第五十六話「妖怪!」
「んで、どうなんだ、学え・・・ババァ。」
「教えて下さい、学え・・・ババァ。」
「私も気になります、学園長先生。」
「どうしてそっちのクソジャリ共は素直に学園長と呼べないのかねぇ・・・・・・。」
化け物と化した召喚獣のことについて話を聞くため、私達は学園長室に来てた。
2人が問い詰めると、学園長先生は呆れたようにため息をつく。
まあ、そりゃそうだよね。
「すいません。学園長。」
「はンッ。今更言い直しても教えてやるもんかい。このクソガキどもが。」
「そんな!?酷いですよババァ長!」
「その呼び方は今までで一番酷いさね!?」
「おい明久。巷で若いと評判の学園長(笑)にあまり失礼な発言をするな。」
「アンタも充分失礼だよこのクソジャリ。」
2人の言葉で、学園長先生の機嫌はどんどん悪くなっていく。
・・・どうするのこれ?
「で、実際どうなんだ。きちんと復旧するのか?」
「はぁ?復旧?何を言ってるんだいボウズども。それだとまるで召喚システムに欠陥があるみたいじゃないか。」
バカを見るような目で2人を見てる学園長先生。
「だって、見るからに調整に失敗してるじゃないですか。」
「いいや、違うね。あれはちょっとした遊び心さ。今は夏休み。肝試しにはもってこいの時期だろう?」
そんな学園長先生の言葉。
というと・・・。
「つまり、調整に失敗したんじゃなくて、夏仕様にカスタマイズしたってこと?」
「そうさ。夏休みにも頑張る生徒達への、アタシからのささやかなプレゼントという奴さね。」
ごまかしにしか聞こえないのは私だけかな?
それに、美波ちゃんや姫路ちゃんのことを考えると、ありがた迷惑って感じなような・・・。
「まあ、学園長がそう言うなら、そういうことにしておくか。それなら、学園長の好意に甘えさせてもらおうぜ。」
「あれ?本当のことを聞かないの?」
「別に言わせて得があるわけではないからな。学園長だって肝試しを考えたうえでのプレゼントなんだろう?俺達生徒に異変が伝わった以上、世間体を考えると、何もしないわけにはいかないからな。」
「本当にアンタは、こういうことになると頭が回るねぇ・・・。」
つまり、坂本君はこのことを利用して、補習期間を潰そうと企んでるみたい。
私は怖いものは別に平気だし、それなら私もいいかな。
姫路ちゃんあたりは意見が違いそうだけどね。
そのまま坂本君と学園長先生が協議して、ルールとかを決めてく。
どうも、ただの見た目だけでの肝試しじゃ許可してくれないみたいだから、点数を使ったものも入れる必要があるみたいだけど、そこは坂本君なら大丈夫なハズ。
私は一足先においとまさせてもらおっと。
学園長室から出て、何しよっかな?って少し考えて、美術部に行ってみようかなって思い立つ。
おとといに、こころさんから『・・・暇な時でいいから、よかったら美術部に来てほしい。』ってメール来てたしね。
美術部の扉をノックすると、中からこころさんが出てくる。
「・・・いらっしゃい。上がって。」
「あれ?こころさんは1人?」
「・・・今は補習なり夏休みなりで、私だけ。」
どうやら今は補習か夏期講習の時期だし、部員はこころさんだけしかいなかったみたい。
あれ?こころさんは講習ないのかな?
「・・・私は美大志望だから、絵の練習。」
と思ったら、ちょうど私の心を読んだかのようなタイミングで、こころさんが言う。
なら、私も練習手伝いたいな。
「・・・ところで、よかったら、食べる?」
そう言ってこころさんが出してきたのはいつもの紅茶とクッキーじゃなくて、キンキンに冷えてる麦茶と棒アイス。
ほわぁ、今欲しいものだよ!
「うん、ありがと!」
さっきまで暑い教室にいたから、アイスが天国みたい。
冷たくて美味しい!
「・・・あ、そうだ!こころさん、テストの後に召喚獣出してみた?」
「・・・まだだけど、なにかあるの?」
「いつものデフォルメされたやつじゃなくて、今は等身大の妖怪になってるんだよ。」
「・・・妖怪?」
「なんでも、召喚者の本質や特徴で種類が決まるんだって。私は眼を閉じてるさとり妖怪だったんだけど、こころさんならどうなるのかな?」
「・・・それなら多分だけど、私は面霊気になると思う。」
「めんれいき?」
私の知らない名前だね。
どういうのなのかな?
「・・・付憑神の一種で、感情を表すお面を司る妖怪。感情を知るため、舞踊で他人の感情を奪う特徴もある。」
へぇ~、そんな妖怪がいるんだ~。
確かに感情を求めるって意味ではあってるかも。
「・・・でも、なんで妖怪に?」
まあ、そう思うのは普通だよね。
私だって最初見た時思ったし。
「なんか学園長先生によると、夏休みにも学校に来てる生徒達に、肝試し出来るようささやかなプレゼントなんだって。」
「・・・調整ミスの言い訳?」
あ、やっぱりそう思うよね。
「まあ私もそう思ったけど、それで2年生は夏期講習や補習の最後の2日間、肝だめしすることになったよ。」
「・・・へぇ。それは確かに面白そうな気がする。・・・よかったら、また今度その時の話を聞かせて。」
「うん、わかったよ!」
「・・・それなら、この前の戦争のこと、教えて欲しい。私は、その間に描くから。」
そういえばここに来るのはその時以来だったね。
言われた通り、吉井君が交渉の時に言ってたこととか、魔理沙が和平交渉が済んでいた美晴ちゃんに勝負しかけて補習室に送ったことや、先の期末試験で吉井君が名前の記入ミスで334クラスのアレキサンドロス大王になったこととかを話す。
そのたびにこころさんは興味深そうな表情を浮かべながら私の話を聞いてる。
最近の話のネタになることはあらかた話し終えたあたりでこころさんは絵を完成させたみたい。
その絵は前回よりやっぱり、さらにうまくなってる。
そのあとはこころさんの話を聞いたりお姉ちゃんの絵を見せてもらったりしながら30分くらい過ごして、私は部室を後にしたよ。
翌日。
「おーい、ここを誰か押さえてくれ!」
「ベニヤ板が足りないぞ!誰か持ってきてくれ!」
「ここの装飾、涸れ井戸だけでいいのー?」
私達2年のクラスは、肝だめしのための改修作業で盛り上がっていた。
しかも・・・。
「それにしても、まさかAクラスまで協力してくれるとは思わなかったよ。」
吉井君が言った通り、A~Eクラスも参加してるし、使う教室も広いA~Dクラスのものとなってる。
「まあ、Aクラスといえどもワシらと同じ高校生じゃからな。勉強ばかりでは息も詰まるじゃろうて。」
「そりゃそっか。遊びより勉強が好きな高校生はそうそういないよね。」
「わ、私はお勉強のほうが・・・。」
お化けとか苦手みたいな姫路ちゃんはそう言うけど、まあ普通はそうだよね。
ちなみに私は普通くらいだし、多分楽しめると思うよ。
「だ、大丈夫よ瑞季。どうせ周りは全て作り物なんだし、お化けは召喚獣なんだから、怖いことはひとつもないわ。」
美波ちゃんがそう言うけど、なんというかむしろ、自分に言い聞かせてるみたい。
吉井君が苦手なのか聞いたけど、美波ちゃんは動揺しつつ強がって認めないね。
普段の様子とは違って動揺してる美波ちゃんの姿が面白いと思ったのか、からかう吉井君だけど、怖がってだきついた美波ちゃんによって頸椎にダメージが入ってる。
しかもそれで、物陰から見ていた美晴ちゃんが怨みの言葉を呟いてるからちょっと怖い。
ただでさえ薄暗い教室だし。
「・・・明久。」
「きゃああぁぁぁあっ!」
暗がりから突然ムッツリーニ君が声をかけたせいで、さらに怖がる美波ちゃんによって吉井君の腰からコキュッという音がする。
腰から鳴っちゃいけないタイプな音だけど、大丈夫かな・・・?
ムッツリーニ君の要件は監察処分者の吉井君にロッカーの移動を頼みたいとのことらしく、了承した吉井君は召喚獣を呼び出す。
Aクラスのロッカーは鍵とか収納スペースとか、Fクラスのとは比べ物にならないくらい立派だから、人(鉄人先生を除く)の力じゃ動かせないよね。
「このロッカーをどけたらいいんだね?」
「・・・(コクリ)」
吉井君が召喚獣に指示をだし、ロッカーに手をかけた時、その衝撃でコロリと頭が落ちちゃう。
「「・・・・・・っ!?」」
美波ちゃんと姫路ちゃんが息を飲む様子が見て取れる。
まあ、今のは私もちょっとビクッってしちゃった。
「頭が外れちゃうのは不便だなぁ・・・。」
「・・・ガムテープで固定するとか?」
「う~ん・・・。一旦消すとまた貼りなおさないといけないなんて面倒だし、せっかくの肝だめしだから首が外れないと意味がないし・・・このままでいいや。じゃあ動かすよ。・・・よいしょっと。」
そう言って、頭は床に転がしたまま両手でがっしりとロッカーをつかませる吉井君。
頭転がしっぱなしなんて、危ないと思うんだよね。
誰かが間違って踏んだり蹴ったりしないように、こういう雑用の間は吉井君本人が頭を抱えておけばいいのに。
・・・まあ、絵面がSch○○l Daysの最後みたいになりそうだけど。
「ぐあっ!!頭に突然激痛がっ!」
やっぱり誰かが踏んじゃったみたいと思ったけど、美晴ちゃんが怨みの念を込めて踏んでた。
本人は召喚獣の操作で動けないし、召喚獣もロッカー持ってるから動けない。
「清水!吉井の頭をこっちに渡すんだ!」
このまま足蹴にされるのも可哀想だし、私が取り返そうかなって思ってたら、そこにFクラスのクラスメイトが美晴ちゃんに言う。
「邪魔をしないでくださいっ!この豚野郎にはお仕置きが必要なんですっ!」
「いいからさっさと吉井の頭を渡せ!」
「お前にはそれを任しちゃおけねえ!」
「「「俺達が本物の処刑を見せてやる!」」」
・・・んん?
「わかりました。そういうことなら渡しましょう。」
「感謝するぞ清水。女子に抱きつかれた裏切り者の血の制裁だ!サモン!」
「「「サモン!」」」
召喚フィールドにゾンビが溢れる。
「おらっ、行くぞっ!パース!」
「うぐっ!」
「よーし、こっちもパース!」
「ぐあっ!」
「ナイスパース。おらっ、シュートだ!」
「ぐえっ!」
デュラハンの頭でゾンビがサッカー。
・・・え、なにこの地獄絵図。
というか助けてあげたいけど、うまくドリブルで吉井君の頭をかすめとれる自信がないし、まっこうから行こうにも、さすがに多勢に無勢すぎるんだよね・・・。
「待つんだ。これ以上吉井君を苛めるとなれば、僕が相手になろう。」
するとそこに、Aクラス次席で、吉井君に友情より強い好意を持ってる久保君が助けに入る。
「ありがとう久保君!助かるよ!」
「気にしないでいいよ吉井君。君のことは僕が守るよ・・・・・・いつまでも。」
なかなか男らしいプロポーズみたいな久保君の台詞。
吉井君が男の子なことを除けば、いい場面かな。
「Aクラスの久保・・・でしたか?豚野郎のお仕置きを邪魔しないでくれませんか?」
「それは出来ない相談だよ清水さん。僕にも守りたい・・・いや、守らなければいけないものがあるからね。」
「わかりました、ならそこの豚野郎と一緒に始末してあげます!サモン!」
「僕が勉強を頑張っていたのは、今ここで吉井君を守るためだったみたいだね・・・。サモン!」
2人が召喚獣を呼び出す。
気になる種類はえーと・・・多分迷ひ神かな?
道に迷って力尽きた人間が、道連れを求め放浪してるものだったはず。
同性愛を否定する気はないけど、確かに2人は人の道を踏み外してると言えなくないかな。
・・・お姉ちゃんがものすごい好きな私が言えるかは疑問だけどね。
そのままゾンビと迷ひ神VS迷ひ神の戦いがスタート。
生首を抱えているゾンビの群れに迷ひ神が襲いかかり、向こうも対抗して腐った身体で引っ掻きや噛みつきを繰り出してくる。
飛び散る腐肉、宙を舞う生首、弾け飛ぶ四肢。
「「「きゃああぁぁぁあーっ!」」」
あまりに凄惨な光景に、美波ちゃんや姫路ちゃんだけじゃなくて、私も含めたクラスにいた全員が悲鳴をあげる。
等身大だから余計に酷い・・・。
私もここまでのは無理・・・。
その光景に恐怖し召喚獣を出す者、彼女を守ろうと召喚獣を出す者、それを殺さんと襲う者と、あっという間に召喚フィールドは阿鼻叫喚の妖怪大戦争が発生する。
私もゾンビのちぎれた足がこっちに飛んできたからつい召喚しちゃった。
あまりの騒がしさに、先生がフィールドを消すんじゃないかって思ったその時。
「「「お前らうるせぇんだよ!!」」」
普段あんま見ない顔の人達が怒鳴りこんできた。
いかがでしたか?
関係ないのですが、伝ポケの鳴き声で一番好きなのってパルキアなんですよね。
ひさしぶりにディアルガvsパルキアvsダークライ見てそう感じました。