刀使ノ指令ダグオン   作:ダグライダー

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 こんばんは、ダグライダーです。
少し手間取りましたが29話です。
 それとデジモンとSHIROBAKOを観に行って来ました、どちらも多々賛否両論あるようですが楽しめました。特にデジモンは居酒屋のシーンで映った川島さんの存在感に目が釘付けでした。


第二十九話 明ける夜、一時の休息。

 "前回の刀使ノ指令ダグオン"

 山中の川原にて対峙する可奈美、姫和と真希、寿々花。戦いを始める四人、親衛隊優勢の中、可奈美の機転で真希を退ける姫和、そして彼女達は再び逃走する。

 そこに新たに現れる調査隊、親衛隊からの追撃命令が下されるも拒絶、それにより彼女達は親衛隊から再び敵として扱われる。

 徐々に追い詰められ危機に陥る調査隊、その時清香が覚悟を決める。

 


 

 「…も、もう……やめて、ください…ハァ……ハァ………」

 未だ月明かりに照り返す小川の畔、傷付き伏した仲間の為に御刀を振るうか弱い少女が、襲い来る相手に疲れを滲ませながらも投げ掛ける。

 「なんなんですの、この娘。役立たずかと思ったら、思いの外やりますわ……」

 「防戦一辺倒とはいえ……傷付いた二人だけでなく、木寅ミルヤまでも庇いながらボク達親衛隊を相手に渡り合うなんて」

 寿々花の思わず洩れる驚愕と真希の指摘通り、六角清香は彼女達を相手に互角と云っても過言ではない戦況を造り上げていた。

 何せ格上と言ってもよい二人を相手に既に戦力としては心許ない美炎や彼女を庇い倒れた智恵のみならず、真希の相手をしていたミルヤをも守っているのだ、並大抵の刀使では出来ない。

 

 「正直………侮っていたよ」

防戦に喘ぐ清香を見て自身の見込みを改める真希、そして記憶の片隅に留めていた事を思い出したのか、自己完結染みた確認を投げ掛ける。

 「ああ、そうか……忘れていた。名門、神前道場の六角清香。ウチの学校には上級生顔負けの腕前を持ちながら、実戦では、まるで役立たずの生徒が居るって」

 その言葉に僅かに反応する清香、真希は構わず続け寿々花に提案する。

 「寿々花、この娘ボクにやらせてくれ。同じ校の先輩として稽古をつけてやるよ…但し、授業料は吼丸の錆になることだけどね。さぁ、六角清香……」

 ──吼丸に喰い散らかされろ…!

殺意と共にその言葉を清香に向け御刀を振り上げたその瞬間、殺伐とした空間に響く電子音。

 音の主は寿々花の携帯端末、その場に居た全ての人間が彼女に視線を注ぐ。

 「こんな時に!夜見から…?なんですの?本部から連絡…、ですか……」

 電話の先の主は皐月夜見、薫、ウイングヨクとの遭遇、戦闘、撤退の後にベースキャンプへと戻ったのであろう彼女からの連絡はこの場の状況において調査隊の面々にとっては天の助けに等しい。

 寿々花の口によって伝えられた内容は鎌府、綾小路両学長からの調査隊と事を構えるなとの厳命。

 まるで今この場に起こっている状況を分かっているかのような内容に真希が驚愕しミルヤに視線を投げる。

 「どういう事だ…綾小路武芸学舎がわざわざ?まさか木寅ミルヤ……お前が手をまわしたのか」

 「最近はこんな山中にも電波が届くのですね……お陰で助かりました」

 息を軽く整え、眼鏡を直しながらイタズラが成功した様な笑みを浮かべるミルヤ。

 「………貴女まさか、携帯を通話状態にしたまま戦っていたんですの?」

 「フ……勝敗は剣術だけで決まる訳では無い、と言うことです」

 ミルヤのまさかの策に寿々花も思わず絶句する。

 

 「キサマッ!!」

 出し抜かれた事に声を荒げる真希、そんな真希を諫める寿々花、そして他者に聴こえぬよう真希に顔を近付けながら何事かを囁く、真希は不承不承といった形で寿々花共々その場を離れようとする──その時、一迅の蒼い風が吹き荒れた。

 一瞬、ほんの一瞬の事であった、二人が共に僅かに感じた頸の違和感…しかし触れた場所には異物らしきものは無く、振り返っても誰も居ない。

 朝陽が昇り、周りには僅かだが霧が立ち込めてきた。

結局、朝霧の雨露が頸元にまとわり着いたものと判断してキャンプの方向に消えていく。その後ろ姿を覗く影に気付かずに。

 

 

 「成功……とは言い難いな、が、無いよりはマシと捉えるべきか」

 蒼い風、そして親衛隊の後ろ姿を覗く影の正体、ターボカイは手元のアンプルを弄びながら呟く。

 あの瞬間、彼は自身のダグテクターの瞬間加速機能を使用、これにより周囲の時間流から外れ傍目には何かが通り抜けたのかが分からない。近い例えで表すならば十条姫和が折神紫暗殺の際使用した、"一つの太刀"の迅移による最大加速であろうか。そらによって真希と寿々花に近付き採血用の注射器を頚に宛てた、そして彼女等が振り返る瞬間に離脱してのけたのだ。結果、採取出来た血液は微々たる量である。雀の涙よりは少しマシな具合か、兎も角目的を達したカイ、彼の視線は親衛隊が去った事により緊張の解けた調査隊に向かう。

 先の戦闘、自身が助太刀するより早く清香が動いた為、結果的には姿を現さずに済んだ。何よりミルヤの機転により戦略的に勝利を納めた彼女達はこれ以上親衛隊から絡まれる事は無いだろうと踏み、カイは親衛隊の血液を採取する事に集中出来た。

 加速機能を使用し肉体に負荷が掛かった筈だが、それをおくびも出さず思案するカイ。

 薄情かとも思ったが、そもそも今回の目的は出来うる限り極秘裏に進める事が望ましい、だからと言う訳では無いが既に姿を晒したファイヤーエン、シャドーリュウは仕方無いにしても彼女達との不用意な接触は避けねばならない。であればあの判断は致し方ないと言えよう。

 「(まだ迷いがあったか……まだまだ未熟だな)」

助ける事に対する躊躇、親しい相手を敵に回す躊躇、二重の意味での迷いが出た結果がこれかと自虐する。

 頭の中でそう結論付けたカイは潜入を任せたリュウ以外の仲間に一度連絡を取るべきと判断し、その場を跡にした。

 この後に最大のチャンスがやってくる事を彼はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──翌朝

 

 親衛隊、そしてカイが去った場所、朝陽が高く昇った山奥にて調査隊は一先ずの休息にとっていた。

 彼女達は与り知らぬ事ではあるが、同じ頃別の場所で激闘が繰り広げられているのだった。

 美炎と清香は半ばへたり込んでいる。呼吹は未だ帰ってこない。

 そんな彼女達から離れた陰になっている場所でミルヤは1人電話を片手に何処かへとダイヤルを掛けた。

 連絡先の相手は綾小路武芸学舎学長、相楽結月。

 2、3回のコールの後、電話が繋がる。

 「──昨夜の件、ありがとうございます。学長の口添えが無ければ、親衛隊を相手に全滅していたと思います」

 まず口に出したのは親衛隊とのいざこざに対する礼。ミルヤは全滅と口にしたが、近くにカイが存在していた為、実際に最悪のケースにはならなかったであろう……無論、彼女の知る限りでは無いが。

 「それで、調査報告ですが…赤羽刀については進展無く。調査隊の面々も先の報告以上に変わった事は無く………いえ、ひとつだけ」

 報告を続けるミルヤ、赤羽刀に関しては手掛かりは依然無く、自身が率いる調査隊の話へとシフトする。

 「現状を見る限りですが、伍箇伝の学長から明確に指示を受けて動いていると断定出来るのは七之里呼吹ひとりです」

 調査隊結成の裏側にある伍箇伝の思惑を類推して考えるミルヤ、故に呼吹が親衛隊が荒魂を使役していた事に関係が在るのではと端末の向こう側、顔の見えない学長に問い掛ける。

 「彼女は、親衛隊と荒魂の関係についても知っているようで……ですが、はい、了解しました。この件については、以降触れないようにします」

 学長であれば何かしら知っているであろうと訊ねたものの、それ以降は命令という形で触れる事は許されず、彼女もまた自身の立場故に命令に従う。

 「いえ……南无薬師景光については、まだ。はい。学長のおっしゃる通り、確保に努めます」

 向こう側からは新たに赤羽刀の手掛かりとなる情報について訊ねられ、先の会話に思う所あるも、己の役割を全うする為応える。

 「昨夜はイレギュラーな通話でご迷惑おかけしました。次の定時連絡までは、直通での通話は控えます」

 最後に謝罪をし通話を切るミルヤ、その顔はやはりどこか釈然としない。

 

 

 

 ミルヤが相楽学長に定時連絡を取っていたのと同時刻、彼女とは反対の陰にて瀬戸内智恵が電話を何処かに掛けていた。

 「お疲れ様です、真庭学長」

智恵の口から飛び出した名は、長船女学院の学長、真庭紗南。彼女もまた、自らの役目の為に上司である真庭学長に連絡を取っていた。

『エレンと薫のサポートご苦労だった。先程、衛藤可奈美と十条姫和を仲間に迎えるテストは、無事終了したと連絡があった』

 電話の向こうから掛けられる労いの言葉、そして彼女の所属する組織としての目的が果たされた事を知らされる。

『今頃彼女達は、"舞草"との合流地点へと向かっている筈だ』

 「役に立てて良かったです。それで学長、私たち調査隊は、これからどう動けば……いえ、彼女たちを()()()()()()いいでしょうか?」

 会話の中に出てきた舞草という言葉、ダグベースにて翼沙も示唆していた反折神家勢力の名である。

 智恵の次の指示を仰ぐ言葉に真庭学長が下知を下す。

『親衛隊に同行している指揮下の機動隊に、協力者がいる。彼女が赤羽刀に関して面白い情報を持って来てくれる筈だ。ここで直接……と言いたいところだが、何処で聞かれているかも判らないからな』

 「分かりました学長。では私は、そちらからの接触を待つことにします」

 新たに与えられた指示に了承の意を示し通話を切り上げる智恵、彼女の眼は険しく虚空に向かれていた。

 

 

 

 「ゴメン!六角さん!このとーり!!」

 

 「え………え……なにがですか?」

年長者達の思惑など知らぬ調査隊の残された面々、美炎は回復すると共に開口一番、手を併せて清香に頭を下げる。

 当の清香自身は何故美炎が謝罪するのか全く心当たりが無い。

 「たくさんゴメン!今回親衛隊から助けてもらったこともだけど………」

 僅かに頭を上げ申し訳無さそうに理由を話し始める。

 「正直……清香のこと、刀使に向いてないっておもってた!戦えないなら、何でここにいるんだろうって。でも……何か清香さ、わたしなんかより全然強いじゃん!」

 聞くものが聞けば失礼極まり無い言い分だが清香は苦笑している。

 「すごかったよ!親衛隊相手にしのぎきってたよね!」

 「そんなこと……やっぱり、私ダメです。さっきも…怖くて怖くて………やっぱり戦うのはイヤです」

 再び顔を俯かせる清香、しかし何か思い出したのか微笑みを美炎に向ける。

 「ああ………でも今、1つだけいいことも……。安桜さん、私のこと"清香"って呼んでくれました」

 「えっ?ああっ!?ごめんつい!!」

呼び方が変わっている事に今頃気付き再び頭を下げる美炎、清香は気にした風も無く続ける。

 「さっきの戦闘の時も咄嗟に清香って……」

 そう、親衛隊との戦闘にて、美炎は清香を気遣う際に無我夢中で彼女の名を叫んでいたのだ。

 「あああぁぁぁっ!本当にゴメン!馴れ馴れしかったよね!!」

 清香に指摘され思いだし羞恥に顔を真っ赤に染める美炎、もし此処に焔也が居れば大爆笑していたかもしれない。

 「ふふっ……謝ってばっかりですね。でも、本当に嬉しいんです。ちょっとだけ、安桜さんと仲良くなれた。そんな気がします」

 清香の嬉しそうな表情に美炎も顔を綻ばせる…その時二人の近くの茂みが物音を発てる。

 「……なんだ、てめぇらくたばってなかったのかよ。って……ウチの隊長とチチエはいねぇのか?」

 果たして現れたモノの正体は荒魂を追って消えた七之里呼吹であった。いきなり現れた呼吹に美炎と清香が驚いて抱き合うも、その正体が分かると途端に安心し、美炎は呼吹の疑問に答える。

 「チチエって……、ふたりは定期連絡とかあるみたい。それより呼吹さん、どこ行ってたのさ!戦闘中にいきなり居なくなるから、心配したよ!」

 「あん?アタシの荒魂ちゃんを、山盛りブッ潰しに行ってたに決まってんだろうが。あ~もう!すっげぇ楽しかったっての!またやろうぜ!!」

 

続く

 


 

 次回予告(BGM:輝け!ダグオン)

 ターボカイだ。どうやら俺が立ち去った後の彼女達はまた一つ距離が縮まったようだな。

 さて、本来ならば我々が合流した際の話をすべきなのだが、視点を替えよう。

 我々が山奥にて任に当たっている間、鎌倉の本部、宇宙の監獄に動きがあるようだ。

 

 次回"刀使ノ指令ダグオン"

 温もりの交流と現れた男、新たなる監獄主。

 次回も"トライダグオン"!

 




 さて、最近世間は色々慌ただしいですね、私もこの時期はよく体調を崩すので大変です。
 幼少の頃の小児喘息の影響で毎回倦怠感があって執筆もひとしおです。
 次回は以前可奈美の話に出た七人目の影をそろそろ出そうかなと思います。

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