やはり俺の実力至上の青春ラブコメはまちがっていない。 作:ゆっくりblue1
高熱で倒れて医療室に搬送されてから数時間が経過した。再び目が覚めてから有栖と会話していた。帆波やひよりはトイレに行ってる。気絶している間、見た夢ーーーというか記憶ーーーで思い出したが、有栖と俺は所謂幼馴染だった。何処かで見た感覚はしたが、まさか小学校で関わりがあるなんてな。
「思い出したんですね。あの時の事を」
その言葉に頰を掻きながら頷くと、有栖はとても嬉しそうに微笑んだ。正直、あの頃の記憶は恥ずかしい出来事ばっかりだった。だって有栖といちゃいちゃしているなんて思わねえし。ていうか中学の時の俺と別人じゃねえか。
しかし、何で小学校の頃の記憶が微妙に途切れてんだろうか。1年から4年生の記憶は残っているのに、5年の頃からの記憶は今さっき思い出されるまで忘れていた。あの記憶は、多分だが中学で雪ノ下に会って抱いた憧れとほぼ同じ感情を抱いていた。つまり俺の憧れは雪ノ下が原点ではなくて有栖だった。しかも物事の解決方法もあれが原点になっている。かなり重要な出来事だったのだが、忘れてしまうとは・・・・
そんなことを考えていると、星之宮先生と医師が入って来た。星之宮先生は俺を見ると安堵したように溜息をついた。そして表情を切り替えて話しかけてきた。
「目が覚めたところでいきなりだけど、坂柳さんと神室さんから事情は聞いたから。何があったか一応比企谷君からも聞かせて欲しいんだけど良いよね?」
ちらっと有栖を見ると、頷いたので俺は分かりました。と答えて事情を説明する。
「・・・・・神室さんが言ったことと相違ないわね。分かったわ、ありがとう。それで比企谷君は葉山君を訴えるつもりはあるの?」
その言葉に思わず言葉に詰まってしまう。此処には星之宮先生だけでなく有栖もいる。有栖は知りたそうに目を向けてくるが、俺としてはあまり話したくない。主に恥ずかしいからだ。俺は有栖に申し訳なく思いながらも言った。
「有栖、悪いが部屋を出てもらえないか?」
「・・・何故でしょうか?私には知られたくないのですか?」
俺は頷くと、有栖は俺の目を見てくる。俺も目を逸らさず見つめ返す。ここで目を逸らしてしまえば、有栖は此処に残るだろう。此奴は意外に頑固だからな。そして数秒間その状態が続いた後、有栖は溜息を吐いていった。
「はぁ・・・、分かりました。理由は聞きません。でもいつか話してくれることを約束して下さい」
「・・・・ああ、約束する」
俺は有栖の言葉に頷くと、有栖は静かに部屋を出て行こうとするのでその背中に向けて言った。
「すまんが、帆波やひより、神室が此処に来ても入れないで欲しい」
「分かりました。ではまた」
有栖は俺の頼みに頷いてくれて、部屋を出て行き、扉を閉めた。それを見送っていると星之宮先生が疑問を浮かべた様子で聞いてきた。
「いいの?坂柳さんは君の事、本当に心配してたけど」
「ええ、これは俺の問題なので俺自身が解決しないといけませんし。あんまり巻き込みたくないんですよ」
そう言うと、星之宮先生は冷ややかな、それでいて悲しそうな視線を向けてきた。何でそんな視線を向けてくるんだよ。そんな視線を向けてくるとは思わなかったので動揺していると、先生は言った。
「・・・・本当にそう思ってるのかな?」
「・・・・・そうですけど?」
「先生としてはあまり感心しないわ。だって坂柳さんは貴方の力になりたいと思ってるはずだもの。もちろん一之瀬さんも椎名さんも神室さんも。理由を聞かせて欲しいと思ってるんじゃないかしら?」
そのどこか曖昧な言い回しに俺は思わず苛立ちを込めて睥睨しながら聞いた。この人の他人を食ったような態度が如何にも気持ち悪い。
「・・・何が言いたいんですか?」
「本当は分かってる癖に。先生、そう言う気づいてない振りをして逃げる人は1番嫌いなの」
「俺はその他人を食ったような態度といつもその繕った顔で接してる貴方は苦手ですよ」
先生は眉をピクリと反応させると笑顔を向けてくる。崩れた表情を見せない為だろう。それに目が怖い。まるで玩具を見つけたと言う様な感じだ。思わず冷や汗が流れる。この人に何があったかは知らんし興味も無いが、闇が深そうだなぁ。しかし、それも一瞬だけで直ぐに元の雰囲気になって言った。
「話しが逸れたから戻そうか。それで比企谷君は葉山君を訴えるのかな?」
「今は訴えるつもりはありません。これで良いですかね」
「理由は?」
「龍園に処分を頼んだんでそれで充分ですから」
別件で龍園に葉山の処分を任せているので今頃、あのサングラスを着けたムキムキ黒人にぼこられてそうだな。葉山の立場だったらゾッとするが同情はしない。星之宮先生はそれを聞いて納得していない様子だが、聞き出すこともせずに言った。
「そう。まぁ、比企谷君が気にしていないならそれで良いんだけど。だけど先生としては報告して欲しいかな。心配しちゃうもの」
俺の頰を指でつんつんしながら楽しそうに言ってくる。前のめりなんの止めて!そのたわわな2つのものが強調されて思わず八幡の八幡が反応しそうになるから!後、アホ毛引っ張らんで下さい、結構痛いんで。
俺は内心辟易して先生の弄りをやり過ごしていると、先生はふと思い出したように聞いてきた。
「そう言えば体調は大丈夫?」
「聞くの遅くないっすかねえ・・・・まぁ、結構マシにはなりましたよ」
目覚めたときは結構怠かったが、熱も引いてきて吐き気も無くなった。そして俺は起きた直後の有栖とのやり取りを思い出して聞いた。
「『特別試験』の事ですか?」
俺の言葉に先生は一瞬目を見開くと、溜息をそっと吐く。当たりみたいだな。十中八九面倒臭いだろうなぁ、働きたくねぇなぁ・・・・・
「まぁ、予想はついちゃうか。試験内容は言えないけど当たりよ。それで参加出来る?」
おっと、これはもしかしてサボれちゃう?じゃあ「仮病使っても良いけどクラスに影響出るかもしれないわよ?」・・・何で俺の考えが読めるの?俺はサトラレなのん?表情には出してないはずなんだがなぁ。俺は溜息を吐いて言った。
「参加しますよ。サボってクラスに後ろ指向けられて悪目立ちするよりマシなんで・・・」
「ふふ、じゃあ参加という事で良いのね?」
俺は頷くと先生は用件は済んだのか、安静にしててねー。と言って部屋を出ると、有栖と帆波が入ってきた。2人はさっきまで座っていた椅子に座って聞いてきた。
「お話しは終わったようですね。それで体調は如何ですか?」
「マシになったから大丈夫だ。特別試験も出れる」
「そうですか。なら良かったです」
「それにしてもやっぱり特別試験があったみたいだね。無人島の試験みたいな体力を使う試験ではないと思うけど無理しちゃ駄目だよ?八幡君」
俺だって無理したくないが、試験内容次第だから何とも言えないんだよなぁ。帆波の言葉に頷く。そしてふと見てみると何か帆波の表情が堅い。俺は気になったので聞いてみる。
「何かあったのか?表情が変だぞ?」
すると帆波は、何でもないよ。と何時もの表情に戻った。そして暫く雑談しているとひよりと神室も入ってきた。
「あ、八幡君。体調は大丈夫ですか?」
「顔色は良くなってるけど・・・・」
大丈夫だ。と答えるとひよりと神室は安心したかのように息を吐いて、ひよりも近くの椅子に座る。神室は立ったまま雑談に参加する。そしてふと、帆波が聞いてきた。
「八幡君、坂柳さんに依頼を頼まれたんでしょ?」
「・・・ああ」
「何を坂柳さんに頼んだの?」
俺は有栖を見る。すると微笑み返される。いや、微笑み返されても困るんだが・・・・多分、さっきの腹いせか。俺は溜息を吐いて話し始める。押して駄目なら諦めろ、だしな。
「・・・・『Aクラスを特別試験で妨害して有栖の派閥の援護をする代わりに、この1年間試験以外の時にBクラスに損害となる行動はしないで欲しい』これがその条件だ」
その言葉に帆波は驚く。俺は頬を掻きながらそっぽを向いた。すると帆波に頬を掴まれて視線を合わせさせてくる。あまりに真剣な眼に思わず唾を呑み込んだ。
「ーーー八幡君、私は、いや私達は貴方だけに抱え込ませる気はないよ。だから今後は絶対相談すること。これを約束して」
「・・・・ああ、分かった」
そして帆波は笑顔になると話しは変わり、そのままどのように無人島で生活したかという話しになった。4人とも葉山を何故訴えないのかと聞いてはこなかった。俺はその気遣いに感謝しつつ話しを聞いていた。そこで俺は気付けなかった。
帆波の顔が曇っていたことに。そして有栖が不敵な笑みを浮かべていたことに。
数時間前ーーーーー
八幡君は私達を余り頼ろうとしない。それは今まで一緒に行動していて分かったことだった。彼は他人と距離を置いて踏み込ませない、踏み込もうとすると更に距離を置いてしまう。
私が彼に抱いた第1印象は掴めない人という感じだった。クラスにもあまり溶け込もうとせず、一歩引いた所からそれを眺める。まるで他人と関わりたくないというように。
しかし彼と接していく内にその考えは間違っていると思うようになった。彼は人一倍優しい。面倒臭そうな顔していてもやる事はちゃんとやるし、話しだって聞いてくれる。私が悩んでいて相談したときは捻くれた物言いながらもアドバイスをくれる。クラスの子が困った時助けているのを見たこともある。
佐倉さんのストーカー事件の時も駆け付けて守ってくれた。何より私の過去を聞いて受け入れてくれた。私の罪を罰して、導いてくれた。私が彼と一緒に過ごしたいと思い始めたのもこの時。そして気付いた。
彼は他人の事を警戒しているのだ。特に好意は。無理もないと思う。彼は信じていた人に拒絶されて傷付いた。だから他人と距離を置いて、皆の様子を眺めるのだ。でも、困ったら寄り添ってくれる。そして背中をぽんと押して元の場所に戻して、八幡君はまたその様子を眺めるのだ。
特別試験で彼が行動している理由を知って、私は悲しみと嬉しさが混ざった様な思いを抱いた。私達を頼ってくれなかったという悲しみと私達を守ろうとしてくれたという嬉しさだった。
私は1度心の整理をする為に八幡君が寝ている部屋を出て1人で考えていたので、区切りを付けた私は八幡君の部屋に戻ろうとする。すると待合室の所で坂柳さんが座っているのを見つけた。
「あれ?坂柳さん、話は終わったの?」
「いえ、八幡君が星之宮先生と2人で話したいと言われたので此処で待っているのですよ」
そうなんだ。と相槌を打つ。丁度2人しかいないし、聞いてみよう。
「ねえ、前から思っていたんだけどね。坂柳さんって八幡君の事どう思っているの?」
「おや、一之瀬さんから話し掛けられるとは思いませんでしたよ。ふむ、八幡君をどう思っているのか、ですか」
坂柳さんは私の言葉に少し考える様子を見せる。さっきの坂柳さんの葉山君達への言葉。
『まぁ、死んで痛みから逃れようとすることも絶対に許しませんがね』
八幡君に並々ならない想いを持っているのは確実だろう。正直そこまで言うとは思わなかったからとても驚いた。そして坂柳さんは口を開いた。
「まぁ、彼は私を助けてくれた人なんですよ」
八幡君に助けられた・・・・私と同じ。そしてそのまま続けた。
「正直、私はこの世の中がつまらないと思ってます。上部しか見ず簡単に判断する愚かな人達。才能に嫉妬し、努力せず汚い方法で蹴落とそうとする人達。そんな人達を沢山私は見てきました」
「でも、彼は違う。見た目で、才能で、強さだけで判断しない。中身を見て、誰も知ろうとしない努力を見て、深く、深く知ろうとしてくれます。弱さを認めてくれます。彼自身、虐められてきたという理由もあるのでしょう。痛みを知っているから、痛みを、辛身を、全てを見ようと」
弱さ、私の罪・・・・そうだ、彼は受け入れてくれた。
「自分が傷つくのが1番怖いはずなのに、嫌な顔を見せずに1人で抱え込もうとする彼が、とても愛しいんです」
それは愛の告白だった。すごいなぁ、此処まで想っているなんて。純粋な坂柳さんの想いに私は思わず尻込みしそうになる。そして坂柳さんは言った。
「まぁ、一言で言うなら私は彼が幸せになってくれるなら"死んでも構わない"のですよ」
その言葉に私は言葉を失う。嘘を言っているようには見えない程の強い瞳。敵わないと思ってしまいそうになる。すると坂柳さんは私に聞いてきた。まるで品定めするような目をしながら。
「一之瀬さんは八幡君の事をどう思っているのですか?」
その質問に言葉を詰まらせてしまう。私も彼が好きなのだと思う。しかし、坂柳さん程の想いを持っているのかと訊かれれば答えられない。坂柳さんに対抗出来る程の覚悟を今の私は持ち合わせていない。
「ふふ、意地悪でしたかね。彼のこと想うのは自由です。でも一之瀬さん、貴女がもし彼のことを傷付けたらーーーーーー覚悟をして下さいね?」
呑まれそうになる程の気迫に冷や汗を流す。恐らく彼女は彼が傷付けられたと判断すれば容赦無く潰そうとしてくるだろう。それも殺す事も厭わないと言う様に。
そして星之宮先生が部屋から出たので坂柳さんは中に入ろうとする。その後に続こうとした時、耳元で呟かれた。
ーーーーーーーーー中途半端は許しませんよ?ーーーーーーーーー
その言葉に答える術を私は持っていなかった。