それを目にした瞬間、少女はこの世界が地獄であることを理解した。
「あ、あ、あ、あ、あァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!」
砂漠に近いせいか吹き荒れる乾燥した強い風に揺られ、高台から下に延びる太いロープを軋ませる『
高台の周りを守っていた兵士たちが少女に向けて手に持った自動小銃の引き金を引くが、肉体へ強化の魔術を使用している少女にとってそれを避けることは造作もなく、ついでとばかりにスルリと抜き放ったナイフで兵士たちが身に纏う装備のわずかな隙間を突き、大量の血しぶきが周囲にばらまかれていく。
周囲の人々の歓声が悲鳴に変わり蜘蛛の子を散らすように逃げていくのに目もくれず、少女は階段を駆け上って高台に吊るされた『それ』を引き上げると、少女は自分よりも二回りは大きい『それ』を優しく抱きしめた。
「会いたかったよ、きょーかん」
長い間牢屋に閉じ込められていたからか、意識のある間は誰よりも清潔を意識していたその体は悪臭を放っており、普通の人なら顔をしかめるほどだった。
しかし、少女は愛おしそうにすでに冷たくなった『それ』の唇に軽く触れるような口づけを落とすと、体内の魔術回路のスイッチを入れ、その身を魔術を行使するための装置へと変換する。
魔力の生成による拒絶反応で常人では耐えられないほどの痛みに苛まれているはずの少女はむしろその苦痛すら幸せだとでもいうように笑みを浮かべながら丁寧に呪文を唱え、『それ』に自分の魔力を流し込んでいく。
「そこまでだっ!!両手を上げてその死体から離れろっ!!」
「もう来たんだ・・・・・・・」
あと少しで神聖な儀式が終わるというところで、先ほど屠った兵士が死に際に応援を呼んだのか、広場に続々と集まってくる兵士たちを少女はいらだちを隠そうともせずに高台の上から睨み付ける。
「もう一度言う。その死体から離れろっ!!五秒のうちに離れない場合は、我々に敵対する存在とみなして射殺するっ!!」
その警告は嘘ではないということは誰の目から見ても明らかであった。
兵士たちの持つ自動小銃の銃口が彼らの殺意と共に少女に向けられており、むしろ命令に先走って誰かが引き金を引きかねない様子であった。
「ホントに野暮だよね。私ときょーかんの邪魔をするなんて」
「消えて」
「撃てっ!!」
少女の殺気に満ち溢れた呟きをかき消そうとするかのように、指揮官から下された合図で少女に向けられた銃口が一斉に火を噴いた。
人一人に対して過剰すぎる攻撃に、少女の死を確信していた兵士たちは硝煙が晴れた向こうに見えた光景に目を疑った。
高台に立っている人影は二つ。
一つは銃撃の的となったはずの少女。
そしてその横でまるで少女の騎士のように佇む、銀髪と浅黒い肌が特徴の男の姿。
「っ!?なんであいつが生きてるんだっ!!」
「くそっ!!あの女、悪魔を地獄から連れ戻しやがったっ!!」
「撃て撃てっ!!相手はあの男だっ!!勿体ぶらずに残弾全部使い切ってしまえっ!!」
指揮官の号令に兵士たちが発狂気味に引き金を引き、先ほどよりも数倍密度を増して襲い掛かる、普通なら人間の肉体をひき肉に変えるに十分なはずの弾丸の雨。
しかし、男の手から生み出された七枚の花弁を思わせる盾を貫通することは能わず、勢いを失った弾丸はバラバラと音を立てて男の足元に転がっていく。
通常の戦闘ではありえない程贅沢に弾薬をばらまいても先ほどから一歩も動かすことが出来ずにいる怪物を眺めながら、指揮官の男は口の端を吊り上げ手に取った無線の相手に向けて指示を出した。
その指揮官が考えたことはごくごく普通のことである。
小火器の火力で防御を破れないのなら、より強力な火力でその防御を破ればいい。
直後、戦車の砲撃によって台が吹き飛び、兵士たちが喝采を上げる。
弾幕による足止めに、人間では到底持ち運べない重火器での砲撃殲滅。
自分の狙い通りに事が運んだことにほくそ笑み、部下に対して死体の捜索を命じようとしたところで称賛の声を上げていたはずの兵士たちから断末魔の叫びが聞こえてきて、慌ててそちらに目を向ける。
指揮官の目に映ったのは、次々と血しぶきを上げて倒れる兵士たちで真っ赤に染まった道と、いつの間に着替えたのか鮮血を思わせる赤い外套をはためかせるあの男。
少女一人を抱えつつ男は空いている片手に持った白い短刀で、立ちふさがる兵士たちを装備の上からまるでバターを斬るかのように真っ二つに切断していく。
行く先にいる兵士たちをなで斬りにしながらまっすぐ突き進んでくる男から背中を向けて逃げようとした指揮官との距離を大跳躍で一気に詰めた男の短刀の一閃で指揮官の首がボトリと地面に落ち、首をなくした肉体が数歩走った後に前のめりに倒れた。
男の進路から外れ、生き残っていた兵士たちも、その信じられない光景に、骨の髄から叩き込まれた軍規すら忘れてその場から逃げだし始める。
しかし、二人だけの空間に土足で踏み入ってきた兵士が何の罰も受けずに立ち去るなど、少女が許せるはずもなかった。
「きょーかん。あいつら、全員殺して」
まるで幼子がおねだりするような声色で少女が男に対して命令すると、男が片手を上にかざす。
その頭上に次々と何の装飾もない無骨な刀剣が現れ、宙に浮いたまま兵士たちにその切っ先を向ける。
そして、その手を振り下ろすと、まるで解き放たれた猟犬のごとく刀剣は一直線に宙を駆け、一本も外れることなく深々と兵士たちに突き刺っていく。
許しを請う兵士すらまるでハリネズミのように何本もの剣が突き刺さり、出来上がった兵士の標本展示会。
その常人では吐き気を催すような凄惨な空間の真ん中を、地面に降りたった少女は男と手をつなぎ、靴が血で汚れるのも構わずに上機嫌で歩いていく。
「きょうーかん。次はだれを殺しに行ったらいいかな?」
まるで次のデート場所を決めるかのように少女は言いながら、ふと目に映った通りの向こうに見える立派な建物に年相応の笑みを浮かべる。
「そうだ。あそこに行こうよ。あそこなら人がいっぱいいるんじゃない?」
建物を指差して少女は満面の笑みを浮かべて男の手を引っ張ると、男は少女に合わせるように歩を進め、少女に続く。
その近い未来、赤い外套を着た男を従える少女は数多くの人々の命を奪い続けて伝説となり、英霊の座に登録されることになる。
クラス:復讐者(アヴェンジャ―)
真名:岸波白野
身長:160cm
体重:45kg
属性:混沌・悪
イメージカラー:薄茶
好きなもの:教官
嫌いなもの:人間
天敵:不明
ステータス
筋力:E-
耐久E
敏捷E-
魔力C
幸運D
宝具EX
ある男の処刑をきっかけとして中東地域の国々で大量虐殺を繰り広げた結果、英霊の座に登録された反英雄。
元魔術師の名残で魔術は使えるもののキャスタークラスに呼ばれるには程遠く、また個人の白兵能力はアサシンにすら劣る下の下。
しかし、後述する宝具によりある英霊を召喚し、使役することが出来るため、彼女自身よりはむしろその英霊を用いて戦う。
本来の適正クラスは召喚者(サモナー)で、このクラスで呼ばれれば、最高四体の英霊を召喚、使役することが出来る。
宝具
『
ランクEX
対人、対軍、対城、対界宝具
アヴェンジャーと縁のあった英霊をサーヴァントとして召喚、使役することのできる宝具。
どのような状況であってもアヴェンジャーの魔力が持つ限り最高四体まで召喚し、また、使役することが出来るが、アヴェンジャーとして呼ばれている場合、赤い外套の男以外を召喚することはできない。
召喚されたサーヴァントは最高の状態で召喚され、そのスキル、宝具もつかうことが出来る。