やはり俺の実力至上の青春ラブコメはまちがっていない。 作:ゆっくりblue1
坂柳との食事ーデートとも言うーから2週間と少しが経った。2週間と少しの過ごし方はボッチと思われても仕方ないものだった。
1人で読書したり、ゲームしたり、図書館に寄って椎名と本の事について語り合ったり、坂柳に遭遇して揶揄われながら一緒にチェスしたり、一之瀬に構われて、一緒に何処か連れていかれたり・・・・ってあれ?1人でいる方が逆に珍しくなってね?ボッチってなんだっけ。
ボッチの概念について思案しつつ、平和な昼休みを過ごす俺だったが、お腹が鳴ったのを機に食堂に向かおうと廊下を歩いていると。
「あら?比企谷君ではありませんか。食堂に行くのですか?」
坂柳ともう1人の女子生徒と遭遇した。坂柳と一緒にいる生徒はあの万引き未遂だった。見た目は坂柳に引かず劣らずの整った容姿だ。
「・・・・・そうだが、何か用か?」
坂柳を一見して、女子生徒に悟られないように平静としながら用を尋ねる。
「私達もちょうどお腹が空いてきたものですから、ご一緒しようかと」
ナチュラルについて来ようとする坂柳。もう1人の女子生徒は目を見開き、驚いていた。
「ちょっ、坂柳。ついていくの?」
「はい、何か疑問でもありましたか?」
クスクスと口に手を当てて笑いながら、坂柳は聞いた。楽しそうですね・・・・・
「アンタには彼氏とか男友達っていう部類の奴は作らなさそうだったからね」
「おいちょっと待て、友達な訳がないだろう。ましてや彼氏とかもっとないわ」
俺みたいなやつが彼氏とか坂柳が可哀想だし、何より釣り合わないだろうからな。恋愛絡みは中学の時の一番痛い目を見たし、もう勘弁願いたい。
「そうですか。私は貴方のことをボーイフレンドと思っていたのですが」
ねぇ、それってどっちの意味なのん?俺じゃなかったら勘違い起こして、告白して振られちゃうよ?もちろん俺も同じだし、此奴の場合は絶対に揶揄ってるだけだろうから俺は勘違いは絶対に起こさない。現にめっちゃいい微笑みで言ってくるし。
「はぁ、そんなこと良いからさっさと行かせてくれよ。もう食堂がそろそろ混んでくる頃合いだし」
腹の虫が鳴り始めた。さっさと飯食わねえとな。冗談や揶揄いに付き合ったらエネルギー使ってますます腹減った・・・
「そうですね。では行きましょうか」
楽しげに笑いながら足を進める坂柳。俺は内心溜息を吐きながら食堂に向かった。
食堂に来て、適当に食券を買い、近くのテーブル席に座る。そこまではいつも通りだからいいんだが・・・・ここからが違った。
「おい、坂柳。何で同席してんの?」
「はい?一緒に食べたいからですが?」
ケロッとした様子でそう言うが、自分の立場を分かって言っているんだろうか。分かっててやってんだろうなぁ・・・・此奴の場合、人をいじり倒すの好きだろうし。
「はぁ、お前はAクラスのリーダーって噂されてんだが。しかも、派閥争いもあるってな」
そう、現在Aクラスは『坂柳派』と『葛城派』の2つの派閥があって主導権争いが行われている。人数もほとんど同じ程度で、水面下で人数を増やし続けているのだ。まだ、本格的な争いにはなっていないようだが。
「ご心配には及びませんよ比企谷君。私はあくまで『Aクラスの坂柳有栖』ではなく『比企谷君や椎名さんの友達の坂柳有栖』として行動していますから」
坂柳はプライベートにクラス関係といったものを持ち込む気はないようだ。俺はその答えを聞いて安心した。ふと、坂柳が思い出したように言った。
「そういえば、あなたのことを紹介していませんでしたね」
坂柳の付き人っぽい立ち位置にいる女子生徒のことを俺はすっかり忘れていた。
「彼女は神室真澄さん。まぁ、言うなれば・・・・助っ人のような人です」
「よく言うわよ・・・・」
呆れたように返す神室。様子から察するに結構こき使われているのだろう。まぁ、坂柳の判断は正解だけどな。あのまま万引きを放置すればいずれは足がつく。そのときにクラスにも何らかの影響を受けるかもしれない。
自己紹介を終えた後は、雑談しながら飯を食べていた。雑談で分かったことは、神室は坂柳の下僕のような立ち位置にいること。神室が何かと苦労人気質なこと。そして坂柳との関係が満更でもない様子なことだ。
飯を食べ終え、教室に戻ろうとするが、坂柳に止められて渋々従ってまた雑談をしていると、椎名がこっちに来ていることに気が付く。
「比企谷君、坂柳さん。一緒に食事されていたんですね」
「椎名か。今まで食堂で見かけなかったんだが」
「いつもはお弁当を作り置きして、それを持って行くんですが、今日は少し寝坊しちゃいまして・・・」
作り忘れたのか・・・・夜中に作り置きとかまるで主婦みたいだな。俺は専業主夫志望だが、夜中とか起きれないから絶対に夕食の残りで済ませちゃう。手抜きとかじゃないよ?本当だよ?ハチマンウソツカナイ。
「椎名さんが寝坊とは少し意外ですね」
「この子が椎名?」
「ええ、私は椎名ひよりと言います。貴女は・・・?」
「坂柳と同じクラスの神室真澄」
「ということはAクラスの人ですか。よろしくお願いしますね、神室さん」
「・・・・よろしく」
自己紹介が終わって椎名も合流してまた雑談が再開される。ていうか女子比率高すぎる。三人の容姿が良いのも相まって何か注目されてるんですが。・・・・視線痛い。特に男子の嫉妬の視線が。・・・・帰りてえ。
その視線を受け、内心辟易していると、急に声を掛けられた。
「椎名さん!」
そう椎名が声をかけられる。その声には聞き覚えがあった。・・・・まさか。
椎名の方に視線を向けると、そこには、金髪で爽やかな雰囲気を纏ったリア充の模範みたいな男子。そして、俺が中学で虐められる原因を作った本人でもある。葉山隼人その人だった。
「此処にいたのかい。龍園君が呼んでたよ。戻ろう」
葉山は椎名を見つけると、そう言い、戻るように促した。俺は自分の十八番『ステルスヒッキー』を全開してばれないようにやり過ごそうとする。しかし、その努力叶わず・・・・
「というか、坂柳さんに・・・・比企谷。何故、君がここに・・・」
坂柳から俺へと視線を移した葉山。俺を見た瞬間に、顔を顰めながら俺を睨んだ。
「・・・・別にお前には関係ないだろう」
俺も葉山を睨み返す。何故此奴がここにいるのか、そんなことは心底どうでもいいが、関わり合いたくなかった。ポケットにある携帯を操作する。
「・・・君はまだ雪乃ちゃんや結衣に謝っていないようだな。文化祭の時といい、修学旅行での事といい」
「謝れ・・・?いつも罵倒を繰り返してきて俺の意見を聞こうともしないあいつ等に?・・・する道理がねえだろ」
部室に行けば、冷たい視線に罵倒だ。俺も人間、限界だった。一色の依頼の時、雪ノ下達は俺に邪魔するなと言って俺は依頼に関わらなかった。だが、一色は俺に接触してきて生徒会長になるのを阻止するために動いた。最終的には一色の箔をつけるために生徒会長に就任させて、結構上手くやっていた。だが、それによって完全に俺と雪ノ下は決別した。依頼の邪魔をしたなどと言われて。俺は奉仕部を退部した。平塚先生の薦めもあってこの学校を選んで受験したのだ。
「ふざけるな!それは君があんな方法をとったからだろ!?彼女たちの思いを踏みにじって!」
葉山が俺に詰め寄り、切れかかってくるが、これは何の茶番だ?修学旅行の問題は元々は葉山のグループの問題であって、由比ヶ浜はともかく雪ノ下や俺には全く関係ない問題だった。文化祭は葉山が相模を推したことで起こったことでもあるのだ。それを俺は形だけ見れば尻拭いをやったのだ。感謝されど責められる謂れはない。
「踏みにじった?それをお前が言うのか?」
「なんだとっ!?」
俺は言い返すと葉山の沸点が切れそうになったのか胸倉を掴み、拳を振り上げる。殴られる、ここにいる誰もがそう思った時。
「おい葉山、何してんだ?」
そんな男の声がした。声を聴いた葉山は肩を戦慄かせ、動きを止めて声のした方を向いた。
「あら、貴方は龍園君ではないですか」
「坂柳か・・・ククッ、お目にかかって光栄だぜ。お前がここにいるとは思わなかった」
ククッと喉を鳴らして笑う龍園という男。その男からする雰囲気や圧は葉山などとは比べ物にならないほどに強い。葉山が蟻の王なら、龍園は百獣の王だ。それほどに違いがある。鋭い瞳は坂柳を見据えていて、まるで御馳走を見る肉食獣のように。坂柳も不敵な笑みで迎える。
「それで葉山、俺をいつまで待たせるつもりだ?俺はひよりを連れて来いといったんだがなぁ。そこにいる奴の胸倉掴んで暴力か?」
そう笑いながら聞いてくるが、目は笑っていない。まるで下僕が粗相を起こし、それを尋問する王のように。
「ご、ごめん龍園君。そんなつもりはなかったんだが・・・」
俺の胸倉を放し弁明する葉山。完全に屈服している。目には恐怖の色が浮かんでいた。
「だったら無駄なことしてねえでさっさと連れて来い。目立つような真似はするな」
釘を刺すように言う龍園。葉山は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。
「てめえは戻れ。邪魔だ」
「わ、分かった」
葉山は俺たちから離れ、食堂から出ていく。最後に俺を睨んだが全く怖くない。
葉山が出ていくと、龍園は俺達に向き直って話を始めた。
「さて、俺はお前に用があるんだが。・・・お前、録画してやがるな?」
俺に向かって言う龍園。ちっ、バレたか。此奴、携帯を録画モードにした時点で近づいてきたのか?
携帯の録画モードを切って、戻す。すると龍園は愉快そうに笑った。
「やるじゃねえか。大方、彼奴をわざと煽ってたろ?」
誘導したのはそうだが、彼奴が勝手に爆発しただけだ。こんな簡単にいくとは思わなかったがな。だが、龍園には見切られた。今後の生活でCクラスのカードを手に入れられれば、何かと楽になると思ったが。
「あらあら。比企谷君、ちゃっかりしてますね」
楽しそうに笑う坂柳に、溜息を吐く神室。椎名は心配そうにこっちを見ている。
「んで、何の用だ?Cクラスの王様」
「ククッ、面白えなお前、Bクラスにもこんな奴がいたなんてな。じゃあ単刀直入で言う。・・・・・ひよりに今後関わるな」
そう龍園は言い放つ。椎名は苦悶の表情を浮かべ、拳を握る。
「・・・いやだ、と言ったら?」
「その時はお前を潰す。Bクラスをまとめてな」
龍園の瞳には『本気でやる』という意志しか感じられない。葉山の時といい、今回といい、此奴は独裁者だな。喧嘩を売ればあらゆる方法を使って報復するだろう。恐怖が感じられない。
「関わりたかったらBクラスの情報を売れ。もちろん、タダでな」
椎名と関わりたければ、スパイになれと。龍園の中ではある程度予測が立っているのだろう、『クラス同士の争い』という方向に。だから、リスクになる目的無しの他クラスへの接触はなるべく避けたいのだろう。俺ならそうするしな。
「・・・・時間をくれないか?」
「比企谷君・・・」
「・・・・分かった。二週間は待ってやる。だが、その間はひよりとの接触は絶ってもらうぜ?」
「あぁ、それでいい」
「良い返事、期待してるぜ?腐り目。行くぞ、ひより」
葛藤している様子の椎名だったが立ち上がり、龍園の方へ向かう。
「比企谷君・・・また」
椎名の苦しそうな表情が俺の脳裏に焼き付いた。そこから思い出される記憶、椎名の笑った顔、眠そうな顔、静かに本を読む姿、そして椎名との会話は短い間だが、俺にとって心地よいものだった。だから・・・まだ、この関係を終わらせるのは、惜しい。
椎名が龍園と食堂を出た後、坂柳も神室連れて教室へ戻っていった。俺は深くため息をついて、瞑目した。