やはり俺の実力至上の青春ラブコメはまちがっていない。 作:ゆっくりblue1
第18話です。今回は雪ノ下が主役です。今回もお楽しみ頂けたら幸いです。
俺は小屋を去って、Bクラスの拠点に向かって歩いていた。気絶する前に辿って来た道を記憶から呼び起こしているのだ。これで無事に帰れるとーーーそう思っていた時期が俺にあった。この島は整備されているのである程度目印になる場所にスポットがある。だが、今俺が歩き続けている道はそのようなものが全く発見出来ない。
どうやら、思った以上に森の奥に来てしまっていたようだ。方向感覚が狂い、今どこにいるかは定かではない。はぁ・・・俺は雪ノ下じゃないんだけどな。流石に此処まで奥にいれば迷うのも仕方ないと思う。まだ、今日の食事は1回も取れていないので腹も減っている。
「とりあえず、日が沈む前に何処かのスポットに着けばいいんだが・・・・・」
小屋からも大分と離れた。結構な距離を歩き続けているので、時間もそれなりに経っているだろう。空を見上げると赤みがかかってきた。不慣れな道を歩き続けていたので流石に体力もキツくなり始めた。Bクラスのスポットに戻ったら1日は休暇を貰おう。しばらくは働きたくねえ。他クラスのリーダーの情報を持って帰るので許してもらえるはずだ。
「糖分摂りたい・・・MAXコーヒーィィ・・・」
都会の日常生活が恋しくなるのでこれ以上は考えないでおこう。小町の顔でも思い浮かべとくか。そうしてしばらく歩いていると、ある事に気付く。声が聞こえるのだ。
「何処かのクラス拠点のスポットの近くに来たのか・・・?」
声は複数聴こえるので、集団で行動しているのだろう。だからこの近くにクラス拠点がある可能性は極めて高い。俺は声を頼りに道を歩いていく。そして道が開けた。俺の目に飛び込んできたのは、川とその近くで建てられているテントだった。ちらほら生徒がいるのでクラスのスポット拠点だろう。
とりあえずこのまま侵入する訳にはいかないので誰かに事情を説明しないといけない。俺がそう考えていると俺の姿を見た生徒が声をかけてきた。
「誰だ、うちのクラスに他クラスの生徒が何の用だ?」
眼鏡をかけた如何にも真面目そうな生徒が用件を聞いてきた。流石に警戒されているな。
「あー、自分のクラスに戻ろうとしたら道に迷っちまって、しばらく歩いてたら此処に着いたんだよ。リーダーを探る気は無いから安心してくれ」
警戒を解くために正直に事情を話す。すると俺の言葉に相手は考え込むと、また聞いてきた。
「そうか・・・ちなみに何クラスだ?」
「Bクラスだ」
そして更に考え込むと、結論が出たようで俺に言った。
「・・・とりあえず他の奴にも事情を話してくるから、此処で待っていてくれ」
俺は頷くと、男子生徒は他の生徒がいる方に歩いていった。そしてそこまで時間は掛からず、他の生徒を連れて戻ってきた。何人か見覚えのある顔ぶれが揃っていた。そして代表として爽やかリア充臭がぷんぷんするイケメン男子生徒の平田が俺に話しかけてきた。校内で結構有名だったから名前は知ってる。
「事情は聞いたよ、とりあえず名前も教えて貰ってもいいかな?」
笑顔でそう聞いてくるので若干きょどりそうになるのを必死に耐えながら名前を言った。此奴、中学の時の葉山に雰囲気がそっくりだな・・・・
「・・・比企谷八幡だ」
俺の名前を聞くと聞き覚えがあったのか、今度は雪ノ下にそっくりな女子生徒で生徒会長の妹の堀北が言った。此奴等2人がいるってことは此処はDクラスの拠点か。それにしても裁判の時にも見たが本当に雪ノ下にそっくりだな・・・双子って言われても納得出来るレベル。
「貴方が一之瀬さんの言っていた比企谷君ね」
「彼奴が・・・?どういう風に言っていたんだ?」
帆波の事だから悪口は言っていないと思うが、なんて言ってるか気になる。
「Bクラスには私達の他にも優秀な男子生徒がいて、その人の考えが私達には思いつかないものを考えつくから物凄く参考になると言っていたわね」
そう言われて安心する。本当に真っ直ぐな奴だな、帆波は。そして俺の素性が分かって安心したのか他の奴の警戒も緩まり、弛緩した空気が流れ始めた。そして平田が歓迎するように言った。
「ある程度比企谷君の事情も知れたし、僕達は歓迎するよ」
「・・・感謝する。とりあえず水を飲ませて貰っても良いか?後、済まないがトイレも。トイレは折りたたみの方を使うから」
迎え入れて貰ってすぐに注文するのは申し訳ないのだが、此処までトイレも我慢して歩いていたので早く行きたかった。それに水も飲みたい、喉が滅茶苦茶乾いて仕方なかったからな。
「そんな遠慮しなくても良いのに。ちゃんとしたトイレはあるからそっちを使いなよ」
「いや、こっちは迎え入れて貰っている側だから申し訳ない」
そうして俺は折りたたみトイレがあるところを聞いて、用をたす。かなり臭いがキツかったが何とか堪えてトイレを済ます。そして端の方の川辺で手を洗う。此処で環境汚染と言われたらたまらないが、バレないようにするしかない。そして水を掬って喉を潤す。
とりあえず今が何時なのか知らないといけないので誰か近くにいる奴を探す。そして探していると声をかけられた。
「ヒッキーが何で此処にいるの!?」
今、話し掛けられたくない人物の由比ヶ浜がいた。最悪のタイミングだな。俺は振り向いて言った。
「道に迷ったんだよ、そして此処に着いたんだ」
「嘘でしょ!絶対裏があるに決まってるし!!」
どんだけ俺のことを否定したんだよ此奴は・・・・俺が無視して他の場所に行こうとしたその時、由比ヶ浜の声が聞こえたのか他の奴もこっちに来た。そしてその人物を見て俺は顔を顰める。その人物も俺を見て驚きを顕にした。
「比企谷君・・・どうして此処に」
「・・・雪ノ下」
この状況の中、再び3人が揃ってしまった。俺はこの状況をどう乗り切るか考えていると、雪ノ下が由比ヶ浜に言った。
「由比ヶ浜さん、佐藤さん達が貴女を呼んでたけど行かなくてもいいの?」
「えっ、本当?ゆきのん」
「ええ、行った方がいいんじゃないかしら。比企谷君とは私が話しをつけておくから」
一体どういう事だ?この状況の中、雪ノ下が由比ヶ浜を移動させようとしてる様に思えるが・・・・ともあれ好都合だ。そして由比ヶ浜は一瞬だけ悩むそぶりを見せるが即決したようで。
「じゃあゆきのんに任せるね!ヒッキー!絶対に修学旅行の事とレストランで私に怒った事、謝ってもらうからっ!」
そう言って雪ノ下にこの場を任せると、由比ヶ浜は呼び出した人物の元へ走って行った。絶対にレストランの事は謝る気はない。彼奴の悪口が事の発端だからな。そして雪ノ下と2人になった中、気まずい空気が流れる。俺は喋る気はないが、雪ノ下も喋ろうとする様子はなく、互いに無言の状態が続く。しばらくその状態が続いたが、やがて俺は痺れを切らして言った。
「・・・それで?俺になんか用か?」
「・・・ええ、貴方にどうしても聞きたいことがあったのよ」
聞きたい事だと?一体どういう風の吹き回しだ?しかも俺の事を罵倒してこなくなったのも気になる。俺は警戒していると雪ノ下が本題に入る。
「・・・・貴方が修学旅行で受けた依頼が海老名さんと葉山君のものもあったのは本当の事かしら?」
「・・・・何?」
一体何処でそれを知った?俺は混乱するが、とりあえず頷く。そう、と雪ノ下は呟いた後、俺は目の前を疑う光景が映った。雪ノ下が頭を下げたのだ。そして言った。
「今まで本当にごめんなさい、比企谷君。私達が依頼を受けたのに、何も出来なかった上にその依頼を解消してくれた貴方を拒絶してしまって・・・・本当にごめんなさい!」
俺は急な展開についていけず、雪ノ下がその結論に至るきっかけについて聞いた。
「待て、話しについていけん。とりあえず頭を上げろ。まず、どうやって海老名さんと葉山の依頼の事を知ったか教えてくれ」
話しはそこからだ。俺が言うと、雪ノ下は頭を上げて申し訳なさそうな表情で事情を説明し始める。
「実は、一之瀬さんと比企谷君が自然公園で話しをしている所を偶然聞いたの・・・」
あの時か・・・・俺は更に雪ノ下に聞く。どうやってその結論に至ったのかを聞くために。
「とりあえず分かった・・・・それで?何でその結論に至ったんだ?」
あんなに俺の事を否定していたのに急に考え方が変わった理由・・・・そこが俺の1番気になってる点だ。
「貴方が部室にこなくなった2日後に・・・その、葉山君が部室に来たのだけれど。それまで私は比企谷君が何で嘘告白をしたのかを考えていたのよ。そうしたら葉山君が、比企谷は俺達グループの中でカップルが出るのを妬んでやった。文化祭で悪評も出ていたからその腹いせとしてって・・・・」
何だそりゃあ・・・ぶっちゃけ葉山グループの中でカップルが出来ようがどうでも良かったんだが。俺は大体その先の展開が読めたので溜息をつきながら確認として聞いた。
「・・・・んで、お前らはまんまと騙されたわけだ」
「ええ・・・その時の私は冷静ではなかったから。由比ヶ浜さんは自分のグループが卑下にされたと思っただろうから余計に」
こう聞くと葉山が1番ヤバい奴になるな。そして雪ノ下は続ける。
「そして貴方が部室に来なくなった時から葉山君が頻繁に奉仕部に顔を出し始めたの・・・当然、私は彼を信用していない部分もあったけど修学旅行の件で、千葉村の時のような嫌悪感は抱いていなかったと思う」
千葉村の時は葉山の意見を全否定する程嫌ってたからなぁ。とても幼馴染とは思えんくらいは。まぁ、葉山は雪ノ下と寄りを戻そうとしていたのかもしれない。千葉村のバンガローで好きな人のイニシャルが『Y』って言ってたし。由比ヶ浜とか三浦の可能性も若干あったが・・・・
「その後に一色さんの依頼が来て、貴方は依頼に関わらないでと私は言った。でも、貴方が解決してしまった。私は色々な意味で裏切られたと思った。何で私達の依頼解決を貴方は先に出来てしまうんだろうと。そして貴方に嫉妬もしていたんでしょうね。貴方は私には持っていないモノを持っていたから、貴方に負けていると思ったから・・・・だから貴方と決別した」
人には得手不得手がある。雪ノ下は雪ノ下のやり方で正面から真っ直ぐに正々堂々やって解決するつもりだったのだろう。俺のやり方はその反対で卑屈で陰湿で最低だった。しかし、雪ノ下は正々堂々とやるやり方しか分からなかった。此奴は逃げが嫌いだったからこれ以外の他の方法を知らなかった。だからこそ他のやり方を持っていた俺に嫉妬という感情が芽生えたのかもしれん。
「・・・・・修学旅行で貴方が嘘告白した時、物凄く痛かった。嘘告白と言う方法が1番嫌だったのだと思う。嘘と言うのもあるけれど、それ以上に別の何かが・・・・痛かった。だから貴方を拒絶した。だけど、私も貴方に任せると言ってしまったからこんな事を言う資格はないし、そもそもは最初の依頼の時点で貴方が反対していたものね」
「・・・で、まだお前が俺に謝るに至る結論を聞いていないぞ」
「・・・・そうね。貴方の話を聞いた後、私はもう一度考えたの。どうして貴方が嘘告白をしたのかを。そして思い返していたら1人だけ、依頼者で違和感を持った人物を思い出したの」
十中八九、海老名さんの事だな。
「最初、聞いた時には依頼ではなくただただ話しにきたと思ったけど、あれが依頼についてのメッセージで貴方にだけ分かるように言っていて、尚且つ戸部君の依頼の反対の依頼だったとしたら貴方の行動の全ての辻褄が合う。・・・・比企谷君、今更おかしいのは分かっているし、許してくれないと思うけれど。これだけは、言わせて。ーーーーーーー今まで貴方の事を話をろくに聞かずに拒絶して本当にごめんなさいっ!」
そう言って雪ノ下はもう一度頭を深々と下げた。俺は雪ノ下の話を聞いて瞑目しながら考える。そしていつまでそうしていただろうか、目を開いて今もなお頭を下げている雪ノ下に俺は言った。
「・・・・・・・雪ノ下、俺はな。あの依頼を解決した時、お前らに望んだことがあったんだ。ーーーーーーーーー『お疲れ様』って労いの言葉、ただその一言が欲しかったんだ」
「ッ!!」
「でもそんなのは傲慢だ。俺のやり方が最低な事は分かっていたからお前らに俺の傲慢な願いを押し付けていたに過ぎなかった。・・・・でもな、俺はお前らを信じたかったんだ。あの空間で、言い合いみたいな会話して、お前の入れる紅茶を飲みながら、お前らの会話を聞いて・・・・楽しいと思えた。俺が俺でいることが出来る、そんな俺を受け入れてくれるお前らを守りたいと思った。依頼が失敗すれば、俺だけじゃなくお前らも責められると思った、あの関係が崩れると思うと怖かった・・・・」
当時の俺には他の方法があることが分からなかった。どんなにやり方が最低だと周りから言われても、此奴らのことは守りたかったから。だが・・・・・
「でも、お前らに拒絶された。やり方が納得がいかないのは俺も分かっている、だけど、せめて訳だけでも雪ノ下や由比ヶ浜には聞いてもらいたかった。それを今更気付いたからと言われて、謝罪されても許す気はなかった。文化祭のスローガンの終わりの時に言ったが、『解は出た時点で解き直すことは出来ない、誤解でもな』ってな」
雪ノ下は俺の言葉を頭を下げ続けたまま聞いている。俺は尚も続ける。
「実際、今も許す気はない。ーーーーーでも、お前のその誠心誠意に謝罪する姿を見て思った。俺が憧れた雪ノ下雪乃のままだってな」
雪ノ下は俺の言葉に驚いて顔を上げてこっちを見た。
「解は出てるなら誤解でも解き直せないと俺は言った。でも、お前は由比ヶ浜の誕生日にこう言ったな。『もう1度、0からやり直すことは出来る』と・・・・だから、俺達も0からならやり直せると思うぞ?何故なら白紙の状態だからな。で、どうすんだ?」
俺はニヤリと笑って手を差し出して、言った。俺の言葉で雪ノ下の頰に1筋の光が流れ落ちた後、そして微笑んで手を取る。
「・・・ふふっ、全く呆れそうな屁理屈じみた意見だけれど。でも・・・・・とても貴方らしいわね」
「・・・・
「・・・・!ええ、
こうして俺達は和解、否、やり直すことが出来たのであった。
そして俺達は由比ヶ浜の事はどうするのか話しあった。俺は正直、やり直したくはないのだが、雪ノ下が信じたいと言ったので雪ノ下が真実を伝えて、由比ヶ浜が話し合いに応じるならというのを条件にした。それでもこっちの話しを聞かないのなら・・・・その時は雪ノ下も縁を切るらしい。
「・・・・そう言えば今何時だ?」
「5時15分よ」
やばい、1時間以上過ぎてるじゃねえか。帆波が本気で心配してるかも知れん。俺は雪ノ下にマニュアルとメモ用紙とシャーペンを借り、朝にやった要領で地図を写す。礼を言うとそしてメモ用紙は貰ってもいいと言われたのでポケットに畳んで入れる。
「とりあえず、心配かけてるかも知れんから急いで戻るわ。平田にも礼を言っといてくれ」
俺の言葉に雪ノ下は意外そうに言った。
「意外ね・・・貴方がそこまで気遣う人がいたなんて」
「おい、俺は気遣いの権化だぞ?気遣いすぎて空気に溶け込むレベル」
俺が突っ込むと雪ノ下は笑う。懐かしい空気、心地良い。
「・・・・じゃあな雪ノ下」
「ええ・・・・また。比企谷君」
そう挨拶して俺はDクラスのスポット拠点を出て、今度こそ迷わない様にちょくちょくメモ用紙を確認してBクラスのスポット拠点がある場所に全力で走って向かう。そして走りながら今日あった事を思い返す。
今日はAクラスのリーダーを探ったり、龍園と賭けをしたり、葉山に気絶させられて神室に手当てされたり、道に迷ってDクラスに立ち入って雪ノ下とやり直したりと本当に色々あった。
「・・・明日は絶対に休もう。働きたくねえし」
俺はそう決意しながらBクラスのスポット拠点に走り続けるのであった。