伊之助の下に向かっていた俺は突如としてその足を止めた。
今さっきまでいた鯉夏花魁の部屋からほんのりと甘い香りが漂ってきて、そしてそれが俺達が探していた上弦のものである事に気付いたからだ。
そして踵を返す様に俺は鯉夏花魁の部屋へと走って行った。
そんな時だった俺の首元に冷たいクナイがそっとあてられたのは。
「何も質問せず俺に聞かれたことのみを短く簡潔に答えろ。ここで働いていた、金髪の善子と雛鶴は一体どうなった?」
一瞬何が起きたのか理解出来ず動きが固まってしまったが、すぐ正直に善子は消えて雛鶴は切見世へと送った事をクナイをあててきた人物に話した。
そして
「蕨姫・・・蕨姫花魁を殺してくれ!・・・」
そう涙をこぼしながらそのクナイをあてた人物に訴えた。
するとクナイをあてた人物は
「そいつは何処にいる?」
とその言葉だけを返してきた。
「北側、北側の部屋にいるはずだ」
「分かった」
それだけ言い残した後俺が後ろを振り返った時そこには誰もおりはせずただただ部屋の家具があるだけだった。
(鬼は、いないか・・・だったら奴を探しながら雛鶴を助けにいくか)
そう考えているのはこの俺、宇髄天元だ。
あの店主の言ってた部屋には案の定鬼はいなかった。
今は夜だから人を狩に行ってるんだろう。
そう考えた俺は、切見世に急ぐのだった。
一方その頃
伊之助はいつまでたってもやってこない炭治郎に腹を立てていた。
「惣一郎のバカが!いつまで経っても来ねえじゃねーか!もういい!俺があいつが来る前に鬼の首を切ってやらあ!」
そう言って伊之助は思い切り床を蹴り飛ばし天井に自らの頭で穴をあけ、天元の使いのネズミ達から刀と自らの衣服を奪い
「ガハハハハ!やっぱこの姿じゃねえとな!よっしゃ!待ってろよ鬼ぃ‼」
「ぐぁあああ‼」
そう叫んだのは俺、炭治郎だ。
先程急いで鯉夏花魁の部屋に戻った俺の目には驚きの光景が写っていた。
なんと上弦の陸と目に刻まれた鬼が鯉夏花魁を帯に取り込んでいたのだ。
反射的に俺が鯉夏花魁を助けようと刀を振るったのだが、次の瞬間俺は反対側の家に吹き飛ばされていた。
この時の痛みで叫んでしまったのだ。
一瞬何が起きたのか理解できなかったがすぐに持ち直した。
(大丈夫だ。
と考える事ができたからだ。
「へえ。まだ生きてるのね。今ので死ぬと思ってたのに・・・でも、久々に楽しめるかもしれないわね!」
そう言いながら京極屋の屋根に上弦の陸が出てきた。
俺はそれを確認しながら禰豆子のはいった箱を降ろした。
肩ひもが先程の攻撃により千切れてしまったからだ。
そして先程、鯉夏花魁を吸収していた帯が一斉に俺に向かってきた。
俺はそれをジャンプし【打ち潮・乱】によって迎え撃ちそのまま【水面切り】につなげたが当然のように一瞬で再生した帯によって防がれてしまった。
そんな炭治郎を眺めて堕姫が満足げに笑う。
「フフフッ。必死になって私の首を切ろうとするお前は、まるで主人に牙をむく子犬だわね」