総隊長の孫のくせしてクソ雑魚だった彼   作:時雨。

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総隊長の孫のくせしてクソ雑魚だった彼が死んだと思ったムカつく上弦の戦闘狂に遠回しにリア充爆発しろとキレた話。

「なぁお前、さっき人は弱いとかすぐ死ぬとかぎゃーわー喚いてただろ」

「だから何だ。それが事実だろう?人間は腹に穴が空けば死に、頭が頸からもげれば死ぬ。なんとも弱く、脆く、脆弱な生き物だ」

「さも自分は人間じゃねーみたいな言い方すんのな」

「……事実だろう?俺は鬼だぞ、人間ではない」

「おめーが自分のことどう思ってようが俺は別にどうでもいいけどさ。俺からしたらお前も何の変哲もない人間だっつーの。多少体の構造が変わってようと中身が変わってねーんだよ。中身が」

「中身、だと?」

 

俺の言い分が、というよりは言葉の意味が理解できないと眉間に皺を寄せる上弦の鬼。

困惑や疑念というより人間という自身が下等だと思っている存在と一緒くたにされたことに対して不快感を感じている様子だ。

後ろに庇った炎柱と竈門兄達は俺が先程言いつけた通り静観の構えを取っている。だが、炎柱だけは上弦の鬼に隙が出来るか俺が負傷すればいつでも介入する気満々という気配を感じる。

いやいや、お前さんこの中でいっとう重傷者でしょうよ。黙って応急手当してなさいって。

不安そうな視線を背に感じながら対峙した上弦の鬼への語りを再開する。

 

「お前ら鬼はどうやって鬼になる?死んで魂だけになってから変質するのか?それとも輪廻転生の結果鬼として生まれ落ちたのか?はたまた伝説級の礼装を取り込んで人ならざる頂上の存在へと進化を遂げたのか?答えは否。断じて否だ。お前達はお前達の首領の力で人から人モドキへと成っただけなのさ」

「人モドキだと!我らを愚弄するな!!」

 

怒りに身を任せて地面が陥没する程の膂力でこちらへ飛びかかる上弦の鬼に真正面から対応する。

振りかぶられた右拳を左手で受け止め、食い付くように至近距離から上弦の鬼顔を覗き込んだ。

 

「お前達は人としての記憶と理性を犠牲に力を手に入れた。その圧倒的な力を欲した心を溶かすような理由も、魂に焼き付くような熱い誓いも捨ててな。そんな奴らが、そんなお前が!煉獄の強さを語るなッ!!」

 

予想外の行動に目を剥いた上弦の鬼の肩、胸、腹、頸に二番隊隊長直伝の白打を叩き込む。

関節がずれ、肉が抉れ、骨を軋ませながら上弦の鬼は後方へ吹き飛び、二度地面に衝撃のまま体を打ちつけたものの、三度目の接触の前に空中で体勢を整えて地面を擦るように数秒かけて停止した。

喉を打たれた時に口からこぼれて頬についた血液を手の甲で拭いながらこちらを睨みつける上弦の鬼は、忌々しげに俺へ語りかける。

 

「それだけの技術を持っていながらなぜお前は俺の考えを否定する!何故永遠の命を拒絶する!この先ずっと武を極めることが出来るんだぞ!!なぜ、なぜだ!!なぜお前達はそうまでして短い寿命に、弱々しい肉体に拘る!!答えろ鬼殺隊!!」

 

俺達の考えが心底理解できないと、許容できないと困惑と怒りを撒き散らす上弦の鬼。

ああ、哀れな生き物だ。本当に、どうしようもない。

その血走った眼球を見据えて俺は静かに答えを返す。

 

「まず先に訂正しておくと俺は鬼殺隊士じゃない。俺は護廷十三隊が一番隊所属の一応席官だ。と言っても多分伝わんねーんだろうけど。それからお前が言ってた永遠に武を極めるとかなんとかってやつ、それあんま意味ないからやめといた方がいいぞ。経験者は語るってやつだな」

「意味がないだと……!人の身に甘んじている貴様に何が分かる!!」

「まずそこからがちょっと違うんだが……まぁいいか。そも、人が一番強さを発揮する時ってのはどういう時か知ってるか?」

 

お互い言葉を待つこと無くこちらは斬魄刀で、あちらは拳で相手に向けて攻撃を繰り出す。こちらの初撃、斬魄刀による上段からの振り下ろしを回避した上弦の鬼は先程と同様に至近距離からの肉弾戦に持ち込もうとする。

拳をいなし、蹴りを躱して胴めがけて横一線に刃を振るった。

それを大きく後方の元いた位置まで飛び退り回避した上弦の鬼は構えを取ったまま再び問答を続ける。

 

「人の強さだと?そんなもの知ったことか。体も心も弱い貴様らのどこに強さがある」

「え?もしかしてそういうの見たこと無いの?うわぁー、何百年も生きててそれはちょっともったいないと思うわー」

「チッ、一々癪に障る言い方をする」

「そらぁすまんな。こういう口調になるのは性分なもんでね」

 

とは言ったものの、正直普段よりも煽り方が粘着質に成っているのは否定できない。

こいつを見ていると脳裏にちらつくのだ。ただ我武者羅に周りの期待に答えなくてはと強くなる意味も持たないくせに闇雲なまま己を鍛えようとしていた過去の自分が。大嫌いな過去の自分が過ぎって仕方がない。

こいつがいつどんな理由で鬼になったかなんて知らないが、どうしてか無力に嘆いた結果こうなった、こう成り下がってしまったのだということは直感的に分かった。

端的に言ってイラつくのだ。ムカムカする。まるで別の可能性の自分を見せつけられているようで。

本当はもっと大事なものを持っていたはずなのに、俺なんかと違って、己を奮い立たせる理由になるだけの誰かがいたはずなのに――――。

俺にないものを持っていたはずなのになぜそれを投げ捨てたのかと、無意識のうちに胸の中に燻った黒い良くない感情を彼にぶつけてしまっていた。

 

「人ってのは時に無意味な数百年を意味のある数ヶ月で覆すこともあるってことさ。知り合いに橙色の髪をしたやつがいたら特に要注意だな」

「貴様の話は理解できない」

「そうかい…それは残念。まぁ、人間ってのは失うものがある方が強くなれるのさ。守るべき大切な友を、恋人を、妻を、家族を持ってるやつは、時にあらゆる困難と壁を乗り越える。それが人の強さ、そしてお前が鬼になるために捨てたものだ」

 

俺の言葉を聞いた上弦の鬼は唐突に硬直した。

当然そんな隙きを見せられたら攻撃せずにはいられない。今度はこちらから彼に向けて斬りかかる。

下段から切り上げられた刃を身を翻すことで回避した上弦の鬼はこちらの右脇腹めがけて貫手を放った。

先程上弦の鬼がやったように半身を捻って回避し、そのままの動きで右足を後ろへ下げると同時に切り上げたままの位置にあった刀を左上から右下に向けて振り下ろす。

上弦の鬼はそれを見越した用にあえて腕を切り落とさせ、右腕を失ったまま腰を捻り上げるようにして左足を顔面めがけて振り上げた。

腰を落として体制を低くすることで頭上を通り過ぎていく上弦の鬼の足をやり過ごし、先程上弦の鬼がやったように大きく後方へ飛ぶ。

しかし、奴と違ってただ距離を取るだけでは終わらない。

斬魄刀を持たない左手の人差し指を上弦の鬼をに向けて詠唱を始める。

 

「雷鳴の馬車、糸車の間隙、光もて此を六つに別つ。縛道の六十一、六杖光牢」

 

六つの光が飛来して上弦の鬼の腕と胴体を拘束した。

予想外の事態に目を見開いて動揺した上弦の鬼目掛けて次の詠唱を始める。

 

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ。破道の三十三、蒼火墜!」

 

始解による炎とは色の違う真っ青な炎のようにも波動のようにも見える光が上弦の鬼目掛けて迸る。

立ち上る土煙は上弦の鬼の姿を覆い隠す。いつ奴が飛び出してこようとも大丈夫なように警戒は怠らない。

鬼を殺すには日輪刀か日光か藤の毒、それはここ数年でもう耳にタコが出来る程にしのぶに聞かされた。鬼道では傷は作れても再生してしまうだろう。よって俺が鬼を殺すには太陽の具現である始解の炎で焼くしか無いのだが、この場所で始解を使おうものなら間違いなく列車が燃える。先頭の部分はともかく気を失った乗客が未だ眠っている車両は木でできているのでそれはもうよく燃えるはずだ。

 

「おおおッ!」

「……っ!」

 

土煙を突き破って勢いよく飛び出てきた上弦の鬼の拳を打ち払う。

そのまま数合打ち合うが、先程とは些か様子が違う。上弦の鬼の表情が苦しそうに歪んでいる。

技の一つ一つも先程のような鋭い冴えはない。

 

「どうした上弦の鬼!さっきより随分鈍くなったな!それに遅い!俺の言葉が心に響いて感動しちまったか!!」

「黙、れ、黙れ、黙れ!!」

 

突き出された右腕を切り落とし、返す刀で胴を深く切りつけた。

若干覚束ない動作で距離を取った鬼は、切りつけられた腕と胴ではなく頭を無事な左腕で押さえつけている。

先程のような涼しげな顔色はどこへやら、冷や汗が顔中を伝って顎から地面へと垂れている。

上弦の鬼はそのままこちらを数秒睨みつけた後に、夜明け前の薄暗い闇へと紛れるように撤退していった。

姿が見えなくなってから一分ほど構えは解かず、もう襲ってくることはないであろうことが確信できてからようやく息を吐く。

 

「山本殿、助太刀済まなかった!貴殿がいなければ俺はあの鬼にやられていただろう!助かった!」

「気にすんな。てかあんまでかい声出すと傷口開くぞ。結構全身痛めてるだろ」

「うむ!そのとおりだな!!」

「え?君話聞いてた?」

 

やいのやいのと炎柱とこちらの意図が伝わっているのか良くわからない会話のような何かを繰り広げながらも、頭の中は先程の鬼のことで一杯だった。

あの時はなぜ俺が欲しくて仕方がなかったものを捨てたのかと憤ってしまったが、もしかしたらそれは本人の意図とは関わりの無いことだったのかもしれない。

理不尽にうちのめされ、暗く辛い絶望の中でいっそ忘れてしまいたいとさえ願ったのかもしれない。

そう思うとそれなりに悪いことをした、というか言ってしまったなと些か罪悪感を感じた。

 

 

 

だがそれでも俺はあの鬼に――――いや、あの男に嫉妬せずにはいられなかったのだ。

 

 

 

 




嫉妬心ぐつぐつ煮詰まった主人公
・始解を使えば列車でキャンプファイヤーになってしまうので一生懸命鬼道と剣術でなんとかしのいでた。
・ちょっと煽ったらブチギレて瞬光発動しながら殴りかかってきた白打の師匠である二番隊隊長のパンチと比べたらおそすぎだぜ。ちなみに当時はボロ雑巾のようにされた後に瀞霊廷内の高いところに吊るされた。瀞霊廷中で二番隊隊長はヤベー奴だと噂が広まった事件その一である。
・派手な髪色の奴はみんなもてんのか……?柱連中も髪色大分凄い奴ら多いよな……。俺も髪染めてみようかな……。
・遠回しのリア充爆発しろ。


派手な髪色の上弦の鬼
・煉獄を鬼に勧誘しようとしてたらなんか変な格好の奴が出てきた。
・初めて主人公の面を見た時点で主人公と同じく直感的にこいつは何か気に食わないと嫌悪感を感じていた。
・なんかぴかぴかしたの飛んできたと思ったらメラメラしてた何を言ってるかわかんねえと思うが俺も以下略。
・恋人、家族、うっ頭が!






本当は先に御屋形様や柱の面々と顔合わせとか蝶屋敷の日常とか書こうかと思ってたんだけどこっちのほうが先に流れ頭の中で固まったので再び頭蓋骨開けて妄想という名の汚泥垂れ流した。




あと、キャプションでデイリーランキングどうこう言っといてなんだけど、一話と比べるとなんか物足りないというか、これじゃない感あるよね。
まぁ元々一話完結のつもりで考えてたのを思いの外みなさんが続きを望んでくださってたから後付で五分くらいで考えた話だから仕方ないとこはあるっちゃーる気がするんだけど……


精進します☆

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