古明地こいしとFクラス   作:こいし金二

37 / 76
第三十七話「一日目!」

 

 

 

合宿場所に着いたあと、私と魔理沙は吉井君達の部屋に来ていた。

もちろん、脅迫状の犯人のことを聞くためだよ。

 

「・・・昨日、犯人が使ったと思われる道具の痕跡を発見した。」

 

昨日の今日だから、そこまで期待してたわけではないけど、ムッツリーニ君は情報をつかんでいたみたいだね。

 

「・・・手口や使用機器から、4人の犯行は全て同一人物だと断定できる。」

 

まあ、普通そう何人もいないよね。

そもそも、犯人とムッツリーニ君2人がそういうことやってるのもおかしいと思うし。

 

「それで、犯人は?」

 

「・・・(フルフル)」

 

さすがに、まだわからなかったみたい。

 

「・・・犯人は女子生徒でお尻に火傷の痕があるということしかわからなかった。」

 

「「「キミはいったいなにを調べたんだ(の)(のぜ)。」」」

 

私と魔理沙と吉井君が突っ込む。

普通、お尻の火傷の痕なんて知らないよね。

どう調査したかが気になるし、もしお姉ちゃんにそういうことをしていたならしかるべき処置をしないといけないからね。

 

「・・・校内に盗聴器を仕掛けた。これを。」

 

ムッツリーニ君にどう処置をするか考えてたら、盗聴器っぽいものを取り出し、ピッと再生ボタンを押す。

 

『ーらっしゃい。』

 

音質が悪いから特定は出来ないけど、かろうじて女子だというのはわかる。

取引相手と思われる人は・・・坂本君のプロポーズ音声を注文してるし霧島さんだよね。

 

『・・・雄二のプロポーズを、もうひとつお願い。』

 

『毎度。2回目だから、安くしとくよ。』

 

『・・・値段はどうでもいいから、出来るだけ早く。』

 

『さすがお嬢様、太っ腹だね。じゃ、明日の朝・・・と言いたいところだけど、明日からは強化合宿があるし、月曜の朝でいい?』

 

『・・・わかった。我慢する。』

 

「あっぶねえ!強化合宿に救われたぜ!」

 

坂本君が心底嬉しそうに言う。

相変わらず素直じゃないよね。

とはいっても、学校が休みな土日はほとんど動けないから、実質的なタイムリミットはこの合宿の間だけだけど。

 

「・・・それで、こっちが証拠の音声。」

 

ムッツリーニ君がまた違うファイルを再生する。

今度の取引相手はまた別の人みたい。

 

『しかし、相変わらずすごい写真ですね。こんなのバレたら大変じゃないですか?』

 

『ここだけの話、実は1回母親にバレてね。文字通りお灸をすえられたよ。まったく、いつの時代の罰なんだか。』

 

『それはまた・・・。』

 

『おかげで未だに火傷の痕が残ってるよ。乙女に対して酷いと思わないかい?』

 

それ以降は、他愛もない商談がいくつか続いた。

 

「なるほど、そういうことだったのね。」

 

よかった、友人を手にかけなければいけない事態にならなくて。

 

「犯人を特定できる有力な情報だけど、お尻の火傷か・・・。スカートをめくりまくっても、わかるとは限らないし・・・。」

 

その前に吉井君、それは普通にアウトだよ?

 

「赤外線カメラでもわからないだろうしな・・・。」

 

坂本君も悩んでる。

 

「なら、私と魔理沙でお風呂の時にFクラスの人の分だけでも見てこようか?」

 

私達は同性だから問題ないもんね。

クラスごとで、Fクラスは最後だから、Fクラスの人達と、出るのが遅れたEクラスの人くらいしか見られないけど。

・・・まあ、クラスメイトのなかに私達にこんな脅迫状を出す人がいるとは思いたくないけどね。

 

「じゃあそれで頼む。風呂の予定は・・・。」

 

坂本君がしおりを広げ、風呂の予定を探しているから覗きこむ。

・・・・・・ん?

 

「ねえ木下君、なんで個別風呂なの?」

 

「本当に何故ワシだけ個室風呂なのじゃ!?」

 

クラスごとに男子女子で別れているなか、木下君だけ個人名がのせられて個室風呂になってた。

まあ、木下君が男子トイレや男子風呂に入るのは絵的にダメな気がするけど・・・。

 

「しかし、Fクラス以外をどう確認したものか・・・。」

 

そうやってみんなで悩んでいると、突然ドアが勢いよく開けられ、大勢の女子生徒が突入してくる。

え?なになに!?

 

「全員手を頭の後ろに組んで伏せなさい!」

 

「木下、こいしちゃん、魔理沙はこっちへ!そこのバカ3人は抵抗を止めなさい!」

 

とっさに窓から脱出しようとした3人を美波ちゃんが制する。

なんでとっさの判断で窓に向かえるかという私の疑問はこの際置いておこっと。

 

「仰々しく大勢でぞろぞろとやって来て、なんの真似だ?」

 

「よくもまあ、そんなシラを切れるものね。あなた達が犯人だということくらい、すぐにわかるのに。」

 

「・・・なんのことだ?」

 

「女子の脱衣場にあったこれのことよ。」

 

前に出てきて、なにかを見せたのは、Cクラス代表の小山さん。

あれは・・・?

 

「・・・小型集音マイクとCCDカメラ。」

 

こういうのに圧倒的に詳しいムッツリーニ君が答える。

・・・・・・えっ?

 

「ええっ!それって盗撮じゃないか!」

 

「とぼけないで。あなた達以外に誰がこんなことをするっていうの?」

 

どうやら、小山さんをはじめとした女子達は吉井君達を犯人と確信しているみたい。

でも、いくらムッツリーニ君や吉井君でも、そんな完全にアウトラインなことはしないと思うんだけどなあ。

 

「違う!ワシらはそんなことしておらん!覗きや盗撮なんてそんな真似は・・・・・・そんな真似は・・・・・・否定・・・できん・・・っ!」

 

「ええっ!?信頼度低くない!?」

 

友達の無実を証明しようと声を荒らげる木下君だけど、途中で尻すぼみになる。

でも、このままでは決まった訳ではないのに本当に吉井君達が犯人扱いされ、折檻されかねない。

 

「まさか明久君たちがこんなことしてたなんて・・・。」

 

「待ってくれ姫路さん!本当に覚えがないんだ!」

 

「アキ・・・。信じてたのに、どうして・・・。」

 

「美波。信じてたなら、拷問道具は持ってこないよね?」

 

美波ちゃんが持ってるのは、膝の上に乗せるタイプの石。

明らかに乗せる気マンマンだよね・・・。

 

「みんな、ちょっと待って。」

 

だから、いったん私が制止する。

犯人と決めつけられてる3人の話は聞いて貰えなさそうだしね。

 

「どうしたのよ、こいしちゃん。」

 

「その機材が、本当に吉井君達のだという証拠はあるの?冤罪かもしれないのに、折檻するのは可哀想だよ?」

 

「でも他に誰がいるってのよ!」

 

「だとしても、同じもの持ってるみたいな確固たる証拠がないのに犯人と決めつけて折檻するのは良くないんじゃないかな?」

 

「こいしの言う通りだぜ。それに、美波も瑞季もこいつらがそんな完全な犯罪行為をするような奴らだと思ってるのか?」

 

「「うっ・・・。」」

 

魔理沙の言葉に2人がたじろぐ。

ムッツリーニ君も本当にヤバイ写真は取ってないもんね。

 

「だから、誰がやったかわかるまで、折檻は止めよ?」

 

「う・・・。そうね・・・。」

 

小山さんが引き下がってくれる。

後ろで「見るもん見たなら金は払ってもらうわよ」とか言ってる霊夢さんは、魔理沙がなだめてくれた。

 

「俺達は決して盗撮はやっていない。だから翔子、『・・・浮気はダメ』と言いながら手をかまえて俺の顔にロックオンするのはやめてくれ。」

 

「・・・わかった。信じる。」

 

うん、この場は収まりそうだね。

安心したよ。

あとでお姉ちゃんに見抜いてもらおうかな。

そう思っていると、ムッツリーニ君が立ち上がった時に、ゴトリと音をたてて小型集音マイクが落ちる。

それはさっき見たものと全く同じで・・・・・・・・・時間が、止まった。

 

「・・・・・・落とし物。」

 

ムッツリーニ君が何事もなかったように拾い、懐にしまう。

・・・・・・うん。

 

「「GO(だぜ)。」」

 

魔理沙と声がそろう。

もう私も魔理沙も止めないよ。

むしろ私もやっちゃおっと。

 

「・・・浮気はダメ。」

 

「明久君、覗きは犯罪なんですよ?」

 

「アキ、おしおきよ。」

 

「ムッツリーニ君、ちょっとおりおりするけど我慢してね?」

 

「「「ぎゃああああああっ!」」」

 

坂本君には霧島さんが、吉井君には美波ちゃんと姫路ちゃんが、ムッツリーニ君には私が中心になっておしおきする。

まあ、私が被害を受けた訳でもないから、おしおきだけしたらもう何も言うつもりもないけどね。

お姉ちゃんや友達が被害にあったなら私ももっと怒るけど。

それにデータが入ってたと思われるマイクやカメラは回収されたしね。

そんなことを考えながら、私はムッツリーニ君をおりおりしてた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・酷い目にあったよ。お金もとられたし・・・。」

 

「・・・見つかるようなヘマはしないのに。」

 

おしおきされた場所をさすりながらぼやく吉井君とムッツリーニ君。

私と魔理沙は脅迫状のことがあるし、あの後も残ってた。

ムッツリーニ君は反省全くしてないのかな?

 

「・・・上等じゃねえか。」

 

ぼやく吉井君達とは対照的に、怒りの炎を目に宿しながらつぶやく坂本君。

 

「ゆ、雄二?どうしたの?」

 

「あっちがそう来るなら、本当に覗いてやろうじゃねえか!」

 

よりによって彼はなんてことを言い出すんだろ。

頭霧島さんにアイアンクローされておかしくなっちゃったのかな?

 

「どうせもう仕置きは受けたんだ、覗きなんて真似はやりすぎだと自重していたが、あっちがそう来るなら本当にやってやろうじゃねえか!」

 

「ねえ坂本君、お仕置きした後で聞くのもなんだけど、本当に覗きはしてないの?」

 

「ああ、神に誓ってしてねえ。」

 

「お姉ちゃんに心を見透かされたとしても同じこと言える?」

 

「ああ。」

 

「嘘だったら霧島さんと即結婚誓える?」

 

「大丈夫だ、俺達はまだやってない。」

 

ふーん。

坂本君の返事には、全く嘘は込められてないように感じるね。

 

「魔理沙はどう思う?」

 

「うーん、確かに嘘ついてるようには見えないが・・・乙女として覗き宣言を見過ごすのはなぁ・・・。こいしはそこのとこどうなんだ?」

 

「んー、そこまで良くはないけど、止めても聞かなさそうだしね。それに覗きをされるなら、吉井君達と行動していれば見られる心配はないし。お姉ちゃんや友達のは絶対に見てほしくないけど、それ以外ならまあいいかなって。」

 

同行なりしていれば、もし覗きが成功しても、私はその時服を着てることになるしね。

それに、もしお姉ちゃんの裸なりを見られそうになったら目潰し出来るし。

 

「お・・・おう、そうだな・・・。」

 

あれ?

魔理沙がひいてる。

私、そんなおかしいこと言ったかな?

 

「・・・まあ、確かに脅迫犯を見つけたいしな。しょうがないから協力するぜ。」

 

「そうと決まれば早速行くぞ。ムッツリーニ、女子風呂の場所はわかるか?」

 

「・・・真っ先に確認済みだ。」

 

「よし、ならば全速前進だ!」

 

吉井君達は部屋を出て、女子風呂めがけて走る。

4人の男子と、私含めた2人の女子。

対するは・・・

 

「止まりなさい!カメラがあったと報告を受けたので念のため張ってましたが、まさか本当にくるとは思いませんでしたよ!」

 

女子風呂に続く廊下に立ち、私達を止めようとするのは、化学の布施先生。

 

「構わん!ぶちのめせ!」

 

「そこは構いなさい吉井君!」

 

「くたばれえええぇっ!」

 

「ひいいいいっ!サ、サモン!」

 

先生を殴り倒そうとした吉井君の拳は、出現した召喚獣によって阻まれる。

そういえば、先生の召喚獣も物理干渉出来るんだったね。

 

「危ないところでした・・・。」

 

「くっ、自分で作ったテストを解けばそりゃ点数が高いのは当然じゃないか!卑怯な!」

 

「いや、これはそもそも正式な勝負ではないので卑怯もなにもないですし、それ以前に一方的に殴ろうとしたことを棚にあげてませんか・・・?」

 

だよね。

私も、先生の方が正しいと思う。

 

「サモン!ここはワシに任せて先に行くのじゃ!」

 

召喚獣には召喚獣。

木下君が召喚すると、坂本君と魔理沙も召喚する。

さすがに先生も3体の召喚獣を相手にしつつ私達3人を止めることは不可能なようで、ありがたく先に進ませてもらう。

 

「そこで止まれ。」

 

次に立ち塞がるのは保健の大島先生。

ムッツリーニ君にとっては師匠みたいな先生なのか、苦い顔をしてる。

でも、ムッツリーニ君は保健体育は教師に劣らないくらいに取れるはず。

だから、いい勝負になってくれるはず・・・。

 

「・・・・・・大島先生。これは覗きじゃない。」

 

「じゃあなんだと言うんだ?」

 

意外なことに、説得でどうにかしようとするムッツリーニ君。

先生は聞く態度を見せる。

 

「・・・これは、保健体育の実習。」

 

「サモンだ。」

 

説得は失敗。

・・・当たり前だけど。

 

「ムッツリーニ、ここは任せた!」

 

ムッツリーニ君ならいい勝負するだろうし、ムッツリーニ君ですらいい勝負にならないなら私達が加勢しても意味無さそうだしね。

私と吉井君は大島先生の横をすりぬけ、そのまま向かう。

 

「来たか、吉井と・・・古明地もか。」

 

「出たな鉄人!」

 

「西村先生と呼べ!」

 

女子風呂の扉の前で背を向けて仁王立ちしていたのは鉄人先生。

 

「ここは通らせてもらいますよ!サモン!」

 

吉井君が召喚獣を召喚する。

それに対して、鉄人先生は何故か拳を構える。

・・・ん?

 

「・・・あれ、先生?もしかして、僕の召喚獣が特別製だということ、忘れてます?」

 

「阿呆か。学園で一番の問題児のお前のことなど忘れるわけがあるか。それに、担任変更などのゴタゴタで試験を受けそびれてな。」

 

「つまり、召喚獣出せないの?」

 

「まあ要約すると古明地の言う通りだ。」

 

そういうことみたい。

なら私は召喚獣を出す意味は全くないし、静観していようかな。

 

「そういうことなら・・・日頃の恨みもこめて、くたばれ鉄人!」

 

吉井君が召喚獣を動かし、フェイントをまじえて木刀を先生に叩きつけようとする。

 

「ふんぬっ!」

 

「・・・・・・は?」

 

でも、先生が放った拳で木刀が弾かれ、カランカランと音をたてて転がる。

・・・私の記憶では、召喚獣は人間の数倍のパワーがあったはずなんだけどな・・・?

 

「吉井、何故お前の召喚許可を取り消さないかわかるか?」

 

さっきのは何かの間違いだと言わんばかりに突進する吉井君の召喚獣に対し、小さな蹴りを放つ鉄人先生。

たったそれだけなのに、吉井君の召喚獣は完全に空中に浮いていた。

 

「召喚獣なら殴っても体罰にはならんからな!歯ァ食いしばれェッ!」

 

「ごふうっ!」

 

抵抗できない状態になった吉井君の召喚獣に対し、目にもとまらぬ速さで5回拳が叩き込まれる。

フィードバックする仕様のせいで苦しそうに腹をおさえる吉井君。

 

「さて、古明地、お前はどうする気だ?召喚獣出しても生身で来ても、俺には勝てんぞ。」

 

「ん~、これは無理だね、降参しよっと。」

 

「賢い選択だ。男らしく正面から来た気概とその返事に免じ、停学は勘弁してやろう。優しい西村先生が相手でよかったな。まあ、俺も鬼ではない。指導を終えたら解放してやろう。そっちの4人もな。」

 

「え?」

 

後ろを向くと、捕縛された坂本君、木下君、魔理沙、ムッツリーニ君の姿があった。

あらら、勝てなかったのか。

 

「さて、まずは英語で反省文を書いて貰おうか。文法、単語等間違えていたら何度でもやり直しだ!終わった人からシャワーを浴びて寝ても良し!」

 

こうして、私達は廊下で正座させられながら反省文を書かされることになった。

大変だったよ・・・。




いかがでしたか?
こいしちゃんや魔理沙は女子ですが罰則を受けたのは、覗きに加担したからです。
2人はともかく明久達が成功したらそれはダメですからね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。