連れ去られた私達を吉井君達が助けてくれてからしばらく後。
学園祭1日目も終わって、他の生徒はもう帰ったんだけど、何故か私はひきとめられたんだよね。
今教室にいるのは私と吉井君と坂本君の3人。
あのあとお姉ちゃんと話したけど、まだ話したいのにな。
「ところで、用件ってなんだっけ?私、はやくお姉ちゃんと会いたいんだけどなー?」
「まあ待て。もうそろそろ来るはずだ。」
「ん?誰か来るの?」
そう言ったのは吉井君。
あれ、吉井君も知らないのかな?
「ババァだ。」
・・・・・・いや、誰?
ババァって言われてもなあ・・・。
「え?学園長がここに来るの?」
「えっ?ババァって学園長のことだったの!?」
学園で一番偉い人なのにババアって・・・。
二人らしいといえば二人らしいけど。
「でも、どうして学園長がここに来るの?」
「俺が呼んでおいた。さっき廊下で会ったときにな。」
「ダメだよ雄二。性悪ババァとはいえ一応目上の人なんだから、用があるならこっちから行かないと。」
吉井君・・・。
ババァとか言っていなければ、とてもいいことを言っていたのに・・・。
「用もなにも・・・、今日起きたFクラスへの妨害の原因は、あのババァなはずだからな。事情を聞かせてもらわないと気がすまん。」
「もうちょっとふさわしい呼び方をした方が・・・・・・ん?なんて?」
なんだか今、妨害の原因が学園長にあるって聞こえたんだけど・・・。
「だから、あのババァが今日のトラブルの原因だ。」
「えええっ!?あのババァ、なにか企んでいたのかっ!?」
もしそうだったら・・・残念だな。
その時、ガラガラと扉が開けて、長い白髪の女性が入ってくる。
「やれやれ、わざわざ来てやったのにずいぶんな挨拶だね、ガキ共。」
「出たな!諸悪の根源め!」
その容貌に、教育者としては乱暴なしゃべり方、あと吉井君の台詞から考えるに、今入ってきた人が学園長である、藤堂カヲルさんで間違いないはず。
「おやおや、アタシが黒幕扱いかい?」
「そうでないにしろ、俺たちに隠していることがあるのは間違いないはずだ。でないとたかが学園祭の出し物で、執拗な営業妨害や誘拐が発生するなんて、どう考えてもおかしい。話を聞かせてくれるんだよな?」
「・・・まさか奴らがそこまでするとは、このアタシも思わなかったのさ。本当にすまなかったね。」
そう言いつつ学園長が頭を下げて謝罪を・・・え?
「そこのジャリ共も、誘拐犯から生徒達を助け出してくれたこと、感謝してるよ。」
学園長は頭を下げたまま吉井君達にお礼を言い、頭を上げる。
「・・・さて、謝罪も終わったことだし話すとしようかい。身内の恥をさらすような真似になるから、あまり話したくはないんだけどねえ。」
そう言って、学園長は話し始めた。
「アタシの目的は、如月ハイランドのペアチケットじゃないのさ。」
・・・ん?
まって、いきなり話がわからないんだけど・・・。
ペアチケットっていうと大会の優勝商品だよね。
お姉ちゃんと行くつもりだったけど、なにかあったのかな?
「ベアチケットじゃない!?どういうことですか!?」
「アタシにとっちゃあ企業の企みなんかどうでもいいんだよ。アタシの目的は、別の優勝賞品の方さ。」
「別のって言うと・・・商品券と、『白金の腕輪』とやらか。」
「ああ。あの特殊能力がつくとかなんとかってやつ?」
そういえばそんなものもあったっけ。
確か、片方が点数を半分にわけて2体同時に出せるのと、教師がいなくてもフィールドを展開できるんだったかな?
「その白金の腕輪をあんたらに勝ちとって欲しかったのさ。」
「ああ。それと引き換えに教室の補修を許すってな。ま、俺達が聞いてたのはチケットの方だった訳だが。」
へー、そんなことがあったんだ。
確かにFクラスはすき間風とか酷いもんね。
「でも、なんで吉井君達に手に入れて欲しかったの?」
「・・・・・・欠陥があったのさ。恥ずかしい話だが、点数が一定以上だと暴走してしまうんだよ。」
「一定以上?」
「そうさ。片方はそこまで水準は低くはないが、もう一方は平均点程度でも暴走してしまうようでね。だから、あんたらのような、優勝の可能性がある低点数者がいいってわけさ。」
な、なるほどね・・・。
確かに坂本君は作戦でD、Bクラスに勝ち、Aクラスにもあと一歩のとこまで行った(それを台無しにしたのも坂本君だが)し、吉井君は監察処分者だから召喚獣の扱いが上手いものね。
「雄二、僕たちは褒められてるってことでいいのかな?」
「いや、お前らはバカだって言われてるんだ。」
「なんだとババァ!」
「それぐらい自分で気づけっ!」
暴れだしかけた吉井君をおさえて学園長の話を聞き続ける。
あれ、そうなると負けたほうがいいのかな・・・?
私達以外で勝ち上がったのは吉井君達みたいだしね。
「ところで、明日の試合は私とお姉ちゃんが負けたほうがいいの?」
あまりやりたくはないけど、そういう事情があるならしょうがないかな。
「いや、そんなことはするんじゃないよ。決勝はいろんな人が見てるんだ。そんなことをしちまったら八百長試合で思い切り叩かれちまうさね。もしもあんた達が勝ったら、『白金の腕輪』だけ、そこのバカガキどもに譲ってやってくれるかい?」
「うん、わかったよ。」
腕輪とかちょっと面白そうだけど、不具合あるならしょうがないよね。
うん、それなら二人と普通に戦えるよね。
「ええええ!?バ、ババア!そこは古明地さんに負けろって僕は言ってほしかったよ!?」
でも突然吉井君が慌てだす。
なんか事情があったのかな?
「あん?別にアタシとしちゃあ、『白金の腕輪』が戻ってくるんならどちらでもいいさね。むしろ、礼儀知らずのあんたらには負けてもらって、この娘に勝ってほしいぐらいだよ。」
「そんな!?ババァ、僕達を見捨てないで!可愛い生徒じゃないですか!」
「バカ言うんじゃないよ。あんた達よりもこの子の方がよっぽどかわいい生徒だ。万が一にも八百長を仕掛けるとしてもこの子を勝たせるさね。」
「そ、そんな殺生なっ!?」
よくわからないけど・・・吉井君は八百長してでも勝ちたい理由があるのかな?
でも、さっきの吉井君、まるで命がかかってるかのような必死な感じがしたけど・・・。
「まあそういうわけで、明日は頼んだよガキ共。」
「ああっ!待って、ババァ長!」
吉井君が呼び止めるのを無視して、スタコラと歩いていく学園長。
吉井君の態度も態度だけど、無情だよね。
「雄二!今日は徹夜で勉強するよ!」
「とはいってもなあ・・・。古明地らが勝てば、翔子にペアチケットが渡る心配はないだろうしな。だろ、古明地?」
「うん、私はお姉ちゃんと行くつもりだったよ~!」
「ん?だったとはどういうことなんだ?」
お姉ちゃんと一緒に行きたかったんだけど・・・。
「お姉ちゃん私と遊園地行くの恥ずかしいみたいで、いいって言ってくれなかったんだよね・・・。」
「そうなると、どうするつもりなんだ?」
「んーっとね、お姉ちゃんは今一番欲しがっている人に売るって。」
「欲しがっている人・・・?」
「えーと、Aクラスで学年主席の、一途な女の子って言ってたよ。」
「・・・Can you say that again?(もう一度言って貰えますか?)」
何故英語?
私もさっきまで知らなかったんだけど、お姉ちゃんと霧島さんは知り合いだったらしいんだよね。
「Aクラスで学年主席の、一途な女の子って言ってたよ。」
とりあえず言われた通りにもう一度言ってあげる。
「じゃ、私はもう行くね~!」
お姉ちゃんがいる場所に私も向かうため、坂本君と吉井君に別れの挨拶をして去る。
「ちくしょおおぉおっ!明久ァ!今から死ぬ気で勉強するぞおおぉおっ!!」
後ろから、そんな坂本君の魂の叫びが聞こえてきた。
いかがでしたか?
霧島さんとさとり様は友人です。