やはり俺の実力至上の青春ラブコメはまちがっていない。 作:ゆっくりblue1
八幡が目覚める3時間程前、有栖は熱で倒れ込んだ八幡の容態を職員に連絡して、職員が来るのを待っていた。応急処置を施した状態の八幡の手を両手で握って。
「・・・・一之瀬さん達に連絡して置いた方が良いでしょうかね」
八幡君に無理をさせたのは私の責任だ。それに彼はBクラスの生徒、少なくとも同じクラスの人物に事情を説明して謝罪をしなければならない。それに・・・少なくとも一之瀬さんや椎名さんは私と同じ感情を彼に寄せている筈だから。
そう思った私は、特別試験が行われる前に一之瀬さん達と交換して置いた連絡先にメールを送る。
〈八幡君が熱で倒れてしまって私の部屋で看病しているので、403号室に来て下さい〉
そう連絡を送り、その僅か5分後に一之瀬さんと椎名さんが部屋に入ってきた。2人は慌てた様子で私に聞いてきた。
「八幡君!・・・・坂柳さん、八幡君に一体何があったの!?」
「事情を説明願えますか?坂柳さん」
八幡君の様子を見て、かなり焦っているのだろう。私は、1回落ち着いて下さい、お2人共。と落ち着かせる。そう言うと2人は我に返ったのか1度深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。そして落ち着いた様子を見て私は事情を説明しようとした時、再度部屋の扉が開かれてBクラスの担任の星之宮先生と、この豪華客船の常駐している医師が入ってきた。他にも何人かの医療従事者が担架を持って入ってきていた。
「連絡が入ったから飛んできたけど。坂柳さん、比企谷君が熱で倒れた事情を知っているのなら改めて説明をして貰えるかな。比企谷君はとりあえず船の医療室に運ぶから事情は医療室の待合の所でお願いね」
「分かりました」
私は了承して、一之瀬さん達と共に部屋を出る。そしてベッドから応急処置で施した氷枕ごと八幡君は担架に移されて運ばれる。そしてその担架の後ろからついて行こうとすると、私達の後ろから声がかけられた。
「これ、一体何があったのさ。坂柳」
私の派閥の人間の真澄さんだった。この騒ぎに訝しげな表情で近づいてきて、前の担架で運ばれる八幡君を見て驚いていた。そして動揺した様子で呟いた。
「比企谷が・・・・まさかあの時の傷が・・・・」
あの時の傷とは一体何なのだろうか。何らかの事情を知っている様子で小さく呟いた真澄さんに私は聞いた。
「八幡君がこうなってしまった一因を知っているんですか?真澄さん」
私の問いに真澄さんは一瞬だけ悩んだ様子を見せた後、意を決したのか小さく頷く。一之瀬さんや椎名さんはその反応に驚く。お2人には全く私の依頼について話していないようですね。と言っても私も詳細を知らないのですが。事情を知っていると判断した星之宮先生は真澄さんも同伴する様に言うと、真澄さんは頷いた。
そして医療室へ担架に乗せられている八幡君が中に入って行き、私達は星之宮先生と隣の応接室に通された。そしてテーブルの中央の端に1つ、そのテーブルを挟むように2つずつ椅子が配置されているので、星之宮先生が中央の端の席に座ったので続く形で一之瀬さんと椎名さん、私と真澄さんが座った。
「じゃあ先ず、さっきまで比企谷君と一緒に居た坂柳さんから事情を説明してくれるかな?」
星之宮先生にそう言われたので、私は小さく頷いて八幡君の特別試験前に結んだ契約を話し始めた。
「特別試験の2日前に私はAクラスで対立している状態の葛城君の派閥を弱体化させようと、八幡君と契約を結んで葛城派を妨害してもらったのです」
私の言葉に事情を知っている真澄さんを除く3人は驚愕といった反応を見せた。すぐさま、一之瀬さんは確認をするように言った。
「葛城君の派閥の弱体化を頼んだのは何で・・・・?」
「・・・・私の派閥との拮抗状態を破りたかったからです。自分の力だけで行うには少し時間がかかりすぎる、かと言っても自分の派閥の人間に頼んでも葛城派に警戒されて膠着状態が続いてしまう。他クラスで葛城派を崩すことの出来る程の実力、そして私が信頼の置ける人物と考えた結果、八幡君に頼みました」
そう私は正直に話した。八幡君自身と、八幡君が信頼している一之瀬さんと椎名さんに申し訳なく思いながら。一之瀬さんは俯いて表情が窺えない。そして入れ替わるように今度は椎名さんが力強い眼差しを向けて聞いてきた。
「・・・・坂柳さんは妨害する方法については指定はしましたか?」
一見、普通の聞き方のように思えるが、言い換えれば、それはつまり『八幡君に負担となるような方法を実行させたのか?』と暗に聞かれている。私は首を横に振って否定する。
「いえ、方法については指定していません。無理の無い範囲で。と言いましたから・・・」
椎名さんはその言葉に安堵した様子で、そうですか。と言った。私は彼女の優しさに感謝と罪悪感を感じた。そして言い訳が出来たと僅かに思ってしまった自分自身に自己嫌悪した。
「・・・・・なら、私は坂柳さんを責めないよ」
一之瀬さんが私の話を聞いて伏せていた顔を上げて言った。私は目を見開いて驚いた。正直、彼女は一二言は言うだろうと思っていたのでこの返答は予想外だった。一之瀬さんは続けた。
「確かにきっかけ坂柳さんだし、無理を強制させたんだったら問題だけど、八幡君自身がそうしたくてやった事なら、尊重するよ。まぁ、クラスの誰かに話してくれなかったのは少し寂しいけどね。それにーーーーー」
そう言葉を区切って、一之瀬さんは真っ直ぐな瞳と柔らかな慈愛に溢れた微笑みを向けてきた。瞳には羨望のようなものが写っているように見えた。
ーーーーー八幡君なら、全部俺が勝手にやったことだ。って言うだろうから。
その言葉を聞いた私達は納得するように頷いてしまった。八幡君は否定するだろうけれど、彼の取る行動はほとんどが他人の為になることだ。捻くれた言動はするし、他人を警戒するけれど他人に寄り添って背中を押してくれる人。他人の為に自分の事は厭わない人。優しい人だ。それでも彼は皆の中には自分は入っていないと真面目に言うのだろうけれど。
その謙虚さと、さりげない、それでいてとても暖かい彼に私は、私達は惹かれるのだろう。一之瀬さんの言葉に私は八幡君を見守ってくれる人がいる事に対しての嬉しさと嫉妬を感じた。嫉妬に関しては触れないでおこう。私は、頭を下げて謝罪を言った。
「八幡君がこうなるきっかけを作ってしまったのは私なのでもう一度謝ります。申し訳ありませんでした。八幡君が目を覚ましたら謝ります」
私の謝罪を受け入れてくれた椎名さんと一之瀬さんは頷いてくれた。そして1度私の話しが済んだので星之宮先生が次に移った。
「さて、坂柳さんの話しが済んだから今度は神室さんの事情を聴こっか。神室さん、話せる?」
「・・・・はい」
私達の視線が真澄さんに集中する。そして一拍置いて事情を話し始めた。
「無人島の生活の1日目の昼過ぎ位に、森の奥に散歩しに行ってて、散歩してたら比企谷を見つけたんだけど、葉山も近くにいたの」
私は葉山君の名前が出たことに思わず目を細める。視界の端に映る一之瀬さんや椎名さんも眉目が鋭くなっている。また何かいちゃもんを付けようとしていたのだろうか。そう思ったが、真澄さんから口にされた言葉はその想像を遥かに超えたものだった。
「比企谷は誰かを探していたようで辺りを見渡して進んでたんだけど、その後ろから葉山が石で後頭部を殴りつけてた」
「「「「・・・・・は?」」」」
真澄さんが言った事に対して、この場にいる全員が声を洩らした。室内が凍りついてその様子に真澄さんは怖れるようにしながら更に言葉を続ける。これ以上、何があるんでしょうか?
「そして、気絶した比企谷のメモと付けていた時計を壊して去っていったのよ」
「時計を替えにきたのはその所為だったのね・・・」
星之宮先生は辻褄が合ったのか、そう呟いた。そして真澄さんはまた続ける。
「そして葉山が去った後に、気絶した比企谷を近くにあった小屋まで運んでptで購入した応急手当てキットを使って頭の治療をしたってかんじかな」
真澄さんが治療していたのか。その迅速な対応をしてくれたことに感謝しなければならない。今度、何処か寛げる場所を紹介しよう。そして真澄さんは星之宮先生に聞いた。
「比企谷は葉山の事を訴えないで良いって言ってたんですけど、もし此処で私が訴えたらどうなるんですか?」
真澄さんの質問に星之宮先生は少し考えた後、静かに答えた。
「・・・・実際やってみないと分からないけど、本人の訴えよりも正当性も弱い上に処分も出来るかどうかわからないかな。神室さんは第3者だから出来たとしても厳重注意程度だと思う。それに本人が訴えないと言っているならそもそも何も出来ないし」
「・・・・ですよね」
星之宮先生の回答に期待は余りしていなかったのか表情を変えることなく相槌をうった真澄さん。それにしても何故、八幡君は訴えないのだろうか?龍園君と敵対したくはないと言っていたが、ここまでされていて訴えないのは少し変だ。それとも・・・・まぁ、それは追々八幡君に聞くとしよう。
「とりあえず比企谷君がこうなった事情も分かったわ。後で神室さんが話した事を一応、比企谷君にも聞いてみるわね。・・・それにしても色々巻き込まれているみたいだね比企谷君は」
星之宮先生の呟きに全員が頷く。総武中の因縁がこの学校と絡み合っていて八幡君からすれば面倒臭いことこの上ないだろう。八幡君は平和に暮らしたいだけなのに。とぼやいていたが、それはもう不可能だろう。自覚があるのかはわからないが、八幡君はBクラスの主力だ。私からすれば一之瀬さんよりも遥かに厄介なのは八幡君だ。考え方もそうだが、彼の強みは思考を止めず、本質を見極められる頭脳と人の心理を容易く読み解く観察眼だ。そして最も感心したのが、『集団の心理の利用』だ。
文化祭の時や小学校のあの出来事であったが、八幡君が問題解決、及び解消する方法は人の心理を巧みに読み取って利用するというものが主だ。私が持っているコールドリーディングやホットリーディングと似ているが少しだけ違う。私は1対1の時に利用するが、彼は1対多数の時に利用している。それだけの心理掌握力を彼は持っているということになる。しかし、コールドリーディングやホットリーディングは極めれば心理と感情を掌握することも可能だが、八幡君は感情を余り利用出来ておらず、未完成だ。それでも充分な効果は発揮されるのだが。
「そうですね。何かとトラブルに巻き込まれやすい体質なのかもしれません。あんまり事件とかに関わりたくないって言ってましたから」
一之瀬さんは小さく苦笑を洩らして星之宮先生に言う。中学の因縁が無ければ彼の負担は大分マシになっていただろう。八幡君の能力は高校生の中では非常に高い。Aクラスの中でも上位に入るだろう。中学の事件さえ無ければAクラスに入れた可能性は極めて高い。もしも八幡君が『彼』と同じ
「トラブルに巻き込まれやすいと言っても此処までのレベルは滅多にないと思うけどね・・・・」
「そうですね。八幡君の周りにはかなりの問題を抱えている人が集まりやすいですから」
真澄さんと椎名さんがそんな言葉を口にする。その通りだ。八幡君に絡む人、雪ノ下雪乃さんは最近大人しいが、
更に、八幡君が洩らした様に言っていたが、由比ヶ浜結衣は自分の犬を彼に交通事故から救われている。雪ノ下雪乃さんは加害者側の立場とは言え、彼女が直接事故を起こした訳では無いからまだ納得がいく。が、由比ヶ浜結衣は事故の原因をつくった人間だ。その上で直接八幡君へ謝罪をした訳ではない。それも入学時から2年の時まで話題にも上げようともしなかった。八幡君は、俺は他人に言い洩らすつもりもなかったが、余りにもあの態度に苛立ってしまって愚痴ってしまった。と言っていた。一般的に見て由比ヶ浜結衣は相当な不義理である。
「・・・・とりあえず八幡君のこの取り巻く環境を改善しなければいけないでしょうね」
私は静かに、それでありながらとてつもない怒りを乗せて呟く。すると一之瀬さんと椎名さんは頷き、真澄さんは私の表情と声を聴き、顔を引攣らせ、星之宮先生は苦笑する。
「あはは、比企谷君って此処まで愛されてるんだねぇ。・・・・坂柳さんがそこまで怒るとは、葉山君にちょっとだけ同情しちゃうなぁ」
星之宮先生が呟くが何を同情する余地があるのかは想像通りでしょう。八幡君に黙ってやるのは申し訳ないですが、もう葉山隼人と由比ヶ浜結衣は潰してしまいましょう。八幡君が受けた痛みは100倍にして返しましょう。・・・・・それこそ死ぬ方がマシと思うほどの絶望を。
まぁ・・・
「死んで痛みから逃れようとすることも絶対に許しませんがね・・・・」
嗚呼、今から楽しみです。あの2人の絶望へと堕ちた顔が。
話しが済んだので、私は八幡君のいる場所に向かった。今後の動きと今まさに出来た