どうしてもこっちに逃げてしまうのが…。
「やれやれ、つくづく救えないガキどもさね・・・。どうして召喚獣勝負にまでしてやったのに、おとなしくできないんだい。」
額を押さえながらそんなことを言っているのは学園長先生だった。
「なんだババァ。何しに来たんだ?」
舌打ちでもしそうな表情で坂本君が言う。
まあ坂本君にとっては狙いを邪魔されたわけだもんね。
「学園長と呼びなクソガキ。まったく、組み合わせを聞いて人がちょいと様子を見に来てみればこのザマかい。せっかく来賓の方も召喚獣野球を見て満足してくれたんだ、今さらアンタらがバカをして心証を悪くするんじゃないよ。」
どうやら、学園長先生は組み合わせを見て、問題が起きないか様子を見に来たみたい。
いい読みしてる。
「止めないでください学園長!2ーFのクズどもには先輩として礼儀を叩き込んでやる必要があるんです!」
「こっちこそもう我慢ならねえ!さんざんバカにしやがって!学園長!この先輩面したカスどもを殺らせてください!」
「だからお止めって言ってるんだよ、クソガキども!」
抗議するAクラスとFクラスを学園長先生が一喝する。
亀の甲より歳の甲というだけあって、その場の全員が黙りこむ。
「痛みが返ってこないから乱闘になだれ込むのかねぇ・・・。・・・よし決めたよ。この試合だけ召喚獣の仕様を変えてやろうじゃないか。」
「「「・・・は?」」」
召喚獣の設定を変える?
どういうこと?
「この試合に限り、全員の召喚獣が痛みがフィードバックするようにするということさね。そしたら乱闘なんかせずにまともに試合をするだろう?」
つまり、みんな吉井君のようになるってことかな?
「じゃ、そういうことだよ。全員真面目に野球をやんな。」
そう言い残し、去っていく学園長先生。
えーと・・・。
「審判、ちょっとタイムで。」
・・・と、ここで坂本君が正式にタイムを申し出る。
作戦も考え直さないといけないから妥当な判断だね。
マウンド付近に集まる。
「どうする雄二?乱闘のもくろみが崩されたよ?」
「問題ない。予定とは違うが、こうなったらこちらの秘密兵器を使うまでだ。」
「秘密兵器?」
「ああ。幸いにも次のバッターは坊主野郎だ。手加減する必要もない。」
そう言って、坂本君は主審の河城先生のもとに歩みより、ピッチャーの交代を宣言した。
「ピッチャー吉井に代わって、姫路。吉井はキャッチャーと交代、キャッチャーの俺はセカンドの島田と交代。」
秘密兵器って姫路ちゃんのことなのかな?
よくわかんないけど、私は変更はないみたい。
自分の持ち場に戻ろっと。
・・・その最中、坂本君と姫路ちゃんが何か話してたけど、聞こえなかったな。
そうして、全員がポジションに。
さっきデッドボールでモヒカンが塁に出てたから、ノーアウトランナー一塁で再開だね。
「へへっ、何の小細工を考えたか知らねぇが、俺には通用しねぇってことを教えてやる。サモン。」
向こうの3番の坊主がバッターボックスに。
そして姫路ちゃんも召喚。
『Aクラス 夏川俊平 化学 244点 VS Fクラス 姫路瑞希 化学 437点』
「げっ!そういや、あの女はかなり点数があったんだよな・・・!」
点数を見ておののく坊主。
まあAクラスでも、学園トップクラスの姫路ちゃんに勝つのは難しいもんね。
「くそ。高城抜きでやるのはキツいかもしれねぇな・・・。」
悔しそうな坊主の呟き。
高城・・・どっかで聞いたことがあるような・・・?
「じゃ、じゃあ、よろしくお願いしますっ!えっと、このプレートに足をかけさせて、こうして・・・・・・。」
「待って待って姫路さん!」
「?なんですか明久君?」
早速ボールを投げようとした姫路ちゃんを止める吉井君。
「ほら、一塁にランナーがいるでしょ?まずはその人に盗塁をされないよう、牽制球を投げてみようよ。」
遠くてはっきりとは見えないけど、一塁のランナーは別に離れてる訳でもない。
多分、肩慣らし的な感じかな?
「牽制球・・・あ、わかりました。ボールを一塁に投げたら良いんですね。」
「そうそう。一塁にいる福村君にボールを投げて貰える?」
「了解です。それじゃ・・・。」
姫路ちゃんの召喚獣が腕を振り上げ、投球の構えをとる。
「やぁーっ!」
・・・キュボッ
「・・・・・・えっ?」
『Aクラス 常村勇作 化学 0点 and Fクラス 福村幸平 化学 0点』
VS
『Fクラス 姫路瑞希 化学 437点』
ドサリ、と重いものが倒れる音。
一塁にたっていたランナーのモヒカンも守備の福村君も上半身が跡形もなく消し飛び、下半身のみになっていた。
「「ぎぃゃぁぁあああーっっ!!身体が!身体が痛ぇぇえええっ!!」」
遅れて上半身を消し飛ばされた2人が悲鳴をあげる。
召喚獣の設定は変更されてるようで、地面をのたうち回っていた。
「負傷退場者の交代要員を出して。」
河城先生が交代を促す。
苦しむ2人を運びだし、3年は男の先輩が、私達はベンチの魔理沙が入った。
「うぅ・・・。失敗しちゃいました・・・。」
2人を消し飛ばした姫路ちゃんが自責の念を見せる姫路ちゃん。
「気にするな姫路。お前はただ全力で投げればいい。」
「でも・・・。」
「いいんだ。ピッチャーはそれが仕事なんだからな。」
「でも、そんなことをしたら、今度は明久君が・・・。」
「おいおい、なんてことを言うんだ。お前は明久を信じられないのか?」
「あ・・・。い、いえっ!そんなことありませんっ!」
坂本君、さては吉井君を殺す気だね?
「行きます、明久君!え、えいーっ!」
「ん?は・・・なんでっ!?」
掛け声とともに投げられた豪速球は、ベンチで次打席の準備をしていた4番バッターに直撃した。
『Aクラス 金田一真之介 化学 0点 VS Fクラス 姫路瑞希 化学 437点』
もとの点数がわかんない4番バッターは足首以外吹き飛ばされて帰らぬ人となり、フィードバックで悶えてる。
犠牲者は3人。
・・・というか姫路ちゃんの投げたボール、空気との摩擦で火がついてたような気がするな・・・。
「し、審判!?あれは危険球だろ!?」
坊主が血相を変えて審判に反則を訴える。
すれと、審判がなにか言う前にセカンドを守ってる坂本君が口を挟んだ。
「おいおい、酷いこと言うなよ先輩。姫路のあの姿を見たらわざとじゃないことくらいわかるだろ?」
「ほ、本当にごめんなさいっ!私ピッチャーとか初めてで緊張しちゃって・・・。」
姫路ちゃんが3ーAのベンチに駆け寄り、ぺこぺこと頭を下げている。
その様子には一片の嘘もないもんね。
「ふ、ふざけんな坂本!故意じゃなくても許されないことがあるだろうが!」
「黙れクソ野郎。さあ先生、よく考えて見てください。苦手でもクラス行事に一生懸命参加する可憐な生徒と、神聖なスポーツに悪意を持ち込む不細工な先輩。あなたは聖職者としてどちらを応援しますか?」
「ん~・・・プレイ!」
「しんぱぁん!?」
河城先生による無慈悲な続行宣告。
まあさっきまで片割れがバットを降りきって坂本君に当ててたしね。
「うぅ、うまくいきません・・・。もっと力を込めればうまくいくんでしょうか・・・。」
姫路ちゃんのそんな言葉。
・・・あれでもフルパワーじゃないんだ。
コントロールを無視した学年トップクラスの全力投球。
ベンチ付近ですら安全でないし、もはやこれは狩りであり一方的な殺戮だよね・・・。
私はサードだから安全だけど。
「行きますっ!」
「「ひいぃぃいっ!!」」
姫路ちゃんが投げたと同時に、バットもミットも手放し全力で地面に這いつくばる吉井君と坊主。
姫路ちゃんが投げた球は2人のすぐ上をすごい勢いで通過してった。
「ボール。」
河城先生がボールを宣言。
・・・もはやそういう問題じゃないような気もするけどね。
「変えろぉっ!あのピッチャーを今すぐ変えろぉっ!!」
「何を言うんだ先輩。徐々に狙いがシャープになってきているというのに。」
「その狙いがキャッチャーミットだとは思えねぇんだよ!」
吉井君も同感って顔してる。
「うぅ、うまくいきません・・・。やっぱり私が吉井君のことを信じきれていないからでしょうか・・・。」
そして、姫路ちゃんは目を閉じて投げるという、さらにとんでもない暴挙に出る。
「おい!?あのピッチャー、目を閉じてないか!?」
「あれは信頼関係の表れだ。キャッチャーのリードを信じてるからこそ、目を閉じていても投げられるってことだ。」
「だから目を閉じていたらそのリードが見えないって言ってんだよ!」
「じゃああれだ、心の眼ってやつだ。達人は目を閉じていても気配でえも・・・相手の居場所を探り当てることができるってことだ。」
「居場所探り当ててどうすんだよ!てか今お前獲物って言いかけなかったか!?」
「言いがかりはよしてもらおうか獲物先輩。」
「言った!今獲物ってはっきり言いやがっただろ!?」
その獲物には吉井君も含まれてるのかな?
「くっ、仕方ない!こうなったら姫路さんが投げた直後に大きく横っ飛びをしよう・・・!運が良ければ助かるはずだ・・・!」
「なっ!?テメェ、自分だけ助かろうって魂胆か!」
「すいません!僕は自分の命が惜しいんです!」
坊主がそれができない理由に、バッターはバッターボックスから出てはダメというルールが。
だから坊主はあの狭いバッターボックスで回避しないといけないということに。
「行きます、明久君っ!」
「できれば目を開けて、姫路さん!」
吉井君の切実な叫びも姫路ちゃんには届かない。
ボールを全力で、大威力で、豪速球を。
・・・・・・坊主の召喚獣の頭に。
「・・・・・・・・・うわぁ・・・・・・。」
果物の中には初夏に花を咲かせるザクロというのがあるんだよね。
甘くてちょっと酸味のある、鮮やかな赤色の果実。
木になって熟したそれは、まれに収穫されることなく地面に落ちていることがあるんだよね。
真っ赤な果肉や果汁を辺り一面にべったりと飛び散らせて。
ぐちゅっという音とともに作られた打者の姿は、私にそんなことを思い出させた。
「ひでぇ・・・よ・・・。あの女、絶対、悪魔だ、よ・・・。」
R18Gがかかりそうな姿に変わり果てた召喚獣の隣で、痛みで気を失いかけた坊主が呟く。
・・・・・・これはいくら坊主でも、さすがに同情しちゃうかな・・・。
今が昼前じゃなかったら、何人か戻してたんじゃないかなと思えるその光景(実際口に手を当ててた人何人かいたし)が時間とともに薄れ消えていく。
瞬間記憶能力を持ってる阿求ちゃんが今回参加してなくてほんと良かったよ。
「あの、明久君。うまくいきましたか?」
「いや、まぁ・・・。僕らの目的を考えたら、すごくうまく行ってるんだけど・・・。」
手放しで喜べないよねこれじゃ・・・。
「バッター、ネクスト。」
河城先生が普通に指示を出す。
ベンチボックスを見ると、全員が審判と目を合わせないよううつむいていた。
「へいへい、バッタービビってる!」
どこかからそんなヤジが。
そりゃビビるよね。
「先生!こちらはもう交代要員がいません!」
ベンチからそんな声が。
そっか、交代要員は2人まで。
それで、登録メンバー以外の介入は認めないってルールがある。
だから坂本君はこういう作戦立てたのか。
私でもドン引きするくらい非道な作戦だけど・・・。
「うーん、そうだね。じゃあ一度その人の打順を飛ばし、その間に補充試験だね。」
さらっと酷なことを言う河城先生。
一見妥当な判断だけど、それって姫路ちゃんからの文字通りのデッドボール(フィードバックつき)を受けるために試験受けろってことだよね。
「じゃあ・・・5番バッターは前に、点数がなくなった人達は痛みはあると思うけど我慢して補充試験に」
「「「3ーA、ギブアップします!!!」」」
そりゃギブアップするよね。
補充試験だって大変なのに、それで得られるものが再びの補充試験と豪速球で身体を消し飛ばされる痛みだもん。
確かにデッドボールで塁に進めるけど、そこまでしても得られるものはナシだし。
これが逆ならエロ本のためにFクラス男子は耐えてた気がするけど・・・。
補充試験は1問正解して点数が1点でもあればデッドボール受けて塁に出られる(地獄のフィードバックあるけど)し。
そして、2名の打者に対してデッドボール2つ、犠牲者4名、傷害率200%を叩き出した姫路ちゃんは伝説になった。
いかがでしたか?
自覚がないのってやっぱり怖い。
関係ないですが、バカテストを作って今までの前書きに書いていこうかなって考えています。
ロストしたので改めて考え直す必要上、予定は未定ですが。
あげたらまた後書きか前書きで告知します。