刀使ノ指令ダグオン   作:ダグライダー

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 こんばんは。
 これで胎動編は残すところ後一話、その後は新章で胎動編のエピローグと融合合体までのプロローグを併せて、プロットを組み上げて…といった感じで頑張ります!
 いやぁ、多少修正や変更もありましたが、何とか予定話数で胎動編を終わらせられそうです。



第五十九話 最終決戦!!逆転の一手。

 

 前回の"刀使ノ指令ダグオン"

 投げられた賽の1つ目の行方が決まる。

 過去からの因縁が新たなる扉を開く時は近い。

 彼方より来る災禍はその牙を磨き始めた。

 であれば、彼等は希望足り得るのか……。

 

むふ~っ!!

 

 最後のそれが無ければ完璧だったんだがなぁ……。

 


 

 ━━折神家最奥の祭殿・祷りの間

 

 衛藤可奈美、十条姫和、2人の前に対峙するは折神紫の姿形をした大荒魂タギツヒメ。

 2人の猛攻を容易くいなし、受け止め、躱す。死角からの攻撃も必殺の間合いからの一撃も、どういったトリックか難なく対応して見せた。

 その種明かしを彼女はただ単純に"全て見えていた"と言ってのけた。

 「我が眼は全てを見通す。お前達の身体能力、秘めた力、思考…あらゆる可能性を見通し、そこから最良の一手を選択する」

 彼女の口から語られる姫和の必殺の刃をかわせた理由、そして紫の両の瞳が妖しく橙色に発光する。

 「先程の質問に答えよう、我はタギツヒメ」

 先程、姫和が問うた瞬間に返って来なかった答えを彼女は今、この時に示した。

 

 2人の少女はそれでも立ち向かう。可奈美が正面から二刀に向かい、姫和がタギツヒメの後方へ回り込む様に

切り込む。

 だがいくら知恵を絞ろうと賢しく立ち回ろうと、全てを見通すと宣った彼女は2人の刃を容易に防ぎ、ともすれば簡単に少女達に自らの一撃を見舞う。

 その瞬間、2人が纏うS装備に稼働時間の限界が来たのか粒子となり消滅する。

 それにより一旦、距離を取り間合いを空ける可奈美と姫和。その表情は芳しく無い。

 「本当に見えているのか?」

 「そうとしか思えない…」

これまでの攻撃を全て防がれ、流石に動揺が見てとれる。そこで姫和はあの時──御前試合の際、折神紫が自分の"一つの太刀"を防いだ時の事を思い起こす。

 「そうか…あの時私の一つの太刀を受けられたのは……」

 

 「そう。全て見えていた。殺す気ならば容易に出来た、だが敢えて解き放った。結果全ての糸をお前が手繰り寄せ、舞草共は壊滅に到った」

 タギツヒメの口からあの時何故姫和を見逃したのか、その理由が語られる。それらは全て今日に至るまでの布石、そしてタギツヒメは2人を見下す様に告げる。

 「そして今、殺される為に舞い戻って来た」

 その言い様から自分がダシに使われた事を理解し、姫和は怒りに逆上せる。

 「貴様っ!」

 その感情のまま猪武者もかくやとばかりに突撃する姫和。しかしタギツヒメただ一言……

 「見えている」

 そして姫和を斬り伏せんと御刀を振り下ろす、姫和はかわせない。だが横合いから可奈美がその一撃の間に入り受け、反らす。

 当然反らしきる事は出来ず写シが剥がれるが、その勢いのまま後ろに下がり何かを掴む。

 (今のは見えていなかった)

 再び写シを張り直し浮かんだ疑惑を確信へと変える為、タギツヒメへと挑む。

 刃を振るう。防がれる。

 (駄目、こうじゃない)

頭の中で思い描く動きを反芻しタギツヒメの刃を躱す。

 正眼の構えのまま、至近で動きを止める可奈美、タギツヒメは御刀の切っ先を構えたまま、しかし攻撃する素振りを見せない。

 「…(何故攻撃しない?)」

 その挙動に不審を抱く姫和、対して可奈美は答えを導き出した。

 (見え過ぎてるんだ。打ち込めばその先はある程度絞り込む事が出来る。でもこの状態だと可能性が見え過ぎて打つ手が選べないんだ)

 可奈美が達した結論、それは未来を見通すが故の袋小路。

 タギツヒメは此方から攻撃しない限り、下手な手は取れないであれば……

 可奈美を捨て置き姫和はタギツヒメへ斬り掛かる。しかしタギツヒメは振り向く事無く彼女の一撃を左で止め、残る右で可奈美に斬り掛かるも、可奈美は僅かに後退しただけで躱し逆に大きく隙となったタギツヒメの右肩へ千鳥を突き刺す。

 ゆっくりと後退し貫かれた己の右肩を冷淡に眺めるタギツヒメ、

 「成る程…この器ではこれ以上の演算は難しいようだ」

右手に持った御刀を地面へ突き刺し、左手の御刀でその腕を自ら切り落とす。

 写シが切れ消える右腕、残る肉体側に再び写シの張られた右腕が生える。

 そうして改めて目の前で足掻く2人を見据え何事かを呟く。

 「千鳥と小烏丸。藤原美奈都と柊篝の二人と同じく現世に在らざるモノ……この我と同質の存在に」

 無敵であった器に一撃を貰い、その未来で見る事が叶わなかった訳を思案する。

 「何故その可能性が見えなかった……そうか…紫」

思い至った答えにタギツヒメは急にその右手で瞳の片側を抑え叫ぶ。

 「討て!その御刀で私を討て!!

 それはタギツヒメでは無く折神紫の声。その瞬間、彼女の瞳は確かに確固たる人の意思が宿ったモノとなる。

 だがそれも束の間、紫の髪がたなびき空へ登る様に逆立つ。苦しむ紫を笑う様に開かれる目、眼、瞳。

 紫の抵抗虚しく怪物はその力を現世へと現出させる。

 そして世界に再び異変が起きる。

 「あの時と同じ!」

 可奈美の、そして姫和の体が前後にも現れる。これは潜水艦で起きた際と全く同じ現象。

 

 

 

 ━━折神家敷地内・Aチーム

 

 「これは…?!」

 ヨクが周りで起きている現象に眼を見張る。

 「ちぃ姉ぇ!これって…!!」

 「ええ、あの時と同じ……」

 「って事は、また何かあったてのか!?」

 「あんまり喜ばしい感じじゃないね」

 

 

 

 

 ━━折神家敷地内・Bチーム

 

 「ォオ?!カワイコチャンが分身してるぅ?!」

 謎の現象におかしな事を口走るシン。

 「またこの現象……一体今、何が起きているのでしょう………」

 「あわわ……また?!」

 「ひゃあ~?!またまたあたしがあたしを見つめてます!?」

 

 

 

 

 ━━折神家敷地内・祭殿へ続く山道

 

 「…!この現象、大荒魂に何かが起きたのか?」

 カイがタギツヒメの胎動に危機感を抱く。

 「……真希さん…………」

 寿々花はカイに庇われながら真希へ想いを馳せる。

 

 

 

 

 

 

 ━━横須賀港

 

 ザゴス星人との戦いの最中、再び起こった現象に鎌府の刀使達が狼狽える。

 朱音と累もまたこの現象に危機感を募らせる。

 

 「もぉぉおお!なんなんですかぁぁああ?!」

 栖羽が逃げながら更に追い詰められる。そこへ──

 

 「手裏剣!踵落とし!」

 

 上空からシャドーリュウが勢い良く降下、振り上げた脚で栖羽を追うザゴス星人の1人に踵を手裏剣ごと喰らわせる。

 「ふぇ…!?」

 上空から降ってきた謎の人物に栖羽が目を白黒させている。

 「あれは……?」

「ダグオン……」

「あの時の忍者くん…!」

 朱音が直に見るシャドーリュウに思わず声を溢す。フリードマンがダグオンという存在に一層関心を深める。

 累は沙耶香襲撃時に目撃したリュウの姿に瞠目する。

 「何だ…アレは?それにあの怪物を一撃で沈めた……」

 神奈川県警機動隊第二小隊、小隊長得賀健介がリュウの強さに驚嘆と戦慄を覚える。

 「……星人共は俺が引き受ける。特祭隊は敵の分断と支援援護を頼む……」

 リュウは直近の刀使と機動隊へ指示を出す。特祭隊の面々は当初、狼狽えていたがリュウの言葉の意味を理解し即座に行動に移る。

 「……行くぞ、異星人共…この星を嘗めた事を後悔しろ…!」

 紫閃が舞う、人間の逆襲が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紫の長髪が荒ぶりうねり、柱のように変化しノロが凝固し荒魂らしい異形を成す。

 「鬼……か?」

 その異様な形を姫和は鬼と表する。

 折神紫の人間としての肉体が持つ二本の御刀に加え、異形から生える4本の豪腕。

 紫が持つ童子切安綱、大包平に、三日月宗近、大典太光世、数珠丸恒次、鬼丸国綱を異形の腕が振るう。

 最早、剣技など児戯に等しいと言わんばかりに力任せのゴリ押しで可奈美と姫和を簡単に吹き飛ばす。

 床に転がる姫和と壁に叩き付けられ一瞬意識を手放す可奈美、異形の豪腕がトドメを刺そうと御刀を振り下ろす。

 危機一髪のその時に守る様に飛び出す2つの影。

 沙耶香が可奈美に迫る一撃を防ぎ、舞衣が姫和を抱き寄せ庇う。

 可奈美が再び立ち上がり沙耶香と共に怪物と化した紫に立ち向かう。

 姫和が立ち上がるのを確認すると声を張り上げる。

 「退いて!」

 荒魂とは言え、人間の範疇であった先程でさえ2対1で苦戦していたのだ。4対1となった今でも勝利の道筋が見えない。

 「私…初めて…怖い」

 「私もだよ」

異形を携える紫の形を成すタギツヒメに恐怖を初めて覚える沙耶香に可奈美も同意する。

 立ち並ぶ4人、しかし姫和は写シを張る事が出来ない。

 荒れ狂う四腕を眺めながら可奈美はあの時叫んだ紫を想う。

 「多分…あの人も……」

 

 

 

 

 壁に手を着きながら、心身共に被ったダメージを推して、紫の元へ急ぐ。

 「確かめなくては…」

 ターボカイ、そして寿々花に言われた真実をその眼に確める為に進む。

 気付けば辿り着いたノロの貯蔵庫はもぬけの殻。

 「馬鹿な…あれだけあったノロが……」

 其所にある筈の物が無い。信じ難い光景に絶句する真希の後方から声が掛かる。

 「事情は飲み込めましたか?」

 声の主は古波蔵エレン、彼女は壁に背を預けている。

 「何だここは?」

 エレンの預けた壁の近くから薫がひょっこりと顔を出す。

 「折神家が回収したノロの貯蔵庫デス。ほんの数時間前まで二十年分のノロがありました」

 絶句しフェンスを握り込む真希へ薫の疑問に答えながらエレンが近付く。

 薫はその説明で得心がいったのか結論を口にする。

 「その全部が結合し化物が復活したって訳か」

 そんな薫の言葉に真希は未だ信じられないのか、自らが聞かされていた事を口走る。

 「波長に合わせて電流を与え続ければノロはスペクトラム化しない。少量ずつ各地に奉納するより安定して管理出来る…」

 少なくとも彼女はそう聞かされていたし、今日までそれが真実だと思っていた。

 しかし現実はそれを嘲笑うかの様に、虚しい事実をエレンの口から突き付けられる。

 「残念ですがそれは嘘デス。タギツヒメの支配下にあるノロは、大人しいフリをしていたにすぎません」

 エレンの言葉に続けるように、些か責める様な感情を含みながら薫が溢す。

 「この国は二十年間も奴に騙されせっせとノロを集めてたってわけだ。責任とれよ」

 「しかし…折神家の管理が始まってから荒魂による事故は激減した。殉職する刀使の数も……」

 薄氷の抵抗を口にする真希、それを薫は一言で斬って捨てる。

 「全部この日の為の芝居だろう」

 それを聞き真希は己の心情を慚愧するかの如く語り始める。

 「穢れの具現化である荒魂は駆除しても駆除しても無くならない……対抗するには同等の力が必用だ。毒には毒を、穢れには穢れを以て制するしか…」

 それを聞いた2人は憐れんでいるのか呆れているのか、

 「それが荒魂を受け入れた理由デス?」

 「要はビビってんだろ。お前らみたいな怖がりが居るんで荒魂は穢れなんて忌み嫌われるんだ」

 自身の頭上に乗るねねをチラリと意識しながら、荒魂との共存を成した一族の体現者が真希を詰る。

 其処へ、瓦礫が崩れる音と共に可奈美、姫和、舞衣、沙耶香、そして荒ぶる凶神へと変貌を始めた紫……タギツヒメがノロが集まっていたプールだった場所に降って来る。

 「紫様…いや…あれは…」

戦う4人を余所に上から凶神を眺める真希、そこにいるのは仕えるべき主では無く、しかしその姿をした自身が忌むべき荒魂の首魁。

 エレンと薫は即座に写シを展開し臨戦態勢となって飛び降りる。

 それを見て真希もまた己の御刀に手を掛け、しかしその手を下ろした。

 

 

 

 「敵は六刀流。こちらもおあつらえ向きに6人デス!」

4人と合流したエレンが吼える。

 姫和もダメージが多少回復している様で写シを再び展開している。

 6人がかりでタギツヒメを囲い仕留めに掛かる。

 「可奈美ちゃん!一度退いて!エレンちゃん!後ろ!」

舞衣が振り回される豪腕の刃を防ぎながら全体へ指揮を取る。

 舞衣の指示に従い互いをカバーしながら戦う刀使達、しかしタギツヒメに傷を付ける事が出来ない。エレンがタイ捨流の軽やかな動きで攻め掛かれば弾かれ、薫が薬丸自顕流の真髄からなる一撃を振り下ろせば、振り上げられた刃で止められ、沙耶香が無念無想を使い飛び跳ねる様に斬り掛かると、横合いから間合いを広げられ、舞衣が指揮を取りながらも北辰一刀流からなる堅実な剣は、容易く対応される。

 4人が異形の豪腕を手間取り、可奈美と姫和は正面……紫の相手を取るが激しく動く2人に対し紫は余裕をもってゆったりと歩きながら対処する。

 「薫ちゃん!近づき過ぎないで!」

 そう叫んだ舞衣が豪腕の突き出した刃に貫かれ写シを剥がされ壁に叩き付けられる。

 そこからは意図も容易く陣形が崩れ去る。

 「舞衣っ!」

舞衣の身を案じ生まれた隙を付かれ沙耶香が打ち上げられる。

 「きえぇぇぇええええっ!!」

 猿叫を挙げ必殺の一撃を見舞おうとする薫を豪腕が貫き飛ばす。

 その隙を衝こうとしたエレンを静かに御刀を突き刺し沈める。

 強力な豪腕により仲間達はあっさりと倒され残るは2人……。

 (あれを使うべきか……母と同じ秘術を…)

 姫和は形勢された状況に奥の手の使用を覚悟する。

 そんな2人を前にタギツヒメは己の存在を宣言する。

 「我は凶神…」

 

 

 

 

 

 20年前の相模湾岸大災厄の折の知られざる真実。

 結月に特務隊の指揮を任せ別れ、篝、そして後を追って来た美奈都を加え、江ノ島に根を張った大荒魂の本体と目される場所へ辿り着いた紫達、そこで篝は大荒魂を討つ為の許可を紫に求める。

 「紫様。御命令下さい…務めを果たせと」

その言葉に紫は躊躇いがちに、しかし折神家の者として、刀使として命を下す。

 「お願い篝…タギツヒメを封じて…」

 「はい…。辛い決断をさせてしまい申し訳ありません」

互いに長い時間を過ごした者同士の最後になるかもしれない会話。沈痛の面持ちの紫に対し篝はどこか晴れやかにも見える顔。

 「みんなで過ごした学校生活、掛け替えの無い私の宝物です」

 過去を想い、笑う篝。共に来た美奈都へも言葉を伝える。

 「美奈都先輩。貴女の事…正直苦手でしたけど、でもいっぱい……いっぱい感謝してます」

 今だから口に出来る事とでも言うように美奈都へ礼を述べる篝、彼女は覚悟を携え跳ぶ。

 「タギツヒメ。お前は私が封じる!その為に私は此処にいる!」

 江ノ島を包む巨大な繭らしきモノに光が走る。

 永遠の暗闇の中へ消え行く篝、しかし何と、美奈都がそれを追って跳んだ。

 「美奈都ぉぉぉ!!」

 消え行く友を只、只々見送る事しか出来ない紫は悲しみを叫ぶ。

 

 跳んだ筈なのに落ちていく感覚、宇宙のように星明りすら存在しない暗闇へ柊篝は落ちていく、堕ちていく、墜ちていく。

 だが其処へ彼女を追って美奈都が行かせまいと抱き付く。

 「美奈都先輩!?駄目です!貴女まで…」

 消えるのは自分だけで良いと覚悟していた篝は美奈都を巻き込んだ事に狼狽える。

 しかし美奈都はそれを取り合わず、闇の先へ向け吼える。

 「篝は絶対渡さない!」

それでも2人は落ちていく、出口など見えぬ闇の中へ、永遠に永劫に永久に……。

 「篝…美奈都…私は……」

立場が追うことを許されない、消え行く友を涙を流し見送るしかない紫の顔は置いていかれた幼子の様。

 そして…その瞬間を待っていたのだとでも言うように周りを囲む荒魂の空間から声が響く。

 

 「折神紫 我は取引を提案する

 

 深淵から這うように聴こえる声、無数の瞳が紫に注がれる。

 

 「我という自我が目覚めたのは暗く冷たい貯蔵庫の中だった 最初に在ったのは喪失感だ 自らの一部を引き裂かれ大切な物を奪われたという感覚…取り戻さねばという衝動 それは餓えに似ていた

 

 性別も定かでは無いような、それでいて無機質にも聴こえる声が紫へ語り掛ける。

 

 「凶神と化した我は何れ人の手により駆逐されるという事だ 我は生存の道を模索した それを実行しているに過ぎぬ

 

 「そんな…江ノ島に封じ込めたのも特務隊を送り込んだのも……」

 

 「そうだ折神紫 全てはお前を誘き出す演出に過ぎん

 

 無数の眼から語られる大災厄の真実に紫は絶望する。

 

 「じゃあ…篝は…美奈都は……」

 

 「我と同化しろ さすれば藤原美奈都と柊篝の命は救われる

 

 それはとても甘美な誘惑、紫の心の隙間へ蛇のように絡み付く。

 

 「我はお前と同化し隠世の浅瀬に潜み傷を癒そう 今より十数年お前は猶予を得る それまでに我を滅ぼす事が出来ればお前の勝ちだ

 

 「そんな馬鹿げた提案を……」

 

 「お前の結論は既に出ている

 

 「!」

 

 

 

 

 「脈々と受け継がれてきた折神家の務め。だが紫は2人の生還を望んだ」

 可奈美と姫和を前に嘗てあの場所で何があったのかを語り終えたタギツヒメ、そして豪腕が少女の華奢な体を捕らえその二振りの御刀で可奈美を貫く。

 

 「可奈美!

 

 「衛藤!!

 

 空間に木霊す2つの叫び。1つは姫和のモノ……。

 もう1つは炎の如き赤い影。群がる星人達を手にしたライオソードで斬って棄て、此処まで辿り着いたファイヤーエンその人である。

 写シが四散し倒れる可奈美を前にしてタギツヒメは淡々と述べる。

 「筋は良い。だが母親には遠く及ばない」

 可奈美の意識が堕ちていく、その最後の瞬間瞼の内に写った光景は霧の中、背を向ける在りし日の母、美奈都。その背中へ少女は手を伸ばす。

 「お母さん…」

 

 

 

 未だ迷いから動かぬ真希の横を駆け抜け、倒れ伏した少女達を守らんとタギツヒメの前へ走るエン。

 それを認め瞳を僅かに細めるタギツヒメ。

 「唯一の誤算。只の一度として見通す事が出来なかったのが貴様らの存在だ。異端児」

 「…っ!マジで化物に堕ちきっちまったってのかよ……あの折神紫が!?」

 ライオソードを握る手に力が籠る。

 「ダグオン…!」

姫和もエンが現れた事に瞠目する。そんな彼女を意に介さずタギツヒメは言葉を続ける。

 「その剣…。それもまた我の想定の外にある物。二十年前、その剣が江ノ島を覆う我の一部に突き刺さっていた事で人間共が予想以上に粘ってくれたものだ…忌々しい」

 『そうか…それが聴けただけでも重畳。此処まで来た甲斐がある…。だが私の復讐心はそれだけでは満足出来ん、今一度、貴様へ引導を渡してやる!!』

 「おいライアン、俺にも一枚咬ませろ。奴だけは許さねえっ!」

 タギツヒメの忌憚にライオソードからライアンが声を発し叫ぶ。そして、エンもまた可奈美の他に倒れた舞衣の姿を見付け、2人の後輩がやられた事に憤る。

 「来い。その力は脅威ではあるが、貴様自身は取るに足らん」

 鳳焔也自身には一切興味が無いと切って捨てるタギツヒメ、それが癪に触ったかエンは雄叫びを挙げ突撃する。

 

 「なめんなぁぁぁああああ!!

 

 豪腕による四撃をライオソードで塞ぎ、ファイヤーナックルで弾くが、最後の一撃に吹き飛ばされる。

 「がっ?!」

 「我に怒りを抱きながら、しかし紫の肉体への攻撃を躊躇う……それ故に容易い」

 心の何処かにある殺人への忌避感を読まれ対応されるエン、彼自身も自覚があるのか悪態を付き、左拳を地面に叩き付け悔しがる。

 そんな彼を視界に納めつつ改めて姫和へ関心を向けるタギツヒメは、姫和が覚悟を以て構えていると見ると挑発するように彼女へ宣う。

 「さて、どうする?母と同じ秘術を使うか?その御刀を当てる事が出来れば、だが」

 脂汗が滲む、それでも姫和は目の前のタギツヒメから視線を外さない……そして気付く。

 「お前の剣は()に届く事は無い。折神紫を越える刀使はこの世に……」

 言葉を続けながらも姫和の視線の先を追い振り向く(タギツヒメ)

 

 「紫!久しぶり!」

 

 再び立ち上がった可奈美より発せられた科白、それは旧知に語り掛ける様な気安い声色。

 「衛……藤……?」

 狼狽えるエン。今、目の前に居る衛藤可奈美が自分が知る少女と雰囲気が違う。

 彼は只々混乱するばかりであった。

 

 ──幕が下りる。正真正銘…最後の戦い、その火蓋が落とされる──

 

続く

 


 

 

 

次回 胎動ノ終ワリ

 





 ラピライ終わっちゃったよ……エミリアとリネットが観れなくなるのかぁ…。
 そんな寂しさに敗けパイロット版?的な話を書いてしまった私をどうか笑って頂いて結構です。
 多分、その内、恐らく、投稿する可能性がなきにしもあらずです。

 ではまた次回

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