「ねえ雄二、次はどんな卑怯な手を使って勝つつもりなの?」
「準決勝の相手は翔子と木下姉だ。だから秀吉を使う。」
秀吉を?
どういうことなの?
「はあ・・・。秀吉を木下姉に変装させ、降伏を宣言させるってことだ。そんくらい、言われなくてもわかれ。」
僕が雄二の言ったことを考えていると、呆れたような感じで雄二が補足する。
まったく、僕は雄二のような卑怯な男じゃないんだしわかるわけがないじゃないか。
「とにかく、翔子にペアチケットを渡すわけにはいかねえ・・・。企業の力で無理矢理婿入り・・・、霧島雄二なんて呼ばれるのはごめんだ・・・!勝たないと、俺の人生は、俺の人生は・・・!」
最近、雄二の壊れかたがワンパターンな気がする。
まったく、霧島さんのような美人なら、僕なら大歓迎なのにな。
開始の時間も近いので、古来から伝わる壊れた電化製品を直す方法を雄二にやって起こし、会場に向かう。
雄二が言っていた通り、出てきたのは霧島さんと木下さん・・・いや、秀吉なんだっけ。
「・・・雄二。私は雄二と幸せになりに行きたいだけ。そんなに嫌?」
いきなり霧島さんが上目使いで、雄二に質問する。
うっ、これは僕なら嫌とは言えない。
というか、それでお願いをされて断れる人は人の心を持ってないと言えるだろうね。
「ああ、嫌だ。」
雄二は人の心を持ってなかった。
「・・・そう。なら、頑張る。」
でも、霧島さんも特に気にした様子はみられない。
案外、この2人はお似合いなのかもしれない。
「さて、それじゃ秀吉!やってくれ!」
雄二が叫ぶ。
これで、木下さんのフリをした秀吉が、敗けを宣言し、僕らは決勝戦に進める。
はずなんだけど、秀吉は黙ったまま宣言しようとはしない。
「秀吉、何をやってるんだ?うちあわせ通りに頼むぞ。」
「秀吉?もしかしてあのアホのことかしら?」
霧島さんの隣に立っている秀吉?がそんなことを言い出す。
指差した方向を見ると、チャイナドレスを着た秀吉?が縛られ、転がされていた。
・・・・・・ごくり。
・・・じゃなくて、誰があんなことを!
「・・・雄二の考えることはわかる。」
くっ、霧島さんと雄二が幼馴染みなのは、試召戦争では有利に働いたけど、今は仇となったのか!
「くっ、翔子・・・」
ともかく、ムッツリーニが写真を撮りながら縄をほどきに向かったけど、雄二の作戦は失敗してしまった。
もちろん、学年主席の霧島さんと学年でも指折りの成績優秀者である木下さんとまともに戦ったら、僕達には万にひとつも勝ち目はない。
どうにか勝てる方法は・・・そうだ!
「ねえ雄二、勝てる作戦を思いついた。僕を信じて、今から僕が言う言葉を言ってね。棒読みじゃダメだよ。」
「・・・わかった。俺の作戦は失敗しちまったし、お前を信じようじゃねえか。」
よし、雄二の協力もとりつけられた!
この作戦には、雄二が必要だからね。
「じゃあ行くよ。『翔子、俺の話を聞いてくれ。』」
「翔子、俺の話を聞いてくれ。」
「・・・なに?」
うん、無事に霧島さんの気をむけられている。
ここまでは計画通り。
「『お前がそう思ってくれているのは嬉しいが、俺には俺の考えがあるんだ。』」
「お前がそう思ってくれているのは嬉しいが、俺には俺の考えがあるんだ。」
「・・・考え?」
「『俺はお前に勝って、俺の意思で、胸を張って幸せになりたいんだ。』」
「俺はお前に勝って、俺の意思で、胸を張って幸せに・・・ってちょっと待て!」
こちらを向いて抵抗してくる雄二。
でも、それくらいはお見通しさ!
「『だからここは俺に勝たせてくれ。そして優勝したら結婚しよう。』」
「だ、誰がそんなこと言うかボケ!」
雄二が激しく抵抗する。
「くたばれ!」
「くぺっ!?」
だから僕は雄二の頸動脈を押さえ、意識を刈り取る。
意識を失った雄二の体を支えて・・・と。
(秀吉、お願い。)
(うむ、任せるのじゃ。)
近くに呼んだ秀吉を雄二の後ろに隠すようにして配置する。
「だからここは俺に勝たせてくれ。そして優勝したら結婚しよう。愛してる、翔子!(秀吉の声真似)」
秀吉が雄二の声で、霧島さんに愛の告白をするのにあわせて、僕が後ろから口や手を動かし、本当に雄二が言っているように演出する。
・・・ところで、僕が指示してないものまで入ってたんだけど、実は秀吉もこういうの好きなのかな?
ともかく、これで霧島さんは封じた。
こっちも雄二を落としたけど、雄二と霧島さんの交換なら余裕でお釣りがくる。
名付けて『なりすまし作戦』、成功だ!
そして、ここからが僕の秘策第二段!
「さあ木下さん、残りは君だけだ!」
雄二と霧島さんの対話の間に召喚獣を出していた木下さんに言う。
「いくよ!サーモン!」
「・・・・・・サモン(ボソッ)」
『Aクラス 木下優子 保健体育 234点 VS Fクラス 土屋康太 保健体育 691点』
これぞ第二の秘策、『なりかわり作戦』!
保健体育だけはべらぼうに高いムッツリーニによる代理召喚で決める!
「・・・加速。」
「ちょ、本当に卑怯・・・きゃあっ!」
出現と同時に腕輪の力を使い、一太刀で木下さんの召喚獣を切り裂くムッツリーニ。
「・・・えー、ただいまの勝負ですが・・・。」
む。でも、物言いがつきそうだ。
「秀吉、お願い。」
「うむ。愛してる、翔子!(雄二の声真似)」
「・・・私達の負けでいい。」
「・・・わかりました。吉井、坂本ペアの勝ちです!」
ふう、危なかった。
雄二の作戦が失敗したときはどうなるかと思ったけど、僕の天才的な頭脳のおかげで、雄二の人生という、僕には全く損害がないものだけで勝つことが出来た。
優勝できなかった場合、僕の人生は博麗さんに終わらせられるか、水道水と塩だけしか食べられなくなってのたれ死ぬとこだったし、安いものだよね雄二の人生くらい。
「テメェ明久!なに俺の人生を売ってやがるんだ!」
「もとはといえば雄二の作戦が失敗したから悪いんじゃないか!むしろ僕のおかげで勝てたことに感謝して欲しいんだよ!」
「だからといってこれじゃ本末転倒なんだよボケ!あれか?2回戦の時の仕返しのつもりかこの野郎!」
「ああ、その通りだよ!計8000円という大金を支払わなくちゃいけなくなった僕の苦しみを、雄二も味わえばいいんだ!」
「8000円と俺の人生って、割にあわなさすぎるだろうが!」
雄二と口論しながら、Fクラスに戻るために歩く。
・・・ん?なんだかFクラスの様子がおかしいような・・・?
「・・・大変なことになった。」
僕らの姿が見えたのか、先に戻っていたムッツリーニが慌てた様子で教室から出てくる。
「どうした、なにかあったのか。」
「・・・女子達が連れ去られた。」
へ?
連れ去られた?
「・・・連れ去られたのは正邪以外の全員。正邪だけは連れ去ろうとした奴を撃退したそうだ。」
正邪以外の全員・・・というと大変じゃないか!
今すぐ助けにいかないと!
「落ち着け。まずはどこに連れていかれたか確認だ。」
「・・・もう調べた。これを。」
ムッツリーニがなにかを見せてくる。
これは・・・発信器?
・・・うん、今だけは見なかったことにしよう。
友人から逮捕者が出るなんて事態、僕も嫌だしね。
「・・・学校の近くのカラオケを差している。」
「そこに、姫路さん達がいるの?」
「そうだな。助けに行くか。」
「うん。」
誘拐なんてする犯人達を、僕は許せない。
待っててねみんな!今助けに行くから!
・・・でも、なんでこんなに事件が起こるんだろう。
正邪がやってくれているから店から店員がいなくなる事態にはならなかったけど、誘拐なんて普通に犯罪じゃないか!
「ここか・・・。」
5分後。
ムッツリーニの発信器がさしていたカラオケに到着していた。
店員に、中に連れがいると言って入る。
ムッツリーニは既に店員として潜入してる。
中から聞こえる声を聞くために、ムッツリーニから借りた盗聴器を耳にあてる。
すると、聞こえてくる声。
「ちょっと、いい加減にしなさいよ!何が目的でこんなことをするのよ!」
これは・・・美波の声?
「そんなの言うわけないだろ。お前達はここで大人しくしてれゃいいんだよ。」
「よくわからないけど、これ美味しそうだから頼んでいい?」
「なあお空、こっちも美味しそうだぜ!」
「あ、これ、前に私がお姉ちゃんと食べて美味しかったやつだ!瑞季ちゃんも阿求ちゃんもどう?」
「い、いえ・・・。私はいいです・・・。」
「あ、あの・・・、そこの3人、呑気過ぎませんか・・・?」
「というか、よく食べられるのう・・・。」
「だって、この人達、どうせ出してくれないと思うもん。だったら、食べられるものを食べた方がいいかなって。」
「その通りだぜ!・・・それに、今私達金持ってないし、こいつら持ちに出来そうだしな。(ボソッ)」
美波とは対照的に、危険を感じていない様子の魔理沙と古明地さんと霊路地さんの声。
というか魔理沙、誘拐犯に持たせようとするなんて凄いね・・・。
今すぐ行かなくても良さそう。
隙をうかがって・・・
「この・・・!お前、いい加減にしやがれ!」
ドンッ、ガシャーンと、なにかを突き飛ばしたような音と、テーブルか何かに当たったような音。
そして、魔理沙のうめき声が聞こえてくる。
うん、前言撤回。
「お、おい明久、落ち着・・・」
雄二の声を無視して中に入る。
中には、聞こえてきた音と同じような光景があった。
数は・・・6か。
「あ?なんだ、テメェ?」
そのうちの1人が、こっちにガンつけながら近づいてくる。
それじゃ、失礼して・・・
「死にさらせエェェーッ!」
「ごふぉっ!?」
股間を思いっきり蹴りあげる。
そいつは股間をおさえて沈んでいった。
「テメェ!リュウキに何しやがる!」
僕の腹にパンチを叩き込む誘拐犯の一人に、カウンターの顔面パンチを叩き込む。
魔理沙を突き飛ばしたのはどいつだ?
誰でもいい、全員ぶちのめす!
「やれやれ・・・全く、突っ走りやがって・・・っと!」
でも、多勢に無勢。
不利になってきていたけど、雄二も加勢してくれる。
店員に扮したムッツリーニが最後の一人の頭を灰皿でぶん殴り、制圧は完了した。
「大丈夫、みんな?」
なにかトラウマになるようなことがなかったか、突き飛ばされた様子の魔理沙に怪我がないかと聞いてみたが、問題はないようだ。
そのため、みんなでFクラスに戻る。
「や・・・やっと帰ってきたか・・・。あとは・・・頼む・・・ぞ・・・(バタン)。」
「ちょっ、正邪!?」
中には、1人チャイナドレスで奮闘し、げっそりとしたような正邪の姿があった。
こっちを見て、糸が切れたように倒れる彼女。
お疲れさま。
そして、ありがとう。
ちなみに、彼女は控え室でゆっくりと寝かせておいた。
いかがでしたか?
こいしちゃんサイドに比べて明久サイドは卑怯。