やはり俺の実力至上の青春ラブコメはまちがっていない。 作:ゆっくりblue1
高度育成高等学校データベース
氏名 比企谷八幡 Bクラス
誕生日 8月8日
学籍番号 S01T004628
部活 無所属
学力 B
知性 A
判断力 A-
身体能力 C+
協調性 D-
面接官からのコメント
学力、知性共に高く、更に身体能力も平均以上であった為、Aクラス相当と見込まれたが面接時の消極的な応答態度や明確的な将来の展望がなかったため、Aクラスを見送りBクラスとする。
また別付資料に記載されている通り、自他への優先順位に偏った部分があるため、更生していく必要あり。
担任からのコメント
真面目に授業を受け、授業妨害もないですが、口数が少ないのと、消極的な性格がもったいないです。今のところ友達はあまりいないので何らかの形でクラスメイトや他クラスとのコミュニケーションをとってもらいたいです。
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風が心地よく体に打ち付け、暖かな日差しが当たる。バス停に停車しているバスに乗り込むと、まだ一人も乗っておらず静かな車内。
早く来すぎたようだな・・・・・
適当に座って、鞄から海外文学の小説を取り出して読み始める。中学の後半にあたってラノベだけでなく、海外文学の小説を読み始めた俺。きっかけは英語の長文読解の練習に用いて読んでみたが、自分でも驚くほどにはまってしまい、最近は週4のペースで読み漁っている。そのおかげで中学の英語レベルを遥かに超えたが、使う場面がテスト以外無い為少し残念だった。今はまっているのはフランスの小説家ルブラン・モーリス著書の有名推理小説『怪盗紳士アルセーヌ・ルパン』だ。ちなみに英語版のガチな奴だ。
しばらく読みながら、バスが始発するのを待っているといきなり声をかけられる。
「すみません。貴方が今読んでる小説、『怪盗紳士アルセ-ヌ・ルパン』ですよね?」
「えっ、あっ、はい・・・そうですけど」
いきなり声をかけられたことに動揺しつつ、何とか返事をしながら声をかけてきた相手を見る。やっべぇ、声裏返りそうだったぜ。
「私も海外文学にはまっているんですが、あなたが今読んでいる小説は見たことなかったのでちょっとびっくりしました」
声をかけてきた相手は、白よりの銀髪ウェーブに整った顔立ちの女の子だった。格好は俺と同じ『高度育成高等学校』の制服だった。その少女は目を細めて手を合わせながら嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「お隣、失礼してもいいですか?」
そう言われた俺は断ろうとするが、ふとバス内を見渡すともう席は埋まってしまっていたので遅かった。
「・・・・ど、どうぞ」
「ありがとうございます。では・・・・」
そして臨席してきた少女は鞄から『四つの署名』を取り出した。どうやらこの少女も海外文学を読んでいるらしい。
「・・・・あっ、すみません。自己紹介がまだでした。私は『高度育成高等学校』の新入生の椎名ひよりといいます。貴方は・・・?」
「・・・・・新入生の比企谷八幡でしゅ・・・」
この少女、椎名のおっとりした雰囲気とアンバランスなマイペースさに思わず自己紹介で噛んでしまった。女子が近づいてきたから噛んじゃったとかそういうのではない。断じて。
「比企谷君ですか。珍しい苗字ですね」
目を輝かせながら話し掛けてくる椎名にしどろもどろになりながら答える俺。俺に話しかけてきたことにも驚いたが、俺の見た目に軽蔑した様子がなかったのだ。
八幡は小中学校でいじめの対象になっており、小学校で目が濁ってしまい、中学校では容姿についてもからかわれることが多かった。妹は目が腐ることなく虐められることもなかったので良かったが、八幡自身はこのことが若干トラウマになっていた。
しかし、このひよりからはそんな様子が微塵も見られなかったのに対して八幡は驚きと少しの安堵感を持った。
受け答えをしているうちにバスは始発して、目的地である『高度育成高等学校』向かっていく。八幡がひよりとのコミュニケーションに慣れ始めてきたころ。
俺はバスが減速し始めてきたのを察し、前を見る。
「・・・・そろそろ着くみたいだぞ」
「あっ、そうみたいですね。会話に夢中になってたので気付かなかったです」
楽しそうに言いながら微笑む椎名。そんな笑顔向けんなよ。惚れちゃうだろうが。そして告白して振られちゃうまである。・・・・振られちゃうのかよ。
そんな悲しい思考をしていると、バスは停車した。
「降りるか・・・」
「はい」
誰に対して言ったわけでもないのに返答してくれる椎名。優しいなぁ・・・天使かよ。
バスを降り、周りを見渡す。目の前にある『高度育成高等学校』で俺は3年間、『外部との接触を断って過ごすことになるのだ』此処を選んだ理由は、否、選ばれてしまったというべきか。両親が『親離れだ』と言って進めたのだ。詳細をよく知ろうとしなかったあの時の俺を殴ってやりたい。合格時に届いたパンフレットを見て、人生で一番大声で叫んだかもしれない。そう
負のオーラを撒き散らしていると椎名が不思議そうな顔で覗き込んできた。
「?どうしたんですか?」
「・・・や、なんでもない」
覆水盆に返らず。過去のことを気にしても全く意味がないため、無駄な思考を断ち切り、正門に向かい始める。ちらりと隣を見ていると椎名がついてきていた。
「一緒に掲示板を確認したほうが早いので」
なんでついてくるのかと、その疑問を読んだように答えてくる椎名。
椎名が何を言ってもついてくるであろうことは数分の間に理解したので、分かった。と頷いてクラス分けが書かれているであろう掲示板を確認する。
俺は・・・Bクラスか。
確認していると椎名が合流してきた。
「私はCクラスです。比企谷君は・・・Bクラスですか」
「そうみたいだな」
すると、椎名は残念そうに呟いた。
「残念です・・・同じクラスならもっと趣味について比企谷君と語り合えると思ったんですが・・・」
本当に残念そうに言う椎名を見て、普段の俺なら絶対に言わないであろう言葉を言った。
「・・・・・学校なら、図書館があるはずだ。・・・だから、そこでまた話そう」
気恥ずかしくなりながらも俺はそう言い切ると、椎名は俺が今日見た先ほどの笑顔よりも眩しい微笑みを向けて。
「はい。一緒に話しましょう」
力強く頷いた椎名。その顔を見るとドキッとして、不思議な幸福感に包まれた。
「・・・あぁ。じゃあ、Bクラスだから」
「はい、また。放課後にでも」
そういい、別れる俺たち。
ーーーーーーーーーあんな子もいるんだな。と思いながら嬉しくなる自分と冷え切った感情を持った自分がいる。
ーーーーーーー勘違いだ。期待するな。信じられるのは自分だけだ。どんな過程であろうが最後に自分が勝てばいい。
そんな考えが浮かび上がり、俺はそんな自分に嫌悪した。酷く独善的で滑稽な思考、常に『何か』に脅えて逃げる。
「・・・・チッ、面倒くせぇ」
俺は粛々と廊下を歩く。そう独りごちた俺の声は響く足音と周りの声によって溶け込んだ。