キミのくれた手で   作:とりなんこつ

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after days 1

 

二年もの眠りから目覚めたオレ。

まずは何を置いても体力の回復が急務だった。

電気刺激療法と関節稼働マッサージである程度の筋力と柔軟性は維持されていたけれど、歩行感覚を取り戻すのには難儀しそうだ。

少しずつリハビリも始めているけれど、最初なんか立ち上がっただけで頭がクラクラしたもんなあ。

移動には、まだまだ車椅子のお世話にならなきゃならない。

そして当然のように車椅子を押してくれるのはエルフナインちゃん。

一度、電動車椅子を使うことを提案したら、「ボクでは駄目なんですか…?」と涙目で言われて廃案にした。

とても健気で可愛いと思う反面、ずしりと両肩が重くなったような感じがしたが、きっと気のせいだろ、うん。

 

もっとも彼女も仕事があるわけで、そんなときはノロノロと自分でも動かすようにしている。

現在、S.O.N.G.本部の潜水艦の個室へとオレは居を移していた。

今まで入院していた外の病院では、エルフナインちゃんの移動とそれに伴う護衛も大変だ、ということでそう相成った。

本部内にもリハビリ施設はあり、毎日のメニューをこなしたあと、オレは車椅子で自走するよう心掛けている。

車椅子を動かすこと自体腕の筋力の刺激にもなるし、座位を取ったままの方が心肺の強化にもつながるからな。

なにより、好きに移動できる自由は何ものにも代えがたい。

今日も今日とて食堂で食事を摂れた。ラーメンを頼んだらおまけのギョーザがついていた。

周囲の職員の視線にもいい加減慣れてきたので、なるべく気恥ずかしく思わず好意は受け取るようにしている。

食事を済ませて売店へ行き、漫画誌や雑誌を物色。

当たり前だが、二年という歳月のギャップは大きい。

 

「うわ、ベル○ルク、マジで完結したのか…?」

 

情報系の雑誌では、今年の流行はタピオカとナタデココのMIXとかあった。何度目のリバイバルだよ。

そんなまるで浦島太郎みたいな感傷に浸るオレの背後から声がかけられる。

 

「よう、南雲。働かないで食べる飯は美味いかー?」

 

ジョークにしても際どい。これが北島でなかったら即屋上の案件だが、まあ事実の一端ではある。

 

「ああ、おかげ様で毎日美味くて困ってるよ。太りそうだ」

 

ったく、オレが目を覚ましたとき、号泣してべろんべろんの顔になっていたコイツの顔、写真にでも撮っておけばよかったぜ。

 

「そいつは良かったな」

 

肩をパンパンと叩かれる。

 

「ところでエルフナインちゃんは?」

 

「いや、さすがにいつも一緒にいるわけじゃないよ。彼女はオレと違って仕事はあるし、寝起きは研究室だし」

 

仕事はある、の部分をわざと強調して意趣返し。

すると北島はなんだか不思議そうな顔になる。

 

「なんだよ、てっきり一緒の部屋で暮らしているとばっか思ったのに」

 

「…は?」

 

「あ、そうか! 分かった分かったから皆まで言うな! うんうん」

 

一人納得して頷く北島に、お約束として突っ込まねばなるまい。

 

「一応訊くけど、何が分かったんだ?」

 

「いわゆる通い妻プレイ中なんだろ、おまえら?」

 

「何いってんだ、おめー」

 

思わず素でそう突っ込んでしまう。

 

「違うのか? おまえが眠っている間は、それこそエルフナインちゃんは週末は通い妻だったんぜ?」

 

北島の語るところによれば、オレが昏睡している期間、エルフナインちゃんは足繁くオレの病室へ通い、泊まり込むことが殆どだったという。

そのたびに右往左往させられる保安部の護衛職員に、いちいち律儀に「すみません、ありがとうございます」と礼を言っていたのは彼女らしいが、少しばかりヘビィすぎね?

そこまで責任に感じている、もしくは慕われていると思うのは悪い気はしないけど…。

 

「あ、南雲さん!」

 

くだんのエルフナインちゃんに見つかった。

S.O.N.G.の女性職員の制服を身に纏い、羽織った白衣をたなびかせて凄い笑顔で駆け寄ってくる。

 

「今日も一人で動いていたんですか?」

 

「え、ええ。リハビリも兼ねて」

 

そう答えると、なぜか頬を膨らませるエルフナインちゃん。

 

「…どうしました?」

 

「どうして南雲さんはそんな他人行儀な口調なんですか?」

 

逆に質問され返されて戸惑うオレ。

 

「いや、他人行儀もなにも」

 

実際に他人でしょう? そう口にする寸前、エルフナインちゃんの瞳が潤んでいることに気づく。

 

「…エルフナインって呼んでくれたのに」

 

「い、いや、それは…」

 

確かにそう呼んでしまったことは間違いない。

だからといって、その、一気に大人の関係な意味まで発展させたつもりもなくて…。

 

「まだ業務時間ですから、勘弁してください」

 

結局、息も絶え絶えな感じでそういうと、エルフナインちゃんは頬を赤らめた。

 

「わかりました。…弦十郎さんから公私は別けるようにとも言われてますし」

 

司令からそんなことを?

あの人が直言するなんてよっぽどのことじゃないか?

気づけば、北島は姿を消していた。

当たり前のようにエルフナインちゃんに車椅子を押されて自室へ戻る。

それから当たり前のように車椅子からベッドへの移動を手伝ってもらう。

 

「ありがとう」

 

ございます、という続きの台詞を辛うじて飲み込んだオレの前で、エルフナインちゃんはこれまた当たり前のようにベッド横の椅子に座ると、本を紐解いている。

 

「あの…」

 

「どうしました?」

 

軽く小首をかしげる様は、可愛い。

要はこれが彼女の自然体なのだろうか?

仕方なく、オレも売店で買ってきた本を開く。

本を読み飽きたら、タブレットを使ってネットをブラウジング。

二年ものブランクは、触れる情報が全て真新しくて、追っていくのがやっとだ。まあ、面白いことも否定はしないが。

そして時間はあっという間に過ぎて夕方。

 

「夕食は、何にしますか?」

 

これまた当たり前のようにエプロンを身に着けるエルフナインちゃん。

それから部屋の冷蔵庫を開けて―――オレも知らない食材が詰め込まれていることに関しては、もはや何も言うまい。

 

「…とりあえず、肉が良いかな」

 

「わかりました」

 

笑顔でエルフナインちゃんがジュージューと肉を焼いている。

焼肉のタレみたいな濃い匂いが焼ける感じが香ばしい。

 

「未来さん直伝の生姜焼きですけど…」

 

湯気を立てる皿の前に手を合わせて合掌。頂きますと箸で掴んで口に運ぶ。

 

「…美味い!」

 

生姜の利いたタレは甘すぎず、辛すぎず。焼かれた豚肉も、どうやったか知らないけどとても柔らかい。

 

「良かったです」

 

笑ってエルフナインちゃんも箸を動かしている。

オレはベッドのサイドテーブルで、彼女は普通にテーブルの前。差し向かいではないが、夕食は無事に終わる。

 

「お皿、下げますね」

 

そういって後片付けをするエルフナインちゃんの手際は見事だ。

以前のようなドジっ子属性は影を潜めていて、それはそれで少しさびしい気がした。

後片付けを終えた彼女が、またもや当然のように簡易ベッドと引っ張り出してきたので、オレは慌ててしまう。

 

「え? 泊まっていくの?」

 

「大丈夫です! 明日はお仕事はお休みですからッ」

 

「い、いやいやいや! キミは自分の部屋で休んで…」

 

北島からだけでなく、他の同僚たちからもエルフナインちゃんの献身ぶりは耳にしている。

でも、オレがこうやって昏睡から覚めた以上、彼女が以前みたいに泊まり込むのは意味が違ってくるのでは?

 

「けれど、南雲さんの想い出はまだ安定したとは…」

 

心配そうなエルフナインちゃんの気持ちはありがたい。

想い出を燃焼し尽くして人格を再確立できたのはレアケース中のレアケースだって承知している。

それでもオレはどうにか説得を試みる。

 

「ごめんね、一人でじっくりと考えてみたいことがあるんだよ」

 

決してキミのことを鬱陶しく思っているわけじゃないんだ、男には一人の時間が必要なんだ!

声に含みを持たせると、不承不承ながらもエルフナインちゃんは頷いてくれた。

 

「でも、さっきも言いましたけど、南雲さんの想い出は色々な情報で補強されているんです。ですから、万が一、身に覚えないのない想い出が見えたとしても、決して深追いしないでくださいね」

 

言っていることの意味が良く分からなかったけど、とりあえず頷く。

おやすみなさい、と寂しそうにエルフナインちゃんが部屋を出ていった。

先日、司令に旧風鳴機関のスパイは一掃したから少なくとも本部内で彼女の身に危険が及ぶことはないと保証してもらっている。なので彼女が一人で研究室へ戻ることに心配ないだろう。

むしろ別の心配がオレの中の大変を占めている。

 

…オレだってエルフナインちゃんの寄せてくる好意に気づけないほど鈍感じゃあない。

だけどオレの主観では、ついこの間までほんのちみっこだったんぜ?

それをいきなり一人前の女性として扱えといわれても、その、困る。

抱っこするのはいいけれど、しっかりと抱きしめてとなるとさすがに躊躇してしまう感じ。

それ以上のこと? いわずもがなだろう。

つまりは距離の取り方が分からない。

 

「まったく、どうすりゃいいんだ」

 

ベッドに仰向けに寝転がる。

それから義手を見たが、ピクリとも動いてくれない。

左手でペチペチと叩いてみるが反応なし。

こっちはこっちで都合が悪くなるとだんまりしやがって。

まあ、勝手に動き回られてもそれはそれで困るけどな。

 

 

 

 

 

 

 

そんな風に割と真面目に考えて考えて。

考え疲れてオレは眠ってしまったらしい。

翌朝、目を覚ますと、眠りが浅かったようで少し頭痛がする。

なんかぼーっとした頭に活をいれながら、オレは身支度を整える。

えっちらこっちらと車椅子を漕いで食堂へ向かう途中、女性職員に声を掛けられた。

何やら初々しい感じで見知らぬ子だ。新人職員だろうか?

 

「あ、あの…ッ!」

 

「はい?」

 

「サ、サインして頂けないでしょうかッ!」

 

オレは思わず苦笑してしまう。

 

「オレみたいなヤツのサインなんてなんの価値もないと思うけど…」

 

女性職員はぶんぶんと首を振る。

 

「そんなことないですよッ! あなたは私たちにとって英雄なんですからッ!」

 

「英雄?」

 

「そうです! 世界を救ったヒーローなんです!」

 

手放しで称賛され、オレの苦笑はますます深くなった。

確かに装者でもないオレが錬金術師を倒したけれど、世界を救ったのは大袈裟すぎる。

それだったら装者のみんなの方がよっぽどすごくない?

サインだってあの子たちの方が価値はあるはずだ。

そんなことを思っていると、急に廊下の曲がり角から赤シャツの大男が出てきた。

 

「何を言う! おまえは紛れもない英雄だぞ!」

 

「司令!?」

 

だけじゃない。後に続くは黒服のエージェントたち。

 

「さあ、英雄を讃えるぞ!」

 

司令をはじめとした数人に、車椅子ごとまるで神輿みたいに担がれる。

ソイヤソイヤと担がれて廊下を進めば、いつの間にか廊下全体が人だかり。

皆が皆こちらをうっとり、もしくは熱狂的な眼差しを注いでくる。

 

「そこのけそこのけッ! 英雄さまのお通りだぞッ!?」

 

あまりの急展開に呆気にとられるオレが運ばれたのは多目的ホール。

そこにはなぜか聖帝陵みたいな高台が設置されていて、オレはその頂上へと据えられる。

途端に鳴り響くファンファーレ。紙吹雪が舞いミラーボールが斑の光を投げかけ、カオスを通り越してもう無茶苦茶だ。

見下ろした先の舞台では、翼さんとマリアさんが何やら扇情的な服を着て英雄を讃える歌を唄う。

すぐ横では調ちゃん、切歌ちゃんがそろってアラビアンナイトに登場しそうな服を着て、デカい扇子でオレを仰いでくる。

薄絹を着た格好で階段を上ってくる響ちゃんの手には、すごいご馳走の乗った大皿。その後に、果物やら何やらを抱えた同じ格好をした女の子がゾロゾロと。

 

「こ、これは一体…?」

 

狼狽して見回せば、いつの間にやら褌一丁になった司令が物凄い笑みを浮かべて声を張り上げる。

 

「英雄殿の凱旋だぞッ!」

 

キャーッという黄色い歓声と、おおおおおッ! という鯨波のような声が同時に上がる。

なお戸惑うオレの前に、すっと酒杯が差し出された。

 

「ほら、まずは飲みなよ、英雄サマ」

 

色っぽい流し目のクリスちゃんが、直々に酌をしてくれる。

…これって酒池肉林ってやつ?

わけのわからないままに飲み干せば、なんだか気分が昂揚してきた。

 

「ほら唄え! 飲んで騒いで、英雄殿を褒め讃えよッ!」

 

司令の大声に呼応するように、眼下で煌びやかな服を着た人たちがぐるぐると踊り出す。

翼さんとマリアさんの唄う歌も熱を帯び、オレは差し出されるご馳走を食べ、酒を呑むのに忙しい。

聖遺物の手で酒杯を掲げ、満面の笑みを浮かべて天井を見上げる。

―――ああ、そうか。

これこそが()()()()()()()()―――。

 

 

バーン! と勢いよく扉の開く音。

見れば周囲の喧騒はピタリと止まり、開け放たれた入口の扉の前にはエルフナインちゃんが立っていた。

そのままツカツカと一直線に歩けば、モーゼの十戒のごとく人波が割れた。

高台まで登ってきたエルフナインちゃんに、オレは上機嫌で笑いかける。

 

「ああ、キミも来たのか。どうだい? 一緒に酒でも飲まないか?」

 

返答は、目から火花の出るような平手打ち。

 

「いってぇ!?」

 

思わずオレが叫ぶも、ビンタの往復は止まらない。

なおもビビビビっとビンタを喰らわせながらエルフナインちゃんは叫ぶ。

 

「いい加減出ていけ最低野郎ッ!」

 

そんな言い方あんまりだッ! と思った瞬間。

ふっとオレの身体が軽くなる。憑きものが落ちた感じ?

胸元を掴んでいたエルフナインちゃんの手から力が抜けた。そして彼女の視線はオレを見ていない。

オレの肩越しに背後の誰かを見ている。

 

「ッ!?」

 

オレも振り向いた先には、白衣を着た眼鏡の男が腰を抜かしていた。

その顔に見え覚えがある。

確か…ウェル博士ッ!?

 

「なにをするんだキミは!? ここは僕の世界なんだぞぉッ!?」

 

「いいからもう消えろッ」

 

冷たく言ってのけたエルフナインちゃんは、いつの間にかダウルダブラを着装していた。

問答無用の五色ビームを浴びて、ウェル博士は跡形もなく消し飛ぶ。

 

「エルフナインちゃん、これは一体…!?」

 

尋ねれば、冷ややかな視線が返って来る。

 

「エルフナインちゃん…?」

 

…違う。彼女はエルフナインであってエルフナインではない。まさか。

 

「…キャロル?」

 

「やれやれ。さっそくこんな無象の想い出に捕まるとはな」

 

冷たい口調に、オレは推測が正しいことを知る。

いつの間にか周囲には人っ子一人いなくなっていた。。

さきほどまでの喧騒は煙のように消え去り、スポットライトを当てられた舞台のような場所で彼女と二人きり。

 

「エルフナインに忠告されただろう? 想い出にない記憶を追うな、と」

 

「いや、そう言われても…」

 

オレとしては追ったつもりもないし、これって不可抗力なのでは?

そんな感じで目で訴えると、キャロルは溜息をつく。

 

「まあ、キサマの想い出の緊急補修のためとはいえ、あんな変態博士に関する因子の混入を見逃してしまったのは、こちらの不手際とは言えなくもないが」

 

「じゃあ、今までのどんちゃん騒ぎは…」

 

「そうだ。あの変態の望む世界の夢にキサマは取りこまれたのだ」

 

「…なんだ、やっぱり夢だったのか」

 

良かったとばかりに胸を撫で下ろすと、腕組みしたキャロルは不機嫌そのものの声を出す。

 

「なにを安心している? この場の夢に囚われているということは、現実のキサマは昏睡状態なんだぞ?」

 

「…へ?」

 

驚くオレ。それってヤバくね?

 

「まったく、おかげでオレはまた公衆の面前で恥を掻くような真似を…」

 

なにやらキャロルはブツブツいうも、語尾はゴニョってよく聞き取れない。

 

「と、とにかく、オレはどうすりゃいいんだ? どうすれば目を覚ますことが出来る!?」

 

「…こうするんだッ!」

 

返答とともに、またもや強烈な平手打ち。

 

「いってぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると、エルフナインちゃんの顔がすぐ前にある。

 

「…エルフナイン?」

 

思わずそう声をかければ、

 

「南雲さんッ!」

 

首っ玉に抱きつかれた。

そのままオイオイと声を開けて泣く彼女の頭を撫でながら、オレどうやら廊下にひっくり返っているらしいことを確認。

周囲を、たくさんの職員に囲まれている。

その職員の壁が割れて、担架を持った医務班が駆けつけてきた。

担架に乗せられて医務室へ運ばれ、一通り検査を終えたオレは、落ち着いたエルフナインちゃんから説明を受けることが出来た。

なんでもオレは、今朝、女性職員と会話をした直後、車椅子から転げ落ちて意識を失ったらしい。

そしてすかさず駆けつけてくれたエルフナインちゃんが応急処置を施してくれたとのこと。

 

「南雲さんの人格の定着が不安定なことは説明した通りです。なので極めて低い確率ですが、他人の想い出に主導権を取られて人格が交代してしまう可能性があったんです」

 

つまり、オレの中にあったウェル博士の想い出が何らかの要因で活性化。不安定だったオレの人格を乗っ取った結果、ウェル博士の主観で彼の妄想を疑似体験する羽目になったらしい。

 

「なので、急遽ボクの想い出を注入することにより、南雲さんの人格を補強して危険因子を排除したんです」

 

なるほど、あのキャロルは、エルフナインちゃんが注入してくれたワクチンみたいなもんだったのか。

 

「ありがとう。助かったよ。でも、応急処置で想い出の注入ってどうやって…?」

 

オレがそう疑問を呈すると、エルフナインちゃんの顔は真っ赤に染まる。

 

「…知りませんッ」

 

小声でいって、そのままツンとそっぽを向いてしまうエルフナインちゃん。

オレ、また何か怒らせるようなことしたのかな? なんだろう、気にはなるけど追及しない方がよさそうな雰囲気。

 

「それより南雲さんッ! これで分かったでしょう!?」

 

「え?」

 

「南雲さんの想い出の定着はまだ完全じゃないんです! 今日みたいにまた倒れても、すぐ近くにボクがいなかったら…ッ」

 

「う…」

 

「もし間に合わなかくて、またずっと目を覚ましてくれなかったら、ボクは…ボクは…ッ!」

 

「…ごめん」

 

取りあえず謝罪の言葉を口にしたけれど、オレが気をつけてどうにか出来る問題なのか? オレだってまた昏睡状態に戻りたくないし、エルフナインちゃんを泣かせるのはまっぴらごめんだ。

だけど、具体的にどうすれば…。

 

「なので、今夜から、ボクはずっと南雲さんと一緒に寝ますからねッ!!」

 

「………はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新しいシーツを引き直したベッドに、枕が二つ。

エルフナインちゃんがシャワーを浴びる音を聞きながら、オレは緊張で喉が渇くのを自覚する。

オレ自身はシャワーを浴び終え、歯磨きも済ませている。

あとは彼女が出てくるのを待って寝るだけなのだが。

 

…まあ、オレの人格の定着が不安定で、いつそうなるか分からないのは理解できる。

察知するために、すぐ傍にエルフナインちゃんに居て貰った方がいいのも、まあその通りだろう。

けれど、一緒に寝るって! 一緒のベッドに寝るって!

い、いかん、取り乱すな。落ち着けオレ。

 

「南雲さん、シャワーありがとうございました」

 

エルフナインちゃんが脱衣所を出てきた。

ピンクのだぼっとしたパジャマ姿も愛らしく、湯上りのほっこりとした匂いが漂ってきてオレの心臓を跳ね上げる。

 

「? どうかしましたか?」

 

「い、いや、別に」

 

「変な南雲さん」

 

エルフナインちゃんはそう笑って、ドライヤーで髪を乾かしてる。

いつものおさげが結われてない髪型も新鮮で、オレの心臓は益々早く鼓動を刻むばかり。

そのまま何も言えず、何を言っていいかも分からないままにベッドの上で硬直しているオレに、髪を乾かし終えたエルフナインちゃんが笑顔を向けてきた。

 

「それじゃあ、そろそろ寝ましょうか」

 

「あ、あの! 別に何も一緒に寝る必要は…?」

 

「南雲さんに変化があるかすぐ気づくためにも、一緒のお布団で寄り添って寝た方が安全ですから」

 

力説するエルフナインちゃんに、オレは反論が見つからない。

…覚悟を決めるしかないのか?

なおオレが逡巡する横で、エルフナインちゃんはパジャマと同じ柄のナイトキャップを被っている。

それから、よいしょ、よいしょと自分の荷物から取り出したのは、ウサギのぬいぐるみだ。確か以前ゲーセンてとってあげたヤツ。

それを大事そうに胸に抱え、エルフナインちゃんはオレの真横へと潜り込んできた。

 

「それじゃ、南雲さん、おやすみなさい」

 

「ア、ハイ」

 

我ながら、間抜けな声が出たと思う。

…えーと。一緒に寝るって、オレが思ってたのと違う?

たちまち可愛らしい寝息を立てるエルフナインちゃんの寝顔は、無防備を通り越して無邪気な子供そのものだ。

 

「…えーと、エルフナインさん?」

 

少し肩を揺すってみるも、甘い匂いをさせて彼女はぐっすり夢の中。

 

…なんだよ、緊張して損したぜッ!

 

オレは全身で脱力するしかない。

幸せそうな寝顔を眺め、思う。

 

―――見た目は大人になったけど、まだ心は釣り合ってないんだな。

きっと、男と一緒に寝ることの意味も知らないのだろう。

 

大いに胸を撫で下ろしつつ、少しだけ残念な気持ちがあることは否定しない。

…まあいいさ。

苦笑しながら、左手で眠る彼女の頭を撫でてやる。

 

「いいよ。ゆっくりと大人におなり」

 

それから義手の方を見れば、ぱらりと指が動いて親指と人差し指がOの字を作っていた。

…OK? どういう意味でのOKだよ、そりゃ?

 

 

 

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