やはり俺の実力至上の青春ラブコメはまちがっていない。 作:ゆっくりblue1
不穏な空気が流れていて滅茶苦茶居心地悪い。現在、俺は生徒会室にいる。そして目の前でDクラスとCクラスの論争を見ている。
あれから特に大きな動きは特になく、生徒会裁判当日となった。Dクラスの主張は『無罪』と変わらず、Cクラスも『有罪』と同様だった。
ただ、論争を見ている限りではこっちが圧倒的に不利だ。だから、こっちも切れる手札を打った。何度かの論争の繰り返しつつ、Dクラスの主張の番となった。
「し、失礼します・・・・・」
生徒会室の入り口が開き、そこから入ってきたのはDクラスで唯一、この状況を覆せる人物、佐倉愛里だった。
そこから論争は加速し、暴力事件の現場を目撃をした証拠を見せる。そこには、須藤、Cクラスの石崎、小宮、近藤の姿がはっきり写った写真だった。日時も暴力事件の発生した日と一致する。
「しかし、この写真があるからと言って須藤君が彼らに暴力を振るった事実は変わりませんよねえ」
Cクラスの担任である坂上先生がこの証言の弱いところ突いてきた。それに佐倉は動揺し、須藤は吠えるように訴えようとするが、弁護する側の堀北に手で制され、渋々辞める。そのまま続けるように傍聴者のDクラスの担任、茶柱先生に提案する。
「このままではどちらも譲らない押し問答になりそうです。そこで茶柱先生に提案があります」
「ほう、何でしょう?」
「こちらの生徒に1週間の停学、須藤君には2週間の停学及び部活動の停止がこちらの最大限の譲歩出来る条件です。pt等は払わずに頂いてもいいです。どうです?良い条件でしょう」
坂上先生はそう妥協案を提示する。確かにDクラスの立場からすれば破格の好条件だ。しかし、それは須藤の立場を抜きにした場合に限りだが。須藤は顔を顰め、その顔を見た石崎達はニヤニヤと笑う。石崎達の目的は須藤の部活動で出場することになった大会に出させなくすることが狙いだ。
要するにDクラスを掻き乱すための嫌がらせである。それにこの妥協案にはCクラスにデメリットがほとんどなく、Dクラスの足並みも更に乱せるという旨味がある。
茶柱先生は坂上先生の主張を聞いて肩を竦めながらフッと笑って返した。
「私はそれでも構いませんがね。しかしそれは当事者達が決めることですので、私はこの裁判の決着を見守るだけです」
おいおい、せめて何か堀北達に一言言ってやってもいいだろうに。いくら実力を重んじるからって冷たすぎないかこの先生。
まあ事実ではあるため何とも思えないが・・・・堀北を垣間見ると、何やら膝に手を置いて震えながら俯いている。心ここに在らず、か。
俺もDクラスの援護は出来ない為、傍聴するしかない。すると、同じく弁護しに来た綾小路が急に堀北の脇に手を通し、あろうことか擽り始めた。
「ちょっ!?ッ、やめ・・・~ッ!!」
ここにいる全員がその奇行を唖然としながら見つめていた。そして綾小路が擽りをやめ、堀北に問いかける。
「目が覚めたか?堀北」
奇行を起こした綾小路を睨む堀北。しかし、意に返した様子なく続けて言う綾小路。
「須藤の無実を裏付ける証拠はない。これが教室やコンビニで起こった事件なら、大勢の生徒が見ていて確実な証拠があったかもしれないが、人もいない設備もない特別棟じゃどうしようもないってことだ」
「話し合いをして分かっただろ。どれだけ訴えてもCクラスは嘘だと認めないし、須藤も嘘とは認めない。平行線だ、話し合いなんて最初からしなければ良かったくらいだ。そう思わないか?」
ん?綾小路の言い回しが回りくどいな・・・・・ッ!!そういうことか。そしてあの後堀北は坂上先生の言った妥協案を呑むことなく、『完全無罪』を主張した。そしてこの状態では決着がつかないため、裁判の決議は延期になり、後日にまた話し合われることなった。
裁判が閉廷となった後、関係者が出ていき、俺も出ていこうとすると、堀北会長に呼び止められた。
「比企谷、お前には少し残ってもらいたい」
「?・・・・分かりました」
早く帰りたいんだが。渋々帰ろうとした足を止め、堀北会長の話を聞く。椅子に勧められたため座る。そして堀北会長が口火を切った。
「さて・・・比企谷、お前はこの裁判の結末をどう見る?」
「はい?」
思わず素っ頓狂な声が漏れてしまった。そんなことを聞いてくるとは思わなかったからだ。しかし堀北会長の顔は至って真剣な為こっちも濁すことなく返す。
「・・・・このままいけばDクラスが負けるでしょうね。結論を先延ばしにしようが、ね」
「・・・お前の意見を聞かせろ。Dの立場から見た上でな」
何でそんなDクラスを気にかけるんだ?妹がいるからか?・・・まあ、いい。
「まあ、逆転出来る唯一の案なら周りの環境を利用してみることですよ。例えば監視カメラ、とかですかね」
「!ほう・・・」
堀北会長は監視カメラといった瞬間気づいたらしい、否、最初から知っていて俺を試したっぽいが。しかし、付き人の橘先輩は気づいていないらしく首を捻っている。
「ふ、お前の意見も聞けたことだ。呼び止めた本題を話そう」
え、まだ何かあんのかよ?結構疲れたから帰りたいんですが・・・そんな俺の様子を他所に続けて言う。
「比企谷
その言葉に俺は声の大きさとトーンを幾分か落として返す。
「・・・いや、今のところは不穏な動きはない」
「・・・そうか。今後も頼むぞ」
「・・・・あいよ」
今のやり取りで何故、俺が庶務と言われているかと言うと雪ノ下さんと会長との邂逅の後、生徒会に誘われた。最初はもちろん断ったが条件を二つ出され俺はその条件を呑んで生徒会入りを果たした。一つは・・・
「・・・MAXコーヒー1ダースだ」
「うす、あざっす」
そう、MAXコーヒーを貰えるからだ。え?条件がおかしいって?俺からしたらこいつは無くてはならないものなんだよ。疲れを癒せる嗜好品なんだよ。MAXコーヒー入りの箱を持つと橘先輩が苦笑いしてきた。
「よくそんな甘いものを飲めますね。糖尿病になりますよ?」
「『人生は苦いんだからコーヒーくらいは甘くてもいいじゃない』それが持論なんで」
「・・・後、稽古の事だが、金曜日に回すことにする。それで良いか?」
「はい、分かりました」
稽古というのは、実はこの人に格闘技や護身術の相手をしてもらっている。理由については龍園がいるCクラスやDクラスの須藤などの存在に暴力を仕掛けられそうになったと時に対処できるようにするためだ。これが2つ目の条件。これ以上話すことはないと判断した俺は、失礼しました、と言い頭を下げて部屋を出た。
そして部屋を出ると綾小路と俯いて嗚咽を漏らす佐倉がいた。佐倉を慰めているようだった。綾小路に目を合わせると、佐倉に気づかせないよう注意しながら口パクでこう言った。
『どこまで見えてる?』
『・・・同じことを考えたみたいだな』
ここまで聞いて俺は納得がいったため、2人に会釈する。綾小路が相変わらずの無表情で会釈を返してきたので俺は寮へと足を進めた。スマホを取り出して一之瀬へ1通のメールを送った。
〈決議は延期になった。多分今度Dクラスとの作戦を立てるときptが必要になるだろうから貸してやってくれ〉
送信すると1分もせずに返信が来た。
〈OKだよ。でも比企谷君は参加しないの?〉
〈しなくても大丈夫だ〉
そう返信して俺は寮へ進める足の速度を速めた。これで俺の役目は十分だろう。後はDクラス次第だ。
ーーーーーーこの時俺は気づけなかった。綾小路が鋭い視線を俺に向けていたことに。
そして後日、第2回目の裁判が行われる時間となった。Dクラスの奴は生徒会室に集まっているがCクラスの連中は来ていない。そして数分後に生徒会の扉を開いて入ってきた。Cクラスの連中の顔色は悪い。
どうやら一之瀬達はうまくやったようだな。そして裁判は開廷されたがこの前とは真逆にCクラスは訴えを取り消すと言った。急な意見の変化に坂上先生は喚いたが意見は変わらず、その意見が通りDクラスは無罪放免となった。
ここで種明かしだが、あの状況から逆転できる一手は『事件現場の何もない特別錬に監視カメラを設置し、そこにCクラスの当事者の連中を呼び出して、学校側はお前らのやったことを知っている、と焦らせて誤魔化し冷静さを奪うように、退学になる、と言って第3者の介入を許さないように立ち回りながらやれば更に焦った連中は訴えを取り消す』と言った嘘塗れの作戦だ。正直、カメラの映像を確かめられてしまえば本当の証拠なんてないため、この作戦は水の泡となり、Dクラスは更に失墜することになる。いわば大博打だ。
裁判を終え、生徒会室を出た俺はメールを今特別錬にいるであろう一之瀬に送る。
〈終わった。Dクラスの勝ちだ〉
〈良かった。比企谷君、今からこっちに来れないかな?何か佐倉さんの様子がおかしいの〉
返信が返ってきたが何やら佐倉の様子が変らしい。佐倉は今回の裁判には出ていないのでフリーの状態だ。俺は了承の返事を送って、今どこにいるかを聞く。〈昇降口辺り〉という返事が来たため昇降口に急ぐ。
しかしここで事態が急変した。昇降口を目指している道中、一之瀬からまたメールが来た。
〈比企谷君!佐倉さんを見失っちゃった!〉
今どうやら一之瀬は佐倉と一緒にいたわけではなく、佐倉を追っていたようだ。Dクラスの誰かに佐倉を見とくように頼まれたのか?何か事情があるのかは知らんがまずそうな状況だな・・・・・
〈どこの辺りで?〉
〈ショッピングモ-ルへの道で!今探してるけど・・・〉
俺がメールを送り返そうとしたとき綾小路がかなり速い速度で走ってくる。俺に気づくと訝しげな様子だが俺はその様子を察して並んで走りながら言った。
「綾小路、お前佐倉の場所をつかんでるか?」
「!・・・ああ」
「良し、何処だ?」
「ショッピングモールの家電が売ってる店の辺りを進んでいる。少し急がせてもらうが、良いよな?」
「ああ、問題ない」
それから俺たちは何も言わず走る。それにしても綾小路は速い。前回の裁判の事と言い、警戒しとかないとやばいかもしれないな・・・・・
ショッピングモールに着いて家電量販店の辺りが見えてきた。何やら声も聞こえてくるが、言い合っているようだ。
「どうしてこんなこと・・・!」
「君と僕は運命で結ばれているんだよ。だからこっちにおいで」
「近づかないで下さい!佐倉さん、私の後ろに・・・・」
そこにいたのは何やら佐倉を血走った目で見つめながら近づく男とおびえる佐倉を庇う様に前に立ってスマホで110番通報しようとする一之瀬の姿があった。男はその様子に逆上する。
「何故邪魔をするんだああああ!!私と雫の愛を邪魔するなあああああ!!!」
そして一之瀬と佐倉に襲い掛かる男。しかし、足元が払われて倒れこんだ。頭を打って悶える様子を無視し問いかける。
「おい。今、何しようとした・・・・?」
一之瀬達の前に俺と綾小路が立つ。俺は自分でも驚くほどの低い声で言った。男はさっきとは打って変わり怯えた様子で俺たちを見る。
「何を「何をしようとしたって聞いてんだよ。さっさと答えろ」ひいいいぃぃぃっ!?」
ビビる男をシャッター辺りに追いやる。綾小路が言った。
「佐倉のストーカーだ。かなりの狂気的な奴だ」
「そういうことか・・・おい、あんた、今の事は俺たち全員が証人だ、だから言い逃れできないしさせる気もない。豚箱行きになりたくないのなら2度と佐倉と一之瀬、いや、この学校に関わるな」
「とっとと失せろッ!!」
半泣きになりながら分かりました!2度と関わりません!!と言って逃げるようにその場を去っていった。そして緊張が切れたのか佐倉は座り込んだ。綾小路はその様子を見て佐倉の方へ向かったので、俺は一之瀬の方へ向かう。
「大丈夫だったか?一之瀬」
「にゃはは・・・幸い何もされてないから大丈夫だよ」
「そうか「でも・・・」ん?」
笑っていた一之瀬が俺に抱き着いてくる。肩を震わせて弱々しい声で言った。
「怖かったよぉ・・・ッ!」
そんな様子を見た俺は一之瀬を抱きしめ返して頭を撫でながら俺には似合わないことを言った。
「・・・頑張ったな一之瀬。もう安心だ」
「うん、うん、ありがとう・・・・
それから俺は一之瀬達を寮へ送った。綾小路が生徒会室へ戻った後、俺は寮へと戻るその途中に一通のメールが届いた。相手は龍園からだ。
〈今回はお前等の勝ちだが、次はこうもいかねえぜ?首を洗って待ってな〉
〈めんどくせえから止めてほしいんだが・・・・あと何か今度奢れ〉
〈は!お前も俺の獲物だ。今回は気分良いから奢ってやるよ。焼肉でいいか?〉
〈あいよ〉
そしてメールを終えたところで非通知のメールが届く。内容は・・・・・
〈お前は誰なんだ?〉
謎のメールだった。俺はメールを無視して寮の部屋に入った。
今回の事と言い、なんかめんどくさい事態に巻き込まれてないか俺。
「米花町の某死神かよ・・・・・」
自分には過ぎた役目だろ・・・と静かに一人ベッドに倒れて呟いた。