錬鉄の英雄 カルデアを行くwith騎士娘   作:亀さん

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錬鉄の英霊 特異点F 聖杯戦争の始まり

笑い続けるクー・フーリンにエミヤは早く今の状況を説明しろと眉間にしわを寄せて催促すると、クー・フーリンはさっきまでとうって変わって真面目な顔つきで今回の聖杯戦争について話し始めた。

 

「まぁ・・・・・。見ての通り、俺にはマスターがいねぇ。というよりも、他のサーヴァントにもマスターはいない」

 

 

「マスターがいないだと?」

 

 

サーヴァントは過去未来問わず何らかの偉業を成し遂げた英雄たちであるが、基本的には霊体であり、この世に存在し続けるためにはその時代に生きる人間(マスター)という楔が必要なのである。

それは一部の例外を除き、サーヴァントである限り変わらないはずだ。

しかし、この聖杯戦争ではすべてのサーヴァントにマスターがいないという事態にエミヤは目を見開く。

 

「あぁ。一夜にして俺のマスターも、この町の人間もすべていなくなっちまった。俺たちサーヴァントは人間の代わりに町をうろつくようになった怪物を暇つぶしもかねて駆除しながら休戦状態のようになってたんだが、どうもあのセイバーは聖杯を欲する相当な理由があったみたいでな。突然戦いを再開して俺以外のサーヴァントを軒並倒しちまった」

「じゃあ残っているサーヴァントは君とセイバーだけなのか?」

「それがだな・・・・・。この聖杯戦争は倒されたはずのサーヴァントが霊基を変質させた状態で復活すんだ。俺もやつらを何体か倒したが気が付きゃまた復活してやがった。俺もこの町一帯に漂っている神代レベルに濃いマナのおかげで少し休めばマスターなしでも十分に戦い続けることができるんだが、互いに終わりがない戦いってのは正直めんどくさくてよ。いい加減に決着を付けてぇんだ」

サーヴァントの中でも屈指の武闘派であり、聖杯戦争に参加する理由も強い相手と戦いたいという戦闘狂のクー・フーリンでさえ飽き飽きした様子で話すことから、今回の聖杯戦争の異常性が垣間見える。

 

「つまり、君一人では現状千日手というわけか」

「あぁ。オレとしちゃセイバーと1対1で戦える環境を整えてくれりゃ文句はねぇ。だがそのためには・・・・・・・」

「徘徊しているサーヴァントが邪魔ということか。しかし、永遠に復活する相手などどうしようもないのでは?」

「いや。どいつも倒した後数日間姿を見ないからな。おそらく復活までには数日の猶予があるはずだ」

「とすると、その猶予期間の間にすべてのサーヴァントを倒してセイバーまでたどり着くわけか。電撃戦をするのはいいが私と君の二人では戦力が足りないのではないか?君は見たところキャスターのクラスであるようだし、私もアーチャーだ。前衛の真似事はできなくもないが、正直もう一人前衛ができるサーヴァントが欲しいところだ」

「まぁそうだわなぁ。ランサーで呼ばれてりゃこんな状況でもちったぁマシだったんだが・・・・」

いくら二人がスケルトンなどの低級の怪物程度なら一瞬で倒してしまえる超人的な能力を持つサーヴァントとはいえ、聖杯戦争である以上、相手もまたサーヴァントである。

なるべくなら戦力を確保してから実行に移したいところであるが、他のサーヴァントはすでにセイバーに倒されていて同盟を組めそうな相手はいない。

どうしたものかと二人が悩んでいた時、エミヤの視界にそれが映りこんだ。

 

 

「っ!!マスターっ、生存者だっ!!」

「どこですっ!?」

「対岸の公園だっ!!サーヴァントに襲われているっ」

 

 

エミヤの鷹の目を思わせる双眸は対岸で黒い衣で全身を覆った髑髏面に少女たちが襲われているのを察知し、アルトリアにパスを通して感覚の共有を行う。

エミヤから流れ込む常軌を逸した大量の視覚情報にアルトリアに頭痛が襲いかかるが、それを耐えつつその情報を整理したアルトリアはその襲われている少女たちに見覚えがあった。

「あれは・・・・・・っ」

素早く左手をアルトリアが捲ると、カルデアから支給された簡易令呪が現れそれを上にかざして構える。

 

「シロウっ、行ってくださいっ!!令呪でアシストしますっ」

「っ・・・・・・。クー・フーリン、マスターを任せるぞっ!!」

「しゃあねぇ。こっちは任せなっ」

エミヤは一瞬アルトリアに目をやるが、一緒に連れていく時間もなく、アルトリアが意思を曲げないことを理解しているため、不本意ながらもクー・フーリンにアルトリアを任せると膝を大きく曲げて跳躍の姿勢を取る。

 

 

 

「令呪をもってアルトリア・ナイツ・ペンドラゴンが命ず。跳べ、シロウッ!!」

 

 

 

アルトリアの叫びにも似た命令と共にその手に刻まれた令呪が赤い光を放ち、エミヤの体に膨大な魔力が満ちる。

普通ではいくらサーヴァントとは言え大きな川を一瞬で越えることは不可能である。

しかし、マスターが持つ令呪は使い方次第でその不可能を可能にする。

 

地面を砕き割るほど強化された脚力で跳躍し赤い弾丸と化したエミヤは大きな川を一瞬で飛び越えると、漆黒のダガーを手に少女へと襲い掛かっていた髑髏面の腕を斬り飛ばした。

 

 

「っ!?」

「はぁっ!!」

 

 

間一髪で少女を凶刃から守ったエミヤは鋼鉄製のブーツをレンガで綺麗に舗装された路面に強引に突き刺して着地すると、突如腕を無くしてほんの僅かであるが思考を止めた髑髏面に得物の陰陽剣を叩き込んだ。

白黒の両刀が深々と髑髏の面を断ち割る一撃は致命傷には十分であり、消滅が確定した髑髏面が流す血は吹き出ると同時に砂のようになって宙に消えていく。

しかし、エミヤはそれでも油断せず崩れ落ちていくその痩身や斬り飛ばした腕に複数投影した武骨な剣を投擲して標本のように地面へ縫い付けると、完全にこと切れたように思えた髑髏面が最後の足掻きのように暴れ始めるが、剣がしっかりと地面に突き刺さっておりどんなに暴れても抜け出せない。

しばらく狂った獣のように絶叫を上げながら髑髏面はもがき続けていたが、やがて完全に姿がボロボロと崩れて消えていった。

 

「大丈夫か立香君?」

「え、シロウさん・・・・・・?さっきの怪人は?それにその姿は・・・・?」

「まぁ・・・・・。私も色々あってだな・・・・。それより、やつ相手によく生き残ったな」

 

襲い来るダガーからもう一人を庇うように体を丸めて地面を転がっていた少女、立香は髑髏面への恐怖と、そこにいた、普段とは全く違う格好をしているエミヤへの困惑がないまぜとなった顔をする。

声を震わせながらエミヤを見上げている立香を元気づけようとエミヤはなるべく優しい声音でその頭を撫でる。

立香はその手に安心感を覚えたのか、強張った顔が幾分か解れてくる。

立香の変化を感じ取ったのか、庇われていたもう一人がその肩越しに怯えながらも顔を出すと、エミヤと目が合ったとたんに目を吊り上げてエミヤを睨みつける。

 

「っ!?なんで!?あなたも人間じゃなかったのっ!?」

「やぁオルガマリー・アニムスフィア所長。貴方もご無事で何よりだ」

「ふざけないでっ!!あのペンドラゴン家がごり押して来たと思えば・・・・・・・、カルデアにサーヴァントを送り込んでいたなんてっ。あのような混乱もあなたの仕業でしょっ。潜入してアニムスフィアの技術を奪うつもりだったのねっ!?」

「落ち着きたまえ。私には全くそんなつもりはないし、ペンドラゴン家も私を送り込んだのは別の理由だ。私は勝手にカルデアに行くことを決めてしまった我がマスターの護衛のためにやって来たんだ」

「そ、そんな理由で最高級の使い魔であるサーヴァントを敵の工房同然の場所に・・・・・・?」

信じられないといった様子だが、本当にそんな理由なのだから仕方ない。

まぁ普通であればサーヴァントは存在するだけでとんでもない魔力を消費し続けるため供給元であるマスターには多大な負荷がかかる上に魔力供給をバックアップする設備の多大な運用資金が必要である。

魔力面でも資金面でも普通の魔術師ならサーヴァントなんて存在を維持するだけでもかなり大変で、オルガマリーもカルデアを運営していくうえで必要経費となるそのランニングコストに頭を痛めていたのだ。

まして、自分の魔術研究と関係ない分野であるのなら、それこそ魔術師からすればサーヴァントの維持など魔力と資金を膨大に食い続ける無駄以外何物でもない。

ペンドラゴン家の魔術は降霊術系統ではなく、オルガマリーから見てエミヤは魔術師が該当するキャスターのクラスではなく、その研究には全く役に立たないだろう。

つまり、普通の研究用に召喚したものではないと推測することができる。

しかもマスターであるアルトリアは他の魔術師から狙われないようにとはいえデータを改竄して魔術を継げず裏の世界とは無関係の一般人としてカルデアにやってきているのだ。

そのように考えてしまうのも無理はない状況証拠が揃っている上でこのような事態に追い込まれたのだから彼女がひどく警戒した様子でエミヤを見ているのは当然といえば当然である。

エミヤもオルガマリーをこれ以上刺激するというのは得策でないと判断したため、オルガマリーがある程度の信頼を置いている様子の立香に話を聞くことにした。

 

「ほかに生存者は?川の向こう側には私のマスター以外は見当たらなかったが」

「あっ・・・・・・。マシュがまだ戦っているんですっ!!ランサーのサーヴァントから私たちを引き離すためにっ」

「やはりか・・・・・・。彼女はどこに?」

「あっちですっ!!」

「案内してくれ」

「ちょ、何するのよっ!?きゃっ!?」

エミヤは立香が指差す方向に一度頷くと、オルガマリーと立香を片腕ずつで抱き上げて周囲を警戒しながらそちらへと駆け始めた。

突然抱きかかえられたことに一瞬抗議をしようとオルガマリーが口を開こうとするが、他の案を提案することができないのか口を閉じた。

彼女としても、マシュを失うのは避けたいためかエミヤの邪魔にならないように小さくなっている。

 

「すまないが、立香君、オルガマリー所長。放置しているとまた別のサーヴァントに襲われかねないのでね。少し強引ではあるが、このように運ばせてもらう」

「・・・・・全力で向かいなさい。このままチンタラ走ってたら間に合わないかもしれないし、他のサーヴァント、アーチャーからすればただの的になるわ」

吹き付ける風圧が人体に影響を及ぼさないように配慮した速度でエミヤが駆けつづけていると、風圧の影響を受けないように結界を張ったオルガマリーが顔を背けながらそう言った。

 

 

「了解した」

 

 

オルガマリーの不器用な優しさに立香が小さく笑うが直後に魔術で強化された小石に眉間を撃ち抜かれて痛みに悶絶した。

二人の微笑ましいやり取りに少しだけ口元を綻ばせながら、遠慮の必要がなくなったエミヤがギアを二、三段上げると、瞬のうちに風景が背後へと流れていき、あっという間に燃える町中を走り抜けていく。

 

 

マシュのもとへとたどり着くまであと10秒の出来事であった。

 

 


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