やはり俺の実力至上の青春ラブコメはまちがっていない。   作:ゆっくりblue1

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第3話です。デートにお約束的な展開です。11/12 少しだけ編集しました。2020/11/16 更に編集しました。


因縁っていやだよな

入学式の次の日の放課後、俺は今後の生活に必要なものをそろえるためにコンビニに来ていた。

 

 

商品を手にとって、棚に戻す。そしてあるコーナーを見て気付いた。

 

 

「無料品、1日1人3個までねぇ・・・」

 

 

この学校、やはり10万pptを与えたりしてくる時点で怪しいと思ったが、確定した。10万を月にくれる事は絶対にない。

 

 

「ん?何だ彼奴・・・・」

 

 

必需品をかごに入れ、レジに行こうとしてふと前を見ると、その視界の端に動きが不審な女子生徒がいた。手に取っている商品を見ずに商品棚にある別の商品を見ている。自然な感じに見えるだろうがそれが逆に違和感を俺に持たせた。動作から察するに慣れているのだろう、『万引き』に。

 

 

しかし、俺はそれを止めようとはせず、携帯を一応録画モードにしてレジに向かう。すると急に斜め後ろから声をかけられた。

 

 

「貴方は彼女が万引きすると思っていますか?」

 

 

俺は驚いて振り返る。振り返るとそこには昨日、杖を落とした銀髪少女がいた。顔は実に面白いといった表情で笑っている。その少女が小声で言ったので店員や万引きするであろう女子生徒には聞こえていない。

 

 

「・・・・さあな」

 

 

人が多くなってきているのでおそらく万引きについて今回は諦めるだろう。そう予想すると、俺は携帯の録画モードを切ってレジに向かっていく。案の定その女子生徒は万引きしようとせずにコンビニを去っていった。

 

 

すると、銀髪少女もついてきた。何故に?

 

 

「何でついてくる?」

 

 

「昨日、杖を拾ってくださったので、そのお礼としてお食事に誘おうと・・・」

 

 

律儀な奴だなあ。礼なんていらないのに。

 

 

「・・・と、そう言えばまだ自己紹介をしていませんでしたね。私は1年Aクラスの坂柳有栖です。以後お見知りおきを」

 

 

・・・・名乗られた以上は名乗り返すのが一応礼儀なので、挨拶する。

 

 

「俺は1Bの比企谷八幡だ」

 

 

「ご丁寧に。・・・さて、近くのレストランへ行きませんか?」

 

 

「・・・悪いがお断りさせてもらう」

 

 

さっきから考えないようにしていたが此奴の底知れない気配が、俺の本能に全力で警鐘を鳴らさせていた。背中から若干の冷や汗が流れるほどに。早く此奴から逃れたい。

 

 

「何故です?」

 

 

不思議そうに首を傾ける坂柳。・・・地味にあざといな。

 

 

「俺は養われる気はあるが、施しを受ける気はないんでな。・・・それに落とした物を拾った程度だし、恩義なんて感じる必要はない」

 

 

「養われるとは一種の施しなのでは?・・・では言い方をかえさせてもらいましょう。私は貴方に興味を持ったので食事に誘うのですよ」

 

 

なおも俺は断ろうとしたが、『断ったら泣きます』と言われたので諦めて黙ってついていった。泣くとか反則じゃね?

 

 

そして近くのレストランに入って、テーブル席に座る。腹も減ってきてはいたのでちょうどよかったが。

 

 

「これは私の奢りなので比企谷君は気にしなくてもいいですよ?」

 

 

施しは受けないとは言ったが、ptが浮くので提案に乗らせてもらう。

 

 

「・・・・それじゃあとんかつ定食で」

 

 

「ふふっ、では私はナポリタンを頼みましょう」

 

 

注文をして、料理が来るまでの間、坂柳が口を開いた。

 

 

「さて、比企谷君。貴方に聞きたいことがあります」

 

 

「・・・・何だ?」

 

 

「貴方はこの学校についてどう思っていますか?」

 

 

「何故、違うクラスの俺にいきなりそんなことを聞く?」

 

 

一之瀬は同じクラスだから答えたが、他クラスの坂柳がそういうことを聞いてくるとは思えない。

 

 

「Aクラスだけの見解だけじゃなく、他クラスの人の意見も聞いておきたかったので」

 

 

それらしいことを言ってるが此奴は嘘をついているように感じる。ただ、そこに悪意の類の感情はなかったので、隠すメリットもないと判断して俺が一之瀬に話したことを伝えた。

 

 

「ふむ・・・比企谷君はよく周りを観察しているようですね。その観察眼、ぜひAクラスに欲しいですよ」

 

 

ボッチだったからな。常に周りの行動を見て授業とかついていかないと友達いない俺には誰も助けてくれないし。ていうか中学の時、知らない間に教科書借りられてて返されなかったんだが。何、俺は幽霊か何かになってたの?そしていつの間にか落とし物預かりボックスに入ってるっていう。

 

 

「おいおい・・・やめてくれ。お前にこき使われるような未来しか見えないんだが」

 

 

「それは残念です。とても面白そうですが」

 

 

否定しねえのかよ・・・・それに全然残念そうに見えないし。今もクスクスと口に手を当てて上品に笑ってるしな。

 

 

それからまた他愛のない話をしていると注文した料理が来たので会話を中断して食事に集中する。食べていると坂柳の頬にトマトソースがついているのに気づく。

 

 

「おい、坂柳。トマトソ-ス、頬についてんぞ」

 

 

「はい?何所あたりについてますか?」

 

 

そういいながらナプキンで拭こうとするが、じれったく感じてしまい、俺は前のめりになってナプキンでついてる場所を拭く。

 

 

「ほれ、取れたぞ」

 

 

「・・・ありがとうございます」

 

 

頬を赤らめて礼を言ってくる。なんか俺の想像と違う反応でもじもじしている。

 

 

「・・・・悪いな。妹によくやっててその癖が出ちまった」

 

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 

その後も順調に食べ進め、食べ終えると坂柳が言ってきた。

 

 

「比企谷君。良ければメールアドレスを交換しませんか?」

 

 

「えっ、嫌だ」

 

 

「もちろんクラス関係なく、私個人ですよ。貴方とのお話は楽しいですから」

 

 

そう言われると断りづらいんだよなぁ。・・・・まあ、個人としてなら困ることもないしな。もしこの学校がクラス同士で争わせたりしたらスパイって疑われるけど。

 

 

「・・・分かった。個人ならいいぞ」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

メールアドレスを交換し、坂柳の番号を登録する。電話帳が椎名、一之瀬、坂柳と増えた。ていうか女子ばっかだな。中学の俺が見たら『ボッチの風上にも置けねえな』って鼻で笑いそうだ。

 

 

そして坂柳が会計をすまし、二人で店を出た。さて、俺は帰りますか。荷物もあるし、さっさと帰りたい。

 

 

「・・・じゃあな、坂柳。帰るわ」

 

 

「私も帰りますからご一緒してもいいですか?」

 

 

「・・・はいよ」

 

 

そう言うと、俺と坂柳は寮に戻り始める。自然と阪柳と歩幅が合うように歩く。

 

 

「すみません、合わせてもらって」

 

 

「別に謝ることじゃない。俺が勝手に合わせてるだけだ」

 

 

ゆっくりと二人で肩を並べながら帰る。俺たちの間に会話はないが、不思議と気まずくはない。むしろ心地の良い沈黙。この状況は中学のあの時と似ている。

 

 

最後の最後まで俺の話を聞いてくれなくて、否定され、あの事件で更に俺の立場は悪くなった。あいつ等から離れるためにこの学校を選んだ。此処に来て「ヒッキー!」ないと良かったんだがなぁ。

 

 

こんな呼び方をする奴は一人しかいない。が、別に反応する必要はないので無視して歩く。だって俺、ヒッキーって名前じゃないし。

 

 

「何を無視しているのかしら?逃げ谷君」

 

 

「そうだし!ヒッキー無視すんなし!」

 

 

「あ?何だよ?俺は逃げ谷でもヒッキーでもないんだが」

 

 

後ろを振り返ると、俺の中学の同級生であり、元部活メイトであり、俺を否定した張本人たち、雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣がいた。

 

 

「私たちに謝罪の一言もなく、逃げたからよ。そんなことも分からないのかしら?」

 

 

「はぁ?ヒッキーはヒッキーだし!何言ってんの?」

 

 

心底意味が分からない、といった表情で罵倒してくる2人。すると坂柳が少しだけ不快そうにしながら聞いてきた。

 

 

「比企谷君。品の欠片もないこの方たちはお知合いですか?」

 

 

「・・・中学の元部活メイトだ」

 

 

まさかこっちに来てたとは思わなかったが。

 

 

「ヒッキー、なんで女の子と一緒にいんの!?誘拐!?」

 

 

「誘拐谷君。その人を誘拐したのかしら?白状しなさい!」

 

 

坂柳と一緒にいることがおかしいのか誘拐などと喚き散らす二人。いつの間にか野次馬も集まり始めてきた。

 

 

「悪い、坂柳。少しここから離れるぞ。文句なら後で聞くから」

 

 

「えっ?」

 

 

坂柳の返事を待たずに俺は彼女の脹脛と腰に手を入れ、所謂お姫様抱っこの状態にして人のいない方へ全力疾走した。

 

 

『おおおおおおおおお!!!』

 

 

『きゃあああああああ!!!』

 

 

悲鳴のような興奮のような野次馬の声を背に受けるが、今はそんなことに構っていられない。暫く走って、人がいないか確認して坂柳を降ろす。杖ごと抱えたので少しだけ痛かった。

 

 

「はぁ、はぁ・・・・わ、悪かったな坂柳、恥ずかしくさせる格好にさせて」

 

 

「・・・・いえ、別に大丈夫ですよ。比企谷君の格好いい姿を堪能させてもらいましたし」

 

 

わずかに頬を赤らめつつも、許してくれた坂柳。

 

 

「ところで、一体あの2人と何があったのですか?雰囲気からして普通ではありませんでしたが」

 

 

怪訝そうに聞いてくる坂柳。やっぱりこうなったか・・・・言いたくないが、坂柳を巻き込んでしまった以上はこっちとしてもフェアではない。話そう。

 

 

俺はあの2人との関係、何故ここまで恨まれているか、この学校に来るまでの経緯をすべて話した。

 

 

「そうですか・・・奉仕部に修学旅行の依頼が来て、2つの正反対の依頼に悩んで、どちらかの依頼を遂行するために貴方は『嘘告白』をして、あそこまでの亀裂が入ってしまったと」

 

 

坂柳が1人納得しているが、遂行なんて出来ていない。俺は依頼を『なかった』ことにしたに過ぎない。褒められることはないやり方(偽物)で。

 

 

「・・・ですが、比企谷君は最終的に問題を『解消』したのでしょう?他の2人が受けた依頼を」

 

 

「!・・・ああ」

 

 

「確かにそのやり方は褒められたものではないでしょう。しかし、同時に称賛すべきものです」

 

 

称賛・・・あの2人や学校の奴等とは全く違うものだ。

 

 

「人が何かに挑戦した時、成功か失敗か以前に『責任』が発生します。どんな形であれ比企谷君は責任を果たした、ですから貴方は『間違っていない』」

 

 

その瞬間、暖かな何かが体を包んだ。言われたかった、間違っていないと。肯定してほしかった、俺の存在(紛い物)を。そして理解されたかった。坂柳の言葉を聞いて、俺は憑き物が落ちたかのように体が軽くなった。

 

 

「坂柳」

 

 

「はい」

 

 

「ありがとう」

 

 

短い言葉だが、その言葉で十分だろう。何故なら、自分でもわかるくらい俺の口角は上がっているからだ。そのあと俺たちは並んで帰った。先ほどよりも俺たちの距離が無意識に近くなっていたことに気が付かずに。

 

 

 

 


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