やはり俺の実力至上の青春ラブコメはまちがっていない。   作:ゆっくりblue1

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第9話です。今回は一之瀬の過去が大暴露されます。今回もお楽しみいただけたら幸いです。


『本物』の兆し

ノイズが鳴ったーーーーー何と言っていいかは分からないが、不思議な感覚が体を包んだ。ノイズは鳴りやむと、感覚は鮮明になり始めた。

 

 

何もない白い空間にただ、佇んでいた。その姿の輪郭がはっきりしてくると同時にその人物は理解した。

 

 

あぁ、これは夢なんだな、と・・・・・

 

 

そして、二つの影が下にやっていた視線に映った。そして見上げると見覚えのない少女等が笑顔を見せながらこっちを見ていた。初めて見る顔の筈なのに見ると落ち着くそんな感覚。

 

 

そして少女等は何かを喋ろうと口を開いているが、ノイズが入ってよく聞き取れない。しかし、最後に言った言葉だけは何故かとても鮮烈に聞こえた。

 

 

ーーーーー”早く会いましょうね、八幡さん”ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん、ん・・・・ぅ」

 

 

眩しい日差しにより徐々に意識が覚醒していき、そして瞑っていた瞼を開く。目に映る景色がはっきりしていく。やがて体を起こしてスマホの時間を確認した。

 

 

「7時か・・・・」

 

 

今日は平日で学校もあるため、二度寝をしたいところだがそんなわけにもいかないのでけだるい体に鞭を打ち、制服に着替えて準備を済ます。準備をしているとあることを思い出したため、思わず呟く。

 

 

「・・・・そういえば今日は生徒会の裁判か」

 

 

そうして俺は静々と寮を出て、学校に登校した。

 

 

 

 

 

 

 

事態が急転したきっかけはこの1週間前のことだった。俺はCクラスの殴られた生徒について調べていると分かったことがあった。それは、3人のうちの1人、『石崎大地』が中学時代は地元ではちょっと有名な不良だったことだ。その他の2人も運動部ということ。しかし、これが分かったところで須藤が殴ったことの事実は消えないし、3人の証言能力の信憑性がほんの少し下がるだけに過ぎない。

 

 

やはりCクラスとDクラスの信用性が違いすぎるせいか、クラスにも影響しているのだろう。集団心理を利用したこの絡繰りがやっかいである。加えて須藤のクラスからの人望のなさも相まって圧倒的に不利だ。

 

 

調べるのを止めて一息吐こうと冷蔵庫からマッカンを取り出そうとした時、机に置いていたスマホのバイブが鳴った。電話元は『一之瀬帆波』と表示されていた。俺はスマホとって電話に出た。

 

 

『もしもし比企谷君、今大丈夫かな?』

 

 

「あぁ、大丈夫だが。それより何か用か?」

 

 

電話口から一之瀬の声が聞こえるが、ブオォー。と音が鳴っている。そしてすぐに音が弱まったが何かしているのだろうか?

 

 

「なぁ、今何かしてんのか?」

 

 

『あっごめんごめん、今ドライヤーで髪を乾かしてたんだ。伝えないといけないことがあったのをさっき思い出したから電話したんだけど』

 

 

一之瀬がそう言う。ドライヤーで髪乾かしてたってことはおそらく風呂上り・・・・って俺は何を想像してんだよ!思わず頭を振って湧いて出た煩悩を払い、一之瀬に聞き返した。

 

 

「伝えることってのは・・・?」

 

 

『今日、Dクラスの人と同盟関係を結んだんだけどね?共同で作戦を考えたりするから比企谷君も参加してくれないかなって』

 

 

一之瀬は休戦をするのか・・・・・・作戦も一緒に練ってほしいと。まあ特に俺は反対しないし、Bクラスの立場からすればこの上ない休戦協定だ。しかし・・・・

 

 

「話は分かった。けど、俺は参加しない。動くなら裏方だ。とりあえず神崎にでも誘ってくれ」

 

 

一之瀬たちと表からやるには俺では不向き。しかも龍園に悟られてしまえば面倒だ。作戦が変えられなんかしたら詰みになる。

 

 

『わかったよ。色々とごめんね?比企谷君』

 

 

「・・・いや、別に良い。しかし一之瀬、Dクラスと何で協定を結んだんだ?」

 

 

そこに俺は疑問がある。Bクラスがこの協定を結んでも得られるメリットはごく僅かだ。

 

 

『困ってる人を見て助けたくなった・・・・じゃ、理由として足りないかな?』

 

 

「・・・・いや、一之瀬の理由がそれなら俺は何も言うことはない」

 

 

此奴は優しいのだ。由比ヶ浜や葉山などのように口先だけじゃなく最善の行動を人のために取れる奴なんだ。由比ヶ浜は行動を起こしても何もかもが中途半端で、人に泣きつく。葉山は自分の理想から離れることをせず、人に頼って失敗したらその責任を押し付ける。

 

 

しかし、一之瀬は自分が受けるデメリットも顧みずに人のために全力を尽くせるのだ。俺は優しい女の子が嫌いだ。同情なんかで関わられても事実は変わらないし、みじめになるだけだからだ。しかし、一之瀬からはそんな感じは見受けられない。・・・・お前なら。

 

 

『そっか、ありがとう比企谷君。こんな夜遅くにごめんね』

 

 

「大丈夫だ・・・・なぁ、一之瀬」

 

 

一之瀬の名前を呼ぶ。一之瀬は不思議そうな声で聞き返した。

 

 

『どうしたの?』

 

 

「・・・・いや、お前のその気持ちは俺にとって羨ましいよ。それだけだ」

 

 

『・・・そっか。・・・・じゃあ切るね?』

 

 

確認する一之瀬に俺はこう言った。

 

 

「ああ。・・・・お休み、一之瀬」

 

 

『!・・・うん!お休み、比企谷君』

 

 

そう言って通話を終了して、俺は歯を磨こうと洗面台に行った。鏡に映った自分を見る。そこには・・・・・

 

 

「・・・笑ってるのか、俺」

 

 

僅かに口角を上げた俺が写っていた。どこか不思議な高揚感と心地いい安らぎが俺の心を埋めていた。そして俺はそのまま気分の良い状態で就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその2日後のことだった。学校の昼休みを満喫していると一之瀬からDクラスと色々と画策をしたと伝えられた。主に、目撃者探しとCクラスの3人の人物像の情報収集だ。ここで大きく動いたのは、目撃者が見つかったらしいとのこと。ただ、目撃証言をする気がないのとその目撃者がDクラスから出たのがネックだが。

 

 

そして、放課後になって帰る準備を整えていると、一之瀬に話しかけられた。

 

 

「比企谷君、ちょっと良いかな?」

 

 

「どうした?」

 

 

「ここじゃ話しにくいことだから自然公園で話してもいいかな?」

 

 

真剣な表情で小声で言ってくる一之瀬の様子を見て誤魔化すことをせず、俺は頷いた。誰にも聞かれたくないのだろう。

 

 

「・・・分かった」

 

 

そうして俺は身支度を整え、一之瀬とともに寮へ向かった。

 

 

公園に着いて、誰もいないことを確認すると俺は一之瀬に用件を聞いた。すると、鞄の中からある手紙を取り出して俺に見せた。

 

 

「今日この手紙がロッカーに入ってたのに気づいたんだけど・・・・」

 

 

そして手紙をよく見ると、一之瀬宛のものであることが分かった。中身は一之瀬が送り主を気遣い見せなかったが、それが妥当だろう。何故ならこの手紙は・・・・

 

 

「見た限りラブレターっぽいな・・・・」

 

 

手紙のデザインから見て可能性が高いのでなんとなくわかった。そして、一之瀬は頷いて本題を切り出した。

 

 

「中身を見て確認したんだけど明日体育館の裏で告白するみたいなんだけど・・・・今は付き合う気がないんだ。でも相手が傷つかないようにしたいんだ、だけどどう断ったらいいかが分からなくて・・・・お願い出来るなら比企谷君に彼氏のふりをーーーーー「駄目だ。その方法は」・・・えっ?」

 

 

思わず一之瀬の言葉を遮って俺は言った。

 

 

「・・・・この手紙を見る限り手書きの奴だ。此奴の一生懸命な想いが詰まってるんだろう。告白ってのは告白される側もそうだが、する方も相手に想いが伝わるように伝えることなんだ。一之瀬が言ったことで相手の望む答えはもうない。だけどそれは相手だって覚悟しているはずだ。傷つくのは当たり前なんだよ、望んだ答えじゃないんだから。それにお前は彼氏のふりを俺に頼むんじゃなくて、此奴と向き合うことなんだ」

 

 

俺の感情がいつになく高ぶっている。どうしてなのか、きっと俺は一之瀬にそんな方法をとってほしくないのだろう。他人事だが、一之瀬の方法は俺が中学の時に取った行動と似ているから。それをしたら俺のように失敗する。そして独りになって悪意ある視線に晒される。

 

 

俺はそんな思いを一之瀬自身にして欲しくないのだろう。なんて遠回しな言い方だろうか。すると、頬に暖かい手が添えられた。

 

 

「ごめんね比企谷君。だから、泣かないで・・・・?」

 

 

悲しそうに俺を見ている一之瀬にそう言われてふと滴が流れていることに気付いた。

 

 

「え、何で俺、泣いて・・・・」

 

 

それを認識するとさらに涙があふれ出し、感情の奔流が俺の心を埋め尽くす。すると、一之瀬は俺を抱き寄せて頭を撫で始めた。凄く暖かいぬくもり。

 

 

「ごめんね、辛かったんだね・・・・」

 

 

同情の言葉であろうはずなのにその言葉は俺の心に響いた。そしてついに俺は嗚咽をこらえることが出来なかった。

 

 

「・・・・っ」

 

 

しばらく泣いた後、俺は一之瀬から離れた。恥ずかしい・・・・何女の子に慰められてんの俺。小町にだってされたことねえんだぞ!?新たな黒歴史に悶えつつも、一之瀬に謝る。

 

 

「その、本当に済まなかった。いきなり泣いて・・・」

 

 

一之瀬は頬を若干赤らめつつも、変わらないトーンで言った。

 

 

「ううん、大丈夫だよ?・・・・比企谷君」

 

 

一之瀬は不安そうな表情で聞いてきた。

 

 

「その、比企谷君が良ければ何があったのか教えてくれないかな?比企谷君が泣くなんてよっぽどの事だと思うし」

 

 

もちろん無理に言わなくてもいいからね。と言う一之瀬。・・・・慰めてもらったし一之瀬にも話そう。俺の過去を。否定されるならそれでもいい、一之瀬には世話になったからな。

 

 

「・・・・話すよ」

 

 

そして俺は自身の中学時代での出来事からここに来るまでの経緯を話した。そして話し終えると一之瀬が口を開いた。

 

 

「・・・・比企谷君」

 

 

「・・・・・」

 

 

一之瀬の言葉を黙って待つ。坂柳には受け入れられたが、一之瀬は分からない。そしてこう言われる。

 

 

「お疲れさま」

 

 

「えっ・・・?」

 

 

言われたのは肯定でもなく否定でもなく、労いの一言だった。俺は驚くと一之瀬は続ける。

 

 

「背反した依頼をちゃんとこなした比企谷君を私は否定しないし出来ないよ。たしかに方法はあまり良いものだとは言えないけど、でも比企谷君は最後までやり切った。だから比企谷君、『お疲れさま』」

 

 

そういい、また俺を抱き寄せてくる一之瀬。慌てて、離れようとも一之瀬のぬくもりを放したくないと体が訴えているかのように体は動かない。そして一之瀬はその状態で話し始めた。

 

 

「・・・私も中学の時、万引きしたんだ」

 

 

「・・・・は?」

 

 

一之瀬の口からそう話された過去。俺は素っ頓狂な声で聞き返してしまった。クラスでも優秀な成績を収めていてコミュ力も高い一之瀬がそんなことをするなんて・・・・

 

 

そこから一之瀬の過去が明かされた。一之瀬の家庭は母子家庭で、一之瀬には妹がいた。決して裕福な家庭ではなかったため、母親が女手一つで働いて暮らしていた。一之瀬もそんな母親のために苦労をあまりかけないように学校はトップクラスの成績に、コミュ力も磨き、友達もたくさん出来た。そんな順風満帆な生活の中、妹はあまり我儘を言わないで我慢をしていた。

 

 

そんな妹の誕生日が近づいたとき、初めて妹が流行りのヘアピンが欲しいとプレゼントを求めた。しかし、ヘアピンの値段は1万ととてもではないが買えるレベルのものではない。そこで、一之瀬はーーー万引きをした。1つの拭えない一生の罪を犯してしまった。妹は姉が自分の願いを叶えたと喜んだ。しかし、母親にばれて叱られ、万引きをした店に謝罪に行って母親が示談して、民事裁判は免れた。一之瀬はそのあと家に半年の間、家に閉じこもった。そして半年後、何とか折り合いをつけた一之瀬はこの学校の存在を知って受験した。もう間違わないために。

 

 

「・・・・・私が犯したどれだけ時間がたっても赦されない罪、一生向き合わないといけない罪なんだ」

 

 

そういい終えた一之瀬は俺に聞いてきた。

 

 

「ねえ、比企谷君。私はBクラスにいてもいいのかな・・・?」

 

 

「・・・・・」

 

 

・・・・ここで一之瀬を慰めるようなことを言ってはいけない。そんなことをすれば一之瀬は罪悪感に苛まれて自分を見失うだろう。此奴のいるべき場所はーーーーー

 

 

「ーーーああ、駄目だな」

 

 

「っ」

 

 

肩を震わせる一之瀬。そんな様子を見ても俺は言葉を止めない。

 

 

「万引きは犯罪だ。小学生でも分かること。だから決して赦されることじゃない」

 

 

「罪を犯したなら裁かれる。ーーーーーーーーそしてお前は裁かれた」

 

 

「えっ?」

 

 

驚いた声を出して俺を見上げる一之瀬。そして俺はまた続ける。一之瀬が先ほどしてくれたように頭を撫でて。

 

 

「お前と一緒にお母さんがお店にお詫びして、許してもらえたんだろ?だったら良いじゃねえか」

 

 

一之瀬を慰めてはいけない。いや、正確に言うと慰めるだけではいけないのだ。必ずその過程に罪を責めるということしなければ。今の一之瀬は誰かに咎めてほしいと思っているからだ。だから正しい手順で言ってやれば、ちゃんと向き合うことが出来る筈だ。

 

 

「私は、赦されてもいいのかな・・・?」

 

 

「法治国家のこの日本は時効とか満期というものがある。誰でも赦される権利は必ずある」

 

 

俺が言うと一之瀬が俺の胸に顔をつけて嗚咽を漏らし始め、黙って一之瀬の頭を撫で続けた。

 

 

しばらく泣いた後一之瀬は俺から離れて顔を赤らめて照れくさそうな顔で言った。

 

 

「ご、ごめんね比企谷君。泣いちゃった・・・・手紙の用件だけだったはずなのに」

 

 

「・・・・お互いさまだ。俺も泣いちまったしな」

 

 

俺も頭を掻いて言う。ホント、黒歴史の連発だよ・・・・・

 

 

「ふふっ、そうだね。・・・・・私、手紙をくれた子とちゃんと向き合うよ」

 

 

そう一之瀬は決意し、そして続ける。

 

 

「もし、また私が閉じこもりそうになったら比企谷君に相談してもいいかな・・・・?」

 

 

顔を赤らめながら照れくさそうに言うその姿は夕日に照らされ、見惚れてしまうほど綺麗だった。

 

 

照れくさくなったのを隠すように顔を背けて俺は返事を返す。

 

 

「まぁ、暇だったら・・・な」

 

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 

それから俺達は寮に戻った。そのとき一之瀬との距離が近かったのだが、何でだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 × × ×

 

 

八幡が自身の過去を話した後、ある者はその場面に遭遇して考えていた。

 

 

「・・・どうして?」

 

 

分からない。彼が言っていたことは嘘だったのか・・・・・・

 

 

「一体どういうことなの?葉山君・・・・」

 

 

そう呟いた雪ノ下雪乃が酷く当惑しているのを見た者は誰もいなかった。

 

 

 

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