古明地こいしとFクラス   作:こいし金二

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第五十一話「お姉さん!」

 

 

 

その日の放課後。

 

「ねえ雄二、今日は泊めてよ。期末テストにむけて、勉強を教えてほしいんだ。」

 

ざわ・・・ざわ・・・。

普段はテスト勉強なんてしない吉井君が発したその言葉に、教室中がざわめく。

 

「マジかよ・・・!今の聞いたか・・・?」

 

「ああ・・・。まさかあの吉井と坂本が・・・。」

 

「「期末テストの存在を知っていたなんて・・・!」」

 

あ、そっち?

坂本君は元神童って呼ばれてたみたいだし、さすがにテストの存在は知ってたでしょ。

 

「吉井、今回はやけにやる気じゃないか?何か理由があるのぜ?」

 

「え、えっと・・・。実は今回の試験では、召喚獣のデータがリセットされるみたいなんだ!だったら頑張らなきゃ『嘘だな。』いけ・・・って嘘じゃないって!」

 

「嘘じゃないにしろ、すくなくとも何か別の事情があるんじゃないか?吉井がそれだけでそこまでやる気になるとは思えないんだが・・・。」

 

今の会話が聞こえてたみたいな正邪ちゃんが言う。

実際、なんからの事情は絶対あると思うんだけど・・・。

 

「でもそれより、召喚獣のデータリセットってどういうことなの?」

 

正直、私はそっちの方が気になる。

 

「えっとね、普段は組分け試験でしか召喚獣の設備は変わらないでしょ?でもババァが特別に、今回の試験でも装備を変えるみたいなんだ。木刀だと、武器を交わすたびにすり減ってそうで嫌なんだよね・・・。」

 

へ~。

装備が変わるってことは、今の武器じゃなくなる可能性があるのかな?

私やお姉ちゃんの黒の腕輪のはどうなるんだろ。

 

「・・・まあ、俺としてもお前の点数が伸びるのは悪いことではないし構わないが、勉強会はお前の家でだ。」

 

「え、えっと・・・。今日は改装工事の業者が来る予定になっていて・・・。」

 

「嘘つけ。本当なら今日はお前の家でボクシングゲームをすることになっていただろ。」

 

「・・・じゃなくて、家が火事になって・・・。」

 

「火事になったのに顔洗って弁当作って制服糊付けして登校してきたのか?どんだけ大物なんだよ。」

 

「・・・じゃなくて、えっと、えっと・・・。」

 

「いい加減にしろ明久。お前の嘘は底が浅いんだよ。」

 

「それなら、私も行くぜ。興味が湧いたしな。」

 

「・・・俺も行く。」

 

「ウチも興味あるわね。」

 

「テスト前じゃから部活もないしの。」

 

「私も興味があるのですが、今日は小鈴と約束しているんですよね・・・。」

 

吉井君の家に坂本君が行くことが決まった後、行くという意思表示が次々されてく。

もちろん、私もね。

阿求ちゃんは不参加みたいだけど、彼女以外は行くみたい。

 

「ちょ、ちょっと、部屋が散らかってるし、そんな大人数は・・・。」

 

「なら、私も部屋の片付けを手伝いますっ。お部屋が汚いとお勉強に集中出来ませんし・・・。」

 

「私も手伝うよ~。」

 

私自身、掃除はよくやるからね。

お姉ちゃんには綺麗な家で生活してほしいし。

そうして、みんなで吉井君の部屋に押しかけることになったよ。

あ、そうそう、私からお空を誘ってみたら行きたいって言われたからお空も一緒にね。

最近あまり一緒にいられてなかったし。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、何があるんだろうな。ムッツリーニと違って、明久は滅多に隠し事しないし。」

 

「・・・(ブンブン)。」

 

「今朝からのおかしい点っていうと、お弁当を作ってきたり、身だしなみを整えて来たり、勉強をやろうとしたりというところだね。」

 

「ふむ、女でも出来たのかの。」

 

「「「・・・!」」」

 

木下君の言葉に、私とお空以外のみんなが大きく目を見開く。

 

「あ、アキっ!どういうこと!?説明しなさい!」

 

「うーん、吉井に私達にも秘密な彼女、か・・・。友人としては祝うべきなのはわかってるんだが、釈然としないというかもやもやするぜ・・・。」

 

「・・・裏切り者。」

 

「僕、何も言ってないんだけど・・・。」

 

みんな、想像力豊かだね。

 

「大丈夫ですよ。明久君が私達に隠れてお付き合いなんて、そんなことをするはずがありません。ね、明久君?そんな人がいたりなんて、シマセンヨネ・・・?」

 

姫路ちゃんの笑顔が怖いよ。

最近、姫路ちゃんはFクラスの悪い影響を受けすぎてると思う。

そんなこんなで、吉井君が住んでるマンションに到着っと。

私はいままで3回来たことあるけど、最近は来てなかったかな。

 

「さて、着いたな。明久、鍵を出せ。」

 

「ヤだね。」

 

「明久、裸Yシャツの苦しみ、味わってみるか・・・?」

 

「え、待って!?会話のステップがたくさん飛んでない!?」

 

せめてもの抵抗とばかりに拒否する吉井君に対してつきつけられたのはそんな脅迫。

 

「・・・涙目で上目遣いだと好ましい。」

 

「売る気!?もしかして抱き枕に使う気!?リバーシブルで、裏は秀吉!?」

 

「明久よ。何故そこでワシを巻き込むのじゃ。」

 

「あの・・・。上2つのボタンは開けておいていただけると・・・。」

 

「姫路さんも最近おかしいからね!?わかったよ!開ければいいんでしょ!」

 

「・・・ボタンを?」

 

「鍵を!」

 

さすがに屈したか、鍵を開ける吉井君。

 

「まあ、上がってよ。」

 

腹を括ったのか、私達をリビングに上げる吉井君。

扉が開けられ、まず見えたのは・・・・・・干されてるブラジャー(けっこう大きい)。

 

「いきなりフォロー出来ない証拠がぁーっ!?」

 

慌てて駆け込んで別室に放り込む吉井君だけど、もう私達は全員見ちゃったよね。

 

「・・・もう、これ以上ないくらいの物的証拠ね・・・。」

 

「・・・そうじゃな。」

 

「まさか本当にいたとはな・・・。」

 

「・・・殺したいほど、妬ましい・・・!」

 

それぞれがそれぞれの反応を見せる。

 

「・・・ダメじゃないですか明久君。あのブラ、サイズが合っていませんよ?」

 

「「「コイツ認めない気だ!」」」

 

そのなかで唯一、現実から目を反らす姫路ちゃん。

あのブラは吉井君がつけてるということにしたみたい。

 

「あら、これは・・・。」

 

次に姫路ちゃんが見たものは、化粧用のコットンパブ。

私達くらいの歳なら、下手に化粧するより素肌で勝負するのがいいみたいだから、化粧は使わないけど判別くらいは出来るよ。

これも証拠だね。

 

「ハンペンですね。」

 

「「「ハンペェン!?」」」

 

・・・4月の殺人料理事件を考えると、今回は本気な可能性があって怖い。

あれ以来、料理について学んでるみたいだけどね。

 

「・・・しくしく、もう否定出来ません・・・。」

 

「なんで女性用下着も化粧用品もセーフなのに、女性用弁当はアウトなの!?姫路さんのなかで、女性用下着や化粧用品はどういう認識なの!?」

 

しくしく泣き出した姫路ちゃんが見たものは、どうやら女性用のヘルシー弁当みたい。

基準はどうなってるの?

 

「・・・はぁ、もうこうなったら正直に言うよ。実は今、姉さんが来てるんだよ・・・。」

 

お姉さん?

それなら吉井君の部屋にこういうのがあるのは自然なことかも。

同棲してる彼女よりは明らかに説得力あるしね。

 

「な、なんだ、アキに彼女が出来るわけないものね!」

 

「・・・納得。」

 

「・・・あれ、でもそれだけならなんであんなに隠そうとしたの?」

 

私の言葉に、余計なことをというような表情をする吉井君。

でも、自慢のお姉ちゃんを持つ私からすると、わからないんだよね。

 

「まだ何か隠してるんだろ?もう全部ゲロって楽になれよ、な?」

 

坂本君が肩を叩く。

まあ、もう隠しとおせる状況でもないしね。

 

「わかったよ・・・。実は、姉さんは・・・僕から見てもかなり変というか・・・常識がないというか・・・。だから、一緒にいると大変で、色々減点とかされるし、帰りたくなくて・・・。はぁ、お姉さんが常識人な古明地さんが羨ましくなるよ・・・。」

 

「まあ、お姉ちゃんは自慢のお姉ちゃんだしね!でも、吉井君が非常識って言うなんて、どれだけ・・・?」

 

「確かに興味が出てきたぜ。」

 

「そこまで言われる人物とは会ってみたいな。」

 

みんな、当然のように興味を示す。

もちろん、私もね。

 

「あー、お前ら、そういう下世話な興味は良くないと思うぞ。誰にでも隠したい姉とか母親とかあるだろ。」

 

それを諫めたのは、とても意外なことに坂本君。

坂本君が吉井君に助け船を出すなんて珍しいよね。

 

「ゆ、雄二・・・。ありがと」

 

ガチャ

 

「あら?アキくん、姉さんが買い物に行っている間に帰ってきていたのですね。」

 

・・・あ、ちょうどお姉さんが帰ってきたみたい。

すごいタイミングだね。

吉井君が隠れるよう言うけど、私も含めて会う気満々だから効果はナシ。

一瞬の後、リビングが開かれた。

 

「あら、お客様ですか。ようこそいらっしゃいました。狭い家ですが、ゆっくりしていってくださいね。」

 

「「「お、お邪魔してます・・・。」」」

 

普通じゃん。

ごく普通の服装をしてるし、対応もおかしなところはないよね。

ちょっと拍子抜けしちゃった。

 

「失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私は吉井玲と言います。みなさん、こんな出来の悪い弟と仲良くしてくれて、どうもありがとうございます。」

 

「ああ、どうも。俺は坂本雄二。明久のクラスメイトです。」

 

「・・・土屋康太、です。」

 

「はじめまして。雄二くんに康太くん。」

 

坂本君とムッツリーニ君の自己紹介に対しても笑顔で挨拶する玲さん。

・・・いままでにおかしなところ、全くないよね?

 

「ワシは木下秀吉じゃ。よしなに。初対面の者にはよく間違われるのじゃが、ワシは女ではなく・・・」

 

「ええ、男の子ですよね?秀吉くん、ようこそいらっしゃいました。」

 

「・・・・・・っ!!わ、ワシを一目で男だとわかってくれたのは、主様だけじゃ・・・!」

 

木下君が感動してる。

まあ、普段から間違えられてるもんね。

女の子より女の子っぽいことも多々あるし。

 

「勿論わかりますよ。だって、うちのバカでブサイクで甲斐性なしの弟に、女の子の友達なんて出来るわけがありませんから。」

 

酷い確信の仕方だけど、今の3人以外女の子だよ?

 

「ですから、残りの皆さんも男の子なのですよね?」

 

「なんてことを言うのさ!雄二とムッツリーニ・・・じゃなかった、康太以外は全員ちゃんと女の子だよ!」

 

「明久よ、ワシは男で合ってるぞい!?」

 

いきなりでびっくりしちゃった。

今まで男の子に間違えられたことはなかったし・・・。

 

「・・・女の子、ですか・・・?まさかアキくんは、家にこんなにたくさんの女の子を呼ぶようになっていたのですか?」

 

玲さんが吉井君の方を向きながら言う。

 

「あ、あの、これには深い事情があって・・・。」

 

「・・・そうですか、女の子でしたか。皆さん、変なことを言って失礼しました。」

 

何か言うのかなって思ったけど、特に何も言わないで私達に謝る。

吉井君は慌てて事情を説明しようとしてたけど、どうしたんだろ?

 

「あれ?姉さん、怒らないの?」

 

「何を怒る必要があるのです?友達を連れてきただけで。それよりアキくん。」

 

「何?」

 

「今日はお客様が大勢いらっしゃるようですし、アキくんが楽しみにしていたお医者さんごっこは明日でいいですよね?」

 

・・・・・・お医者さんごっこ?

 

「ね、姉さん何言ってんの!?まるで僕が日常的にお医者さんごっこを嗜んでるかのような物言いはやめてよ!僕は姉さんとそんなことをする気はサラサラないからね!?」

 

「アキ・・・。血の繋がった、実のお姉さんが相手って、法律違反なのよ・・・?」

 

美波ちゃんがひいたような感じで言う。

まあ、私は別に構わないけどね。

私だってお姉ちゃん大好きだし。

 

「姉さん!お説教はあとでいくらでも受けるから、さっきのセリフを訂正してよ!」

 

「何を慌てているのですかアキくんは。それより、昨日姉さんが洗濯していたナース服を知りませんか?」

 

「このタイミングでそんなことを聞くなぁーっ!!」

 

吉井君が叫ぶ。

・・・なんというか、苦労しているみたい。

 

「それと、不純異性交遊の現行犯として減点を200ほど追加します。」

 

「200!?多すぎるよ!まだ何もしていないのに!」

 

「・・・・・・『まだ』?・・・250に変更します。」

 

「ふぎゃぁああっ!姉さんのバカあぁぁっ!」

 

減点?

よくわからないけど、大変そう。

でも確かに吉井君が隠したがるワケ、わかったかも。

 

「・・・失礼しました、話が反れましたね。貴女方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「あ、はい。私は姫路瑞希と言います。明久君とはクラスメイトです。」

 

「ウチは島田美波です。アキとは・・・・・・友達です。」

 

「・・・鬼人正邪です。」

 

「私は霧雨魔理沙、吉井とは友達です。」

 

「私は古明地こいし、友人です。」

 

「私は霊路地空!」

 

私も含めてお空以外、みんな普段と違う口調だ。

自分でも違和感あるけどね。

 

「美波さんに瑞希さん、魔理沙さんにこいしさん、正邪さんに空さんですね。はじめまして。」

 

さっきのが嘘だったかのように普通な態度で接する玲さん。

 

「ところで、姉さんは何しに出ていたの?」

 

「夕食の買い物に行っていました。」

 

吉井君の質問に答える玲さんだけど、なんかやけに量が多いような。

 

「でも分量多くない?」

 

「いえ、この量で合っています。」

 

吉井君も思ったようで、そう尋ねるけどちょっと不機嫌そうな顔で玲さんは否定する。

 

「せっかくですし、皆さんも夕食を食べて行かれませんか?たいしたおもてなしはできませんが。」

 

確かにパッと見で10人前くらいの材料があるように見えるね。

なら、ありがたくいただこうかな。

みんなもいただくことにしたみたい。

でも、何の材料を買ってきたんだろ?

 

「ではアキくん、お願いしますね。」

 

「うん、わかったよ。」

 

あれ、吉井君が作るの?

確かに吉井君は料理出来るけど、玲さんが作るのかなって思ってたから意外だ。

 

「え!?アキが作るの!?」

 

「明久君、料理出来たんですね・・・。」

 

「そう不自然なことでもないだろ。俺やムッツリーニだって作るしな。」

 

「・・・紳士の嗜み。」

 

「ワ、ワシはあまり得意では・・・。」

 

改めて考えてみると、ここの男子達の料理出来る割合凄いよね。

ちなみに私はあまり得意じゃないよ。

 

「ムッツリーニはともかく、雄二はやっぱり作って覚えたタイプでしょ?」

 

「そうだが、何故やっぱりなんだ?」

 

「だって、雄二って家の中で一番立場低そうじゃん。」

 

???

いきなりよくわからないこと言い出した吉井君だけど、どういうことなんだろ?

 

「は?何故立場の話になるんだ?」

 

「だって、食事って家の中で一番立場が低い人が作るんでしょ?」

 

「「「・・・・・・。」」」

 

かわいそう。

吉井君、家の中で一番立場低いんだね・・・。

 

「母の方針で、我が家ではそういうことになっています。」

 

「普通、出来る人が作るもんなんだがな・・・。」

 

「今まで何の疑問も持たなかったのぜ・・・?」

 

「アキのお母さんって、案外パワフルな人なのね・・・。」

 

「え!?普通の家では違うの!?おのれ母さん!いままでずっと僕を騙し続けてくれたな!」

 

憤慨する吉井君だけど、いままで不思議に思わなかったの?

 

「んじゃ、ちょっと早いが先に夕飯の支度から始めるか。明久、手伝うぞ。」

 

「・・・協力する。」

 

「あ、ありがと2人とも。じゃ、僕達で作ってくるから、女子達は座っててよ。」

 

「楽しみにしてるぜ!サンキューな!」

 

「頑張ってね~!」

 

男子達がキッチンに消えてく。

さて、何が出来るのかな?




いかがでしたか?
こいしちゃんが主人公なので5巻はやっぱ書きにくい。

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