タイガ・ザ・ライブ!〜虹の向こう側〜   作:ブルー人

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璃奈&フォルテ回ラストです。
戦闘シーン少し短めになってしまいました……。


第39話 キミの声を聞かせて:後編

『たった今から……お前が兄弟達の“長男”だ』

 

 

最も古い、だが真新しい記憶が呼び起こされる。

 

自分が生まれた日の記憶。1個の命としてこの世に誕生した時の思い出だ。

 

 

父は自分に言った、「兄として振る舞え」。兄弟達の“絆”をより強固にするために動けと。

 

与えられた役割を遂行することだけが最重要事項。何があっても揺らいではいけない掟だ。

 

 

しかし自分達も人形とはいえ1個の生命。実現したい望みや、その時々に芽生える感情だって存在する。必然的なそれそのものを否定することはない。

 

…………が、しかし、そのような個人的感情を何よりも優先するとなれば話は別だ。

 

 

順序を違えてはいけない。果たすべき使命だけは一時も忘れることなくこの身に刻んでおかなくてはならないのだ。

 

例え結果的に————大切なものを焼き払うこととなっても。

 

 

 

「やかましいな」

 

眼下に広がる光景に向けて呟く。ビルの屋上から見下ろした先に見えるのは街を行き交う人、人、人。

 

初めて目撃するわけではないが、地球の人間社会というものはどうにも慣れそうにない。

 

 

落ち着かない心境ではあるが構わず街へと降りる。

 

妹を見守り、場合によっては………………()()ために。

 

 

 

「今行くぞフォルテ。このオレが……長男として」

 

 

◉◉◉

 

 

「体調はどう?喉の調子は?」

 

「大丈夫」

 

「水分補給も欠かさずにね」

 

「うん」

 

「観客席で応援してるよ!」

 

「ありがとう。頑張る」

 

璃奈が参加するイベント会場、その控え室。

 

彼女の出番が着々と近づいてくるなか、春馬達同好会のメンバーはひどく緊張した様子で甲斐甲斐しく質問を浴びせていた。

 

 

————打ち上げを行ったあの日に璃奈から聞かされた提案、それは「“璃奈ちゃんボード”を外してのライブをやりたい」というものだった。

 

以前のライブで自分のファンになってくれた人々への返礼を込め、少しでも素の自分を知って欲しいという思いから発した決断だ。

 

「私より、みんなの方が緊張してる」

 

「それは……まあ」

 

初めての試みであるからか、璃奈を見守る周囲の表情にも不安の色が混じる。

 

「今更だけど……りな子、本当に大丈夫?」

 

「心配ない。最後までやり抜いてみせるよ。璃奈ちゃんボード————あ、今は無いんだった」

 

「あはは。もうすっかりあれは璃奈ちゃんの一部になってたみたいだね」

 

テーブルの隅に置かれているライブ用ボードを見やり、春馬は微笑ましげに言った。

 

今回は素顔でのライブだが……それで“璃奈ちゃんボード”がお役御免になるわけではない。

 

彼女にとってあのアイテムは既に自分を天王寺璃奈たらしめる重要な要素と化しており、仮にこの先豊かな表情を作ることができるようになったとしても、彼女はあれを手放すことはないのだろう。

 

ボードを付けていても、外していても、どちらも天王寺璃奈であることに変わりはないのだから。

 

 

「——じゃあ、俺達はそろそろ行くよ」

 

「私達で全力のコールを会場内に響かせますからね!!」

 

「うん。また後でね」

 

若干の名残惜しさを感じつつも、璃奈へ小さく手を振りながら春馬達はぞろぞろと控え室を出て行く。

 

ドキドキが収まらない。

 

これから自分達は……人が一歩を踏み出す瞬間をこの目で目撃するのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数え切れないくらいの歓声が聞こえる。

 

スクールアイドルと呼ばれる者達が一堂に集まり、観客に歌を届ける催し。

 

「…………」

 

特設会場にあるステージ全体が見える位置————雑居ビルの屋上に立ったフォルテは、そこで壇上にとある人物が現れるのを静かに待っていた。

 

前回とは違い、こうしてライブを観に来たのは自分自身の意思だと断言できる。

 

あの夜出会った地球人の…………天王寺璃奈の歌が聞きたいと思ったからこそ、ここへ出向いた。

 

この胸に残り続けている気持ちの正体はわからないままだ。けれど今日ここで、スクールアイドルというものに触れれば……何かが掴める気がするのだ。

 

 

『会場内の熱気も最高潮〜!さてさてお次は……話題の学校!虹ヶ咲学園からの尖兵だぁ!!』

 

強化された聴力で聞き取ったアナウンスに反応し、フォルテはぴくりと肩を揺らした。

 

————きた。虹ヶ咲学園。次は彼女が……天王寺璃奈がステージに上がるに違いない。

 

「…………っ」

 

汗ばんだ両手を繋ぎ早くなる鼓動に戸惑いながらも、フォルテは遠方に見える会場に目を凝らして——————

 

 

 

 

 

 

『————聞こえるかな、フォルテ?』

 

頭の中に声が送られてくる。瞬間、猛烈に熱くなっていたはずの身体は……驚くほどの速度で冷めていった。

 

冷たい表情の頬に汗が伝う。

 

フォルテは恐怖にも似た嫌な予感に息を呑みつつ、テレパシーによる悪魔の通信の続きを聞こうと身構えた。

 

 

 

『ちょうど君の目の前に催し物をしている場所があるだろう。——今すぐ指輪を使って、そこへ怪獣を呼び出すんだ』

 

 

◉◉◉

 

 

ステージからの景色は……いつもと違って見えた。

 

ボード越しじゃない世界はひどく眩しくて、思わず瞼を閉じてしまいそうになる。……けど、今みんなに見せているものが、本当に知って欲しい自分。

 

落ち着かないし、怖いけど……これが自分なんだ。

 

 

 

会場内が少しだけざわめくのを聞いた。仮面を外した自分に驚いているのか。

 

だが眼下に見える観客達の表情は……どれも楽しそうなもので溢れている。

 

(みんな、私と同じ気持ち……。ワクワク、ドキドキしてくれてるんだ)

 

みんなの顔を見ていると伝わってくる。

 

今この瞬間……自分は会場にいるみんなと繋がることができている。

 

————きっとこの中のどこかにいる、()()()とだって。

 

 

「……っ」

 

練習の時よりも遥かに大きな音量で曲が流れ出し、璃奈はこれまで磨き上げてきた振り付けを披露し始める。

 

隠れていた素顔をさらけ出し、最高の笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——————」

 

遠くの方から聞こえる歌声に、フォルテは開ききった瞳孔を向ける。

 

白い顔を真っ青なものに変え、彼女は混乱した様子で手にしていた指輪を強く握り締めた。

 

「…………やらな、ければ」

 

怪獣の顔が刻み込まれたリングへと目を落とし、今にも嘔吐しそうな震えた声をこぼす。

 

トレギアから指令が出された。自分は今すぐこの指輪を使って怪獣を呼び出し、あのライブ会場を破壊し尽くさねばならない。

 

役目を、使命を、果たさなくてはならない。

 

「…………ぁ……」

 

彼女の……天王寺璃奈の歌声が届いてくる。

 

仮面が無ければ感情を表せないと話していた彼女が、気持ちいいくらいの笑顔でライブを行っている。

 

その光景に、フォルテは以前感じたような眩しさを想起していた。

 

 

 

 

 

 

「何をしている、フォルテ」

 

直後、後方から飛んできた声に肩を震わせる。

 

気配も足音もしない。亡霊のような空気をまとった少年はゆっくりとこちらへ歩み寄り、

 

「指示が出ているはずだろう」

 

フォルテの真横で、重圧に似た何かを発した。

 

「……フィー……ネ」

 

「長男としてお前の様子を見に来た。……何を迷うことがある」

 

ウルトラダークキラーに生み出された“兄弟”達……その長。

 

フィーネは血の気の引いた表情で立ち尽くしていたフォルテの横顔を覗き込むと、つり上がった瞳を細めながら言う。

 

「トレギアと父さんは対等な協力関係にある。少々不本意ではあるが、奴の下した指示は父さんの命令と同じだ。使命に則り、その役目を即座に遂行することがオレ達の……そしてお前のやるべきことだ」

 

「……わかってる」

 

「ではなぜ動かない。これまで問題なくこなしていた仕事だろう」

 

「……それは…………」

 

「……ん?」

 

フォルテの視線の先へと目を移し、フィーネは薄く笑う。

 

何かを納得したように瞼を閉じた後、彼はフォルテの肩に手を乗せつつ穏やかな調子で続けた。

 

「なるほど、“スクールアイドル”。あれには確か……以前から興味を持っていたな、お前は」

 

「………………!」

 

何も言わないフォルテの手から指輪を取り上げ、フィーネは左腕に出現させた白い手甲のレバーに指先を添える。

 

「察しが悪くてすまなかった。ようやく見つけた“夢中になれるもの”を、お前自身の手で壊すのは……確かに忍びないな」

 

《カモン!》

 

右手に怪獣の指輪をはめ込み、彼は少しだけ胸を張る。

 

「いいだろう。自ら手を下す気にならないのなら……今回は特別にオレが役目を代わってやる。長男として。お前はそこで……改めて自分の立場を考えるといい」

 

そう言って指輪と左手を近づけようとするフィーネ。

 

「…………っ」

 

フォルテは数秒間何かを迷うように唇を噛んだ後、意を決したように駆け出し————

 

「まっ……て——!」

 

指輪と重なりかけていたフィーネの左手を、必死に伸ばした小さな手で掴み取り制した。

 

 

「………………」

 

フィーネは一瞬驚いたように大きく目を見開くと、か弱い力で自分の妨害を図った妹に対して冷たい眼差しを注いだ。

 

「……なんのつもりだ?」

 

「少し……待って……欲しい。せめて……あのイベントが……終わるまで……」

 

「ダメだ。……お前ならもう気づいているだろう、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……っ」

 

フォルテの表情が焦燥で歪む。フィーネには最初から全て見抜かれていたんだ。

 

人々の心の支え————マイナスエネルギーが減少している原因を。

 

「お前がスクールアイドルなるものを気にかけていることは問題にはならない。が、それが役目の妨げになるというのなら別だ」

 

無謀にも自分を止めようとした非力な手を振り払い、フィーネは冷徹な瞳でフォルテを見下ろす。

 

「自分を見失うなフォルテ。オレ達はあの方に作られた……ウルトラマンを抹殺するためだけの人形。それよりも優先されるべきことなど、ありはしない。……わかったならもう邪魔はするなよ」

 

「…………でも」

 

刹那、フォルテの身体は羽のように持ち上がり————背後にあった壁まで一直線に吹き飛んだ。

 

「——————っ……!!」

 

一瞬で身動きが取れなくなるほどのダメージが叩き込まれる。

 

「そこでおとなしくしているんだな」

 

「…………」

 

ふと気づく。ずっと胸に根付いていた感情の正体。それは“憧れ”と“望み”。……だけど、()()が叶うことは決してないと思い知らされた。

 

自分は何か思い違いをしていたのかもしれない。

 

“ダークキラーブラザーズ”としてこの世に生まれた瞬間から……運命は定められていたというのに。それ以外の何かに手を伸ばそうとすること自体が、間違っていたというのに。

 

「……………………」

 

先ほどまであった全身の熱が消えていく。

 

崩れた壁から落ちた瓦礫に埋もれながら……フォルテは離れた場所にいるであろう少女の姿を幻想し、

 

「……ごめん……なさい」

 

涙と共に、そう小さくこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

《EXゴモラリング!エンゲージ!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステージ上で璃奈が最後の振り付けを終えた直後、会場内の熱気は最高潮に達していた。

 

「すごい……!すごいよりなりー!!」

 

「うぅ……!今回だけは認めてあげます……っ!!」

 

同好会の皆もライブをやりきった彼女に胸打たれ、それぞれで賛美の声を上げる。

 

春馬もまた感動で涙し、余韻に浸りながらも歩夢達に向き直った。

 

「今すぐ璃奈ちゃんのところに行かなくちゃ!ライブ……本当に凄かったって、早く伝えたい!!」

 

「うん!」

 

「そうですね!早速控え室へ急ぎましょう!!」

 

互いに興奮した様子でその場を駆け出す。

 

人混みから抜け出し、璃奈のもとへ向かおうとした————その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーーーッ!!!!」

 

巨大な咆哮と共に、それは現れた。

 

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

会場のすぐ側に突如として出現したのは…………刺々しい鎧のような皮膚に、巨大な爪を持った怪獣。

 

『あれは……ゴモラか……!?』

 

『様子が変だな。……肉体改造でも施されているのか?』

 

『どのみち敵の仕業に決まってる!——春馬!!』

 

(うんっ!!)

 

タイガの呼びかけにそう返し、歩夢達の目を盗んで逃げ惑う群衆に紛れながら、怪獣————ゴモラのいる方向へと疾走。

 

トレギアが呼び出した可能性は……もちろん高いと言える。でも奴以外にも怪獣を呼び出すことができる存在を自分は知っている。

 

(……君じゃ……ないよね?)

 

脳裏をよぎる少女の顔。

 

 

《カモン!》

 

「パワー勝負になりそうな予感がする。タイタス、お願い!」

 

『了解した!』

 

春馬は人気のない物陰へ身を潜めると、不意に浮かんだ悪い予感に眉をひそめつつ…………すぐさまタイガスパークを起動させ、キーホルダーを握った。

 

 

「バディ……!ゴーッ!!」

 

 

《ウルトラマンタイタス!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『——ふんッ!!』

 

落下の勢いを相乗させつつ上空から奇襲をかける。

 

当たりさえすれば相当なダメージを与えることができるタイタスの拳がゴモラの体表に炸裂し、バランスを崩した奴の身体が大きく傾く。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーー!!」

 

(硬っ……!?)

 

『予想以上に頑丈だな。あまり長引くことのないよう、気をつけるぞ!』

 

(そうだね……!)

 

体勢を立て直したゴモラの尾が真横から迫る。

 

槍のように尖った先端を回避しつつ、再度懐へ潜り込み2度目の打撃を繰り出そうと腕を引き絞った。

 

……しかし、

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーーーッ!!」

 

(——いっ…………!?)

 

避けたはずの尻尾は驚異的な速度で方向転換し、驚くべきことにその全長を伸ばしながら再びタイタスへと振り下ろされた。

 

『ぐぉお……っ!?』

 

不意を突かれ防御が間に合わず、脇腹に直撃を受けてしまう。

 

凄まじい遠心力を備えたその衝撃は肉体の芯にまで到達し、タイタスの巨体を軽々と吹き飛ばした。

 

(なんだ……今の動き……!?)

 

『尻尾をまるで手足のように……。これは骨が折れそうだ』

 

瓦礫の中から立ち上がり、勇ましく両手の拳を構えながらゴモラの様子を窺う。

 

強烈なパワーに強靭な防御力。加えて尻尾による変則的な攻撃。

 

これまで戦ってきた怪獣ももちろんそうだが……今回は特にこちらを仕留めようとする意思が際立っている。

 

今日この場で……勝負をつける気なのか。

 

(——いや、そんなのどうだっていい)

 

タイタスの体内で奥歯を噛み締め、春馬は強く空を握り潰す。

 

(今日のイベントのために……色んなアイドル達が努力を積み重ねてきたんだ。……璃奈ちゃんだって)

 

《カモン!》

 

こちらに凶器のような視線を送る白い双眸を睨み返しながら、春馬はタイガスパークのレバーを引いた。

 

(彼女達の想いを踏みにじる権利なんて————誰にもないッ!!)

 

《ヒカリレット!コネクトオン!!》

 

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーーーッ!!」

 

尻尾による打撃を掻い潜り、至近距離からの必殺技を狙う。

 

『(“ナイト————!)』

 

あと数秒もあれば奴の肉体に渾身の一撃を放つことができる。

 

そう確信した直後、

 

 

「◼︎◼︎————!!」

 

(……ッ!?タイタス、避けて!!)

 

尋常ならざる殺気を感じ取り、春馬は咄嗟にタイタスの肉体を強引に横へと牽引した。

 

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーーーッッ!!!!」

 

咆哮と同時に解放されたのは————暴力的なまでの“熱”だった。

 

ゴモラの全身から放射された熱線は建物を溶かしながら直進し、遥か後方にある高層ビルを両断。

 

(なっ……!)

 

一部焦土と化した東京の街を一瞥し、春馬の顔から血の気が無くなる。

 

『これは……まずいな』

 

(連発させちゃダメだ!早く決着をつけないと……!)

 

『接近戦に持ち込むのも難しいか……。——ここはタイガの光線に頼らせてもらおう!』

 

(わかった!)

 

 

《カモン!》

 

腰に下げていたタイガのアクセサリーが淡い光に包まれ、その形状が変化する。

 

《アース!》

 

《シャイン!》

 

それを手に取り、三つあるうち二つのクリスタルにタイガスパークをかざし————

 

(最初から飛ばしていこう!)

 

『ああっ!』

 

タイタスからタイガの肉体へ入れ替えを行いつつ、瞬時に金色の鎧を装着。

 

《ウルトラマンタイガ!フォトンアース!!》

 

 

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーッ!!」

 

光の幕を突き抜けて現れたタイガにまたもゴモラの尾が迫る。

 

タイガはそれを受け流しつつ、一定の距離を保ったまま強化された“スワローバレット”での牽制を図る。

 

もうさっきの熱線は撃たせない。このまま動きを止めて、“オーラムストリウム”を放つ瞬間を見定めなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、どうだい調子は?」

 

何もないはずの宙に黒い穴が開き、中から人影が向かってくるのが見える。

 

フィーネは街で繰り広げられているEXゴモラとタイガの戦いから目を離さないまま、現れた悪魔に冷たく言い放った。

 

「トレギア……お前の筋書き通り、といったところか?」

 

「人聞きが悪いなぁ。私はただ情報提供をしただけだよ。……忠告も含めてね」

 

後ろの方でぐったりと横たわっているフォルテに視線を流しながらトレギアがそう口にする。

 

この男は誰よりも……長男である自分よりも先にフォルテの変化に気づいていた。それを奴が報告しなければフォルテの()()()はさらに深刻なものとなっていただろう。

 

「まあ良い、結果オーライだ。妹の仕事を奪うようで気が引けるが……オレはオレの使命を全うし、このままウルトラマンを殺す」

 

前方にいる巨人と怪獣を視界の中心に捉え、フィーネは手甲の装着された左腕をゆっくりと掲げた。

 

今のウルトラマン達にEXゴモラの“超振動波”を防ぐ術はない。あれを連発していればいずれは決着がつく。

 

「我々の……そして父の宿願が、ようやく成就する」

 

「そうかい。とりあえずはおめでとうと言っておこうか。……それにしても、哀しいね」

 

「哀しいだと?……何がだ?」

 

薄く笑ったトレギアに鋭利な眼を突きつけるフィーネ。

 

「ああ、そうか……君達はまだ知らなかったね」

 

奴は相変わらず憎たらしい笑顔のまま、まるで他愛ないことを話すかのように、

 

 

「————————」

 

 

信じられない(意味のわからない)ことを口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……!なんだ……!?)

 

突如としてゴモラの動きが止まり、縦横無尽に駆けていたタイガの足も思わず静止する。

 

『どうしたんだ急に……?』

 

(とにかく……チャンスだ!!)

 

『あ、ああ!』

 

ゴモラの正面まで移動した後、春馬とタイガは互いに同調を強めタイガスパークにエネルギーを充填。

 

 

『(“オーラムストリウム”!!)』

 

周囲に広がった光が集束。同時に凄まじい勢いで射出され、それはゴモラの頑丈な体表を容易く焼いていく。

 

悲鳴は聞こえない。

 

糸の切れた人形のように、ゴモラはゆっくりとその巨体を倒し————強烈な衝撃と共に爆発した。

 

 

◉◉◉

 

 

「イベント……中止になっちゃったね」

 

まだ戦闘による焦げ臭さが残った街道を歩きながら、歩夢はぽつりと言った。

 

「仕方ないけど……やっぱり、つらいね」

 

「誰にとっても嫌な時代よね。怪獣頻出期……だっけ?」

 

横でそう話している皆の声を聞きながら、春馬は眉をひそめる。

 

ギリギリではあったがライブを行えた璃奈はまだマシだが……この後に控えていたスクールアイドル達はどれだけ悔しい思いをしているか想像もつかない。

 

「……なにしょげてるんですかぁ!1度や2度怪獣に邪魔されたからって!……私達にはこれから、ラブライブの予備予選だってあるんですよ!?」

 

「怪獣が現れるのは……もう1度や2度という話ではないけどね」

 

「ちょっ……しず子まで暗くならないでよ〜!」

 

「かすみちゃんの言う通りだよ」

 

必死に空気を盛り上げようとしていたかすみの姿を見て、先ほどまで無言で歩いていた璃奈が口を開く。

 

「今は前を向こう。不安なことの方が多いけど……私達にやれることを、精一杯やろうよ。……璃奈ちゃんボード『やったるでー』」

 

そう言った彼女の声には、より強固なものとなった決意が宿っていた。

 

 

そうだ、彼女達の想いはこんなことじゃ終わらない。……終わらせない。

 

もう誰かが悲しむのはたくさんなんだ。

 

そのためにも一刻も早く敵を————トレギアを倒さなくては。

 

 

 

 

 

「……っ」

 

「……?ハルくん、どうかした?」

 

「いや……大丈夫」

 

一瞬頭の中を駆け巡った痛みに表情を歪める。

 

 

 

自分の中で起きている変化など知る由もなく、春馬は同好会のメンバーと共に夕日を背にして歩いていた。

 

 




またも不穏な終わり方に……。
今回ステラとヒカリが不在でしたね。次回以降詳しい描写を挟む予定ではありますが、2人は別件で春馬達と離れてました。

さて、少し急ぎすぎな気がしますが……そろそろ1章クライマックスに突入していこうかと思っております。

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