセイバーの下僕に収まるはずだわ」
「何がおかしい」
「いや、なに。嬢ちゃんこんな面倒くさそうなやつにベタ惚れされて苦労しそうだと思ってよ」
「・・・・・・?」
「っ・・・・・・!?」
なぜクー・フーリンがそこまで腹を抱えて笑っているのか理解できないといった様子のエミヤと、その横で金魚のように真っ赤になりながらパクパクと口を開閉させているアルトリアにさらにクーフーリンは声を大きくして笑うこととなった。