「雄二、二回戦の科目って知ってる?」
「ああ知ってるぞ。・・・まあ、口で言うより見た方が速いだろ。」
「あれ?雄二、足が震えてるけどどうしたの?」
なんか、雄二の足が生まれたての小鹿のように震えてる。
まったく、そうなるなんて恐がりなんだなあ。
平気なところ見せて、雄二のことを笑ってやろ・・・・・・
「ガタガタガタガタガタガタガタガタ」
雄二が震えてた理由がようやくわかった。
そこに立っていたのは、ブルーベリー・・・じゃなくて、生物の先生である風見幽香先生。
しかも、笑みを浮かべている。
あれは、間違いなく怒っている時の表情だ。
今は立会人としてだけど、もはや僕の頭には鉄人と比較にならないくらいのトラウマが刻み込まれてる。
「吉井君、坂本君、遅れているというのに、どうしてそんなにゆっくりだったのかしら?」
「「ご、ご、ご、ごめんなさい!!」」
今の僕らはまるで蛇に睨まれた蛙。
風見先生に言われ、全速力でかけ上がる。
「よう!奇遇だぜ!」
「金金金金金・・・・・・」
そこにいたのは、魔理沙と・・・あれは博麗さんでいいのかな?
なんか禍々しすぎるオーラが彼女を覆ってるように見えるね。
「まったく、霊夢は食糧とお金のことになると、ものすごく目の色変えるから、少しは落ち着いて欲しいものだぜ。」
「だって5000円よ?それだけあったら最長2ヶ月はまかなえるのよ?」
「お前、1日100円弱で暮らしていけるのか・・・?」
「まあこれは、美味しいものを食べるのにパーッと使う予定だけどね。」
「じゃあ暮らせないじゃないか!それに私だって協力してるんだから報酬はしはらわれるべきだぜ!」
「報・・・酬・・・?」
「そんな心底不思議そうな顔をされても困るぜ!」
「まあ冗談よ。1%あげるわ。」
「これだけやらされて50円って、さすがに理不尽すぎる!」
なんか二人で漫才みたいな会話を繰り広げてる。
でも多分、博麗さんは全部本心で言ってる気がする。
それに、僕の今日の朝ごはんは、市販のカップラーメンを6回半分にした1/68カップラーメンだったし、別におかしくはないと思うけどなあ。
「なあ博麗、お前が出場した目的はなんなんだ?」
「・・・なによいきなり。そんなもの決まってるじゃない。商品券よ。早苗が既にペア組んでいたから、そこの魔理沙を引っ張って参加してきたのよ。だから、あんたらには悪いけど、負けてもらうわ・・・。」
凄まじい殺気を放つ博麗さん。
これ、僕生きて帰れるかな・・・?
生物の点数はおせじにも高くないし、博麗さんの殺意がこもった本気の一撃をかまされたら、フィードバックで昇天しかねない気がする。
「ねえ雄二、今の博麗さんの一撃をくらったら、フィードバックで昇天しかねない気がするんだけど。」
「まあ案ずるな。俺に任せろ。おい博麗。お前は商品券を何がなんでも手に入れたいという訳か。」
「当たり前じゃない!チケットは換金するし、腕輪も売っ払うわ!」
「だが、俺達も勝たなければいけない理由がある。・・・そこで博麗、俺からひとつ提案だ。」
おお雄二!
言葉で戦闘を回避しようなんて、今は君が神に見えるよ!
「・・・何よ?」
「もし、ここで負けてくれたら、商品券分の5000円を渡す。腕輪もチケットも興味ないんだろう。そっちは労せず確実に5000円得られる、こっちは勝てると、両方に得があるだろう?」
「・・・まあ、確かに得あるわね。でも、それだとチケットと腕輪の分損するじゃない。」
「なるほどな。ならば、もうちょい多めに渡そう。8000でどうだ?」
「・・・支払いは、いつ?」
「この大会が終了したら、きっちりと責任を持って払おう。・・・・・・明久が。」
・・・雄二。
・・・今は、君が大悪魔に見える。
「ちょっと雄二!君は僕を殺す気なのかい!?」
8000円の出費なんて、一体何日公園の水と砂糖塩だけで生きていかないといけなくなるか、想像がつかないよ!
「安心しろ。この大会に勝てば、商品券は手に入る。だから明久、お前は3000円払うだけでいい。」
「だとしても大金だよっ!」
「明久も文句ないみたいだな。じゃあ博麗、それでいいか?」
「いいわよ。じゃあ先生、私達の負けで。」
「ちょっと雄二、博麗さん、まだ僕払うなんて一言も『あ゛?』・・・払わせていただきます。」
博麗さんからとてつもない圧と殺気を感じたため、折れるしかない。
だって、このなかで払わないなんて言い出したら命だって失いそうなんだもん。
「あら、結局戦いはなしで終わりなの。まあいいわ。吉井君と坂本君のペアの勝利ね。」
風見先生が僕達の勝利を告げる。
勝ったのはいいけど、今度は生命の危機だよコンチクショウ!
これは、死んでも優勝しないと!
でないと、死ぬ未来しか見えない。
・・・あれ?もしかして、僕の未来、どうあがいてもデッドエンド?
「さて魔理沙、これで8000円入るのは確定したし、今度の日曜にでも、どこかに食べに行きましょ。」
「えっ、私もいいのか?」
「そりゃまあ、無理矢理誘った訳だしね。さっきはああ言ったけど、さすがに感謝の気持ちはあるわよ。」
「霊夢・・・!・・・もしかして、明日の天気は晴れときどきぶたか?」
「失礼ね!んなこと言ってるなら誘わないわよ!」
後ろから聞こえてくる会話からも、博麗さんが楽しみにしてることがわかる。
すっぽかしたら修羅を見ることになるよなぁ・・・。
「ちょっと雄二!なに勝手に人生賭けてくれちゃってんのさ!僕がお金に困ってるのは知ってるはずなんだから、雄二が払えばいいじゃないか!」
「お前が金に困ってるのは自業自得だろう。それに・・・、俺達、ダチだよな?」
「友人を売るような奴なんかとダチになった覚えはない!これでもくらえっ!(ブォンッ!)」
「っと、あぶねえな!この野郎!」
雄二と殴りあいの喧嘩をしていると、雄二と僕の携帯が同時に鳴る。
やむなく喧嘩を中止して、確認する僕ら。
メールは正邪からで、喫茶店の客足がいきなり大幅に減少したことが書いてあった。
・・・どういうことなんだろう?
「・・・あ、確かあなた達は観察処分者の人と翔子ちゃんの婿の53点の代表でしたよね?ちょうどいいところに!」
「待て、俺は翔子の婿になんてなってねえ!」
僕達がメールのことを考えていると、声をかけてきた人がいた。
えーっと、確か彼女は本居さんだったっけ?
でも、何の用なんだろう?
「とりあえず、ちょっとAクラスまで来てくれませんか?」
「?どうしてAクラスに?」
「・・・まあ、行けばわかります。」
本居さんに連れられて、Aクラスに向かうことになる。
Aクラスに近づくと、中から声が聞こえてきた。
「しっかし、ここの机は綺麗だよなー!」
「ほんと、2ーFとは比べ物にならない位だよなあ!」
「2ーFは店も汚かったし、サービスも味も最悪だったもんなー!」
「まったく、あの汚さでよく喫茶店やろうと思ったよな!」
「ほんとだよ!あんなところで食べたら食中毒が発生してもおかしくなさそうだよな!」
「2ーFには気をつけろということだな!」
2人の男によって、中から聞こえてくるFクラスの悪口。
・・・クソッ!あんなことされたら、Fクラスに悪い評判が流れて、お客さんが来なくなるじゃないか!
「・・・こういうことなんです。比那名居さんか博麗さんを探していたんですが、Fクラスの2人をたまたまみかけたので。さっきから出たり入ったりして繰り返していますし、あれだけ言われてるということは、なにかあったのかなと気になりまして・・・。」
「・・・常夏コンビ、古明地に制裁されたはずなのに、まだこりてねえのか。」
そう言う雄二だけど、どこか想定内というような表情をしている。
しかし常夏コンビとはうまい。
座布団・・・は今Fクラスにないからござ1枚。
そんなことを僕が考えている間に、雄二が本居さんに事情を軽く説明してた。
そのままAクラスの中に入る。
『ご主人様とお呼び!』というメイド喫茶らしいし、常夏コンビだけじゃなくて、メイド服姿の女子もたっぷりと確認しないと!
「・・・おかえりなさいませ。」
そんな僕らを出迎えてくれたのは、学年首席で、雄二のことが好きな霧島さん。
こんな似合ってる姿を見ると、ほんと雄二にはふさわしくないと思うよ。
「・・・おかえりなさいませ。今夜は返しません、ダーリン。」
・・・ほんと、まったくもって不公平だ。
「おい翔子。突然だが、予備のメイド服はないか?1着貸して欲しい。」
「・・・わかった。」
雄二の急な頼みにも、顔色ひとつ変えずに了承する霧島さん。
そのまま自分が着ているメイド服に手をかけて・・・
「待て待て待て!何故お前は普通に脱ごうとする!」
「・・・だって、雄二はメイド服が欲しいって言った。」
「俺は、よ・び・のメイド服を貸して欲しいって言ったんだ!お前が着ているメイド服が欲しいなんて言った覚えはねえ!」
「・・・そう。今、持ってくる。」
ちょっと残念そうにし、奥に消えていく霧島さん。
雄二に言われたからといって、躊躇いなく脱ごうとするなんて、底知れない人だ。
「・・・おまたせ。これでいい?」
間もなく戻ってきた霧島さんの手には、霧島さんが着ているそれと同じものがあった。
でも、雄二はそんなものをどうするつもりなんだろう。
「でも雄二、そんなものどうするの?」
「服というのは、当然着るためのものだろう。着るんだよ。・・・明久が。」
へー、まあそうだよね。
メイド服は着るものだよね・・・ってちょっと待て!
「ちょっと待って!なんで僕がメイド服を着させられるのさ!」
「よく考えろ。お前も俺もFクラスだ。もし、そのままあいつらをボコしたとすると、今度は『Fクラスはチンピラの集まりだ』というような噂が流れかねない。まだ顔は割れてないかもしれないが、お前はバカで有名だからな。」
「なんだと!?雄二にはバカって言われたくはないやい!」
「話は最後まで聞け。だから、メイド服を着て変装し、常夏コンビを仕留めるといったところだ。」
「だったら雄二が着ればいいじゃないか!僕は着ないよ!」
「やれやれ・・・。それなら仕方ない、公平にあっちむいてホイで決めようじゃないか。それで負けた方が行く、これでどうだ。」
「わかった。あとで後悔しないことだね!」
これで勝って、女装は回避してやる!
「「ジャーン、ケーン、ポン!」」
雄二はグー、僕はチョキ。
くっ、最初は負けたか。
でも、雄二が指差した方向と違う向きをむけばいい!
「あっちむいて・・・」
雄二の指が、僕の目に迫ってくる。
これはあれだな?
指をかわすために顔をそらしたら、そっちを指差す作戦だな?
その手にのってたまるか!
僕は顔をそらさず、きっと睨み付ける。
「・・・あ、あっちにチャイナドレスを着た古明地と姫路がいるぞ。」
「えっ!?どこどこ!?」
雄二が指差す方向を見る。
どこにいるんだ!?
「ホイ。お前、本当にアホだな。」
・・・・・・あっ。
しまったああぁぁっ!
「第一、接客は制服でなんだから、チャイナドレスを着ているわけないだろ。とりあえず、着替えてこい。」
「嫌だッ!こんなの、不正じゃないかッ!」
「男らしくないぞ明久。覚悟を決めろ。」
「うぅ・・・」
仕方がないので着替えてくる。
ううっ、絶対雄二に復讐してやる・・・。
「・・・ほう、案外似合うじゃないか、明久。」
「・・・確かに可愛いけど、きっと雄二だったらもっと似合ってた。」
そんな二人の感想。
嬉しくないよっ!
・・・はあ、しょうがないし、行ってくるか。
「・・・失礼いたします。」
「ここと違って、Fクラスはほんと・・・ん?お前、なかなか可愛いな。」
掃除をするフリをして近くに寄る。
一撃でしとめる!
「それでは、失礼して・・・」
「お?なんで俺の腰に手を・・・まさか、俺に惚れて」
「死にさらせええぇーーえッ!」
「ごふあっ!?」
よし、決まった!
僕のバックドロップがうまく決まり、頭を床にうちつける坊主先輩。
「なっ、夏川っ!?ってお前、Fクラスの吉井明久じゃないか!」
くっ、バレたか!
ならばこのまま畳み掛けるっ!
「ぐっ、ここは逃走だ!夏川、起きろっ!とっとと逃げ・・・!」
走り出したモヒカン先輩。
でも、それはすぐに何かによって止まる。
そこには・・・
「あんたらの営業妨害のせいで、収益が減ったら私の旨味も減るじゃない・・・!責任、取ってもらおうかしら・・・?・・・それに、魔理沙の邪魔にもなるじゃない・・・。(ボソッ)」
「うちのクラスにまで来て、他クラスの営業妨害になることを叫び散らすなんて、あんたらはクズで邪魔な存在ね。こいしと違って、私は甘くないわよ・・・!」
そこには、赤鬼と青鬼がいた。
・・・間違えた。怒りのオーラを全身から放つ博麗さんと比那名居さんがいた。
「お、お姉ちゃん、天子さん、やりすぎないようにして・・・」
「「大丈夫よ、命は取らないから。直前で済ますわよ。」」
「半殺しはやりすぎですよ!」
東風谷さんが二人を抑えようとしてるけど、とまる様子はなさそう。
「ではお客様、メイド2人による特別な接待をお楽しみくださいね?」
「「ひっ・・・!た、助け・・・」」
「「問答無用!」」
「「ぎゃあああああああっ!!」」
常夏コンビの二人に、二人の修羅が襲いかかる。
・・・というかもしかして、お金を払わなかった場合、僕もこうなる?
ちなみに、常夏コンビは意識を失った後、さらにボコボコにされようとしていたのを東風谷さんが止めた。
「なんだかんだで、悪評のもとは解決したと思うけどさ、これ、僕が女装する必要ってあったのかな?」
「いや、ねえぞ。放置していても、あの二人が片付けてただろうな。」
「くたばれええーーっ!(ブゥン!)」
僕の渾身の飛び蹴りはかわされてしまう。
そのまま、喧嘩をしていると、後ろから知ってる声が聞こえてくる。
「・・・あれ?坂本君と吉井君?なにやってるの~?」
「ああ古明地さん、僕は今雄二に、男のプライドと正義をかけた鉄拳を・・・・・・ッ!!?」
僕は、雄二が全て悪いということを伝えようと振り返るが、その瞬間、声が出なくなる。
だ・・・だって、古明地さんがチャイナドレスを着てたんだよ!?
古明地さんみたいな美少女がチャイナドレスなんてものを着たら、もうそれは似合うなんてものじゃない!
もはや芸術だよ!
ムッツリーニ!君の写真にとても期待しているよ!
「どう?似合ってる?」
「似合ってるなんてものじゃないよ!こんなに素晴らしいもの、僕は見たことない!ビバ、チャイナドレス!」
「明久、お前チャイナドレスが好きなんだな。」
「大好・・・愛してる。」
雄二のいきなりな質問に、ついうっかり大好きと口走りそうになったから、慌てて訂正する。
ふっ、これが僕のとっさの判断力さ。
「言い直した意味がまるでないな。」
だ、だって本当なんだから仕方がないじゃないか!
「今私は宣伝担当してるから、また後でね~!あ、あと他のみんなもチャイナドレス着てるよ!美波ちゃんとか姫路ちゃんとか、すごく似合っていたから誉めてあげてね~!」
そう言いつつこいしちゃんがどっか行っちゃう。
ああ、もっと見ていたかったのに!
まあ、しょうがないから戻ろうかな。
いかがでしたか?
買収して勝ちました。
ですがこれは悪魔の誘い。
払えなかったら東京湾に沈むことに。