やはり俺の実力至上の青春ラブコメはまちがっていない。   作:ゆっくりblue1

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閑話です。①としたのは今後のストーリーの節目に続きを入れていくからです。今回もお楽しみいただければ幸いです!


閑話 小さき頃の思い出 坂柳編①

懐かしい日の夢を見た。あの暖かく、あの心地よかった日々を。私こと坂柳有栖の『始まり』と言っていい出逢いを。

 

 

そうそのきっかけはある1人の少年との出会いからだった。

 

 

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あの日はとても寒かった。お父様に私が()()()()に連れられて行ってとても興味深い少年を発見してから1年が経った時のことで小学4年生になる年の頃。体が先天性の疾患によって私の体は常人の体より弱く、杖を突かなければ歩けないのだ。

 

 

その分なのだろうか、私は頭が良かった。同年代の何倍もの知識、洞察力、精神力、物事の先読みが優れていた。それも成熟した大人と遜色がないレベルな程に。お母様譲りの生まれ持っての才能であり、私もそのことを誇りに持っていた。

 

 

しかし、自分はその才能を誇りに思っていたとしても周りは必ずしも褒めたり、羨ましがったりすることはない。身内には私のことを凄い、物知り、大人びている、などと言ってくれるが、それ以外の他人たちからは畏怖や怯え、あるいは嫌悪といった感情を持たれ、私にぶつけてくる。

 

 

『怖いよ』

 

 

『何でそんなことまで・・・・気持ち悪いわ』

 

 

『けっ、俺達より頭が良いっていう自慢かよ。体は弱いくせに』

 

 

私はただ、普通に接しているだけなのに。どうしてそこまで怖がられたり、嫌がられたりしないといけないのか、全く理解出来ない。一個性として受け入れられないのか、人間は太古から今という歴史までに『差別』というものを失くすことは出来ていない。現代社会はいじめや差別、戦争は駄目なものと掲げてはいるが、『弱肉強食』今までの自然の摂理が人間の遺伝子レベルで刻まれている。そのため、人間は差別やいじめなどをしてしまう。

 

 

そして何より、多くの人が集団の中で流されて生きている。『人間地動説』とはよく言ったものだと思う。誰かが偉いわけでもなく、強制しているわけでもないのに。あいつらがやってるから、この人がやっているなら私も、といった人達ばかりで私は辟易していた。なんてつまらない人達なんだろうと。

 

 

私の家の関係で出る政界や財界の関係者が集うパーティーでもそのような人達ばかりで、私は思ってしまった。

 

 

『ああ、大人も子供もみんな同じだ』と。

 

 

そんな風に冷めたような感じで生活していると私のそんな様子が気に入らなかったのかは分からないが、学校でいじめられるようになった。最初は子供の幼稚な悪戯、と思い放っておいたが、いじめはエスカレートしていった。始めは物を隠したりや無視するといった感じが、暴言や教科書を破られるといったものに変わり、ある時には歩行するために必要な補助の杖が盗られたりすることもあった。

 

 

しかし、私は決してやり返したりはしなかった。自分の体が弱いのもあるが、ボイスレコーダーや携帯などで録画して証拠をそろえて置き、タイミングを計ってそれらをインターネットなどで拡散するためだからだ。

 

 

その日の放課後も絡まれたのでいじめの証拠を撮るために子供の遊びにあえて乗っていたところ。

 

 

「きゃあッ!?」

 

 

いじめてきた男子グループが私が杖を突きながら歩いていた時に後ろから突き飛ばして来た。急なことで体が弱い私はバランスが取れず、倒れてしまう。杖を離してしまったが、何とか地面に両手を突いたことによって痛みは少なかった。

 

 

それを見た男子グループはやりすぎたと思ったのか、慌てて一目散に逃げていった。倒れた私は何とか一緒に倒れた杖を掴もうとした時。

 

 

「おい、大丈夫かよ・・・・」

 

 

不意に後ろから声がかけられると、1人の男子がこっちまで来て杖を私に掴ませ、私を立たせた。

 

 

「誰でしょうか?貴方は」

 

 

その男子に目を向ける。何の変哲もない髪にはひょこっと主張気味のアホ毛、それに顔立ちは整っているが目は少し濁っている。そんな男子が私を見て気まずそうな表情を浮かべていた。

 

 

「たく、あいつらもやりすぎじゃねえのか・・・?」

 

 

「・・・・名前を聞いているのですが」

 

 

無視されたので、私は少し不機嫌になっていった。すると彼は動揺したのかあたふたしながら言った。

 

 

「おぉぅ・・・・そんな睨み付けんなよ。・・・・比企谷八幡だ、気づいていないかもしれないが一応お前と同じクラスだ」

 

 

・・・まさか、同じクラスだったとは。こんな目が特徴的な人に私が気づかないなんて。

 

 

「そうですか。ではこちらも、私は坂柳有栖といいます。以後お見知りおきを。失礼ですが影が薄いのですね」

 

 

「本当に失礼だな・・・とりあえず一応、怪我してるかもしれんから保健室に行くぞ。歩けるか?」

 

 

そう聞かれるが、倒れた衝撃で足が少し痺れて立てはするが歩くのは少し難しい。そんな私の様子を察したのか、比企谷君は背を向けて私に向け屈んだ。

 

 

私はその様子に理解が追い付かなかったが、比企谷君が言った。

 

 

「おぶるから乗れ。足が動かないんだろ?」

 

 

そうして彼の行動を察した私は素直に従って背中におぶさる。すると彼は少し驚いたように聞いてきた。

 

 

「滅茶苦茶軽いなお前・・・・・ちゃんと飯食ってんのか?」

 

 

そんなことを今まで聞かれたことはなかった。確かに私は一般人の平均体重より軽いことは分かっていたが、そこまで驚かれることなのだろうか?

 

 

「三食毎日食べてますよ」

 

 

「そうか」

 

 

それから私と彼が保健室に着くまで一切会話はなかったが、不思議と居心地の悪さはなかった。お父様以外に初めて男性の背中に乗ったがその背中は不思議と暖かかった。

 

 

今まで、クラスの男子とまともに喋る機会はなかった。あったとしても下心がある浅ましい人や私を蔑んでくる醜い人ばかりだったからだ。しかし、彼、比企谷八幡はそれといった感情が見られない。そのことが私はほんの少しだけ・・・・・嬉しかった。

 

 

保健室に着いて比企谷君が杖を持っていない右手でノックする。しかし中から返事はない。どうやら外出中のようだった。鍵が開いているかどうかの確認のためにドアノブを捻って扉を押し開ける。

 

 

鍵は掛かってなかったようで扉が開き、比企谷君は誰もいないことを確認して保健室の中に入ろうとする。そこで私は聞いた。

 

 

「良いのですか?勝手に入ってしまって」

 

 

「良いんだよ。先生が鍵とか何も掛けてねえし、それにお前が怪我してるっていう正当な理由があるんだから。先生が戻ってきたら説明すればいい」

 

 

比企谷君は屁理屈を言いながら保健室に設置してあるベッドに私を座らせて、私が怪我をしてないか診てきた。

 

 

「・・・特に怪我はなさそうだな」

 

 

特に異常がないことを確認すると、フッと浅いため息をつく。そのあと何故か私に向かって頭を下げて言った。

 

 

「あー、今までお前のクラスでの立場を無視していて悪かったな」

 

 

比企谷君が言っているのはおそらく私が受けているいじめの事だろう。しかし、特に私は彼に助けを求めたわけではないため謝られることではない。

 

 

「謝らなくてもいいですよ。特に私があなたに助けを求めたわけでもありませんし。それに助ける必要はないですよ?今までいじめてきた人たちの証拠は全部取ってありますから。後はタイミングを見計らってインターネットにたれ流せばいいだけなので」

 

 

そう言うと比企谷君の顔が引きつった。

 

 

「おぉう・・・・逞しすぎんだろ坂柳さん」

 

 

子供の悪戯に付き合ってるだけですからね。まあ、それ相応の報いは受けてもらいますが。すると比企谷君は何やら考え込んで私に聞いてきた。

 

 

「なあ、いつそれを実行するんだ?」

 

 

「何のために聞くんですか?・・・・まあ、実行するなら今度の冬休みに入った後でしょうね。邪魔は入らないですから」

 

 

不思議に思いながら言うと、比企谷君は、そうか。と呟いてその後に続けた。

 

 

「いや、俺もいじめられる側の立場だったからどうやり返すのか気になっただけだ。んじゃまあ、怪我も特にないみたいだし、俺は帰るわ」

 

 

そう言って立ち上がる比企谷君。私はそこで彼の服の裾を掴んだ。驚いた顔で私を見る。

 

 

「・・・何だよ」

 

 

「昇降口まで送ってください」

 

 

そう私は言った。そのようなことを言う気はなかったのだが、まだ彼と話したいのだろうか?・・・・私が思っている以上に私は寂しがり屋だったようだ。

 

 

「何でだよ・・・・・」

 

 

嫌そうな顔を向けてきたが、私は構わず笑顔で言った。

 

 

「貴方の質問に答えたのですから、交換条件としてですよ」

 

 

したり、といった感じで私は微笑みを向けると比企谷君はうへえ、と失敗したことを後悔するようなため息と声を漏らした。

 

 

「はぁ~・・・・・分かったよ。昇降口まででいいんだな?」

 

 

「はい。エスコート、お願いしますね?比企谷君」

 

 

そして2人揃って保健室を出る。そして昇降口に向かって歩く。学校の窓硝子に反射する太陽はもうすでに西日で、空は茜色とオレンジ色に染まっていた。比企谷君は自然に窓側の私の右斜め半歩前を歩いていた。私の歩行速度に合わせてくれているのだろう。

 

 

面倒くさがっておきながら義理堅い。捻くれ具合がまた何とも可愛げがある。思わず笑みが漏れてしまう。すると私のそんな様子を見ていたのか怪訝そうな表情で聞いてきた。

 

 

「・・・・どうした?」

 

 

「んんっ、いえ、何でも。ただこうして誰かと学校を歩くのは久しぶりと思っただけです」

 

 

本当に久しぶりだった。低学年の時は何度かクラスの人と帰ったりもしたが、私という人の成りを知るとすぐに離れていった。

 

 

「・・・・そうか。俺も久しぶりだな」

 

 

「影が薄いですから、存在が認知されてないのでは?」

 

 

「おい、いきなり罵倒を挟んでくんなよ。確かに今年クラスメイトに話しかけたことも話しかけられたことのなくてボッチやってたがな・・・・」

 

 

それは本当に可哀想ですね・・・・比企谷君も同意見のようだった。そういえば比企谷君もいじめられていると言っていた。 

 

 

「貴方もいじめられてると言っていましたが、何故ですか?」

 

 

聞くと、彼は少し苦笑しながら言った。 

 

 

「くだらない理由だよ。俺のこの目が少し濁っているから気持ち悪いって言われていじめられてた」

 

 

溜息を吐いて言う比企谷君。言われて気づいたのが彼も私も何らかの『差別』を受けてきているということ。いじめてくる人達はどうやら相当、人を見る目がないらしい。こんな捻くれながらも暖かな優しい少年をいじめるなんて。 

 

 

私は彼の前に回り込む。すると彼は訝し気に眉を顰めて聞いてきた。

 

 

「・・・・何だよ」 

 

 

問いには答えず、暫く彼の瞳を見つめる。気恥ずかしくなったのか、数瞬で目を逸らしてきた。しかし、そんな短い間でも私にははっきり視えた。彼の瞳には私が今まで生きていた中、その出会ってきた人達の中で誰よりもーーーーーー

 

 

ーーーーーー誰よりも優しい光が宿っていたことを。 

 

 

それを自覚すると私の鼓動は速くなり始めた。顔が紅潮しているのが分かる。すると、比企谷君は私を心配そうに見つめて聞いてきた。

 

 

「ど、どうした?顔が赤いぞ。坂柳」 

 

 

今までこんな感覚に陥ったことはなかったが、小説で読んだことがある。あの施設にいた()を見た時とは違う別の感情だった。まさか、この気持ちは・・・・・

 

 

私は悟られぬように微笑んで、いえ、夕焼けの所為でしょう。と誤魔化した。そして止めた足を再び動かして昇降口に向かう。 そして昇降口に着いて比企谷君は言った。

 

 

「着いたぞ。・・・これでお役御免だな」

 

 

そして彼は自分の下駄箱のある所に行こうとしたところを私は呼び止める。 

 

 

「待って下さい。・・・・エスコートして下さってありがとうございました。比企谷君」

 

 

「・・・おう。どういたしまして」 

 

 

そして今度こそ彼は下駄箱のある所に向かって行った。私も自分の靴を脱ぎ変える。そして正門から出ようとしたところで今度は私が呼び止められた。

 

 

「坂柳」 

 

 

「?何でしょう?」

 

 

振り返ると比企谷君はこっちを真剣に見つめて言った。 

 

 

「明日からの学校、楽しめるといいな」

 

 

それだけ言い終えると彼は私の返事も聞かずに私を追い抜いて正門を出て去っていった。そんな彼の様子を不審に思いつつも私は家へと向かい始める。明日から彼ともっと話したいと私は考える。この気持ちの正体を知るために。何故帰り道も彼と一緒に帰ろうと誘わなかったかというと私の今の気持ちを整理するためだ。 

 

 

「・・・ふふ、明日から少し学校が楽しみになりましたよ。()()君」

 

 

私はそう呟くと、暗くなりつつある空をチラリと眺め、家に帰っていった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の日登校すると、周りがざわざわとしている。それだけならいつも通りだが、今日はどこか違和感があった。教室に行き、いつも通り授業の準備をする。ふと、周りを見渡すといつも私をいじめてくる人達が私の席とは違う席に群がって何かをしていて、暫くすると散り散りに離れていく。 

 

 

あの席は確か・・・・・まさか?

 

 

私はあることに気づいた。いつもはいじめてくる人達が朝のHRの前にも何らかの悪戯を仕掛けてくるのだが、今日は何もないことに。 

 

 

そして今彼等がいる席は彼、比企谷八幡君の席だということに。そしてそれに気づいた私は更なる違和感に気づく。

 

 

クラスメイト達が何やらひそひそ話していることに。近くから内容が聞き取れた。 

 

 

「ヒキタニが女子を脅したってよ」

 

 

「まじかよ、あいつ目がキモいからそんなこともしてると思ったんだよなあ」 

 

 

比企谷君が女子を脅した?どうやらそんな内容の噂が飛び交っているようだ。私が考えていると、件の比企谷君が教室に来た。

 

 

いつもは私が受けるであろう悪意の視線が比企谷君に寄せられていた。彼はそれに気づきつつもいつも通り席に座ろうとする。 

 

 

しかし彼はその椅子が変なことに気づく。そして何やら椅子に仕掛けられた何かを取ってゴミ箱に捨てた。仕掛けた人達は小さく舌打ちをしていた。

 

 

私は気になってゴミ箱を確認しに行く。そのゴミ箱に捨ててある物を見て私は目を見開いた。数個ほどの画鋲の姿があったからだ。 

 

 

そこで私は確信した。

 

 

比企谷君は私の受けていたいじめを自分に悪い噂を自分で立て、肩代わりしたのだ。 

 

 

そうでない限り目立たない彼が急に悪意ある視線などに曝されるわけがない。それから彼は私の受けてきた悪戯の数倍のものを一日中受けていた。それでもなおを毅然とした表情は崩れなかった。

 

 

思った以上に精神力が強いらしく堪えた様子はない。そしてそのまま時間は進んでいく。放課後になった。教室にはいじめの後始末のため残っている比企谷君と、その彼と話すために残った私だけとなった。今更だが教師は気づいていないのだろうか?・・・・いや、気づいているだろうがこの事案を対処したくないのだろう。

 

 

比企谷君が散らかされている紙くずやごみの類をちょうど処理し終えたタイミングを見計らって話しかける。

 

 

「・・・誰が助けてほしいと頼みましたか?比企谷君」 

 

 

「あ?いや別にお前を助けたわけじゃないぞ。たまたまブームが俺に移っただけだ」

 

 

おどけながらそういう彼に私はこう切り返す。 

 

 

「女子を脅すなんて貴方にできるのですか?昨日、私たち以外に生徒はいなかったようですが」

 

 

今日の早朝にそれを実行しようにも時間が足りなすぎる。よって自分で黒板にでも噂を書き綴っておいて誰かに目撃させればいい。そして事実確認で問い詰められたときに慌てて黒板を消せばますます真実なんじゃないかと思い込み、噂は出来上がる。それを今日の朝早くか、昨日私が帰った時にやれば完成する。 

 

 

「分かんねえだろ。初対面で俺がどういう奴かなんて」

 

 

「分かります」 

 

 

私は即答する。すると彼は大きく動揺した。その様子を見ても私は意に返すことなく続けて言った。

 

 

「貴方はこんなに捻くれてて、影が薄くて、目が濁っていて、友達もいなさそうな人です」

 

 

「おい、貶し過ぎだろ「ですがーーー」」

 

 

私は近づいていくと比企谷君の頬にそっと手で触れる。彼は驚いて咄嗟に目を逸らしたが、私が逃がすわけないでしょう? 

 

 

「ーーーーーー私を救ってくれた。そんな優しい男の子ですよ」

 

 

そう言い、私は微笑んだ。彼は、そうかよ。と照れ臭そうに目を逸らしながら頬を指で掻いた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そこで夢は暗転して終わった。目を覚ましてベッドから体を起こすと私は呟いた。

 

 

「早く思い出してくださいね?八幡君」 

 

 

今日は良い1日になりそうだった。また続きが見たいと願いながら。

 

 


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