やはり俺の実力至上の青春ラブコメはまちがっていない。   作:ゆっくりblue1

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第10話です。生徒会裁判の少し前くらい話です。一之瀬がすごくなりますので注意をお願いします。今回もお楽しみいただけたら幸いです。


優しい奴が怒ったら本当に怖い

一之瀬の告白騒動は一之瀬が無事に乗り切って終了した。告白の相手は白波だった。しかし、ある程度予想していたため驚きはそんなにない。告白は断った後、まさかの白波から、普段通りに接してくれ。と言われたようだったのでそこに驚いたが。

 

 

そして更に翌日になって俺は特に何も問題なく、昼休みを過ごしていた。無事に食事もとり終えて教室で小説を読んでいた。しかし今回は文学小説ではなく、久しぶりのライトノベルを読んでいた。展開は主人公が交通事故によって死に、神様の力によって異世界に転生する、今では珍しくないポピュラーなやつだ。

 

 

しかし、転生した主人公は何の特殊な能力もなかったのだ。神様がミスったのかと思っていた主人公だが、現れたヒロインが滅茶苦茶強く、無双するという斬新なライトノベルだ。特に主人公が傷つけられて切れたヒロインがめっちゃ怖い。魔王でさえ、ガタガタ震えて裸足で逃げ出すほどの怖さだ。そしてこのラノベはハーレム物でもある。

 

 

俺は最後まで読み切ると、本を閉じて鞄にしまう。そして欠伸をして体を伸ばすと、尿意を感じたため教室を出てトイレに向かった。

 

 

「ふう、すっきりした・・・・」

 

 

トイレを無事に済ませ、教室へ戻ろうと廊下を歩いていると、周りが騒がしい。

 

 

「おい、何かあったのか?」

 

 

「Dクラスでなんかあったらしいぞ」

 

 

周りの生徒がそういってるのが耳に入る。俺が進む方向にDクラスの教室が通過点としてあるため、通らなければならない。なるべく接触しないで戻ろう。

 

 

そう決意して戻っていると、聞き覚えのある声と姿がした。一之瀬と神崎の姿が見えた。そしてその後すぐに怒鳴り声がその近くから聞こえてきた。その声にも聞き覚えがあった。

 

 

「何で前向いて歩かなかったの!?おかげで怪我しそうだったじゃん!!」

 

 

由比ヶ浜の怒鳴り声だった。大声で怒鳴っているため野次馬が集まっていて注目されている。そして怒鳴られている相手はすっかり委縮して泣きそうな声で言った。

 

 

「ぁ・・・ご、ごめんな・・・」

 

 

「はあ!?聞こえないし!はっきり言いなよ!!」

 

 

かすれた声で謝ろうとしたが、その様子が更に由比ヶ浜を苛立たせたのか、遮るようにして怒鳴る。すると、この事態に気付いた雪ノ下が近寄ってきて状況を聞いた。

 

 

「由比ヶ浜さん、そんなに怒鳴って一体どうしたのかしら?」

 

 

「聞いてよゆきのん!私がお弁当を持って廊下を歩いてたんだ。するとこの子が角を曲がって下向きながら走ってきてぶつかったんだ。その拍子でお弁当がぐちゃぐちゃになったんだよ!?でも、何も言わずに逃げようとしたから怒ってたんだよ!!」

 

 

雪ノ下は由比ヶ浜の言い分を聞いた後、何か一瞬考えてもう1人の当事者に真偽を聞いた。

 

 

「それは本当なのかしら?佐倉さん」

 

 

佐倉と言われた少女は話を振られたことに驚いたが、ゆっくり答えようとする。

 

 

「ち、違います・・・私は普通に歩いていました。曲がり角でゆ、由比ヶ浜さんとぶつかったのは事実です。そのとき謝ろうとしたけど、由比ヶ浜さんの声に遮られてしまって・・・・」

 

 

どうやらこの佐倉とやらの言い分と由比ヶ浜の言い分がかみ合っていないようだ。つまりはどちらかが嘘をついているということ。佐倉の言い分に由比ヶ浜は憤慨して、声を荒げて反論する。

 

 

「はあ!?何嘘言ってんの!あんたの不注意の所為でお弁当ぐちゃぐちゃになったのに言い訳するなし!」

 

 

その様子にさらに佐倉が怯え、沈黙してしまう。その様子を見かねたのか、雪ノ下が言った。

 

 

「由比ヶ浜さん。彼女は謝ろうとしていたのよ?お弁当のことは残念だけれど、何もそこまで・・・・」

 

 

擁護するように言った雪ノ下に由比ヶ浜は不満と少しの怒りを抱いたような瞳を向けて、聞いた。

 

 

「ゆきのん・・・ゆきのんは一体どっちの味方なの?」

 

 

「!・・・それは」

 

 

気まずげな様子でつぶやいた雪ノ下に由比ヶ浜が更に言葉を言おうとしたその時。

 

 

「はい、ストップ!」

 

 

一之瀬が割り込むように仲裁に入ったのだ。急に仲裁に入ってきたことに驚きつつも由比ヶ浜はいまだ怒りが収まらないのか強く言い放つ。

 

 

「関係ない人が急に割り込んでこないでよ!!」

 

 

その様子とは反対に一之瀬は落ち着き払った声で言い返した。

 

 

「関係ないことないよ?廊下でこんな大声で騒いでたら他の人が通るときに邪魔になっちゃうし、他の人の迷惑になるよ」

 

 

正論で返すと一之瀬は佐倉に視線を移していった。

 

 

「Dクラスに用があってきたんだけど、君達が言い合いになってたから仲裁に入らせてもらったの。大体理由は聞こえてたからわかるけど。由比ヶ浜さんもその辺で許してあげよう?佐倉さんも謝るだろうから」

 

 

一之瀬の言葉で周りの空気は由比ヶ浜の味方になる奴はほとんどおらず、佐倉に同情の視線が寄っていた。その空気が癪に障ったのか更に由比ヶ浜は吠えるように訴える。

 

 

「一之瀬さんはいきなり何なの!?私はただ謝ってもらおうとしただけだし!!」

 

 

その言葉にも動じた様子なく、一之瀬は淡々と言い返した。

 

 

「ううん、謝ろうとしたのにその態度で言ったらだめだよ。相手は謝れなくなるし、由比ヶ浜さんが悪いように見えるよ。相手からしたら度が過ぎた強要の仕方に感じ取れちゃうよ」

 

 

そしてとうとう、自分の感情が抑えきれなくなったのか、一之瀬を由比ヶ浜は突き飛ばすように押し出した。俺はその様子を見て、慌てて人だかりを避けつつ、体勢を崩しそうになった一之瀬を支える。

 

 

「っと、大丈夫か?一之瀬」

 

 

「あ、比企谷君!」

 

 

俺のことを見た一之瀬は驚きつつもどこか安堵した様子だった。俺の存在に気付いた由比ヶ浜と雪ノ下が驚きを隠せず言った。

 

 

「・・・比企谷君」

  

 

「ヒッキー!?」

 

 

ん?雪ノ下の態度がおかしい。前に会った時は敵意と嫌悪感丸出しだったのに、今はどこか神妙そうな表情としおらしい態度だったからだ。なにかあったのか、まあ、こっちとしては絡まれずに済むので都合が良い。

 

 

「おい、由比ヶ浜。喧嘩の仲裁に入った一之瀬を突き飛ばすことはねえだろ」

 

 

俺がそう言うと、一瞬茫然としていた由比ヶ浜は再起動し、俺を睨み付けながら言った。

 

 

「うっさい!ヒッキーに言われたくないし!」

 

 

「お前らが言い合ってることは正直どうでもいい。ただ、関係ない奴に当たり散らすな」

 

 

「当たってない!一之瀬さんが勝手に入ってきて勝手なことを言うからだし!ヒッキーキモイ!マジキモイ!!」

 

 

駄目だ、話しが通じねえ・・・・お前の空気読む長所はどこ行ったんだよ?

 

 

由比ヶ浜がここまで性格がゆがんだのには理由があった。嘘告白をした理由を話そうと奉仕部に八幡が行く前、葉山が雪ノ下と由比ヶ浜に真相とは全く別のことを話したからである。葉山グループの中からカップルが誕生するのを妬んで、文化祭で悪評を垂れ流されたので恨みで、などという理由を作って2人に伝えたのだ。その事により由比ヶ浜は失望して、恋心から失望と怒りに感情が変化したのだ。

 

 

 

雪ノ下もあの一件に遭遇するまでは全く同じ思いだった。しかし、あの一件により、八幡の嫌悪が3割、葉山への疑念が7割とかなり揺れ動いていた。ここまで変化したのは、葉山への信用の無さと、八幡の態度から来ていた。自分が罵倒しているのに言い返さないのはおかしい、ただの無視かとも考えたが、八幡の眼差しから失望の色がかすかに感じ取れた。人の感情に疎い、雪ノ下が感じ取れるほどのものだったのだが、それに真っ先に気づくであろう由比ヶ浜は完全に怒りに飲み込まれていて、それに気づかなかった。

 

 

 

グループの友達が傷つけられたという思いもあったので余計に由比ヶ浜の冷静さを奪うことになったのだが。本当はそのグループのリーダーこそが傷つけていたと知らずに。

 

 

俺はどうこの状況を切り抜けるか考えながら口を開こうとすると、この状況という名の火に油を注ぐであろう最悪の人物が人だかりをかき分けて近づいてきた。その人物はーーーーー

 

 

「一体どうしたんだい?結衣」

 

 

葉山隼人、その人が由比ヶ浜にこの状況を問いかけていた。そして状況を聞き出すと、俺達・・・否、正確には俺を睨んできた。何故俺が睨まれないといけないんだよ。

 

 

「そうか、佐倉さんがぶつかったのか・・・・じゃあちゃんと結衣に謝ってほしい。普通に歩いていたのかもしれないが、結衣の弁当が食べられない状態になったのは事実だからね」

 

 

・・・・此奴はわざとなのか?どんな判断してんだよ。

 

 

「おい、葉山何を言ってんだ。現時点で此奴は謝ろうとしてたじゃねえかよ。理由の食い違いはあるが、ちゃんと謝ろうとしてたのを遮ったのはそっちだろ」

 

 

もともと謝ろうとしていたのに改めて謝罪しろと言う意味が分からない。俺が口を挟むと葉山は険しい表情で怒鳴りつけるように言った。

 

 

「ヒキタニは関係ないだろ!引っ込んでろ!!」

 

 

いやいや、俺は関係ないかもしれんがお前のほうがもっと関係ないだろうが。ていうか、まだわざと名前を間違えて言ってやがるし。小学生かよ・・・・・

 

 

葉山の態度に呆れていると、突如この空間が凍り付いたような張りつめた空気が漂い始めた。野次馬の生徒達は動揺し始め、雪ノ下は辺りを見渡し、葉山と由比ヶ浜は何が起こったのかわかっていない様子だった。俺は何事かとこの空気になった元を探す。そして気づいた、この空気の元は俺が体勢支えていた存在である一之瀬帆波から漂っていたものだということに。周りの生徒達が水面に水を打ったかのように声を潜めた。

 

 

俺が困惑していると、一之瀬は1歩前に出て、言葉を言う。

 

 

「ねえ、今比企谷君のことをヒキタニって言ったのかな?」

 

 

「え、あっ・・・」

 

 

葉山が困惑していて言葉になっていない。冷や汗が出ており、物凄く動揺している。そして一之瀬は氷のような冷たい眼差しを由比ヶ浜にも向けて言った。

 

 

「そしてさっきから思ってたけどヒッキーって何かな?」

 

 

「ぅ・・・え・・・?」

 

 

聞いても固まったままで何も言わない一之瀬は2人を睨みながら更に近づいて言った。

 

 

「早く答えてくれないかな?」

 

 

「「ひっ・・・!?」」

 

 

一之瀬の様子に恐怖を抱いたのか、悲鳴を上げる2人。ぶっちゃけ俺も上げかけてる状態でございます。周りの生徒達も怯えた反応がちらほら見えた。あっ、神崎も震えてる。こんな状態の一之瀬は初めてだ。大概のことを叱っても最終的には笑って許すあの一之瀬が。

 

 

俺が動揺している中でも2人に聞き続ける一之瀬。底知れない雰囲気を纏っていて誰も口を開けない。

 

 

「もしかして彼を貶すために言ったの?」

 

 

「「そ、それは・・・」」

 

 

動揺しまくった様子で蚊のようなか細い声で言い淀む。葉山はガタガタ震えていて、由比ヶ浜に至っては泣きかけている。

 

 

これ以上この状態が続いたらまずいので、俺は一之瀬に近づいて肩に手を置いて言う。

 

 

「一之瀬、もう良い。・・・おい、由比ヶ浜に葉山!佐倉は素直に謝るんだからこれでチャラにしてくれ。納得いかないなら弁当はどっかで奢ってもらえばいいだろ」

 

 

ていうか由比ヶ浜の料理の実力がどれだけ伸びたかは知らんが、多分そこらのコンビニで買ったやつだろ。俺は作ったとは思えないし。

 

 

「それでいいか?」

 

 

当の本人である佐倉に向かって聞く。呆然としていたが俺の声に我に返ったのか、返事をする。

 

 

「ぇ・・・あ、は、はい・・・・」

 

 

俺を見て少し慌てつつも返事をしたので頷いて、いまだ纏っている雰囲気が変わらない一之瀬に向き直って言う。

 

 

「一之瀬、そういうことだから元に戻ってくれないか・・・?」

 

 

俺は不安な感情を抱えて一之瀬に頼む。すると、一之瀬の纏っていた雰囲気が霧散し、息を吐いて言葉を言った。

 

 

「・・・2人が納得してくれるなら私からは特に何もないよ。私からもごめんね?急に割り込んじゃって」

 

 

佐倉に向かって謝罪すると、佐倉は慌てて首を横に振った。

 

 

「今日はもうDクラスにお邪魔できる感じじゃないし、戻るね。行こう?比企谷君」

 

 

一之瀬はそう促したので俺は素直に従って踵を返すように背を向ける。

 

 

「あ、言い忘れそうだった」

 

 

そう思い出したように言うと由比ヶ浜達のほうへ振り向いて、2人の間まで行って耳元に囁いた。

 

 

「比企谷君を蔑称で呼んだり、理不尽に貶したら・・・・」

 

 

眼の光が完全に消え、感情が読めない声で言った。

 

 

「ーーー絶対に後悔するよ?」

 

 

そして2人の反応を見ずに今度こそ踵を返して、モーセが通るかのように人だかりが左右に割かれるとその様子に俺たちは苦笑して、ーーー俺はめっちゃ恥ずかしいーーーこの場を去っていった。

 

 

はぁー・・・・Dクラスと連携する以前の問題だなこれは。クラスの問題の種が多すぎるし。

 

 

俺は一之瀬とその場に呆然とたたずむ由比ヶ浜と何故か沈んでいる表情の雪ノ下、こっちを睨み付けてくる葉山をちらりと垣間見る。

 

 

これ以上の厄介事は勘弁してもらいたいんだがな・・・・・

 

 

そんな思いを抱きながら昼休みが終わる前に俺たちは教室へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 × × ×

 

 

由比ヶ浜結衣は先ほど去って行った2人を睨みながら苛立っていた。佐倉愛梨もこっちに謝り、そそくさとこの場を離れていき、友達の雪ノ下雪乃も気まずそうにこっちを見て、離れていった。葉山隼人は何かに怯えるように急いで去って行った。

 

 

「もう、ヒッキーと一之瀬のせいでっ!!」

 

 

憤慨して他人に責任を押し付ける由比ヶ浜。何故こんなことになったのかすら省みず、怒りをぶちまけるように言って教室に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、この騒動を見ていた人物たちは・・・・・

 

 

「・・・ふふ、いい度胸していますね」

 

 

「堀北の奴よりむかつくなぁ・・・・」

 

 

「・・・葉山君と彼女は許せません」

 

 

 

銀髪のサイドテールの女子は冷笑と憎悪を浮かべ、今後の計画を練る。

 

 

明るいショートヘアの少女は、退学させる人物に2人を定めた。

 

 

おっとりした少女は罵倒された2人を護ると決意する。

 

 

 

こうして由比ヶ浜結衣と葉山隼人の運命は少しずつ狂い始めていることを、当の本人たちは知らない。

 


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